フルモデルチェンジした新型ホンダ「CR-V」は、まずe_FCEV仕様のみが上陸する。このクルマの特徴、魅力とは? 実写を見た今尾直樹がリポートする。
メイドインUSA
ホンダが新型CR-Vベースの燃料電池車、CR-V e:FCEVを、2月28日(水)から3月1日(金)まで開かれる「H2 & FC EXPO【春】~第21回 【国際】水素・燃料電池展~」で世界初公開した。より正確には、初公開する、ということ事前説明会を埼玉県和光市にある同社の和光ビル内で開催した。
電気ですかーっ。電気があれば、なんでもできる。ということで、その電気を水素と空気中の酸素の化学反応によって取り出すのが燃料電池(Fuel Cell=FC)で、化学反応の結果、できるのは電気と水だけ。走行時に有害物質を排出しないので、環境によいとされる。燃料電池でつくった電気でモーターを動かして走るのがFCEV(Fuel Cell Electric Vehicle=燃料電池車)である。さらに水素を、自然エネルギーを使って水から取り出せば、人類は夢のカーボンフリー循環型社会をつくりあげることができるわけである。
その夢に向けた2台のCR-V e:FCEVは、一見、夢のクルマとはほど遠いように見えた。どちらも地味なボディ色だし、FCEVであることは外観からはわからない。1台は左ハンドル仕様で、それというのもこの6代目CR-Vをベースとする燃料電池車はメイドインUSAで、北米でも販売するからだ。
燃料電池のシステムはGMと共同開発したもので、ミシガン州デトロイトにほど近いブラウンズタウンにつくった合弁会社、フュエルセルシステムマチュファクチャリングで生産する。ホンダはこのFCシステムを米国オハイオ州メアリズビルにある同社のパフォーマンスファクチャリングセンター(PMC)に持ち込んで、CR-Vのボディに搭載する。同工場は2代目NSXをつくっていたところだから、少量生産に向いている。
CR-V e:FCEVの特徴として、専用の新しいフロントノーズが採用されてはいる。通常のCR-Vとは異なる、フロントのノーズが110mm延ばされ、だから、知っているひとが見れば、あ。これはFCEVであることが一目瞭然。2022年に米国で発表された6代目CR-Vは、先般発表されたインド生産の「WR-V」にも似た、フラットで、大きなグリルを特徴にしている。SUVらしいゴツさを強調しているわけだ。対してe:FCEVは「シビック」や「アコード」のような乗用車系の、どっちかというと都会的な顔に変更されている。
Eの文字が付くのは、日本仕様には外部充電が可能なプラグイン機能が与えられているからだ。これにより、水素を空気中の酸素と化学反応をさせて電気をつくり、その電気でもってモーターを駆動する燃料電池車として、水素一充電で600km以上の走行可能距離をもつ。
一方、プラグインのBEV(バッテリー式電気自動車)として、前列の床下に設置されたリチウムイオンバッテリー内に貯めた電気エネルギーで最長で60km以上走行できる。
実質300万円になるかも!?発売は2024年夏とされている。もうちょっと具体的にボーナスシーズンということになる。とりあえずのパワートレインはこの燃料電池のみで、ほかのCR-V、1.5リッターの直4ターボや2.0リッター直4+2モーターのハイブリッドはいまのところ候補にはない。それというのも、1ドル=150円の円安だからで、CR-Vは入門用モデルでも米国で2万9500ドルから始まっている。単純に日本円に換算すると、442万5000円になる。ライバルのトヨタ「RAV4」は298万円からだから、日本に持ってきても競争力がない。と、判断されたのかもしれない。
それでは、e:FCEVは? というと、燃料電池車には政府・自治体の補助金が期待できる。たとえばトヨタ「ミライ」は車両価格6060万909円だけれど、CEV(Clean Energy Vehicle)補助金が145万3000円、出されている。東京都だと給電機能付きの燃料電池車ということで110万円の補助が期待できる。合わせておよそ250万円。ホンダが2021年9月に終了した「クラリティFUEL CELL」は783万6400円だったけれど、CR-V e:FCEVはGMと共同開発の新しいFCシステムを搭載している。
このシステムはクラリティ用と較べて、白金使用量やセル数の削減、それに量産効果によってコストを3の1に抑え、耐久性で2倍を確保、−30℃の低音指導時間を断機制御によって大幅に低減しているという。ベース車両に、クラリティのような独自のボディではなく、2023年のUSA市場でベストセラー第6位のCR-Vを選んだのも、コスト低減のためだと考えられる。
FCシステムが3分の1なら、価格も30%ぐらい安くなるかもしれない。もしクラリティの車両本体価格の30%引きだと、およそ550万円。ここから政府と東京都の補助金250万円を差し引くと実質300万円で購入できる。ま、300万円は安すぎるとしても、CR-V e:FCEVはFCEVの量産化と普及の道を探るホンダの実証実験であり、本格的普及型のFCEVはさらにこの後に続く。それはCR-V用のFCスタックの2分の1以下のコストで、耐久性を2倍以上に引き上げたものになるはずだ。
夢のカーボンフリー社会へ社会実験のひとつだとすると、パッケージングが大雑把なのもうなずける。フロントにFCスタックとモーター、PHEV用の電池を前席の床下、水素タンクを後席の床下に収めているのはよいとして、航続距離を稼ぐために、水素タンクをもうひとつ、本来はラゲッジ・ルームとなる後席すぐ後ろに配置している。このため、荷室のフロアに出っ張りが生まれ、容量は大きく減少している。当然、後席の背もたれを倒すとより広い荷室があらわれる、というようなワゴンの常識は通用しない。
その代わり、「“生活の可能性が拡がる”フレキシブルカーゴ」ということで、後ろの水素タンクの出っ張りの載せるフレキシブルボードなる板が用意されている。だけど、こんな出っ張りのある荷室、実際上は使えないのでは? と、事前説明会で開発責任者に尋ねたところ、「それはユーザーの方にお任せしたい。われわれよりユーザーのほうが進んでいますから」という答えだった。
プラグイン機能を使って日常では60kmをBEVとして、長距離はFCEVとして使える。という車両説明にしても、水素ステーションがない場所への遠出はできない。行動範囲はおのずと限られてくる。実際はどんな使い方を想定されているのか? と、これまた開発責任者の方に尋ねたところ、これもまたおなじ答えだった。すなわち、「ユーザーの方にお任せしたい。われわれよりユーザーのほうが進んでいますから」。
革新的な商品というのはこういうものなのかもしれない。つまり、ホンダとしては、カーボンニュートラル社会の実現に向けた普及型商品をまずは提案した。使い方はみなさん次第。ユーザー側からどんどん意見を寄せてもらって、次なる、本当に使えるFCEVを開発しようというのだ。
ニッポンは2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを政府が表明している。これを受けて経済産業省は、2030年までに公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラ15万基を設置し、ガソリン車並みの利便性を実現。水素ステーションを1000基程度、最適配置で整備。さらに2035年に乗用車の新車販売の100%電動化を実現する。という目標を掲げている。
ホンダは経産省の目標より5年早く2030年に国内販売はハイブリッドを含めて100%電動化し、2035年にはハイブリッド20%、EVとFCEVで80%とする目標を掲げている。
夢のカーボンフリー社会。なにもしなければ夢のままだけれど、小さな一歩でも踏み出せば道になる。行けばわかるさ、迷わず行けよ。
新型CR-V e:FCEVは人類にとって大きな一歩になるかもしれない。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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