この記事をまとめると
■報道でタクシー事故は目立つが、じつはタクシーが関連する交通事故は減少傾向にある
知られざるタクシー業界のルール! 新人が「銀座には近寄るな」と指導されるワケ
■高齢者でも再就職しやすいタクシー乗務員は高齢化が目立つ
■コロナ禍で高齢者乗務員の離職が目立つが若年層の新規雇用もままならず、深刻な状況だ
タクシー乗務員は20時間乗務の隔日勤務
365日、24時間運行されているのがタクシー。都内ではコロナ禍前にはなるものの、1台あたりのタクシーの年間総走行距離は10万km前後が目安になるともいわれていた。タクシー乗務員の勤務体系は途中休憩があるものの、連続20時間ほどの乗務となる隔日勤務が一般的。朝車庫を出て、翌日未明に車庫に戻るのがオーソドックスな勤務体系となる。
「午前4時や5時ぐらいにタクシーを運転している乗務員は、その多くが目は開いているが、眠気との闘いはハンパない」といった話も聞いたことがある。「昼間活動し夜寝る」というのは人間の基本的な部分であるので、どんなに隔日勤務に合わせて睡眠をとったとしても、深夜や未明に眠くなるのは人間の性なのである。これをどれぐらい自己管理できるかがプロドライバーの腕の見せどころでもあるのだ。車庫へ帰る途中に耐え切れずに、停車可能な場所にタクシーを停めて仮眠を取ってから車庫へ戻るということもあるようだ。
しかし、これが夜中に万収(料金が万円単位になる長距離利用)のお客を乗せると、途端に目がシャッキリするそうだ。筆者も、高速代含めて都心から2万円弱となる自宅まで、深夜タクシーで帰ることがたまにある。あまりタクシー利用客のいないようなところで、コンビニのレジ袋を提げて夜中タクシーを停めると、乗務員はたいてい近場の利用と判断する。しかし、筆者が40kmほど先の行き先を告げたとたんに乗務員の表情は急に変わり、道中は乗務員からの話かけがとまらないといったことがよくある。しかも、車庫へ未明に帰っても、本当は疲れているのだが、気分が高揚して(当然稼ぎもよくなるので)、疲れを忘れるものだと聞いたことがある。
プロドライバーであるタクシー乗務員が運転するタクシーが関連する交通事故はメディアにも取り上げられやすいので、タクシーの交通事故は多いようなイメージを持たれる人も多いだろう。国土交通省自動車局による、「自動車運送事業に係る交通事故対策検討会報告書(令和3年年度)」資料の「事業用自動車の交通事故統計(令和2年版)」によると、令和2年におけるタクシーの交通事故発生件数は7459件、そのうち軽傷事故が6959件、重傷事故484件、死亡事故16件であった。令和2年の交通事故総件数は30万9178件なので、全体に対しタクシーの事故は約2.2%(タクシーやバスなど事業用車両全体の事故件数は2万1871台となる[総事故数に対し約7%])となっている。
タクシーの交通事故件数の推移を2011年から2020年まで見ても、一貫して事故件数は減少傾向にある。2021年の統計においても、新型コロナウイルスの全国的な感染拡大により、タクシーの稼働台数自体が極端に少なくなっていることもあり、引き続き減少傾向が続いているものと考えられる。
一般社団法人・全国ハイヤー・タクシー連合会による、「タクシー運転者賃金・労働時間の現況(令和2年 賃金構造基本統計調査)」によると、2020年の全国でのタクシー乗務員の平均年齢は59.5歳となっている。「高齢な乗務員が目立つので、その高齢乗務員が関係する事故が多いのでは」と考える人もいるが、それは一概にはいえない。
タクシーを運転しているとき、とくに道端で手を挙げたお客を乗せる「流し営業」の多い東京などの大都市では、基本的にタクシー乗務員はわかりやすくいえば「わき見運転」をしているといえよう。まっすぐだけ見ていれば、道端で手を挙げタクシーを利用する意思を見せている人を見逃してしまう。完全にわき見しているわけではないが、若干歩道側に視線をオフセットして運転しているのである。
そのため、空車のときは左側車線をゆっくりと走るのが「タクシー走り」の原則となっている。ちなみに、新人乗務員でそれほど乗務回数を重ねなくても、街を流しているときに、歩道にいる多くの人のなかからタクシーに乗ろうとする人が光って見えてくる(オーラを感じる)そうである。
乗務員の離職による深刻な人員不足という問題を抱える
年齢に関係なく、一種免許とは異なる二種免許の運転の仕方を理解せずに、家族を養うためなどと、ガツガツ稼ごうとする乗務員は高齢ではなくとも、事故だけでなく乗客からのクレームが目立つようである。
二種免許は国が認めたプロドライバーライセンスだが、一種免許と何が異なるのかという疑問を持つ人も多いだろう。一種免許に加え、より視野の広い範囲での危険予測が要求され、後席にお客を乗せて運転するということを意識して運転するなど、操作方法というよりは運転にあたっての心構えというところで、ある意味「悟り」を開く必要がある(この悟りがなかなか開けない、あるいは悟りを開こうとしない乗務員も事故が目立つと聞く)。
運転免許だけあればできる仕事といつまでも思っていて、仕事として軽んじているうちは、事故発生リスクはなかなか下がらないともいわれている。
過去には、交通事故というハイリスクもあるが、その分リターン(稼ぎ)もいまより格段に良かったので、稼ぐために若いうちから乗務員になる人が多かった。しかし近年は、正社員雇用で社会保険も充実するということで、リストラにあったり経営していた会社や店が潰れてしまったりした年配の人が再就職しやすい乗務員へ流れてくるので、乗務員の年齢層が高齢化していったとされている。事業や店を経営している人が社会保険目当てで副業として乗務員になるといったケースもあるようだ。そのような人はガツガツと稼ぎたいということはないので、事故も少ないようである。
しかし、日本がバブル崩壊以降景気低迷傾向が続いていることもあり、タクシー利用者の減少が続いている。そのため、昔ほど一般的には稼げる仕事でもないのに(それでも腕次第ではという面は残っている)、交通事故というリスクがつきまとうことになり、家族の反対などもここのところ目立ってきて、現役子育て世代などの若年層がなかなか乗務員募集に応募してこないようになった。
つまり、歩合給の比率を上げたり、採用お祝い金など金銭面で魅力ある採用条件を設けてもなかなか集まらなくなっている。また、人ではなく荷物を運ぶ通販の宅配ドライバーのほうが気楽で稼ぎも良いと、若い人がそちらを選ぶケースが目立っているようだ(稼ぎは? な部分もあるようだが)。
新型コロナウイルス感染拡大により、タクシー業界も深刻な打撃を受け、高齢ドライバーを中心に離職が目立つなか、若い世代の新規雇用がままならないので、「いっそのこと人型ロボットにいまのタクシーを運転させたらどうだ」という話も出ているようだが、これは冗談ではなく日本でも、「自動運転システム搭載車を新規導入するよりいいかも」といった話もあり、実際にタクシーの需要だけでなく、人型ロボットの開発は日本国内でも進んでいるようだ。
ロボットが運転すれば法令違反はまず起こさないだろうし、眠くもならないので事故発生リスクも現状より抑える(もらい事故は残る)ことができるだろう。ちなみに海外では2022年10月にテスラ社がすでに人型ロボットを発表している。
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みんなのコメント
しかし、狭い個室での対応で問題のある客も多く(実際多いらしい)、ストレスが半端ない、といって転職した人を知っている。