日本デビューを記念して用意された限定車の「1st edition(ファーストエディション)」。A3は30TFSIアドバンスドをベースにスポーツバックが375台、セダン125台を用意。またS3はスポーツバックのみで125台となる。2台でそのフル装備の本領を実感した。(Motor Magazine2021年7月号より)
ドイツとは逆に兄弟車ゴルフに先行しての日本デビュー
コンパクトでありながらもプレミアムブランドの製品らしい丁寧な作り込みで、多くのモデルが群雄割拠するカテゴリーの中にあってもキラリと光る独自の存在感をアピールしてきたアウディA3シリーズ。その4代目モデルが、欧州での発表から1年余りのタイムラグを経て、日本の道を走り始めた。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
本国での発表タイミングでは、4カ月あまり先行していたフォルクスワーゲンの新型ゴルフを差し置いて、日本では今回、こちらがひと足先の上陸となった。世界を襲ったコロナ禍はもとより、半導体不足による生産への影響など、さまざまな要因が考えられるが、DNAを分かち合う両モデルの歴史上では、これが異例の事態であることには違いない。
新型A3シリーズのラインナップとしては、スポーツ性を高めたS3を頂点にして、「スポーツバック」を謳う5ドアハッチバックと4ドアセダンのふたつのボディが用意されるバリエーションは、従来型と同様の展開となる。
欧州では、話題性をより長くキープする目論みなのか、まずはスポーツバックが発表されて、それに1カ月半ほど遅れてセダンが発表された。欧州でのお披露目には時間差が設けられたが、今回の日本での発表タイミングは、スポーツバック/セダンともに同時で、2021年5月18日となった。
そして、まずは1Lの直列3気筒ターボエンジンを搭載するFF仕様の「30TSFI」シリーズと、オーバー300psを発生する2L直列4気筒ターボエンジンを4WDシャシに組み合わせたハイパフォーマンスバージョンの「S3」が先行導入される。最高出力190psの2L直列4気筒ターボエンジンを搭載する4WDモデル「40TSFI クワトロ」シリーズは、2021年秋から発売予定、と発表された。
兄貴分であるA4シリーズには、先ごろディーゼルエンジン搭載モデルが加えられて好評を博しているが、A3シリーズは現状、ガソリンエンジン搭載モデルのみの設定だ。
ファーストエディションの意義充実した装備で真価を発揮
新型A3ではベース仕様に加えて、より装備を充実させた「アドバンスド」、さらに専用ボディキットやスポーツシート、大径ホイール&タイヤの採用などでスポーティな雰囲気を高めた「Sライン」の3グレードが用意される。
さらに今回のテストドライブを行ったA3/S3のスポーツバックは、ともに本来はオプションとして設定される多様なアイテムが標準仕様として採用された、日本導入記念仕様の「ファーストエディション」モデルである。
A3では30TFSIアドバンスドをベースに、ルーフレールやブルーの挿し色が加えられたシート、S3では19インチホイール、ダイヤモンド状のステッチが採用されたフロントスポーツシートなど、限定モデルゆえのアイテムをアクセントに加えていた。おかげでハッチバックボディの持ち主ながらも、確かにプレミアムブランドのモデルらしい「良いもの感」にあふれている、というのが、まずはこの2台を目にしての率直な第一印象だ。
エクステリアのデザインは「イメージ踏襲」という雰囲気が強いのに対して、インテリアは従来型では中央上部に置かれていたディスプレイと円形の空調吹き出し口がビルトインされた、まったく新しい水平基調ダッシュボードを採用。それを中心にして、いかにもフルモデルチェンジらしい斬新さが感じられる。シフトセレクターが超コンパクト化されたことを含め、センターコンソール部分がスッキリとしたことも、新型の見せ場と理解できる。
しかし長年、アウディ車の特徴であったダイヤルとその周囲のプッシュスイッチで構成されるMMIのマルチメディアコントローラーが姿を消して、ブラインドタッチでの操作性が低下する結果となっていることは、正直に言って残念と思えた。
一方、メータークラスター両サイドの高い位置にドライバー向けの空調吹き出し口が設けられたことで、フェイスレベルの新鮮な風の流れが確保されたのは大歓迎だ。外部音の高い遮断性やロードノイズの小ささがもたらす静粛性の高さ、しなやかさを大幅に増した乗り味などとともに、これが取材時の長時間ドライブでも「疲れ知らず」の印象を提供してくれる大きな要因となっていたことは間違いない。
好燃費の1LターボエンジンMHEVシステムも貢献度大
新型では「A3シリーズの主力パワーユニット」と言っても良い1Lの3気筒ターボエンジンは、ベルト式スタータージェネレーターを備えた48ボルトのMHEV(マイルドハイブリッドシステム)を採用する。40~160km/hの範囲でエンジンが停止する設定のコースティング状態での走行も含む高速道路上のクルーズでは、実際に20km/Lという数字が視野へ入る燃費をマークすることに驚かされた。
ちなみに、エンジンの停止と復帰(再始動)に気づかされることがなかったのも事実。信号での停止時などアイドリングストップ状態から再始動する際も、いわゆるスターターモーターの音なしに「プルン」とかかる。これもプレミアムブランドの製品らしい所作と感じられた。
そうした一方で「これはちょっと慣れが必要かも・・・」と思えたのは、シフトパドルを操作してのダウンシフトを行ってすら、さしたるエンジンブレーキ力が得られないというポイントだった。
都市部の高速道路を筆頭に、車間距離が微妙に伸び縮みを繰り返す混雑気味の道路をクルージングしている時に、エンジンブレーキ力を利用してこれを吸収しようという運転がなんともやりにくいのだ。必然的に、足がブレーキペダルにタッチする機会が増えてしまう。「後続車を惑わさないためにも、ブレーキランプはなるべく点けたくない」と思っていながらも、そのようなドライビングはかなり難しい。
1Lターボエンジンながら、加速の絶対能力に大きな不満はないし、3気筒ならではのノイズもあえて高回転まで引っ張らない限りは、ほとんど気にならなかった。しかし、個人的に動力性能面でもっとも注文を出したくなったのが、実はこの「エンジンブレーキがほとんど期待できない」というポイントであった。
もちろん、燃費効率向上のためにエンジン内部の機械的なフリクションを徹底的に下げて、より「転がる」ようにするならば、こうした印象になるのも理屈としてはおかしくない。しかし、長時間のクルージング時における快適な「ワンペダルドライビング」を実現させるためには、ここはもう少しなんとかならないものであろうか・・・と感じたのである。
さらなるプレミアム性を実感できるトップモデル
一方で、そんなベーシックなA3から乗り換えると、S3はやはり目が覚めるように逞しい動力性能に、さらなるプレミアム性を実感させられることになった。
前述のように、取材車はファーストエディションゆえ、電子制御式可変減衰力ダンパーを用いる「ダンピングコントロールサスペンション」が標準装備される。こちらも特別装備である19インチの大径ホイールとタイヤを履く姿を見て、相応にスパルタンな乗り味を予想させられたものの、少なくともドライブモードで「コンフォート」を選択していれば思いのほかにジェントルなテイストを提供してくれた。通常ならば11万円という価格でオプション設定されるダンピングコントロールサスペンションが、そこに大いに貢献していたであろうことは間違いない。
もっとも、同じ日の取材であったがゆえにA3との比較が避けられなかった結果からすれば、ワインディング路を行く際の身のこなしで、前輪の負担感がより少なく、サスペンションのストロークする様子がより滑らかに感じられたのが、実は僅差ながらもA3の方であったというのも、また事実である。これには、前輪の軸重で200kgにも迫る大きな差があったことも、無関係ではないように思う。
いずれにしても「3気筒のベーシックモデル、見くびるべからず」-改めて、そんな思いを抱くこととなった、新しいA3シリーズの日本デビューである。(文:河村康彦/写真:永元秀和、伊藤嘉啓)
アウディ A3スポーツバック ファーストエディション 主要諸元
●全長×全幅×全高:4345×1815×1450mm
●ホイールベース:2635mm
●車両重量:1320kg
●エンジン:直3DOHCターボ
●総排気量:999cc
●最高出力:81kW(110ps)/5500rpm
●最大トルク:200Nm/2000-3000rpm
●トランスミッション:7速DCT(Sトロニック)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・47L
●WLTCモード燃費:17.9km/L
●タイヤサイズ:225/40R18
●車両価格(税込):453万円
アウディ S3スポーツバック ファーストエディション 主要諸元
●全長×全幅×全高:4350×1815×1440mm
●ホイールベース:2630mm
●車両重量:1560kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1984cc
●最高出力:228kW(310ps)/5450-6500rpm
●最大トルク:400Nm/2000-5450rpm
●トランスミッション:7速DCT(Sトロニック)
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・56L
●WLTCモード燃費:11.6km/L
●タイヤサイズ:235/35R19
●車両価格(税込):711万円
[ アルバム : 新型アウディA3/S3前編 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
3気筒の外車でドやるのは恥ずかしすぎる。