コンピュータとソフトで性能を最新に保つXE90
ボルボの大型SUV、XC90は歴代で長寿命だ。初代は12年間作られ、2014年に2代目へバトンタッチ。既にこれも10年が経過するが、依然として人気を保っている。
【画像】「ソフト」で最新性能を維持 ボルボEX90 各社出揃う近似サイズの電動SUV XC90も 全155枚
加えて2代目XC90は、プラットフォームやエンジン、スタイリングなど、現在へ至るボルボの方向性を決めたモデルともいえた。ブランドへ大きな成功を導いた。そこへ新たに加わるのが、まったく新しいXE90だ。
これは7シーターの大型SUVで、今後数年間のうちにすべてのボルボへ採用されるであろう、先進的な技術を実装する。XC90が現在の牽引役とするなら、XE90は未来を指し示す旗振り役となる。
見た目の雰囲気はXC90に似ているが、その電動仕様というわけではない。XE90のプラットフォームは、SPA2と呼ばれる、バッテリーEV専用の新開発品。フロア部分には、107kWhという大容量の駆動用バッテリーが敷かれている。
急速充電能力は、最大250kWまで。航続距離は最長601kmが主張される。
ボルボが自信を滲ませるのが、プラットフォームとペアを組むコンピュータの処理能力。ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV:ソフトが性能を左右する自動車)といった新たな言葉があるが、このXE90は、まさにその先端を突っ走っている。
XE90のハードウエアは、数年先の将来を見据えた設計が施されている。そのライフサイクル下で、ソフトを無線通信で適宜更新し、安全性や走行性能を最新の状態に保ち続けるという考え方だ。
グーグル・ベースのOSに14.5インチの大画面
お手持ちのスマートフォンも、ハードの性能には一定のマージンがあり、OSが定期的にアップデートされているのをご存知だろう。新しいソフトへ更新されるたびに、スマートフォンの性能は良くなる。次世代の機種が出ても、新機能を近い形で利用できる。
SDVのアプローチは、それと近い。一方で、ソフトが運転体験を支配するような、良くないイメージを抱かれるかもしれない。ボルボEX30は、そこで評価が振るわなかった。しかし、EX90は明らかに違う。
まず、主要な車載機能が、ダッシュボード上のタッチモニターへ集約されたわけではない。14.5インチの大画面が備わり、グーグル・ベースのOSは稼働しているが、メーター用モニターとヘッドアップ・ディスプレイがちゃんと備わる。
運転支援システムも、EX30より遥かに高精度で動作する。警告が鳴り続けることはないし、運転体験をしっかり向上させる。例えばアダプティブ・クルーズコントロールは、渋滞時でも順調な流れでも、高速道路で見事に運転をアシストしてくれた。
実際に押せるハードボタンはなくても、エアコンの温度調整は簡単だし、モニターやディスプレイの表示は鮮明。グローブボックスのロックや、ステアリングホイールの位置調整までタッチモニターを介する必要があるのは、面倒だが。
発売段階では、アップル・カープレイなど一部の機能は利用できないという。複雑なソフト開発を理由に、EX90の発売は約1年遅れたが、まだ技術者のタスクリストに残りはあるらしい。
群を抜いて静かな車内 素晴らしい乗り心地
ハード面を見ていくと、発売時点のEX90はツインモーターの四輪駆動のみ。ベースの仕様では407ps、パフォーマンス仕様で517psを発揮する。初期のトリムグレードはウルトラへ絞られ、英国価格は9万6255ポンド(約1848万円)からだという。
今回試乗したのは、パフォーマンス・ウルトラ。お値段は、10万555ポンド(約1931万円)へ上昇するとのこと。
アメリカ・ロサンゼルスの公道へ出てみると、群を抜いて車内が静かなことに驚かされる。まるで、ロールス・ロイスのよう。この静寂性が、EX90の快適性や洗練性へ大きく貢献していることは間違いないだろう。
凹凸が目立つアスファルトでも、乗り心地は素晴らしい。アルミホイールは標準で22インチを履くが、恐らくグレートブリテン島の公道でも優れた印象を与えるはず。特に高速道路ではしなやか。低速で不整を通過しても、殆ど気にならなかった。
サスペンションは、標準でツインチャンバーのエアスプリング。可変式だが、ソフトとハードというシンプルな2モード構成になっている。パワーステアリングも同様だ。
EX90が最高の状態にあるのは、どちらもソフトの時。サスペンションでハードを選ぶと、7シーターのSUVとしては不釣り合いなほど、明確に硬くなる。
その時のステアリングのタッチは、レンジローバーへ近い。適度な手応えで気持ちいい。ハードへ切り替えると機敏になり、リラックスした雰囲気は薄れる。一体感が増すわけではないようだ。
強力すぎる92.5kg-mのトルク 優れた操縦性
駆動用モーターも、2モードで切り替えられる。デフォルトでは、普段使いに丁度良い力加減。パフォーマンス・モードへ切り替えると、アクセルペダルを傾けた右足が後ろへ引っ張られる勢いで、加速が始まる。
近年のバッテリーEVで共通する印象だが、恐らくEX90は標準仕様の407psの方がベターだろう。車重は2712kgあるが、最大トルク92.5kg-mは強力すぎる。過剰なほどの加速は、初めは新鮮に思えるものの、程なく慣れてしまう。
パフォーマンス・モードにし、サスペンションをハードにしたら。3列目に座った子供は、気分を悪くするかも。
それでもEX90は、このクラスの電動SUVとしては操縦性に優れる。ボディロールは抑制され、旋回時のグリップ力に不足はなし。オンロード性能は明らかに高い。運転していて笑顔になるというより、安心感と頼もしさが湧いてくる、といったところだが。
回生ブレーキは、走行速度に応じて自動的に調整される。ブレーキペダルを踏まずに停止できる、ワンペダルドライブにも対応する。
今回の試乗では、同一スペックの2台へ試乗させていただいた。どちらも近い条件で走らせ、航続距離は一方が約420km、他方が480kmと小さくない開きが出た。ソフトウエアによる制御で生まれた違いのようだが、普段使いに不足ない距離だろう。
スタイリングは、シンプルでスマート。全長は5037mm、全幅が2039mm、全高は1747mmあるが、その数字ほど大きくは感じられない。メルセデス・ベンツEQS SUVと、BMW iXの中間といえる。
見た目より狭めな車内 お高めの価格
車内空間は、寸法から想像するほど広大ではないかもしれない。3列目へ大人が座っても、短距離なら不満は出ない広さはあるが。荷室容量は310L。3列目のシートを倒すと、655Lへ広がる。小物入れは、もう少し各所に欲しい。
最近の欧州で、注目を集めている同クラスの電動SUVが、キアEV9。ボディサイズもEX90へ近く、3列7シーターだ。インテリアの上質さや快適性、ブランド力では劣るものの、車内のゆとりや実用性では勝っている。
このEV9は、ツインモーターの英国価格が7万3275ポンド(約1407万円)からと、比べるとお安いのも強み。EX90には高度なコンピュータとソフトが実装され、カメラやセンサーが多数装備されているとしても、見逃せない価格差だと思う。
ただし、EX90にはシングルモーターの下位グレードが控えている。これは7万5000ポンド(約1440万円)前後が想定されており、より訴求力の高い選択肢になるはず。
ライフサイクルの限り、機能は最新状態へ保たれるというEX90。複数のバリエーション展開で、その魅力は拡大していくだろう。現状のツインモーター・パフォーマンス・ウルトラでも、共感できる部分は数多い。今後の展開が楽しみだ。
◯:印象的な静寂性と洗練性 活発な動力性能 快適な乗り心地
△:同等スペックのモデルよりお高めの価格 車内の実用性 発売時点では1択のみのラインナップ
ボルボEX90 ツインモーター・パフォーマンス・ウルトラ(北米仕様)のスペック
英国価格:10万555ポンド(約1931万円)
全長:5037mm
全幅:2039mm
全高:1747mm
最高速度:180km/h
0-100km/h加速:4.9秒
航続距離:601km
電費:4.6km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:2712kg
パワートレイン:ツイン永久磁石同期モーター
駆動用バッテリー:107kWh
急速充電能力:250kW
最高出力:517ps
最大トルク:92.5kg-m
ギアボックス:1速リダクション(前輪駆動)
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