自動ブレーキなどの先進安全装備、さらにその先になる自動運転にとって重要な機能の一つが、センサー技術だ。いかに道路の状況やガードレールや建物など障害物のクルマが認識するかだ。そしてもっとも重要なのが歩行者などの判別だ。
カメラやレーダーを駆使するクルマの最先端技術を解説しよう。
キャラ変自由自在!! ZFが本気出したCDCダンパーってなんだ
文/西村直人、写真/ベストカー編集部
[gallink]
■事故を防止する三大要素に加わった四つめの要素
Honda SENSING Eliteを搭載したホンダ レジェンドはLiDARと呼ばれるレーザー光を使ったセンサーを採用
ミスなく運転するための三大要素は「認知、判断、操作」だ。昨今それに、「認知、予測、判断、操作」と「予測」が加わった。予測が加わると先読みができる。つまり、時間軸をほんのわずかだが戻せるから、できることが増える。
予測を確実に行なうためには前段階の認知が重要。日本で販売される新型の乗用車には2021年11月(継続生産車は2025年12月)から、先進安全技術である「衝突被害軽減ブレーキ」の装着が義務化されたが、衝突被害軽減ブレーキを正しく機能させるためには、センサー能力を高めることが早道である。
センサー能力を高めると対応シーンが増える。当初、昼間の車両だけを認知していたが、人や自転車を捉えだし、今では外光のない夜間でもヘッドライトの明かりを頼りに対応する。センサー能力の向上によって前述した四大要素の「認知」段階は飛躍的に精度が向上した。
ただ、センサーは方式によって得意/不得意分野があるため、1種類のセンサーで確実に効率良く物体を捉えることはできない。そのため2種類以上のセンサーを用いる「フュージョンセンサー」が現在の主流だ。
■周囲の状況を知るための3つの方法
スバルの運転支援システム『アイサイト』は複数のカメラを使用した複眼式のステレオ方式を採用
認知するには大きく分類して3つの方法がある。
1)カメラで認知。光学式デジタルカメラの原理そのままに物体を捉える。投資の経済効率から単眼式(1カメラ)が主流だが、スバルは「ADA」(1999年)、「アイサイト」(2008年)と称して高機能で複眼式のステレオ方式(2カメラ)に拘る。
またBMWや日産の一部車種などでは画角を変えた3つのカメラを採用する。2カメラ以上では物体までの距離が正確に計測でき、単眼式でも形と色が一度にデータ化できるが、人の眼と同じく逆光などの悪天候では測定精度が落ちる。
2)電波で認知。ミリ波(波長1~10mm)を物体に照射してその反射から距離を測る。おおよその形もわかるため高度な解析技術を加えると人も認識できる。
求める分解能や精度に応じて周波数帯(24GHzナローバンド~77GHz)を変えて使用する。ちなみに77GHzの距離に対する分解能は約4cmと24GHzの約19倍優れる。ただし、物体が重なる場所では測定精度が落ちるため光学式カメラの組み合わせが必至。
3)レーザー光で認識。一般的にLiDARと呼ばれる。レーザーレーダーはLiDARの別名。近赤外線(900~1550nm)を物体に照射し、その反射から距離を測る。原理はミリ波と同様だが、波長が短いため細かな物体を捉えるのが得意。
具体的には分解能が高いため重なる部分でも切り分けた認識が可能で、この特徴を活かすことで捉えた物体を3次元で構成することができる。自動運転技術や高度運転支援技術(レベル2カテゴリーB2以上)に用いる高精度HDマップの作成には不可欠なセンサーだ。
このほか、20kHz以上の超音波を使用する「超音波センサー」も広く普及。空気振動を使うため透明な物体にも反応するが、空気振動ゆえに伝播(伝わる)速度が遅く、安価な普及型で3m程度、高価な上級型でも6~8m程度とセンシング領域は狭い。
■いまや日常に溶け込みつつある『AI』が予測機能で活躍
画像から人をベクトルで認識し、これからどちらへ進むのかをAIで予測する。それには各種センサーで収集した多くの情報が必要だ
こうして各センサーで認知した情報を元にシステムは「予測」段階に入る。ここで活躍するのはAIを用いた解析技術だ。
ただAIといっても様々で、単にサプライヤー企業が提供する先進安全技術用のアルゴリズムを購入し、そのまま実車のシステムに組み込んでも役に立たない。
ざっくり説明すると目的関数といって、人が注意すべき項目を入力(指示)することでAIは初めて“使える技術”として育つ。手を掛けなければ最大限の効果を発揮しないのがAIの現在地だ。
このようにクルマの安全性能を高める上で活用される予測ベースは、車載のセンサーが認知した情報であることがわかったが、じつはそれだけでは正確な予測ができない。予測精度を上げるには人の振る舞い(Behavior)を考察することが重要になる。
たとえば道路脇に歩行者がいたとする。その歩行者が急に立ち止まり、車道側へと顔向きと、身体の向きを変えた。
このとき、自車のシステム(ここではカメラ+ミリ波を想定)は、光学式カメラセンサーで人を発見し、それが歩行者であることを認識。同時にミリ波レーダーでは距離データを算出。このカメラと電波による歩行者情報がシステムへと入力される。
しかし、それら入力データから、歩行者が自車の進路上にいないとわかるとシステムは警報やブレーキ制御は行なわない。歩行者が次の行動を取るまでは、自車(システム)にとって危険性が高まるのか、それとも無視できるのか、システムは正しい判断を下せないからだ。
言い換えれば、人がいるという情報のままスタンバイする“指示待ちくん”状態に陥る。
この状況でドライバーはどう考察するだろうか。システムと同じく歩行者を眼で見て認識する。ここまでは同じだ。
システムとの違いは、歩行者が急に立ち止まったこと、身体の向きを変えたことの意味を脳で考え、経験則に基づき、次に歩行者がとる行動を予測することにある。危険予知とも呼ばれるこの領域は、一般的にベテランドライバーほど優れる。
危険予知に秀でたベテランドライバーに匹敵する予測能力を持たせるため、AIに人の様々な動きを学習させる
具体的にはこうだ。歩行者が後ろから迫り来るクルマ、つまり自車を認識して立ち止まり顔向きを変えたのか、それとも道路の反対側へと渡ろうと急に思い立ったのか、ドライバーは歩行者の顔向きや視線、身体の向き変え速度やくるぶしの向き、さらには道路反対側の様子を伺いながら、それらを勘案して予測し、アクセルを緩めたり、ブレーキ操作を行なったりする。
人は、こうした“かもしれない運転”によって安全な運転環境を呼び寄せているわけだ。
四大要素である「予測」とは、例に挙げたドライバーが歩行者の動きを予測して運転操作を行なったように、システムが自律的に予測して危険な状況に近づかないようにするために不可欠な段階である。
システムが人の振る舞いを考察できるようになると予測精度が向上し、次の段階である判断→操作へと素早く確実に移行できるため、現実の世界では事故回避できる確率が高まり、また対応できるシーンも劇的に増えていく。
■現代の生活には欠かせない各種通信技術もフル活用
ホンダが研究開発する『V2PとADAS技術との連携』では、歩きスマホをする歩行者のスマホ画面に自動車の接近を知らせるという技術も
さらに、予測は見るだけではない。眼に見えない通信技術も活用する。この場合、電波で知り得た外界情報を断層的な「レイヤー構造」にして、眼で見える世界の上に、電波が織りなす網の世界を重ねることでシステムは多面的に自車周囲の情報を捉えて理解する。
たとえば歩行者と電波を紐付けるには、スマートフォンが発信するBluetooth(2.4GHz)の活用が手軽だ。高速・低遅延の5G回線を使えばタイムラグなく通信できる。また、この先、設置が増えていく信号機のカメラ情報から、歩行者の存在を通信で車載システムへと送信する方法もある。
こうした概念は1980年代から「次世代通信網構想」として政府が唱えていた。目の不自由な方が使う白杖に小さな発信機(現代のBluetoothに相当)を詰め込むといったアイデアは、当時大きく採り上げられた。
「2050年、全世界でホンダの二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロ」を目指すとしたホンダ。
実現にはこれまで継続してきたシステムの高度化作業に加えて、人の行動心理を深掘りし、脳が予測に至るまでのプロセスを細かく解析、そしてその結果を目的関数としてAIに読み込ませ学習させ予測段階を確実なものにしていくことが求められる。
ところでこの10年ほどだろうか、「歩きスマホは禁止です」といった標語を掲げ、国や全国の自治体、そして公共交通機関各社などが注意を促している。人混みではトラブルの原因にもなっているし、確かに危険。
ただし、「ダメだ、危ない、禁止だぞ!」と声高にするだけでは抑制に無理がある。一度味わった利便性は手放せないからだ。
「歩きスマホをしている人の画面に、クルマが接近し接触の可能性が高まったことを報知し、同時にバイブレーションや音も出して注意喚起を強めます」。これはホンダが研究開発を行なっている「V2PとADAS技術との連携」の一技術だ(VはVehicle/車両で、PはPerson/人)。
この手法は歩行者へ迫り来る危険を知らせるHMI(Human Machine Interface(Interaction)/人の機械の接点)として注目されている。ダメといっても減らない歩きスマホなら、いっその事、手にしたスマートフォンをHMIとして活用するのはどうか……。じつにホンダらしい発想の転換だ。
こうした「北風と太陽」にも似た柔軟な技術開発があってこそ、人に寄り添う先進安全技術の活用方法が生まれ、そこに高度な車両制御技術が融合していくことで交通事故死者ゼロ社会へと向かっていくのではないか……、筆者は、そんな思いを抱いています。
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