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幻のガスタービン・エンジン搭載車とは?

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幻のガスタービン・エンジン搭載車とは?

かつていくつかのメーカーが開発に取り組んだガスタービン・エンジンについて、世良耕太が解説する。

トヨタも開発に取り組んだ!

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トヨタ自動車が“21世紀に間に合いました”のキャッチフレーズで、ガソリン・エンジンとモーターを組み合わせた世界初の量産ハイブリッド乗用車、「プリウス」を発表したのは1997年のことだった。

開発を始めたのは1990年代初頭であるが、ハイブリッド車自体の開発はもっと古く、1960年代に始まっている。そのときはガソリン・エンジンとモーターの組み合わせではなく、ガスタービン・エンジンとモーターの組み合わせだった。

1960年代初頭、トヨタは省エネ、軽量・コンパクト、低エミッションの特性を持つガスタービン・エンジンの開発に着手した。ガスタービンはガソリン・エンジンなどのレシプロ・エンジンとおなじ内燃機関の一種で、吸気~圧縮~燃焼・膨張~排気の燃焼サイクルで作動する点はおなじだ。最大の違いは、レシプロエンジンが往復運動をするのに対し、ガスタービンは回転運動で成り立っている点だ。

違いはまだある。レシプロ・エンジンは燃焼サイクルの全行程をシリンダーとピストンでおこなうのに対し、ガスタービンは前端の圧縮機で圧縮した空気を後方の燃焼器に導いて高温・高圧のガスを発生させ、このガスをさらに後方のタービンで膨張させつつ回転させ、最後端にある出力軸からエネルギーを取り出す。各行程を専用の部品あるいは場所で行うのが特徴だ。

また、レシプロ・エンジンは断続的に燃焼するのに対し、ガスタービンはガス給湯器でお湯を沸かすときのように連続的に燃焼するのも特徴だ。音はまるっきりジェット機(燃焼の仕組みはおなじ)のそれである。クルマからジェット機とおなじ高周波の特徴的な音が聞こえてくるので、そのミスマッチ感が注意を引きつけずにはおかない。

ガスタービン・エンジンは高負荷の運転時に熱効率が高くなってしまう特徴を持つ一方、負荷変動に追従させるのが苦手だ。この特性から、トヨタはガスタービン・エンジンから直接動力を取り出してタイヤに伝えるのではなく、定点で運転できる発電専用エンジンとして開発することにした。シリーズハイブリッド向けの用途で、ガスタービンエンジンで発電機をまわし、得られた電力でモーターを駆動する仕組みである。

1975年の第21回東京モーターショーには「センチュリー・ガスタービン・ハイブリッド」実験車を出展。1977年の第22回モーターショーには、「トヨタスポーツ800・ガスタービンハイブリッドカー」を出展した。その10年後、1987年の第27回東京モーターショーには、ガスタービン・エンジンで(ATを介し)直接駆動するコンセプトカーの「GTV」を出展した。しかし、ガスタービン・エンジンを搭載したクルマが市販されることはなかった。

ルノーやロータスにもガスタービン・エンジン搭載車があった!

日産自動車も1970年代初頭にはガスタービン・エンジン(直接駆動式)の開発に取り組み、バスに積んで走行実験を行ったが陽の目を見ることはなかった。海外に目を向けると、クライスラーが1963年にガスタービン・エンジン(直接駆動式)を搭載した乗用車、「ターバイン」を少数生産してユーザーテストを行ったが、量産には至らなかった。

実用から離れると、ルノーは1956年に“流れ星”を意味するエトワール・フィランテと名づけた速度記録車を製作。米ボンネビルのソルトフラッツを走り、191.0mph(307.4km/h)というガスタービン・エンジン部門の速度記録を打ち立てた。このクルマは後にレストアされ、2016年にはニコラ・プロスト(アラン・プロストの息子でレーシングドライバー)により、ソルトフラッツを走った(2017年のF1オーストラリアGPで展示されていた)。

1968年には、ガスタービンエンジンを搭載(直接駆動式)したロータス「56」がインディ500を走った。エンジンもさることながら、4WDの採用や、葉巻型が主流だった時代に空力を意識したくさび型のボディを採用して話題を集めたが、ガスタービン・エンジンも4WDも規則で禁止され、活躍の場を失った(音が特徴的なので、デモ走行では人気の的だった。筆者も2002年にミルウォーキーで心を奪われた)。

ガスタービン・エンジンの未来とは?

乗用車に話を戻そう。メルセデス・ベンツは1980年、ドイツ政府の“快適性を維持しながら低燃費を追求するクルマ”を求める呼びかけに応じ、「アウト2000」と名づけた試作車を開発した。このクルマには気筒休止機構を備えたV8ガソリンエンジンとV6ディーゼルターボ、それにガスタービンエンジンの3種類の動力源が設定されていた。

気筒休止もターボもその後のエンジンに受け継がれることになったが、ガスタービンだけはものにならなかった。

時代は下って2010年、ジャガーは発電用のガスタービン・エンジンを2基搭載した高性能ハイブリッド車のコンセプトモデル、「C-X75」を発表した。シャシーやハイブリッド技術の開発・生産に関してウイリアムズF1とコラボしたことでも注目を集めた。

翌年には250台の限定販売が発表されたが、世界的な景気低迷を理由にキャンセルされた。2015年に公開された映画『007 スペクター』に登場しているので、チェックしてみてはいかがだろう(ヒント:川でボンドカーを追いかけている)。

2019年の東京モーターショーには、三菱自動車が「MI-TECH CONCEPT」と名づけたコンパクトSUVのコンセプトカーを展示した。各輪にモーターを備える電気自動車(EV)で、バッテリーに蓄えた電気エネルギーがなくなった際に、航続距離を延ばす発電用エンジンとしてガスタービン・エンジンを選択した。

ガスタービンを選択したのは、小型・軽量で振動が少なく、低温で燃焼するためNOxの後処理装置は不要で、冷却システムもいらなかったからだ。

前述したように、ガスタービンは負荷変動が苦手。実用化の可能性があるとしたら、定点で運転できる発電用エンジンとしての可能性が高い。課題は熱い排気の処理と音だろうか。「ジェット機みたいで格好いい」とうっとりする人たちがいる一方で、「掃除機みたいでうるさい」と、感じる人たちがいるのも事実だ。さらに、熱効率の観点を持ち出すと、小型のガスタービン・エンジンは最新のガソリン・エンジンに対して分が悪い。

したがってガスタービン・エンジンは、これまでずっとそうだったように、忘れたころにひょっこりあらわれて、ひっそり消えていく運命の可能性が高い。

文・世良耕太

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みんなのコメント

1件
  • 東京の丸の内周辺を運賃無料で巡回している路線バス「丸の内シャトル」
    2003年の開業当初はガスタービン発電のバス(ニュージーランド・デザインライン社製)が
    走っていたそうですね。
    この近辺よく走ってますが、気づきませんでした…w
    (現在は日野のHVバスになっているそうですが)
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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