ニュルブルクリンク
スバル STIの先端技術 決定版 Vol.28
Automobile Study
2018年の年末にお伝えした進捗レポートから約2ヶ月が経ち、さらに熟成は進んでいるようだ。2019年仕様のお披露目が3月10日に行なわれたが、それに先立ち、スバル STI製作の本拠地「群馬製作所・辰己ファクトリー」(編集部が勝手に命名)で2019年最終仕様について辰己総監督に話を聞いてきた。
※関連記事:【NBR】2019年ニュルブルクリンク24時間レースに向け、スバルWRX-STIが富士スピードウェイでのテストレポート
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画期的な空力効果となるか?
19年仕様で最も目を引くのはカラーリング、塗装だろう。もちろん、熱対策としてダクトが多く設けられ、見た目が大きく変わったことも印象的だが、ツヤのないマットな塗装は存在感が強い。
実際塗装面に触ってみたが、ザラザラとした感触で単なるつや消し塗装ではない。確かに欧州のGT3マシンではメルセデスAMG GTなどにこうしたつや消しはあるが、ここまでザラザラしてはいない。この塗装の目的は何か?
この塗装は、チームの雑談の中から生まれたもので、「サメ肌塗装」と呼んでいた。これは空気の整流効果を狙ったもので、ボディ形状の変化点において空気の剥離を小さくできる効果を狙ったものだという。
例えばボンネットからフロントウインドウにかけて空気は這うように流れ、そのままルーフを超え、ボディから剥がれていくが、フロントウインドウとルーフとの接合部には空気の剥離による渦が発生しているという。つまり空気抵抗だ。そこにこのサメ肌塗装とすることで、空気の剥離が小さくなり、ルーフに沿って、ルーフを這うような空気の流れに変わるそうだ。そのためリヤウィングの効率アップが見込める可能性がある?かもしれないという。
もちろん風洞テストでも微少ながら、狙い通りの結果が出ているということで、あとはスポンサーなどのステッカーを貼っていくため、こうした効果がどこまで期待できるか?ということになる。究極はサメ肌ステッカーを作ることかもしれないが・・・
ブレーキはABS作動時の制動G向上のためのパット選定が課題
18年仕様はトレッドを広げるなどジオメトリーの変更を行なっていたが、その反動でブレーキやタイヤに負担がかかり、あまり良い状態というレベルではなかったという。できる限りタイヤには負担をかけずに、また、ブレーキのいいところを使うためにも見直しが必要だという。
18年の状況としてはジオメトリーの変更もあり、フロントに負担がかかり、フロントのブレーキを強めるとタイヤを痛めてしまうのでパッドのμを下げていた。すると相対的にリヤの効きが良くなりロックしやすくなる症状が出ていた。またABSの介入タイミングも早くなる。そのため液圧が下がり、充分な制動Gが出ないままABSが働くといった、乗りにくさがあったという。
また、WRX STIは市販車両をベースに改造したマシンのため、前後の重量配分が6:4というフロントヘビーなマシンになっている。そのため、19年用のブレーキはもともとフロントに負荷が強いことを前提としたセットアップからスタートし、ABSの制動Gを変更する制御を加え、パッドを細かく設定していく手法を取り入れていくという。
ちなみに、ローター径などのハードパーツではサイズアップを18年に行なっており、サイズは従来通りで変更なし、ということだ。サイズはフロントが380mm、リヤは280mm。しかし、予選に向けてはフロントのサイズダウンもトライする予定で、24時間レースではφ380は必須となるが、予選に向けてはφ370とし、バネ下重量の軽減を模索中(ー5kg/台)ということだ。
ECUの統合制御でより素早いレスポンスが可能に
より最新のモーテック制御というレポートを前回しているが、トランスミッションの変速、駆動系そしてエンジンの出力制御を一つのECUで制御することで、18年モデルより5倍も10倍も通信速度が速くなったという。
その影響は様々なポイントで有利なことが起きているという。まず、マシンの挙動変化だ。旋回中のシフトチェンジで姿勢変化が起きなくなったことがある。パドルシフトで変速しブリッピングがピタリと合致し燃料がカットされることも連動する。こうした一連の制御がコンピューターの中のひとつの制御プログラムが作られていることから可能になったわけだ。なんと言ってもシフトチェンジショックが軽減され、ドライバー負荷も軽減され、耐久レースには欠かせないセットが可能になった。
つまり、この統合制御となったことで、その安全マージンをギリギリまで攻めた制御が可能となるため、結果的にはエンジンの高出力を使える時間が僅かなりとも長くなることにもつながっていくわけだ。
また、フライホイールの軽量化へも寄与している。もともと市販車とは比較できないレベルの軽量フライホイールを採用しているが、それが軽ければ軽いほどエンジンレスポンスは良くなる。だが、エンジンのカム駆動ベルトの歯飛びを起こしやすくなるらしい。18年仕様はそうした理由から軽量化したいものの、当初狙いの軽量化をしたパーツには変更ができなかったが、19年仕様では、そのあたりの制御も可能となったため、18年仕様より軽量化したフライホイールの使用が可能になったという。さらにフライホイールの軽量化はシフトフィール向上に大きく寄与しているのだ。
悩まされた騒音対策
18年はレースウィークに入ってからエキゾーストの騒音問題で悩まされた。公式プラックティスでの走行時間中、オフィシャルから騒音レベルが規定違反と指摘されていたのだ。この時17年となんら変更をしていたわけではなかったので、なぜレベルを超えてしまうのか不明であり、急遽の対策としてマフラーエンドに消音材を詰め込む対策をして本番レースを迎えていたのだ。
これでは本来のパワーも出し切れていないわけで、もやもやした気分をチーム全体で感じていただろう。また、騒音計測の場所も不明で、エンジン制御で対応することもできなかった事情もあった。その後、計測場所なども明確になったものの、そもそも騒音レベルはエンジンの高効率化などの影響でレベルオーバーであることも分かり、19年仕様では藤壺技研の協力を得て、対策マフラーを製作している。そして、さらに消音効果を3db抑えられるマフラーも用意し、二重の対策を準備している。
大型ラジエターで熱対策
前回のレポートでもお伝えしたが、19年のレースは1ヶ月ほど開催時期が遅くなり、6月開催となったことで欧州の盛夏となるため、熱対策が必須となった。そのため、各所のボディ形状を変更し、エアダクトやアンダーパネルの改良などの熱対策が要求される。今回はアンダーパネルの写真とラジエターの写真を撮らせてもらったので、こちらに掲載しておく。
タイヤとホイール革命
BBSホイールとファルケンタイヤの組み合わせに変更はないが、こちらもミクロの世界で挑戦しているようだ。冒頭、ブレーキの部分でWRX STIの重量配分は6:4だと説明したが、このことはタイヤ&ホイールにかかる荷重にも影響がある。そこを踏まえ辰己総監督は「前後異種タイヤ、異種ホイールというのもあり得るんじゃないか?」と考えている。
そこで、ホイールの材質をマグネシウムからアルミに変更している。この変更で100g程度重くなったそうだが、アルミの特徴である「しなり」を持っていることに注目しているという。マグ・ホイールは剛性は高いものの、しなる特性は少ない。辰己総監督はスバル在籍中に、車両開発をする上でもボディ剛性に対しては「しなり」や「いなし」が必要だと言っていたことを思い出す。
このしなりを利用して何をするのかといえば、タイヤの接地面積を増やすことだ。ホイールの剛性、タイヤの剛性を確保しながらホイールやタイヤが変形し、接地面積を増やしていく。こうしたことに取り組んでいるという。そのため、前後重量配分が違うWRX STIであれば、前後で違うホイール&タイヤというのも可能性としてはゼロでない、という話になるわけだ。
もちろん、見た目でわかるものではないので、実車を見てもさっぱり見当もつかないものだが、ドライバーはその違いを感じ取っているという。テスト走行ではすでに、この前後異種タイヤやアルミホイールのしなりを利用したホイールなどの投入も行ない、ドラビリにおいて、「良い」「悪い」という結果がいくつか出始めているということだ。
19年仕様は18年仕様のキャリーオーバーを基本とするものの、全く別のマシンへと仕上がっていくのがわかる。3月10日のメディア向けお披露目シェイクダウンテストでは、その辺りをまとめた仕様で登場する予定だ。さらに、このシェイクダウンで得たデータから本番に向けての最終調整を群馬製作所・辰己ファクトリーで行ない、その後ドイツへ空輸予定としている。
また、本番前では4月のVLNレースやQFレースなど、いくつか出場をしなければならないレースもあり、いよいよ、最終仕様へ向けての仕上げに入ったという段階だ。(レポート:編集部)
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