■アルファ ロメオ・ティーポ33を使ったコンセプトカーの3作目が「イグアナ」だ
イタリアン・カロッツェリア全盛時代たる1960年代末は、レースカーに端を発するミッドシップ革命がロードカーにも急速に波及していた時期と一致する。
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ところが、フェラーリはピニンファリーナとのパートナーシップを確立する一方、ランボルギーニもミウラ以来、ベルトーネとの関係性を一気に深めようとしており、ほかのカロッツェリアが最新ミッドシップシャシを使用して、自社のデザイン習作をアピールするチャンスは、確実に少なくなってしまっていた。
●ビッザリーニに頼れない! 現状を打破すべく開発に着手
1968年に創業したばかりのイタルデザイン社は、同じく新興のビッザリーニ「P538」シャシを生かしたビッザリーニ「マンタ」で大きな話題を集めたものの、ベース車両の供給元としてのビッザリーニは早々に経営が立ちいかなくなり、市販モデルの量産化には至らなかったのだ。
そんななか、同じく1968年から少数のみながら製作・販売されることとなったアルファ ロメオ「ティーポ33/2ストラダーレ」に、各カロッツェリアが自社デザインのプレゼンテーションを競作できる、数少ないベース車両として期待が寄せられるのは当然のことだったかもしれない。
そして、ティーポ33/2ストラダーレをベースとしたコンセプト習作の嚆矢となったのが、1968年のパリ・サロンに出品されたベルトーネのコンセプトカー、アルファ ロメオ「カラボ」である。
のちに鬼才として名を馳せるマルチェロ・ガンディーニがスタイリングを手掛けたカラボは、そのデザインコンセプトを事実上踏襲したといわれるランボルギーニ「カウンタック」をはじめ、1970年代に一世を風靡したウェッジシェイプスタイルのスーパーカーの原点ともいわれるスタディモデルである。
カウンタック以降のランボルギーニで定番となるシザースドアを初めて採用したことでも知られる。
それから1年後、同じく33ストラダーレをベースにピニンファリーナが製作し、1969年のパリ・サロンに出品したのがアルファ ロメオ「33プロトティーポ・スペチアーレ」である。
実はこのプロトティーポは、同じくピニンファリーナが、フェラーリのレーシングカー、「P4」のシャシを利用して製作。前年のジュネーブ・ショーに出品したコンセプトカー、フェラーリ「P5」用のボディを取り外し、ホイールベースが5cm短い分だけ修正およびノーズ周辺やテールのスタイリングをアルファ ロメオ的にモディファイしてコンバートしたものだった。
そして、そのパリ・サロンから数ヵ月後、同じ1969年のトリノ・ショーにて初お披露目されたのが、アルファ ロメオ33/2ストラダーレをベースとした3台目のコンセプトカー、イタルデザイン社の「イグアナ」であった。
■「イグアナ」から生まれたクルマとは?
アルファ ロメオ33/2ストラダーレ第3のコンセプトスタディのデザインを手がけたのは、もちろんイタルデザイン社の創始者のひとりであるジョルジェット・ジウジアーロだ。
そしてベースとなったのは、これまでの2台と同様、アルファ ロメオ・ティーポ33/2ストラダーレであった。
●機能や実用性にも向き合ったプラグマティックなデザイン
今世紀初頭の8Cコンペティツィオーネや現行4Cをデザインする際、アルファ ロメオ・チェントロスティーレがモチーフに選んだことでも知られるティーポ33/2ストラダーレは、ストラダーレ(ロードカー)を名乗りつつも、その内容は限りなく純コンペティツィオーネに近いものだった。
グループ6レーシングプロトタイプ33/2デイトナ用を100mm延長したアルミ製チューブフレーム+マグネシウム合金製サブフレームのシャシに、スピカ製燃料噴射との組み合わせで230psを発揮する2リッター4カムV8エンジンを搭載。
そして元来レーシングカー用に設計されたコロッティ製6速MTを搭載するなど、とてもロードユーズ向きといえるようなシロモノではなかったのだ。
また、キャビンはルーフを透明なパネルに置き換えたほか、ボディカラーは1950年代に世界を驚嘆させたアメリカ製コンセプトカーたち、あるいは1960年代から1970年代のアメリカン・ホットロッドなどの定番だった粒の大きなメタルフレークがキラキラと反射するフレーク塗装とされるなど、ことさら未来感をアピール。
さらに当時のショーカー然としたベルベット張りのインテリアでも、助手席は締めるシートベルトではなく、シートを着るタイプのセーフティジャケットで上半身を固定するという、かなり奇抜なアイデアも投入されていた。
それは大衆の関心を集め、自動車メーカーにその成果をアピールすることこそが最大の目的であるコンセプトスタディとしては、当然の方法論というべきであろう。
しかしその一方で、ボディのスタイリングはトレンドとなりつつあったウェッジシェイプを基調としつつも、ベルトーネやピニンファリーナの製作した前述の2台よりも、かなり現実的なスタイリングが与えられていた。例えばミドシップのスーパーカーにとっては弱点となりがちな斜め後方視界を確保するべく、リアクォーターウィンドウをかなり大きめなものとしたのは、その好例といえよう。
ジウジアーロは前年のビッザリーニ・マンタで、よりアヴァンギャルド的なデザインワークを披露しているが、当時からエンジニアリングにも重きを置いていたイタルデザイン社では、イグアナで実験されたプラグマティックなデザインが主流となっていく。
その成果が形となって表れたのが、2年後の1971年に誕生したマセラティ「ボーラ」であり、翌1972年にショーデビューしたロータス「エスプリ」だったのだ。
そしてイグアナの現実的なデザインは、アルファ ロメオの首脳陣からも好意的に受け入れられたようで1971年に同社から正式デビューした小型大衆車の傑作アルファスッドのデザインワークには、イグアナで用いられたモチーフが「出発点」として採用されることになったのである。
●今なお強いアイコンとして残るコンセプトカー全盛時代の薫り
冒頭に記したベルトーネのカラボ、ピニンファリーナのプロトティーポ・スペチアーレ、そして今回の主役であるイタルデザインのイグアナは、ショーでのワールドプレミア当時から、それぞれアルファ ロメオのブランド名で呼ばれていた。
すなわち当時の慣例からすれば、アルファ ロメオ社がプロジェクトを主導していたものと見て間違いあるまい。
その事実を裏付けるように、この3台ともに1976年に落成したムゼオ・アルファ ロメオにオープン当初から所蔵されていた。
そして2015年夏、部分改築を含む全面リニューアルののちムゼオ・ストーリコ・アルファ ロメオとなった現在でも、この3台のプロトティーポはひとつの巨大なホールに美しく展示され、世界中から訪れるファンたちを静かに待ち受けているのである。
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