さまざまなニューモデルが発表された今年のジュネーブ・モーターショーのなかでも、スポーツカー好きの注目を集めたのが「ニュー・ストラトス」の量産化でした。
ニュー・ストラトスは、ハイパーカーやレースカーの製作を手がけるイタリアのMAT(MANIFATTURA AUTOMOBILI TORINO)が、2010年にドイツの事業家 Michael Stoschek 氏のオーダーによりワンオフ製作したモデル。ピニンファリーナによる完成度の高いスタイリングやフェラーリ・エンジンの搭載などで話題となり、量産化に大きな期待が寄せられました。しかし、製作にはドナーとしてフェラーリ 430 スクーデリアが必要だったことから、フェラーリが難色を示し、立ち消えになった経緯があります。
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新たにニュー・ストラトスの製造・販売の検討を発表したMATでは、25台分の車両を製造する計画を立てています。さらにロードバージョンに加えて、ラリー仕様とサファリ仕様の製作も可能としており、デザインレンダリングも発表されました。
そこで今回は、オリジナルのランチア・ストラトスとニュー・ストラトスの各部の違いをご紹介します。
両車ともにフェラーリ製エンジンを搭載
ランチア・ストラトスでは、ディーノ 246 GT用の2.4L V6エンジンをミッドシップに横置きし、最高出力はディーノ 246 GTの195 psに対して190 psとなっていました。一方、フェラーリ 430 スクーデリアをベースにしたニュー・ストラトスでは、4.3L V8エンジンを縦置きに搭載。ワンオフモデルの最高出力は、430 スクーデリアの510 psから540 psにパワーアップ。量産モデルでは550 ps以上の最高出力を謳っています。
プレキシガラスの内側にエンジンが見えるのは430 スクーデリアと同じ。“STRATOS”のロゴも確認できます。
オリジナルに対する敬意が随所に感じられるスタイリング
ニュー・ストラトスのディメンションは、全長4181 mm × 全幅 1971 mm × 全高 1240 mm。ランチア・ストラトスは3710 mm × 1750 mm × 1114 mmのため、それぞれ全長では481 mm、全幅は221 mm、全高は126 mm拡大されていることがわかります。ちなみに前後トレッドは、ランチア・ストラトスの1430/1460 mmに対して1668/1701 mm、ホイールベースは2180 mmから2400 mmとなり、両者を実物で比較するとサイズ感の違いは明らかです。
ラリーカーとしてのパッケージングを突き詰めたランチア・ストラトスに比べると、良くも悪くも現代的なつくりで、正直コンパクト感は感じられません。とはいえ、ランチア・ストラトスでは横置きだったエンジンを縦置きにしながら同様のスタイリングを実現するには、これくらいのサイズ感にしないとバランスが取れないのも事実。サイズをできる限りコンパクトにするため、ベース車両となるフェラーリ 430 スクーデリアのシャシーは20mm短縮されています。
同様の例では、2017年に復活したアルピーヌ A110もオリジナルに比べてボディサイズは大幅に拡大しています。そう考えると、現代のスポーツカーとしては十分納得のいくサイズともいえるでしょう。
低いノーズを実現するためにリトラクタブル・ヘッドライトを採用したランチア・ストラトスに対して、ライトの小径化により固定式ヘッドライトとなったニュー・ストラトス。ライト技術の進歩が自動車のスタイリングに大きな影響を与えたことを如実に表しています。また、ニュー・ストラトスにはフロントフード上のルーバーがないため、スッキリとした印象を与えます。
リア周りでは、オリジナルのスタイリングに敬意を払いつつリア・ディフューザーを組み込むなど、見事に現代のスポーツカーに生まれ変わっていることがわかります。ランチア・ストラトスのスタイリングがベルトーネ時代のマルチェロ・ガンディーニであるのに対して、ニュー・ストラトスはピニンファリーナ。かつてライバルだったベルトーネの作品をピニンファリーナがリニューアルしたことに対して、発表当時大きな話題となりました。
エンジンフードは、ランチア・ストラトスのルーバー式に対して、ニュー・ストラトスではプレキシガラスを採用。エンジンルームの熱気を逃がすためのスリットも備わります。ちなみにニュー・ストラトスでラリー仕様を選択した場合は、ルーバー式に変更されます。
ニュー・ストラトスのルーフスポイラーは、オリジナルに比べると控えめなデザイン。よく見ると、エンジンフードと一体化したルーフスポイラーは上部のみ開口し、左右はエアインテーク状となっていることがわかります。その巧みなデザイン処理はピニンファリーナならでは。ちなみにランチア・ストラトスではフード後部にトランクスペースを設けていましたが、ニュー・ストラトスでは廃止されました。
ドアハンドルや給油口などのディテールにも、オリジナルの意匠が極力再現されていることがわかります。
ニュー・ストラトスではボディ下部にスポイラー状のデザイン処理が施されます。ある意味、グループ5仕様のストラトス・シルエットのデザイン・モチーフを採用したともいえるでしょう。
カンパニョーロ製の競技用ホイールを現代的なデザインに昇華させた、センターロック式のフロント・ホイール。繊細かつダイナミックなディテールが見事です。展示車両のタイヤサイズは、ランチア・ストラトスが235/45R15、ニュー・ストラトスは265/30ZR19でした。
後輪の装着タイヤは、ランチア・ストラトスがピレリ P7 コルサの305/35R15、ニュー・ストラトスはミシュラン・パイロット・スポーツ・カップ 2の305/30ZR19でした。
インテリア・デザインもオリジナルの意匠を踏襲していますが、よく見るとベース車両となるフェラーリ 430 スクーデリアの面影が各部に現れています。マネッティーノ・ステアリング、センターコンソールのスイッチ、ダッシュボード送風口などはフェラーリそのものといえます。
ランチア・ストラトスと同様に、ドア内側にヘルメット収納スペースを確保したこともこだわり装備のひとつ。収納していたヘルメットは、ボディパネルに合わせてカーボンタイプでした。
価格面で成層圏に到達しそうなニュー・ストラトス
このように、ランチア・ストラトスの魅力的な特徴の数々を巧みに現代化した設計のニュー・ストラトス。気分に応じて新旧のストラトスを乗り換えるような、夢のような話がついに実現するのです。
ただ、ニュー・ストラトスを手に入れるためには、50万ユーロ(約6,500万円)といわれる製作費用に加え、ドナー車両としてフェラーリ 430 スクーデリアを別途用意する必要があります。仮に430 スクーデリアの中古車を2,500万円で購入したとしても、合計金額は9,000万円にもなります。この金額を高いと見るか安いと見るか、クルマ好きな世界の富裕層がどのような反応を示すのか注目されます。
[ライター・画像/北沢剛司]
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