ジムニー旋風が止まらない。2018年7月に登場した新型ジムニーは納車待ちが1年とも2年ともいわれる。ただひたすらに悪路での走破性を極めた、そのマニアックなキャラクターからして、ここまでの人気ぶりはやや予想外ともいえる。
最近は車の売れ行きが伸び悩むが、ジムニーのように時々「予想以上に売れた」という車種も登場する。その多くは、軽自動車を含めて比較的小さな車種であることが多い。
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例えば今では販売No.1となっているホンダ N-BOXも初代の販売当初は、同様のコンセプトを持ったダイハツ タントより“後発”であり、そのタントを越え、プリウスまで上回る大人気モデルになると事前に予想することはできなかった。
こうした予想以上に売れた車の根本的な理由は、海外向けの日本車が増えて、国内市場が販売不振に陥ったのと同じだ。
文:渡辺陽一郎
写真:編集部
マニア向けなのに大人気!! なぜ新型ジムニーは売れた?
スズキ ジムニーも軽自動車だから日本向けの商品だが、N-BOXやハスラーとは事情が違う。日本向けでも悪路の走破力を徹底的に高めた商品で、大量に売れる一般的な選択肢ではない。
それなのに人気を高めた背景には、SUVの都会化がある。もともとSUVは悪路を走破する車だったが、大径タイヤの装着などがファッションとして人気を集め、前輪駆動をベースにしたシティ派モデルが人気を高めた。
特にトヨタ C-HR、日産 ジューク、ホンダ ヴェゼル、レクサスのRXやNXは、カテゴリーとしてSUVに含まれるが、悪路を走るイメージは希薄だ。
ジムニーも1998年に発売された先代型は、SUVの都会化を視野に入れて外観を丸みのある形状に仕上げた。しかし、これは歴代ジムニーのオーナーには不評で、2000年に2WDのジムニー「L」、2001年にその発展型となるジムニー「J2」を設定したら猛烈に叩かれた。
このような失敗も経て新型ジムニーは「プロユースに応えるクルマ作り」をテーマに原点回帰を図った。
外観は直線基調で、初代ジムニーを連想させる。2WDと4WDの切り換えは、先代型でスイッチ式に発展させたが、新型はレバー式に戻した。つまり、都会的な雰囲気を強め、軟弱になったシティ派SUVに対するアンチテーゼでもある。
そして新型ジムニーは外観の視覚的なバランスが良く、1982年に発売された初代パジェロの3ドアにも似ている。最近のシティ派が忘れたSUV本来のシンプルな良さがある。
それでもジムニーは、生粋のオフロードモデルだ。舗装路では操舵感の鈍さが気になり、乗り心地も良くない。4WDはパートタイム式だから、舗装路は2WDの後輪駆動で走る。後席は補助席に近く、実用性は3ドアクーペだ。
悪路を走る機会のあるユーザーが、悪路向けSUVの性格を把握した上で購入すべき車となる。
気づけば軽No.1! 初代N-BOXがここまで売れた理由は?
ホンダの初代(先代)N-BOXは、2011年12月に発売されてヒット作に。2013年/2015年/2016年/2017年(9月に現行型が登場)には、軽自動車の販売1位となった(2017年は小型/普通車も含めた総合1位)。
人気の理由は、今のヒット車種に多い「実用的なサプライズ」があったからだ。車内は軽乗用車では最も広く、後席に座ると前席が遠く感じるほどだ。後席を畳むと大容量の荷室になって自転車も積める。
実際にここまで広い車内が必要か否かは別にして、先代N-BOXを初めて見た人は必ず驚き、購買意欲を高めた。
またボンネットが短く、ルーフの長い水平基調のボディなど、外観の見栄えが良かったことも人気の秘訣だ。
従って現行型も、先代型の外観と車内の広さは踏襲している。前輪駆動の軽自動車では最も長いホイールベース(前輪と後輪の間隔)も、2520mmで同じ数値だ。
これぞ予想外のヒット? ハスラー誕生の意外な秘話
スズキの会長を務める鈴木修氏が、知り合った人から「私はスズキKei(1998年に発売されたSUV風の軽自動車)に乗っているが、乗り替える車がなくて困っている」と言われた。
普通の人なら聞き流すかも知れないが、鈴木修氏は開発の指示を出した。その結果、商品化されたのが、軽自動車のSUVとなるスズキハスラーだ。
発売は2014年1月だが、この時点の月販目標は5000台で、生産が受注に追い付かない。納期は最長で約10か月まで遅延した。今のジムニーに似た状況だ。
そこで生産ラインを増設し、2014年6月までの届け出台数は最大で約7900台だったが、同年7月には1万4000台を超えた。
人気の理由は、SUVの外観に、背の高い軽自動車の優れた実用性を組み合わせたことだ。2014年はSUVが急速に人気を高めた時期で、ホンダ ヴェゼル、日産 エクストレイル、トヨタ ハリアーなどが好調に売れていた。ハスラーの発売はタイムリーで、一気に人気車種となった。
外観は適度に野性的で可愛らしさも併せ持ち、インパネにはステッカーを貼れる処理も施した。遊び心を上手に表現して、嫌味を感じさせないことも魅力だ。
その一方で、車内の広さ、シートのサイズと着座姿勢、シートアレンジなどは先代ワゴンRと同じだから実用性も高い。価格がエアロパーツを備えた先代ワゴンRスティングレーと比べて割安だったことも、人気を得た秘訣だ。
初代CX-5が強豪ひしめくSUVでトップになれた理由
2012年2月に発売された初代CX-5は、全幅が1800mmを大幅に超えるSUVだ。本稿のほかの車種と違って、日本向けの商品ではない。
しかし、ヒット作になった。発売直後はSUVで販売1位になり、2013年3月には6000台以上を登録した。同じ月のデミオとほぼ同じ台数だった。
マツダ初代CX-5が好調に売れた背景には、複数の理由がある。まずは魂動デザインとSKYACTIV技術をフルに使った最初の車種だったことだ。今に通じる新世代商品群の第1弾だからインパクトも大きい。特に魂動デザインのカッコ良さは話題になった。
CX-5が人気急上昇中のSUVカテゴリーだったことも奏効した。現行アテンザは先代CX-5の9か月後に発売されたが、順序が逆だったら、CX-5、魂動デザイン、スカイアクティブ技術はここまで人気を得られなかった。
メカニズムでは、新開発されたクリーンディーゼルエンジンが人気を呼んだ。ディーゼルの実用回転域における高い駆動力と低燃費は、ボディが重く長距離移動の機会が多いSUVとは相性が良い。ディーゼルとの組み合わせも人気の理由だ。
価格も割安で、先代CX-5「25S」(4WD)は、先代フォレスター「2.0i-Lアイサイト」(4WD)、現行エクストレイル「20X」(4WD)などと同程度だった。
登録車No.1!ノート大人気の理由はe-POWERだけじゃない?
日産ノートは先代型も含めて堅調に売れたが、2016年11月にe-POWERも加わって売れ行きに弾みが付いた。2018年上半期(1~6月)の小型/普通車国内販売ランキングでは、ノートが1位に輝いた。
好調に売れる理由として、まずは商品力がある。全長が4100mmのコンパクトなボディは、視界が良くて運転しやすい。全高は1550mm以下だから立体駐車場を使いやすく、ホイールベースは2600mmと長いため、後席の足元空間にも余裕がある。
その上でハイブリッドのe-POWERが人気を高めた。エンジンは発電、駆動はモーターが受け持つことで加速が滑らかで燃費も良い。
アクセルペダルだけで速度を幅広く調節できる回生充電機能も人気を得た。「電気自動車の新しいカタチ」という誇張を伴ったCMも人気を呼んだ。
さらに日産車のラインナップもノートe-POWERの売れ行きに大きく貢献した。今ではティーダやデュアリスが廃止され、ブルーバードシルフィは3ナンバー車のシルフィになり、キューブは発売から約10年を経過している。
それなのに国内市場に適した新型車は投入されず、既存の日産車に乗る人達が、新たに買う車に困っている。そこにノートe-POWERが発売されて需要が集中した。
ティーダ/キューブ/デュアリスなどから普通のノートに乗り替えるのでは満足できないが、ノートe-POWERであれば、どうにか我慢できる。
つまり、人気車に乗るすべてのユーザーが、高い満足感を得ているとは限らない。ほかの車種の魅力が低いために、人気車が生まれることもあるのだ。
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