現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 第8回:通の4WD、ランドローバー・ディフェンダーのはじまりの物語。

ここから本文です

第8回:通の4WD、ランドローバー・ディフェンダーのはじまりの物語。

掲載 更新
第8回:通の4WD、ランドローバー・ディフェンダーのはじまりの物語。

2018年1月、ブランド70周年を記念して、5リッターV8エンジンを搭載した今度こそ本当のファイナルモデル「ワークスV8」を150台のみ限定生産すると発表、また2020年には、ようやく2代目モデルが誕生する……?とも噂されているランドローバー・ディフェンダー。そのオリジンは、第2次世界大戦の終結した直後となる1947年にまで遡ることができる。

当時のイギリスは、戦災による生産設備の損害と莫大な戦費の支出によって、深刻な経済危機に直面していた。そこで政府は事態打開のため、あらゆる工業生産を外貨獲得のための輸出に振り向けるという新政策を打ち出す。当然、自動車産業に対しても輸出優先の新車開発を推奨し、鉄鋼などの資材も輸出向け生産に優先的に割り当てられることが決定された。

第5回:“誤てる端っこ”──「ポルシェ911」

戦前以来の名門ローバー社は、おりしも本社工場を創業以来のコヴェントリーからソリハルへと移し、生産能カを大幅に向上させたばかりの時期。かかる政府の決定は、それまで英国内マーケットを主な市場としてきたローバー社にとっては、まさに青天の霹靂とも言うべきものだったに違いない。ソリハルの新工場は、年間2万台の生産を可能とするだけの体制を備えていたが、過去の輸出実績の乏しいローバーに政府から割り当てられた生産資材は、年間わずか1000台分に過ぎなかった。

ここへきて危機感を覚えたローバー社幹部たちは、急遽輸出に好適なクルマの開発に取り組まなければならなくなった。そして最初に彼らが考えたのは、まずは灰燼に帰した欧州大陸で復興の交通手段となることを期した超小型車だった。そこで、排気量わずか699.2ccの2シーター「M1」を開発し、イタリアのフィアット500Cによく似たプロトタイプまで製作された。

ところが北米を中心とする輸出市場では、700cc足らずの耐乏型マイクロカーなどでは、古き良き英国を代表する良識派の中型車メーカーであるローバーのイメージから乖離してしまうとの判断がなされ、ローバー社の輸出増のための新プロジェクトはいきなり暗礁に乗り上げることになってしまう。

しかしローバー社最高幹部の地位にあったウィルクス兄弟は、ひょんな会話を契機に以後のローバー社の方向性を決定することになる、実に秀逸なアイデアを獲得することになった。

当時、ローバー社で技術担当重役の地位にあった弟モーリス・ウィルクスは、いかにも上流階級に属する英国人らしくカントリーライフを愛する人物で、ウェールズに近いアングルシー島に広大な農地を所有、そこで使用する農作業用トラックとして、第2次大戦後に軍から放出されたアメリカ製ジープを愛用していた。しかし「大量生産した車両を消耗品として使用する」というコンセプトのもとに開発されたジープは、不可避的にパーツ不足の問題を抱えており、もし英国内で重篤なメカニカルトラブルが発生すれば、放棄を余儀なくされてしまうものであった。

ある日、モーリスの農場を訪ねていたローバー社の会長である兄スペンサー・ウィルクス卿は、「このジープが壊れて乗れなくなったらどうする?」と訊ねた。その屈託のない問いかけに対して、弟モーリスはこう答えたという。「また放出品のジープを探すさ。これに代わるようなクルマも無いしね」。

ランドローバーファンの間では、もはやすっかり有名になったこの逸話。今となっては真偽のほどは明らかではないのだが、このときの雑談にヒントを得たとされるウィルクス兄弟は、小型軽量で応用性の高い4WDヴィークルの可能性に着目。さっそくソリハルに戻って、1930年代からローバー社の技術陣を率いていた敏腕エンジニアで、P3シリーズやP4シリーズなど同時代のローバーの大多数を手掛けたことでも有名なゴードン・バシュフォードに開発オペレーションを指示することになったのだ。

「あらゆる作業に適応する農民の従僕」というコンセプトのもとに開発されたこの全輪駆動小型トラックは、政府からの援助を得るために急を要していた。それゆえ、1947年に初めて製作されたプロトタイプは、北米ウィリス社製ジープのシャシーとサスペンションを、ほぼそのまま流用した。80インチのホイールベースも不変だったが、ほどなくジープよりも高剛性で頑強な専用フレームが用意された。

一方、ボディについては、政府の割り当て制限によって不足していた鉄鋼を断念する。戦争終結によって逆に余剰資材となっていたことから安価に入手できた「Birmabright(バーマブライト)」と呼ばれるアルミ合金を使用するとともに、スタイリングは組立て加工を容易にするべく簡潔なものとされた。

最初に作られた試作車では、英連邦などの左側走行の国に加えて、左ハンドルを要する欧米各国への販売を考慮して、ステアリングは並列3シーターの中央に設置された。これはPTOを装備し、定置型の動力源としても使えるよう考慮されていたことからも分かるように、トラクターとしての使用も見越したとも言われている。しかし、やはり使い勝手に問題ありと判断されたことから、生産型では一般的な右ハンドルまたは左ハンドルに改められることになった。

「LAND(大地)」を「ROVER(走り回る)」ことをミッションに「ランドローバー」と名付けられたローバーの4WD試作車は、翌1948年4月30日に開幕するアムステルダム・ショーにて発表される、というプログラムも決定された。発表当時は、80インチのホイールベースを持つオープンのトラック版のみ。また最初期のモデルは前輪のフリーホイールハブを生かした簡易型のフルタイム4WDで、4速MT+トランスファーが組み合わされる。

エンジンは、当時のローバー社の乗用車P3シリーズの4気筒版「60」用を踏襲した水冷直列4気筒Fヘッド(OHV吸気/サイドバルブ排気)1595ccである。Fヘッドは同時期の英国製高級車にはしばしば見られたバルブ形式で、ヘッド周りの小型化や低中速トルクの獲得を期しての採用だったと言われている。

ランドローバーは物品購買税の課税対象外に規定されたこともあり、発売からわずか3年で生産台数1万6000台を達成。もともとの目的である輸出市場においても、非常に高い評価を獲得することになる。

その後はホイールベースを伸ばしたロング版の「107」(のちに「109」から「110」に進化)シリーズを追加する一方、SWB版もさらなる使い勝手の獲得のためホイールベースを延長するなどの改良で「80」→「86」→「90」へと進化する。そしてエンジンも、たび重なる大型化に向かったいっぽうでディーゼル版も追加されるなど、進化を遂げてゆく。

かくして、外貨獲得をも動機に開発されたランドローバーは、結果としてローバーの「ドル箱」に成長する。ディフェンダーとして、実に半世紀以上もの命運を保つことになったのである。

こんな記事も読まれています

トヨタ新型「和製スーパーカー」まもなく登場に期待の声! 爆速「V型10気筒エンジン」搭載もある「超ロングノーズ」がスゴイ! 開発進む「GR最強モデル」に反響殺到!
トヨタ新型「和製スーパーカー」まもなく登場に期待の声! 爆速「V型10気筒エンジン」搭載もある「超ロングノーズ」がスゴイ! 開発進む「GR最強モデル」に反響殺到!
くるまのニュース
最高時速349.4キロは当時の世界最速市販車! 30年前の個体なのに走行距離5600キロの極上ジャガー「XJ220」を発見 どんなスーパーカー?
最高時速349.4キロは当時の世界最速市販車! 30年前の個体なのに走行距離5600キロの極上ジャガー「XJ220」を発見 どんなスーパーカー?
VAGUE
メルセデスベンツ、アップルウォッチで車両情報を確認可能に
メルセデスベンツ、アップルウォッチで車両情報を確認可能に
レスポンス
製造期間わずか[10カ月]!? 初代[シビック]のスポーツモデルである[シビック1200RS]が想像以上にヤバい
製造期間わずか[10カ月]!? 初代[シビック]のスポーツモデルである[シビック1200RS]が想像以上にヤバい
ベストカーWeb
同乗者が12歳未満だらけなら7人乗りミニバンに10人乗れるってマジ!? 安全面で問題のある道交法の「乗車定員」の考え方は見直すべきだろ!
同乗者が12歳未満だらけなら7人乗りミニバンに10人乗れるってマジ!? 安全面で問題のある道交法の「乗車定員」の考え方は見直すべきだろ!
WEB CARTOP
トランプ再選で「台湾軽視」加速? 日本企業3000社以上進出、有事リスクをどう捉えるべきか
トランプ再選で「台湾軽視」加速? 日本企業3000社以上進出、有事リスクをどう捉えるべきか
Merkmal
「すごい横転事故…」 首都高羽田線が一時「通行止め!」 東品川の“合流部”で「衝突事故」発生 「完全ストップ」で2車線ふさぐ… 湾岸線や海岸通りも大混雑に
「すごい横転事故…」 首都高羽田線が一時「通行止め!」 東品川の“合流部”で「衝突事故」発生 「完全ストップ」で2車線ふさぐ… 湾岸線や海岸通りも大混雑に
くるまのニュース
ソニー・ホンダの次世代EV『AFEELA』にZoom導入、車内会議が可能に
ソニー・ホンダの次世代EV『AFEELA』にZoom導入、車内会議が可能に
レスポンス
トヨタ、WRCマニュファクチャラー選手権4連覇。エバンス今季初優勝、全3台がラリージャパンの上位占める
トヨタ、WRCマニュファクチャラー選手権4連覇。エバンス今季初優勝、全3台がラリージャパンの上位占める
AUTOSPORT web
レッドブル&HRC密着:バトルよりタイヤ温存を優先。ノリスの前でフィニッシュするための戦略を遂行したフェルスタッペン
レッドブル&HRC密着:バトルよりタイヤ温存を優先。ノリスの前でフィニッシュするための戦略を遂行したフェルスタッペン
AUTOSPORT web
マーベリック・ビニャーレスの最新レプリカモデル「RX-7X マーベリックオークリー」がアライヘルメットから登場!
マーベリック・ビニャーレスの最新レプリカモデル「RX-7X マーベリックオークリー」がアライヘルメットから登場!
バイクブロス
ガッチリ固定・ワイヤレス充電「スマートフォンホルダー +e」がデイトナから発売!
ガッチリ固定・ワイヤレス充電「スマートフォンホルダー +e」がデイトナから発売!
バイクブロス
ワゴン専用になったVW『パサート』、524万8000円で日本発売 PHEVはEV航続142kmに
ワゴン専用になったVW『パサート』、524万8000円で日本発売 PHEVはEV航続142kmに
レスポンス
「“新型”スカイライン」登場はいつ!? 北米では「次期型」を示唆! 67年・13世代続いた「老舗ブランド」の刷新で「ニッサン復活」を目指せ!
「“新型”スカイライン」登場はいつ!? 北米では「次期型」を示唆! 67年・13世代続いた「老舗ブランド」の刷新で「ニッサン復活」を目指せ!
くるまのニュース
シンプルなデザインが光る新製品「RAPIDE-NEO 46works/ラパイド・ネオ 46ワークス」がアライヘルメットから12月下旬発売!
シンプルなデザインが光る新製品「RAPIDE-NEO 46works/ラパイド・ネオ 46ワークス」がアライヘルメットから12月下旬発売!
バイクブロス
「大人レゴ」にマンセルのウィリアムズF1マシン登場、価格は1万2480円
「大人レゴ」にマンセルのウィリアムズF1マシン登場、価格は1万2480円
レスポンス
[NAでFR]のロードスターと[ターボでFF]のスイフトスポーツを比べてみた
[NAでFR]のロードスターと[ターボでFF]のスイフトスポーツを比べてみた
ベストカーWeb
ペレス「マックスのすごさを実感した一年。ベストのマシンがないときでも卓越した仕事をし、チームの推進力となった」
ペレス「マックスのすごさを実感した一年。ベストのマシンがないときでも卓越した仕事をし、チームの推進力となった」
AUTOSPORT web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

759.01749.6万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

468.01798.0万円

中古車を検索
ディフェンダーの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

759.01749.6万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

468.01798.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村