この機能がこの価格帯で!? ヤマハの「ACC」と「UBS」を体験
2021年に登場したヤマハ「TRACER9 GT」は、“Multi role fighter of the Motorcycle”というアジャイルな走りと、どこでも活用できる利便性を併せ持つスポーツツアラーでとして開発されました。その最新版が2023年秋に登場。電子制御をさらにアップグレードした上位モデル「TRACER9 GT+(トレーサー・ナイン・ジーティー・プラス)」を追加してリリースしました。
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注目は、ミリ波レーダー搭載による前車追従型クルーズコントロールである「アダプティブクルーズコントロール(ACC)」に加え、ミリ波レーダー、6軸加速度センサー(IMU)などの情報を元に、前方に減速が必要な事象がある場合、ライダーが操作するブレーキ入力が不足だと判断した場合、前後連動ブレーキシステムが制動力をアシストする、ミリ波レーダーと連携した「ユニファイドブレーキシステム(UBS)」を組み合わせた、市販2輪車世界初のシステムです。
UBSは、あくまでライダーの操作が行なわれていたらアシストするシステムで、「自動ブレーキ」ではありません。2輪の車体特性上、ブレーキング時に発生し、ライダーがバランスを崩す可能性があるピッチングモーションを、KYB製の電子制御サスペンションをベースにヤマハが最適化したマップにより、UBS作動時に減衰圧を上げることでピッチングモーションを減らすシステムも合わせています。ハード面ではより自然な減速を生み出すために、リアディスクプレートやキャリパー、ブレーキマスターにも変更が施されているのも特徴です。
これまでミリ波レーダーを搭載した先進技術搭載車は、どれも250万円以上の車体価格でその中心は300万円を超すプレミアムクラス御用達な装備でした。それを「TRACER9 GT+」が182万6000円の価格(消費税10%込み)でミリ波レーダーを搭載し、その機能を活かしたACCとUBSの機能を合わせ込んで販売されたという点は、まさにバーゲンプライスなのです。
では、ACCとUBS体験で感じたコトをお伝えします。
ヤマハ渾身の「ACC」とは
ACCの設定は、左スイッチボックスにあるスイッチで既存のクルーズコントロール同様に設定します。ACCメインスイッチ、車速を設定する「SET(セット)」、設定復帰するための「RES(レジューム)」のボタンを基本に、1km/hごとに車速設定変更が可能です。
ACCの最低設定速度は以下の通り。
1速、2速=30km/h以上3速、4速=40km/h以上5速、6速=50km/h以上
この最低設定速度から、それぞれ5km/hを下回ると自動でACC設定が解除されます。またACCの最高設定可能最高速度は160km/hとなっています。
また、車間設定は4段階。ミリ波レーダーは車間距離を“距離”ではなく“時間”で規定します。なぜならば、速度によって1秒当たりの移動距離が異なるためです。最小から1秒、1.2秒、1.6秒、2秒の4段階で、ライダーは任意に変更が可能です。
今回のテストでは、設定速度を120km/hとして、車間は最小から2段階目の1.2秒に設定しました。
■車間時間設定変更
テストはコースを走行する前走車に従って「TRACER9 GT+」を走らせました。先行車速度は80km/hで、同一車線で接近するというもの。その時、前走車をミリ波レーダーが捕捉するとメーター内にそれを知らせるアイコンが点灯。さらに接近すると、まずはスロットルを絞り減速。必要であればリアブレーキをやんわり掛けたように減速します。体験としては、安心感があり、上手な運転に感心する、というものでした。
また、車間時間設定を最長の2秒に設定した場合、前走車との車間距離をわずかに閉じたスロットルでジワジワと拡げ、2秒の車間距離になるとアクセル操作でギクシャク感は全く無しに80km/hでビタっと追従。ライダーの頭は全く前後に動かない(!)、丁寧な運転です。超快適!
■追従加速/減速テスト
前走車が休日のちょっと混雑した高速道路を走行するように、80km/hから50km/hと可変させながらの走行に追従する体験です。
減速の場合、まずはスロットルオフ。そして必要であればシームレスにブレーキングを開始します。ここでも、まずはリアブレーキからという滑らかさ。まるで上手な人のタンデムシートに座っているような心地良さです。
加速側も車間時間の設定を保つように、前走車が速度を上げればスロットルを開けて加速。この時、「TRACER9 GT+」の3気筒エンジンが持つトルク特性、回転の滑らかさが際立ちます。シフトダウンの必要性があれば、ライダーはクイックシフターを通じて変速をしても、ACCの設定は各ギアの設定速度内であれば保持されます。
さらに、前走車が80km/hから30km/h程度へと、一気に減速するような場面を想定してのテストです。ACCが行なう最大減速は急ブレーキレベルまではしてくれません。そのレベルの減速が必要な場合、7インチのメーターパネルほぼ全体をオレンジ色の画面にして機能限界表示をライダーに伝えてきます。ライダーは速やかに前後ブレーキを操作し減速。衝突を避ける行動を取る必要があります。
前段でACCが強めのブレーキを掛けてくれるので、そこからライダーはスムーズに急減速操作に移行できると感じました。このブレーキ操作により、ACC設定は解除されます。
■追従走行中の割り込みを想定
車間時間1.2秒に設定し、ACC設定120km/h時に80km/hで走行する前走車と「TRACER9 GT+」との間に割り込みがあった場合の体験テストです。
1.2秒の車間時間は意外と短く、現実的に「この車間で割り込んで来るか!? オイ!!」というレベルです。すると……
スマートにスロットルを戻し、何事もなかったように割り込み車と1.2秒の車間距離をつくり、開けたのが解らないレベルでキレイに追従再開をするのです。スゴイ……。
■離脱加速と追い越し加速アシスト
ミリ波レーダーが、先行車の車線変更によって前方が開けたと認識すると、6速80km/hからでも充実の加速で120km/hの設定速度へと復帰してくれました。その時も開け始めを滑らかにすることで疲れ難い走行を見せてくれました。
今回は対向車の来ないテストコースだったため、イグニッションを入れる度に、左側通行の国、右側通行の国というミリ波レーダーの情報から検知することが出来ず、追い越し加速アシストがキャンセルになっていました。通常ではウインカーの点滅と車体が車線変更をする動きに合わせて遅れ感が出ないように加速する、とのことですが、今回のテストでも充分「普通」に追い越しをしてくれました。
結論、「ACCを体験すると、普通のクルコンに戻れない!」と感じた次第です……。
ミリ波レーダーと連携した「UBS」はどうだ!?
次にUBS体験です。まずは単独走行でクラッチを握ってからリアブレーキだけの操作でどのように減速をするのか試します。弱減速、中減速、強減速と強さを変えてみると、車両側が「ガンと踏んでるから強い減速が必要なのね」を、どのように判断するのかを確認。
「TRACER9 GT+」と信頼関係を築けたところで次なるテストへ。
■50km/hで走行する前走車。その前走車から延びるアームの先にあるターゲットを前走車に見立てて追走、車間距離を2メートルほどまでに接近し、リアブレーキのみで減速する
これはミリ波レーダーが前走車に接近していることを認知しているので、リアブレーキをライダーが強めに掛けると、すぐさまフロントブレーキの制動も立ち上がります。しかしフロントフォークの減衰圧も反応し、前のめり感がほぼないまま減速が完了、安心感の高さに満足でした。
■20km/hのターゲットに50km/hで接近、車間距離が極端に詰まった衝突回避を模してリアブレーキで急制動を試みる
安全のため、ターゲットから少しオフセットして衝突しないラインを走行。ミリ波レーダーはそれでもしっかりターゲットを補足しています。そこから強度のブレーキングをリアペダルだけで行なうと、ほぼ瞬時に前後ブレーキが作動し、教習所でやった短制動のような勢いで減速します。パニックブレーキとまでは行きませんが、かなりの制動力です。
それでも安心していられるのは、サスペンションの減衰圧を変更し、姿勢変化が少ないから。何度か繰り返しましたが、さすがに制動操作を始めた瞬間、機能限界警告がメーターパネルに出ることも。それほど緊急事態ということです。
※ ※ ※
ミリ波レーダー連携UBS体験もACC体験同様、ライダーを快適に、場合によって危険回避へのアシストをしてくれる装備であり、有効であることが解りました。スキルがあっても、反復練習では出来ても、イザとなると出来ない……それがパニック時です。
とても良い体験でした。それと同時に、デジタルを人の感性に馴染ませるヤマハの技術力にも感嘆したのです。
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