この記事をまとめると
■日産の電動化技術「e-POWER」の仕組みを説明
「SUVはタフなガソリンでしょ」は間違い! じつはハイブリッドやEVがSUV向きなワケ
■トヨタやホンダとのシステムの違いも解説する
■e-POWERを搭載する車種についても紹介
技術の日産を象徴する電動化技術について解説
先代リーフの搭載を皮切りに、多くの車種に展開されるようになったe-POWER。日産が誇るこのハイブリッドシステムについて詳しく説明していきましょう。
日産のe-POWERとは?
パラレル方式のHV
日産が誇るe-POWERとはシリーズ式のハイブリッドシステムのこと。
シリーズ方式のハイブリッドはエンジンが発電機を回すことで生まれる電力をバッテリーに充電。バッテリーから送られる電力や、バッテリーがいっぱいのためエンジンから直接送られる電力を使い、モーターを回してタイヤを動かすシステムです。
エンジンの動力はすべて発電に使用されることや、モーターの力のみで駆動されるEVに近いシステムのため、日産はハイブリッドではなくe-POWERと名付けたといわれています。
e-POWERのレイアウトは発電用エンジンにモーターとインバーターを組み合わせ、これらのユニットをエンジンルームに搭載。
走行時のシステムですが、エンジンで発電し充電するのはお伝えしたとおり。ただバッテリーの残量が満たされている場合はエンジンが停止しモーターのみで走行、バッテリー残量が少なくなるとエンジンが始動し発電用モーターを回すことで充電をスタートします。
急加速や上り坂など駆動力は必要になった場合は発電機とバッテリーの両方からモーターに電力を供給し、減速時や下り坂では回生ブレーキとして充電します。
ラインアップから消えた日産のハイブリッド
いまや日産のハイブリッドといえばe-POWERがまず頭に浮かびますが、他にもハイブリッドシステムが存在していました。
そのひとつが今年までスカイラインに搭載されていたユニットでラインアップから消滅したフーガやシーマにも搭載されていたハイブリッドシステムです。
3.5リッターV6エンジンとモーターを組み合わせ2つのクラッチで制御。日産が「ワンモーター2クラッチ式」と称したこのシステムは、エンジンとモーターをクラッチにより自在に接続と切り離しを実現。エンジンのみの動力で走行することはもちろん、モーターでのアシスト、またエンジンと駆動系をクラッチで切り離すこともできるのでEV走行も可能でした。
現行スカイラインに搭載されたハイブリッドシステムは、シーマなどに搭載されていたシステムをベースに高出力化。筆者もデビュー時の試乗会でその加速を体験しましたが、エンジンのみでは実現できない加速レスポンスに驚いた記憶があります。
ただ、スカイラインのHV仕様は今年9月に行われた一部改良により廃止。同システムを搭載していたフーガとシーマは今年8月に生産が終了し、セレナに搭載されていたマイルドハイブリッドがラインアップ落ちしたため、日産のハイブリッドはe-POWERのみとなりました。
e-POWERとトヨタ&ホンダHVの違い
トヨタのハイブリッド「THS」
THS(トヨタハイブリッドシステム)と呼ばれるトヨタ独自のハイブリッドシステムは、初代プリウスに初めて搭載され、現在まで多くの車種に搭載されてきました。
コンパクトカーからフラッグシップセダンまで、幅広い車種に搭載されているシステムはそれぞれ異なっていますが、共通するのは遊星歯車を用いた動力分割機構を装備し、変速機が発電用モーターと駆動用モーターを制御することです。
エンジンからの入力をプラネタリアギアキャリア、発電機の軸をサンギヤ、出力はリングギアという構成の遊星歯車機構がエンジンと発電機を自在に操るのがTHSのポイントとなります。
簡単に説明すると遊星歯車を用いてエンジンと2つのモーターを連結、路面状況に応じてEV走行、エンジン+モーターによる走行、(充電しながら)エンジンのみの走行と切り替えることができるシステムで、これをモーターと遊星歯車のみで行うところがTHSの大きな特徴といえるでしょう。
ホンダのハイブリッド「e:HEV」
e:HEVとは2モーター駆動式のハイブリッドシステムでバッテリーのみで走行するEVモード、エンジン発電によるHVモード、クラッチ直結によるエンジン駆動モードを有します。
基本的にエンジンで発電し、その電力でモーターが駆動するe-POWER同様のシリーズ式ハイブリッドなのですが、蓄電量が十分な場合はエンジンを停止しバッテリーからの電力のみで走行。高速巡航時などはe-POWERとは違い、エンジン出力で直接タイヤを駆動することで電力の変換ロスを抑える工夫もなされています。
いわばシリーズ式をベースにモーターがエンジンをサポートするパラレル式としての運用も可能としたこのシステムは、今年デビューしたシビックやステップワゴンなど多くの車種に搭載。燃費性能はもちろんホンダらしくEV走行時での爽快な加速など走行性能に力が入れられています。
e-POWERのメリット・デメリット
トヨタやホンダのハイブリットと比較して、e-POWERのメリットやデメリットを考えていきましょう。
まずe-POWERのメリットとして挙げられるのが、常にモーターから動力を得ていることで力強いトルクやゼロ発進時の鋭い加速など、モーターのリニアな走行フィールを味わえることでしょう。
またアクセル操作のみで加減速が可能な「ワンペダルドライブ」も慣れが必要ではありますが、便利な機構であることは間違いありません。
一方、デメリットとして高速走行時の燃費が悪くなる点が挙げられます。
前提としてハイブリッド車は大きな電力が必要となる一方、回生エネルギーを得にくい高速道路での走行はそもそも苦手です。当然、e-POWERも高速道路での走行時はエンジン車と比べ燃費は劣るのですが、ホンダのe:HEVは高速巡航時に市街地走行時に比べ、燃費が良くなるエンジンのみでの走行も可能。THSも高速走行時にはエンジンを休止することで燃費の悪化を防ぐ制御が行われるため、これら2つのシステムと比較するとバッテリー残量が満たされていない限り、エンジンで常に発電する必要があるe-POWERは高速走行がやや劣ることがデメリットといえるでしょう。
e-POWERを搭載する5車種を紹介
ノート
ボディサイズ:全長4045mm×全幅1695mm×全高1505~1520mm、ホイールベース2580mm
価格:203万3900円~283万4700円
燃費(WTLCモード):23.8~28.4km/L
e-POWERを初めて搭載した2代目リーフの後を受け、3代目となる現行モデルがデビューしたのが2020年。先代モデルは2018年に登録車販売台数1位に輝くほど大ヒット。当然、現行モデルにもe-POWERが搭載され、パワーユニットはガソリンエンジン仕様が廃止されたことで1種類となりました。
ただし先代モデルに搭載されていたe-POWERそのままではなく、第2世代へと進化。1.2リッター発電用エンジン+モーターはそのままですが、モーターとインバーターを変更。パワーとトルクをそれぞれアップしました。
またインバーターを小型&軽量化したこと、新型触媒の採用を行ったことなどで燃費効率も向上。FF仕様は28.4km/L(WLTCモード)を誇ります。
しかも発電用エンジンの制御などを工夫したことで振動が抑えられ、静粛性が向上。発電時でさえエンジンがかかっているかがわからないほど静かになったのは、現行モデルの大きな特徴といえるでしょう。
現行モデルのエクステリアデザインは日産の新世代デザイン言語「タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズム」に基づく新たなスタイルを採用。シンプルではあるものの、日本の普遍的な美意識を備えたデザインとなっています。
また全長やホイールベースは先代より縮小したにもかかわらず、後席の広さはクラストップクラスのゆとりを備えているのも人気の理由といえるでしょう。
e-POWERのみとなった現行モデルは先代に引き続き大ヒット。2022年の8月、9月は登録車の国内新車販売首位となっています。
ノートオーラ
ボディサイズ:全長4045mm×全幅1735mm×全高1525mm、ホイールベース2580mm
価格:265万4300円~299万6400円
燃費(WTLCモード):22.7~27.2km/L
ノートファミリーに加わったノートオーラ。ノートをベースにボディを拡大し、パワーユニットのパワーやトルクを引き上げ装備や加飾をグレードアップしたプレミアムコンパクトカーに位置づけられています。
ノートと同じくパワーユニットはe-POWERのみとなり、発電用1.2リッターエンジンとモーターを組み合わせるところも同様。ただし、バッテリーの出力を高めたことで最高出力が18%(136馬力)、最大トルクは7%(30.6kgm)アップしました。
e-POWERの出力がノートより高められたことで、タイヤサイズを拡大(※185/60R/16から205/50/R17)。サスペンションも微調整が加えられています。
その他、ノートと変更されたのが全幅。5ナンバーサイズに収められたノートとは違い、ノートオーラは3ナンバーサイズの1735mmに拡大されました。
また専用のフロントマスクを採用したことやツイード調&合皮や本革シート、ウッド調パネルの装備、12.3インチTFTメーターを採用するなどノートよりプレミアム感を高めているところも違いです。
ノートと比べ60万円以上高くなっていますが、同クラスの輸入車をライバルとしたノートオーラは国産車において強い個性を放っています。
セレナ
ボディサイズ:全長4685~4770mm×全幅1695~1740mm×全高1865mm、ホイールベース2860mm
価格:265万4300円~299万6400円
燃費(WTLCモード):17.2~18km/L
間もなく6代目となる新型が登場すると噂されるセレナ。現在販売されている現行型にはe-POWER搭載車のみが販売されています。
現行型に搭載されているe-POWERは、先代ノートに搭載されていたユニットをベースに、ボディが重いセレナに合わせ改良。パワーとトルクを向上させました。
具体的な変更点は発電用エンジンの出力をアップさせ、モーターの出力を向上。エンジン、バッテリー、インバーターなど各種パーツをブラッシュアップしたことで可能としたのです。またオイルクーラーも追加し、熱処理を効率よく処理する工夫がなされました。
ただ、セレナのデビュー時はe-POWERでなく、発電機をアシストモーターとしても使用するスマートハイブリッドも用意されていました。
アシスト専用のモーターやバッテリーは搭載していないものの、安価に搭載できるユニットとして4代目から搭載されていましたが現在、搭載モデルはラインアップ落ち。6代目となる次期モデルにも用意されない見込みです。
キックス
ボディサイズ:全長4290mm×全幅1760mm×全高1605mm、ホイールベース2620mm
価格:279万8400円~344万8500円
燃費(WTLCモード):19.2~23km/L
2020年にニューモデルとして国内投入されたキックスですが、海外では2016年から販売されており、国内仕様はタイで生産され輸入されます。
南米を皮切りに北米、東南アジアと販売してきたキックスですが、海外モデルにあるエンジン搭載車は国内仕様に用意されずパワーユニットはe-POWERのみ。生産を担うタイでもe-POWER搭載車が販売されています。余談ですがキックスという車名は以前、三菱からOEM共有でパジェロミニに付けられていました。
デビュー時のキックスに搭載されたe-POWERは先代ノートやセレナに搭載されたユニットをベースに改良。先代ノートのe-POWERと比べエンジンの発電出力やバッテリーの出力を高めたことで、モーターの最高出力と最大トルクをともに向上。また発電のタイミングなどを制御システムも見直し燃費も向上しました。
e-POWERについては2022年のマイナーチェンジで現行ノートやノートオーラに搭載される第2世代のシステムへ変更。合わせてデビューからFFのみだった駆動方式でしたが、4WD仕様が設定されています。また先進安全装備も強化するなどキックスはマイナーチェンジで大きく進化しました。
エクストレイル
ボディサイズ:全長4660mm×全幅1840mm×全高1720mm、ホイールベース2705mm
価格:319万8800円~504万6800円
燃費(WTLCモード): 18.4~19.7km/L
2022年7月20日、4代目となるエクストレイルがフルモデルチェンジで登場。二段ヘッドランプなど先代より個性的なスタイルを身に着けつつ、歴代モデルが継承してきた「タフギア」の要素を更に進化させてデビューしました。
5名乗りとともに3列シートを備えた7名乗りを用意したことも先代同様。ただし、先代までに用意されたガソリンエンジン仕様はなく、パワーユニットはe-POWERのみをラインアップしています。
そのe-POWERで注目したいのが発電用エンジン。モータと組み合わせるのは可変圧縮機構を備えたKR15DDT型1.5リッター直列3気筒ターボエンジンで、ノートやマイナーチェンジされたキックスに搭載する1.2リッターエンジンとは異なるユニット。このエンジンは国内向けモデルに初めて搭載されました。
低負荷運転時と加速時などパワーが必要なときに圧縮比を変える可変圧縮ターボを備えたことで、燃費とパワーの両立を実現。ノートオーラに搭載されているHR12DE型1.2リッター直列3気筒エンジンの最高出力が82馬力なのに対して、エクストレイルのエンジンは142馬力。パワーの差が大きいことがわかります。
また4WDシステムは後輪を独立したモータで駆動するe-4OECE(イーフォース)を採用。前後輪に搭載されたモーターは独立で制御できるため、駆動配分は100:0~0:100まで自在に調整可能です。またこのシステムは、後輪の駆動と内輪の制御で旋回を支援することができる特性も備えました。
日産自慢のプロパイロットもXグレード以上には標準装備。上級グレードにはアクセルやブレーキ、ハンドルの切替なども自動化されたプロパイロットパーキングも備わっています。
その他、コネクティッド機能なども進化したエクストレイル。最新のSUVとして大いに人気を集めそうです。
まとめ
いまやプロパイロットとともに日産の技術的アイコンとなったe-POWER。システム自体も進化し続けており、近々登場するセレナには1.4リッターエンジンとモーターが組み合わされるとも言われています。
今後、e-POWERや同システムの搭載車がどのように進化していくかに注目しましょう。
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みんなのコメント
この特性に対して、直結モードを設けて短所を補ったのがe:HEV。
対照的にe-powerは直結モードは設けずにバッテリーをちょっと多めに積んで電動感を強めてEVに通じるモータードライブを強調した。言わば長所を伸ばす発想。
記事にはでてこないが、直結モードもなく、バッテリーも必要最小限にして、シンプルに経済性を追求したのが、ダイハツのe-smart HVだね。
シリーズハイブリッドでも三者三様、個性があって面白い。