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空冷と水冷、あなたはどっち? ポルシェ993と996を比較試乗(前編)

掲載 更新
空冷と水冷、あなたはどっち? ポルシェ993と996を比較試乗(前編)

もくじ

前編
ー元F1ドライバーが996を選ぶ理由
ー996、なぜ長い間不人気だった?
ー993が「最後の911」になる可能性もあった
ー996、顧客をどんな仕掛けで惹きつけた?
ー993と996、両者の明らかな違い

歴代ロータス 1番 “売れなかった” クルマは? 10位~6位

後編
ー993と996 音やステアフィールの違いは?(8月15日公開予定)
ー993オーナーが語る、993の実用性(8月15日公開予定)
ー993と996 オーナーの語る「ポルシェ像」(8月15日公開予定)
ー996、これから価値は高まるのか?(8月15日公開予定)

元F1ドライバーが996を選ぶ理由

本誌が2013年にポルシェ911誕生50周年を祝った際、何人かのポルシェのスペシャリスト、ロードテスター、レーシングドライバー、自動車TV番組の出演者にお気に入りのポルシェに投票してもらったことがある。

カレラ2.7RS、最後の空冷モデルとなった993、最新モデルの991など、人気車種に票が集中したのは予想通りだったが、元F1ドライバーのティフ・ニーデルはこうしたトレンドに逆らうかのように、不人気だった996を選んだのだった。

「伝統を重んずる人々の気持ちを逆なでさせるつもりはありませんが、わたしはエンジンの冷却方式が空冷か水冷かなんて全く気になりません。それよりも、996は911をモダンカーに前進させたモデルだと思っています」

「やっとフォルクスワーゲンのペダルから解放された911がこの996ですし、完全に自分の支配下でハンドリングできるのも996です。これ以前のポルシェに納得したことはありませんが、これ以降のポルシェにこれほど惚れ込んだこともないですね」とニーデルは毅然とした態度でコメントしたのだった。

ニーデルは決して最近になってこの事実に気づいたわけではない。彼は996発表当時のトップギア誌でも「996はこの上ないドライビング体験を与えてくれるのです」と語っていたのだ。

では996が、長い間あれほど不人気だったのはなぜだろう?

996、なぜ長い間不人気だった?

長い間不人気だった理由は多分、35年近くに及ぶ穏やかな進化の後に、996が ―少なくとも911の視点からすれば― ドラスティックな進化を遂げすぎたからではないだろうか。

もちろん、伝統を重んじるポルシェファンにとって、特に水平対向6気筒エンジンが空冷から水冷に変わったことを受け入れられなかったのは言うまでもあるまい。

けれどわたしは、ポルシェはもっと早く水冷に切り替えるべきだったのではないか? と思っている人間のひとりである。

当時、空冷エンジンでは騒音規制や排気規制にパスするのが次第に難しくなりつつあり、またポルシェは水冷に転換することでエンジンからさらに大きなパワーを引き出すことができたのだから。

もしかするとそう思うのは私だけではないかもしれない。けれど多くの人は、その前のモデルである993を「最後の本物の911」として、もてはやしたのである。

993が「最後の911」になる可能性もあった

ただ、その時すでにポルシェはかつての名車と同じ方法ではもはやスポーツカーを作れなくなっていたのは誰もが認める事実ではないか。

冷静になって考えれば、1990年代初めのポルシェを襲った不景気で、993が最後の911になったとしても不思議ではないレベルだったことは明らかなのだから。

ここでひとつ、面白い話がある。ポルシェは水冷のV型8気筒ユニットを993に搭載することを検討していた、という話をご存知だっただろうか。

しかし、コスト面の理由から3.6ℓ水平対向6気筒をポルシェは引き続き使うことにした。

ただ、ピストンとコンロッドが964よりも軽くなり、クランクシャフトの剛性も高かったため、旧型のエンジンよりもスムーズに回り、最終的に285psを発生することができた。G50ギアボックスは5速から6速になり、リアサスペンションもマルチリンク構成のものに完全に設計し直された。

つまり964から993にそのまま引き継がれた部分はごくわずかだったのだ。基本的な構成要素とシルエットはそのままだったからこそ、伝統的なポルシェファンを十分に満足させられたのである。

ただ、ポルシェが破産を回避して財務的健全性を取り戻すためには、もっと多くの人を満足させなければならなかった。

996には、どのような仕掛けがあったのだろう?

996、顧客をどんな仕掛けで惹きつけた?

996は、ひとつには従来の911の奇抜さに反感を感じていた人たちを惹きつけることと、もうひとつにはクルマをより費用対効果の高い方法で製造することを狙って開発された。

996のボンネット、ヘッドライトアセンブリー、フロントフェンダー、ドアが当時のボクスターと共通なのは、そういった理由からである。

寸法は全てで993を上回っているが、車重は軽くなり、Cd値も0.34から0.30に改善された。

993と996を並べて見れば、996が大きくなったことが一目でわかる。993は996よりスマートで、特にプロフィールに緊張感が感じられる。

一方の996は前後に伸びやかなラインが印象に残る。先述のようにテールランプの位置が高くなっているから、993よりリアのすぼみの位置も高まり、結果的に繊細なイメージをもたらす。

キャビンに乗り込むと、両モデルの差異がより明らかになる。

993と996、両者の明らかな違い

まず、993は996よりもキャビンがタイトで、ダッシュボードのレイアウトは時代を感じさせる。

前方中央に回転計が配置され、スピードメーターと時計は右側に、オイル関連の計器や燃料計は左側に配置される。

ヒーターやライトのスイッチはバラバラに配置されており、以前にジェレミー・クラークソンが「口と鼻に計器とスイッチを詰め込んでくしゃみをしてばらまいたとしても、もっと合理的にレイアウトできただろう」と言っていたのを思い出す。少し言い過ぎだとは思うが、言いたいことはわたしにもよくわかる。

996のインテリアにはそんな妥協はない。回転計を前面中央に置く基本レイアウトは同じだが、よりモダンな方法でアレンジされているのだ。

センターコンソールのデザインもよくまとまっている。ヒーターやカーステレオのスイッチも操作しやすい位置に配置されており、ペダルもこれまでと異なっている。

ブレーキペダルとクラッチペダルもフロアヒンジではなく吊り下げ式になり、993ほどオフセットされていないことは大きな改善と言えるだろう。

続いてエグゾーストノートに関して。

(後編につづく)

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