Audi S8 × BMW M760Li xDrive
アウディ S8 × BMW M760Li xドライブ
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旗艦モデルの威信を懸けた2モデル
いくらSUVが人気となっても、プレミアムブランドを象徴する存在はやはりサルーンである。中でも最強のパフォーマンスを与えられたSセグメントは、ブランドの哲学を端的に表す存在だと言えるだろう。アウディとBMWの威信をかけた2台の魅力と個性に迫ろう。
「運転して楽しいか後席で寛ぐかという奥深いテーマ」
ドライバーズカーかショーファードリブン向きか? ロールス・ロイスやベントレーのようなラグジュアリーサルーンでは、こんな議論がよく取り沙汰されるのはご存じのとおり。もっとも両者に明確な違いがあるわけではなく、「メーカーがどちらに重きを置いて開発したか?」というバランスの話に帰結される場合が多い。ちなみに、世界でもっともショーファードリブン向きなロールス・ロイス ファントムでさえ、スタンダードホイールベースであれば意外なほど正確なハンドリングを備えているのだから、なかなか奥深いテーマといえる。
ここで紹介する2台のプレミアムサルーンも、まさにそんな論点から語りたくなる個性の持ち主である。
パフォーマンスごとにRS、S、Aの3段階が用意されるアウディのラインナップでS8はまんなかに位置するSモデルのフラッグシップサルーン。エンジンは571ps/800Nmの4.0リッターV8ツインターボを搭載。アウディらしく先進技術を満載しており、48Vマイルドハイブリッド・システム、カメラで前方の路面を読み取り電磁アクチュエーターでホイール位置を制御するプレディクティブアクティブサスペンション、4WSなどを装備。ギヤボックスは8速ATで、トルセン・タイプCのセンターデフを介して4輪を駆動するクワトロを採用する。
「M760Liはよりプレステージ性を重んじているように感じる」
一方のM760Liも、BMWのラインナップではMパフォーマンスといって、アウディのSモデルに相当するサブブランドに属する。エンジンはいまや希少種ともいえるV12で、排気量6.6リッターをツインスクロールターボで過給して609psと850Nmを生み出す。S8と違ってマイルドハイブリッド、アクティブサスペンション、4WSなどを装備しない代わり、ボディは標準を140mm延長したロングホイールベース仕様で、広々とした後席の居住スペースを実現。駆動系はこちらも8速AT+フルタイム4WDだが、トルク配分機構に電子制御式多板クラッチを用いる点が異なる。
エクステリアの印象はS8の方が端正でありながら未来的で、M760Liはよりプレステージ性を重んじているように感じる。デビュー当時に物議を醸し出した7シリーズの巨大なキドニーグリルは、以前に比べるとだいぶ目に馴染んできた。一方、インテリアはどちらも贅を尽くしているものの、M760Liはオフホワイトのフルレザーメリノがとりわけゴージャスで、グレーのレザーに覆われたS8よりも一段と高級感が漂う。もっとも、これは一瞥したときの印象であって、S8も作り込みの良さで定評のあるアウディのフラッグシップサルーンらしく、素材の質感や細部のていねいな仕上げではM760Liに負けていないと感じた。
前席の居住性は甲乙つけがたいが、後席ではロングホイールベースのM760Liが前後方向の広さで一歩リードするのに対し、ヘッドルームはS8の方が3cmほど広かった。また、ラゲッジスペースはM760Liの515リットルに比べてS8は505リットルに留まるものの、実測してみるとトランクルームの床面はS8の方が広く、こちらもどちらかが一方的に勝っているとはいえない状況だった。
「恐ろしくスムーズなうえに静粛性が高いM760Li」
先に試乗したのはM760Li。巨大なV12エンジンにロングホイールベースの組み合わせと聞けば、ワインディングロードでは鈍重な動きを示してもおかしくないが、そこはMパフォーマンスモデル。スポーツ・モードもしくはスポーツ+モードを選べばステアリングを切り込んでいったときの反応も素早く、高速コーナーでも4輪がきれいに接地してタイヤのグリップ力をしっかりと引き出してくれる。ロールが無闇に大きくない点もドライバーにとっては安心感につながることだろう。
エンジンはただパワフルなだけでなく、サルーン用のV12エンジンにもかかわらず吹け上がりは軽快。トルク特性は中低速で無類に力強く、回転を上げればそれこそ怒濤のように力が湧き出してくる。しかも、恐ろしくスムーズなうえに静粛性が高い。ちなみに、同じグループのロールス・ロイスのV12エンジンとはブロックが共通となるものの、ボア×ストロークはそれぞれ個別に設定されているそうだ。
「フィーリング面でよりスポーティなのは明らかにS8だ」
対するS8は予想どおりエンジンもハンドリングもM760Liよりさらにシャープだった。ショーファー・モードではまさに魔法のじゅうたんのような滑らかな乗り心地をもたらしてくれるプレディクティブアクティブサスペンションは、ダイナミック・モードを選択すると骨のある強靱さを発揮し始め、車重が2.3トン近くもある巨大なサルーンボディはステアリングの動きに鋭く反応。タイトコーナーが連続するセクションでもリズミカルにクリアしていける。しかも、エンジン重量もしくはホイールベースの違いによるものなのか、M760LiよりZ軸回りの慣性モーメントが格段に小さく、このためハードコーナリング中に不測の挙動を示しても素早く修正することが可能で、よりスポーティな印象が強かった。
エンジンのスペックはM760Liに一歩譲るものの、フィーリング面でよりスポーティなのは明らかにS8だった。4000rpmを越える領域でパワー感がグンと増すうえ、V8らしいブワーッというサウンドがドライバーの耳にもはっきりと伝わってくる。アウディにしては珍しく演出過多なような気がしなくもないが、エンジン音の質感は良好で音量自体も決して大きくないので、幅広い層に受け入れられるだろう。
「S8の乗り心地は、斬新というか革新的だ」
最後にプレミアムサルーンでとりわけ重要になる乗り心地を比較してみよう。
両ブランドのフラッグシップとあってさすがに乗り心地はどちらも快適だが、M760Liは従来形式のサスペンションを徹底的に煮詰めることで実現した乗り心地、S8はアクティブサスペンションという一種の“飛び道具”を使って快適性を高めていることがよくわかる。
路面に不整があればM760Liはそれを忠実に伝えるが、ショックの最大値は抑えられ、その後の振動も素早く収束される。ランフラットタイヤの乗り心地をよくここまで熟成したと感心させられるが、ダンピングレートが低くなるコンフォート・モードではタイヤのバタツキ感がかすかに認められるなどの弊害も残る。ただし、ボディの剛性感とその振動特性は極めて良好で、実に質の高い乗り心地を実現している。
S8の乗り心地は、斬新というか革新的だ。とりわけ微低速域では歩道に乗り上げるときの段差が本当になくなってしまったかのようにボディが揺れなかったりする。コーナーリング時のロールが極端に小さいこと、ノーズダイブやスクォートをする代わりに4輪が均等に沈み込んでいく様は感動的でさえある。
「S8の方がドライバーズカー寄りでM760Liの方がショーファードリブン向き」
ただし、足まわりは一生懸命頑張っているのに、強い衝撃が加わるとフロアもしくは足まわりの取り付け部に微振動が残る傾向があるのは残念。この点ではM760Liの方が完成度は高い。一方で、路面に軽い不整が残るような直線路を流していると、バネ下はしなやかに追随しているのにボディは完璧にフラットな姿勢を保つという不思議な乗り心地を味わえる。これこそ、まさにアクティブサスペンションの効果に違いない。
結論として、S8もM760Liもスポーティなプレミアムサルーンとしての完成度は高く、ドライバーズカーとしてもショーファードリブンとしても使える特性を備えているが、比べてみれば、S8の方がドライバーズカー寄りでM760Liの方がショーファードリブン向きといえる。まるでアウディとBMWの立ち位置が逆転してしまったかのような結論だが、その差は決して大きくないので、ブランドへの思い入れやデザインの好みでチョイスしても間違いはないはずだ。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
アウディ S8
ボディサイズ:全長5185 全幅1945 全高1475mm
ホイールベース:3000mm
車両重量:2290kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:420kW(571ps)/6000rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2000-4500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式 :AWD
サスペンション:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前後265/35R21
車両本体価格:2010万円
BMW M760Li xドライブ
ボディサイズ:全長5265 全幅1900 全高1485mm
ホイールベース:3210mm
車両重量:2290kg
エンジンタイプ:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:6591cc
最高出力:448kW(609ps)/5500rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/1550-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式 :AWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前245/40R20 後275/35R20
車両本体価格:2582万円
【問い合わせ】
アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
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