1997年式ボルボ・アステローペの個人オーナーに直撃
さる2023年5月14日に千葉県・長生郡長柄町の都市農村交流センター前駐車場で開催された「商用車ミーティング関東」。これはその名の通りトラック、バス、タクシーといったいわゆる「はたらくクルマ」を趣味の対象として楽しむオーナーのためのイベント。小さなダイハツ「ミゼット」からダンプカー、道路公団の作業車から自衛隊仕様の1/2tトラックまで、さまざまなクルマたち約50台が集まったユニークな集会だ。そんな会場内の一角でひときわ異彩を放っていたのが、こちらの大型観光バスである。
28歳、愛車は「路線バス」! あふれる情熱で「商用車ミーティング関東」を仲間とともに開催しちゃいました
ボルボのシャシーに富士重工のボデーを架装した「国産車」
フロントグリルのお馴染みのエンブレムからもわかるように、この大型観光バスは「ボルボ・アステローペ」(Asterope)というモデルで年式は1997年式。アステローペが生産されていたのは1987年から2001年なので、この個体は比較的後期のモデルということになる。
ちなみに設計から生産、販売までひとつのメーカーで一貫して行われることが一般的な乗用車に対し、事業者やその用途によって無数の仕様に対応することが求められるバスの場合、複数のメーカーによる分業体制がとられることが多い。
このボルボ・アステローペは、ボルボのシャシーを購入・輸入した富士重工(現スバル)が同社でボディ(業界表記ではボデー)を架装し、ボルボのブランドを宣伝して富士重工が販売したモデルだ。アステローペという車名もボルボではなく富士重工の商標で、富士重工が国産車として型式を取得しており、正確に表現するなら、富士重工の「ボルボ・アステローペ」ということになる。
趣味の個人旅行で大型バスを使うという贅沢な遊び
そんな大型観光バスを「趣味の愛車」として楽しんでいるのがオーナーのASさん(31歳)である。
「昔から公共交通機関の乗り物に興味があって大型免許も取得していたのですが、5年ほど前に某中古車専門誌でこのボルボ・アステローペを見つけ、気が付いたら購入していました(笑)」
アシとしての軽トラも所有しているので普段はそちらを使い、このアステローペはもっぱら年に数度の趣味の旅行に活躍しているという。
「このボルボのシャシーは、直列6気筒、排気量9600ccのターボ付きディーゼル・エンジンが車体中央の床下に横倒しに搭載された“B10M”と呼ばれるタイプです。このクラスで9600ccという排気量は他に比べると半分程度の小排気量。燃費も3~4km/Lと大型観光バスとしては良いので、当時はJRなどの高速バスとしても多用されていました」
大型バスのエンジンは大きなものでは2万cc級も珍しくないそうだが、一般的な乗用車の基準からすれば、やはりケタ違いである。
メンテやパーツ調達には情熱と勉強が必要
「エアサスなので調整可能とはいえ、車高が3.7~3.8mほどもあるので、橋桁の高さなど旅行先の通行可能なルートは事前に調べます」
と語るASさんにメンテナンスと維持費についても聞いてみた。
「車検はユーザー車検でコスト自体は安くできます。ただしユーザーが整備に関して全責任を負う制度であって、パーツ交換のタイミングをユーザー自身が決められるのは良い点ですが、クルマについて相当勉強しなければなりません。整備については車検とは別に整備工場に無理なお願いをしてやってもらっていて、感謝しています。
パーツ類は海外から直接取り寄せることができますが、部品番号を調べるのに一苦労はもちろん、昨今の世界情勢でヨーロッパの物流は麻痺しておりまして、届くまでにかなりの時間を要するのは大変なところです。いま新しい部品調達先を探しているところです。
任意保険なども、そもそも大型バスはプロが運転するものなので事故率は低い、という前提でむしろ保険代は安いんですよ。ただ、重量税だけは高いですね。なにせ車重が14tもあるので(笑)」
じつはASさん、本職は別の乗り物の設計だそう。公共交通機関の乗り物全般が趣味であり生業でもあるASさんにとって、このボルボ・アステローペは自分で設計した新しい乗り物のような存在なのかもしれない。
車内にキッチンやお座敷などをDIYで設営中
「まだまだ作業の途上なのですが、じつは現在このバスを“食堂車”として改装している最中なんです」
というASさん。たしかに車内にはすでにシンクやコンロ、シャワールームにテーブル席などが準備されている。センターアンダーフロア・エンジンの利点を活かし、リアの床下には寝室にもなるちょっとした小部屋も。
「まだしばらく先の“夢”ですが、このバスが食堂車として完成した暁には、この個体がかつて活躍していた西日本エリアとかに出かけて、そこで食事を提供する営業ができるといいなと考えています。和・洋・中華、どんなメニューを提供するかはまったく決めてないんですけれど(笑)」
そう遠くない将来、日本のどこかの観光スポットで、美味しい食事を振る舞うボルボ・アステローペの食堂車が見られる日が来るのが待ち遠しい。
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