3月3日、アストンマーティンは、F1への再参戦を発表した。会見に出席した小川フミオがリポートする。
2度目の参戦
アストンマーティンがF1に戻ってくる。ブランドのアイコニックなカラーであるブリティッシュ・レーシング・グリーンに塗られたボディも、同社のスポーツ・カーを愛してきたファンをおおいに喜ばせてくれるものだ。
3月3日には、ついに新しいカラーリングのボディも発表された。これより前、ジャーナリスト向けにおこなわれた2月のオンライン記者会見で、チームのCEO兼プリンシパルのオトマー・サフナウアー氏は、「今期はつねに表彰台をめざす」と、意気軒昂に語っている。
アストンマーティンは、そもそも1913年に、レースの勝利をめざす英国の若者、ライオネル・マーティンが設立したブランドだ。ル・マン24時間レースをはじめ、多くのGTレースで実力を示してきた。そして、ついに今年、F1に本格参戦する。
「アストンマーティンにとってF1への参戦は2度目です。最初は1959年で、このときは翌1960年に撤退しました。いま、F1にかかわるのは、これからのスポーツカー開発と、ブランドのイメージアップの両方において、たいへん有意義なことと判断したからです」
アストンマーティンラゴンダでエグゼクティブバイスプレジントおよびチーフクリエイティブオフィサーを務めるマレック・ライヒマン氏は、コンピューターの画面に登場し、今回のF1参戦の背景を説明した。
ブランドイメージの構築
2017年から2020年シーズンまでも、アストン・マーティンは、「アストンマーティン・レッドブルレーシング」としてF1に参戦していたとはいえるが、それは、あくまでもタイトルスポンサーの域をこえるものではなかった。車体開発はレッドブル、エンジンはホンダ(2019年から)まかせだったので、アストンマーティンは、マシンについて実質的なかかわりは持ってこなかった。
あたらしいチーム名は「アストンマーティン・コグニザント・フォーミュラワンチーム」。母体になるのは、2020年シーズンに4位の成績をあげた「レーシングポイント」チームだ。両者とも、カナダ人の実業家ローレンス・ストロール氏が株主である。
「アストンマーティンはこれまでWEC(世界耐久選手権)で名を上げてきました。なかでも、ル・マン24時間レースは、25万人以上の集客数を誇ってきました。しかし、それに対してF1は、その20倍ともいわれています。シーズンになると毎週末のように家庭で放映されますから、中国をはじめとする新しい市場でブランドイメージを構築するには、F1に如くものはないと考えました」
ライヒマン氏は、そう述べる。レーシングポイントチームは、2020年シーズン、高い戦闘力を発揮している。終盤はあいにくエンジントラブルの連続に見舞われてしまったものの、それでも、メルセデス、レッドブル、マクラーレンにつぐ4位を獲得した。
エンジンはメルセデスAMG
ライヒマン氏は、「F1への参戦はアストンマーティンの量産車にとって、大きな意味がある」とも述べる。フロント・エンジンの時代はまもなく終わりを迎えるので、あたらしい時代のアストンマーティン車は、F1との関係を強く打ち出していくのだという。
「レッドブルとともに開発してきた(スーパースポーツカーの)『バルキリー』をはじめ、続く『バルハラ』や、次世代の『バンクイッシュ』といった、これからのアストンマーティンのスポーツカーは、どれもミドシップです。技術のフィードバックをF1からしっかり受けられる、と、思います。F1マシンの超スムーズな変速が出来るギア・ボックスやハイブリッド・システムなどの技術を、市販車に盛り込んでいく可能性もあります」
エンジンは、アストンマーティンラゴンダの株式を20%取得しているなど関係が深いメルセデスAMGが「M12 Eパフォーマンス」を提供する。
マシン名は「AMR21」。車体のカラーリングは、従来の”BWTピンク”から、米IT企業コグニザントの名を大きく入れた、ブリティッシュレーシンググリーンへ変更される。BWTカラーは車体の前から後ろへと走るストライプとして使われる。
ドライバ−の顔ぶれもあたらしくなった。レーシングポイントでドライバ−を務めていたランス・ストロール氏は残留するいっぽう、フェラーリからセバスチャン・ベッテル氏が移籍する。
ベッテル氏はこれまでにF1で4回世界チャンピオンになった経歴をもつ。
「経験豊かなセバスチャンから教えてもらうことは多い」と、サフナウアー氏。しかし、2020年シーズン終了後、ベッテル氏はフェラーリから戦力外通告を受けており、ドライバ−としての盛りを過ぎているという意見もあることにくわえ、もうひとりのドライバーのランス・ストロール氏はチームオーナーであるローレンス・ストロール氏の息子だ。
一抹の危惧なしとしない。
文・小川フミオ
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