現在日本で発売されている911には15種類のボディタイプやエンジン違いがあるが、どのモデルを選んでも、それぞれの良さがある。ここでは、そのうちの4台をでピックアップして、あえてその1台を選ぶ理由をライター陣に語っていただいた。さて、アナタならどのモデルをチョイスする?
ポルシェ 911 カレラ
【比較試乗】「ポルシェ718スパイダー vs ロータス・エリーゼ」ピュアなオープンエアスポーツという選択
【あえて「911カレラ」を選ぶワケ】
992の旨みを最大限に引き出して楽しめる。ーーー藤原よしお
911の歴史は、常にRRの肯定と克服の歴史だったと思う。そして「第8世代」の992に至って盤石のスタビリティ、ハンドリングを得たことでついに911はRRを克服し、そのメリットを最大限に享受できるようになった。
今回、乗り比べてわかったことは、992は「何か」がプラスされれば、その効果がハッキリとわかるようにキャラクター付けされるとともに、これまで以上にモデル内のヒエラルキーがしっかりと構築されていることだ。さらに各モデルともノーマル、スポーツ、スポーツプラスのメリハリが効いていて、街乗りからサーキット走行までも楽しめるように1台の中で完結しているのも印象的だった。
確かに絶対的な性能なら今回のベストはターボSカブリオレだ。しかし実に優等生的な答えで申し訳ないが、992であればどれを選ぶのも正解。そう思わせるだけの説得力がそれぞれにあったのも事実だ。
その中にあって、あえて「素の911」を推すのには理由がある。他の試乗車に乗ったあとで911カレラに乗ると、その走り出しからクルマ全体が明らかに軽やかに感じた。おや? と思って車検証を見ると車両重量は1530kg。AWDのカレラ4やターボSよりは圧倒的に軽いのだが、同じRRのカレラSに比べるとわずか10kgしか軽くなっていない。
ではなぜそう感じるのか? それは992本来のシャシー性能に対して、385ps/450Nmの3Lフラット6ターボが、シャシー過多にもエンジン過多にもならず、イーブンの関係でマッチしているからに他ならない。
992になってリアサスの安定感が増すとともにフロントサスの接地感も増し、コーナーへの進入の鋭さも、出口での安定感も991より遥かに上。オプションのデバイスの力を借りなくても、まるですべてが手中にあるかのようにコントローラブルなのである。
加えてターボであることを忘れさせるほどナチュラルでレスポンスのいいエンジンと8速PDKとの相性もバッチリで、MTが恋しいという気持ちにはならなかった。
そんな高い完成度と雑味のない一体感が「軽い」と感じさせる要因なのだろう。言うならば「クルマに乗せられている」のではなく「クルマを操っている」という感覚。そういう意味でも公道で992の旨みを最大限に引き出して楽しめるモデルは、911カレラだといえる。
【このオプションがオススメ】フロントアクスルリフトシステム
911に走り系のオプションをつけるなら潔くフルオプションにするのがベスト。その上でPASM装着車にフロントアクスルリフトシステムはマスト。今回の試乗でもパーキングに入る時などに随分お世話になりました。
ポルシェ 911 カレラS
【あえて「911カレラS」を選ぶワケ】
今の911らしさがもっとも濃厚に味わえる。ーーー島下泰久
最良かどうかはともかく、今買うべき911はどれなのか。考えた末に行き着いたのがクーペの911カレラSというチョイスだ。
もちろん4WDモデルもカブリオレもターボも、992型では未試乗だがタルガも魅力的なことは言うまでもない。911経験者には自分の感性で是非と言うところだが、ここで推す相手は幅広い皆さんということで、“今の911らしさ”がもっとも濃厚に味わえるものをと選んだ次第である。
カレラ・シリーズのクーペを前提として、もし古くからの911ファンに勧めるなら、素の911カレラでもいい。そこであえてカレラSを推すのは、911らしさに加えて今どきのスーパースポーツカーらしい刺激性や華やかさが、その走りに備わっているからだ。
カレラとカレラSの違いは、まずエンジン。同じ水平対向6気筒3Lツインターボではあるが、タービンサイズの違いなどにより前者の最高出力385ps、最大トルク450Nmに対して後者は450ps、530Nmを獲得している。それに合わせて標準タイヤサイズは前後とも1インチずつ大きく、ブレーキもアップグレードされる。さらに走りに大きく関わる部分では、カレラSにのみ電子制御LSDのPTV Plusが加わる。
街中を流すくらいでは2台の差はあまりない。2000rpm以下ではむしろカレラの方が俊敏とも思えるほどだ。しかしながらその先では確実にトルクの太さ、ピックアップの鋭さを実感できる。パワー感、そして刺激性はやはりこちらが上と言える。
フットワークについても同様で、カレラSの方がターンインでノーズがスパッと切れ込み、その先もアクセルでグイグイ向きが変わってと、とても刺激的。これは主にPTV Plusの恩恵だろう。
思うに、最新の911はカレラとカレラSで意図的にキャラクターを分けているようだ。カレラの走りが綿々と継承された「これぞ911」という仕立てなのに対して、カレラSは今時のライバル達に対抗し、そして凌駕する走りの切れ味を、昔ながらの“らしさ”よりも強調しているように見える。
最初に書いたように、古くからのファンなら素のカレラという手もあるとは私も思う。けれど、せっかく今この時代に乗るなら、最前線でライバルと対峙するヒリヒリした舞台で磨かれた911だろう。そんな思いから、私はカレラSを推すのである。
【このオプションがオススメ】スポーツデザインフロントエプロン
992型はフロントの開口部がボディ幅いっぱい広がっていますが、コレを付けるとボディ色の部分が増えて、より911らしいなと。スポーツデザインパッケージでもいいですが、リアはノーマルの方が好きなのです。
ポルシェ 911 カレラ4 カブリオレ
【あえて「911カレラ4カブリオレ」を選ぶワケ】
911の動的本質は確保されたまま、気軽にオープンドライブまで楽しめる。ーーー渡辺敏史
そもそもパフォーマンス面でもモード面でも競争激しいスポーツカーのカテゴリーで、なぜ911はここまで長く人気を保ち続けることが出来たのだろうか。
動力性能水準の著しい向上に伴いスタンスを前後左右に広げてはきたものの、基本的には小さく軽くあろうとする姿勢も然り。頑なに拘るリアエンジンレイアウトがゆえの実用的なパッケージングも然り。気負わず毎日乗れるという柔軟性こそが356世代から続くポルシェのクルマづくりの核心であり、それを最も長きに渡って実践しているのが911だからではないか。個人的にはそう思う。
その911は、1990年代の2ペダル化と水冷化によりその門戸が大そきく開かれたものとなった。996世代ではPSM、997世代ではPASMの採用などでリアエンジンにまつわる悪癖を気にならないレベルへと抑え込み、直近の991世代ではPDKの全面展開でもはや速ささえも2ペダルの側に利があるほど機械的に洗練されている。もちろんクローズドコースの速度域ならば911らしい運転の作法も頭に入れておくべきだが、ワインディングを気持ちよく走るような用途であれば身構えるような要素はない。抱えるパフォーマンスと扱いやすさとのコントラストでいえば、変わらずライバルとは明確に一線を画している。
992世代ではその万能性に一層の磨きがかかり、今回試乗したターボSカブリオレなどは、全知全能という言葉が脳裏によぎるほどの存在と化している。運転していても余りの完璧さに呆れ笑いがこみ上げてくるほどで、強いて難癖をつければ可愛げがない。
とはいえ、911を趣味と実用の完璧なる融合体として乗ろうというのなら、今や四駆は選ぶに越したことはないものだ。個人的には素のカレラの爽快感に惹かれるが、カレラ4のそれはターボS同様、転ばぬ先の杖だけではなく、スポーツドライビングにも積極的に関与するデバイスだ。
ちなみにオープンボディにまつわるネガは991世代辺りからはほぼ無視できる状況になっている。ワインディングを走る程度では剛性不足など微塵も感じさせないし、普通に乗れども遮音や耐候でクーペに対しての見劣りは殆どない。911の動的本質は確保されたまま、気軽にオープンドライブまで楽しめる。このパッケージなら、スポーツカーと暮らす歓びをしこたま味わい尽くせるだろう。
【このオプションがオススメ】ダークパルダオインテリア
992は内装の造形が空冷時代のそれに近づいたこともあり、クラシックなトリムがよく似合うようになった。アルミとウッドのコンビとなるダークパルダオインテリアは質感も高く主張も控えめでお勧めできる加飾だ。
ポルシェ 911 ターボS カブリオレ
【あえて「911ターボSカブリオレ」を選ぶワケ】
ビッグトルクを受け止める911最強の技術がそこにある。ーーー清水和夫
今日はバレンタインディ。毎年、銀座のクラブのあるお姉さんから、ポルシェの形をしたチョコをもらっている。彼女はおじさんのポルシェ・ターボに乗せてもらったことがあり、その時の印象が忘れないらしい。気絶するくらいの加速にすっかりとポルシェファンになったのだ。その後、自ら赤いボクスターを乗りこなすようになったという粋なお姉さんの話である。
実は、私も1980年代後半に某タイヤメーカーのポルシェ向け承認タイヤのテストで、ドイツのニュルブルクリンクを走ったことがあった。初めてのニュルテストが930ターボ。4速MTなので3ペダルだが、オルガン式のアクセルとブレーキの間隔が離れていて、トゥ&ヒールのテクニックが使えなくて難儀した記憶がある。ポルシェシンクロのギアボックスがターボのトルクに耐えられなくて4速MTを選んだのだ。
ポルシェ911ターボは、どの時代のモデルであっても、完璧なロードゴーイングのGTカーとして君臨してきた。以前、本誌の連載企画DSTで991型の911ターボと992型911カレラSと動的な性能を比較したことがあった。結果は、新型のカレラSが歯が立たないくらい911ターボは完璧だった。そのテストから2年が経ち、ついに最新の992型911ターボのステアリングを握ることができたのだ。
新型ポルシェ・ターボで富士スピードウェイで走ると、ストレートの後半ではメーター読み300km/hに達する。こんな速いGTカーは、コストを考えると他にない。3.8Lターボはマクラーレンやフェラーリと同じ排気量だが、ポルシェはV8ではなくフラット6。気筒数が少ない分、エンジンのフリクションが少ないから、エンジンのレスポンスは有利だ。しかもピストンが向き合い、ボクシングのように動くことでお互いの振動を打ち消すから、正直にいうとV8ターボよりも上質なのだ。
ポルシェ好きのクラブに呼ばれてスピーチすることがあるが、「空冷水冷問わず、911乗りはターボを知らずして死ねない」と言っている。ビッグトルクを受け止めるシャシーやブレーキは911最強の技術がそこにあるからだ。
今回試乗したのはターボSカブリオレだが、能ある鷹は爪を隠すという印象だ。ターボの魅力には満足しているが、念願のゴールド免許を取った私は、たまにサーキットに行った時に爪を出せばいいと思っている。
【このオプションがオススメ】オールシーズンタイヤ
せっかくの4WDなので、純正のオールシーズンタイヤを装備したい。ポルシェ承認のウインタータイヤは、ドライの高速走行も満足できるし、ちょっとの雪なら走破できるはずだ。
今回の4台中のアナザーチョイスはどのモデルですか?
【SELECTOR】渡辺敏史
【PERSONAL CHOICE】ポルシェ 911 カレラ
個人的にはボクスター&ケイマン系に新たに搭載された4Lフラット6を6速MTと組み合わせてカレラ系に搭載されないかなという淡い期待は抱いているが、現状のカレラ系以上のパフォーマンスを得ることが難しいとあらば、実現は難しそうにも思っている。
とあらば、ターボ+PDKの組み合わせで選ぶことになるが、RRの特性を毎日噛み締めながらドライブしたいという自分の用途を鑑みれば普通のカレラで充分というか、普通のカレラの軽やかさこそ望むところという感じだ。素を選ぶことで価格が抑えられた分を、内外装の色付けやウッドトリム、意外と出来のいい追従型クルーズコントロールなどのオプションに費やしたい。
【SELECTOR】清水和夫
【PERSONAL CHOICE】ポルシェ 911 カレラ
今回の企画でターボ以外にもう一台選ぶなら、素のカレラがいい。カレラSだと、どうしてもターボが目に浮かぶが、素のカレラのパワーとトルクなら、911のシャシーと相性もいい。ポルシェオタクの間ではシャシー馬力やブレーキ馬力という言葉がある(私だけが使っているのかもしれない)。曲がる能力と止まる能力を、加速馬力と同じように表現したいのだ。その意味では素のカレラは加速と旋回と制動の性能がバランスしている。
タイヤサイズもミニマムにして、オプションもいらない。なにか寂しい気もするが、ポルシェは素に本質が宿っていると思っている。この場合カレラ4ではなく2WDのカレラがいいのだ。
【SELECTOR】藤原よしお
【PERSONAL CHOICE】ポルシェ 911 カレラS
タイプ992本来の旨みをシンプルに、そして最大限に味わおうとするならば、スタンダードな911カレラがベストな選択であるのは間違いない。しかし992の罪なところは、要素が加われば加わるだけ明らかに良くなっていくことだ。そういう意味でカレラSは911がもつスポーツカーの要素とGTの要素が高次元で両立しているRR系911の1つの到達点であると思う。特に450psのエンジンに対する、標準装備のPTV Plus、オプションのPASM、PCCBといったデバイスのハーモニーは見事で、路面状況にかかわらず飛ばせば飛ばすほど、想像以上によく走り、よく曲がり、よく止まる。そして快適。価格が高いだけの効能は十分以上にある。
【SELECTOR】島下泰久
【PERSONAL CHOICE】ポルシェ 911 カレラ4 カブリオレ
以前はポルシェに乗るなら絶対クローズドと思っていたのに、最近はオープンモデルに気持ちが傾いている。そんなわけでパーソナルチョイスは、911カレラ4カブリオレである。
実は乗って最初に思ったのは「ちょうどよい」ということだった。最新の992型は、ますます高まったボディの剛性感が、時にマッチョ過ぎると感じる瞬間もある。カブリオレだと、それがちょうど良い按配に思える。しかもカレラ4なら、前輪にも伝わる駆動力が操舵感の目減り分を補填してくれて、掌で感じる走りの質がクーペに本当に遜色ないのだ。動力性能も、やはりちょうど良い。次のポルシェはこの辺かな……なんて、結構真剣に思っているのである。
【Specification】ポルシェ 911 カレラ
■車両本体価格(税込)=13,980,000円
■全長×全幅×全高=4519×1852×1298mm
■ホイールベース=2450mm
■トレッド=(前)1591、(後)1557m
■車両重量=1505kg
■エンジン型式/種類=水平対向6DOHC24V+ツインターボ
■内径×行程=91.0×76.4mm
■総排気量=2981cc
■最高出力=385ps(283kW)/6500rpm
■最大トルク=450Nm(45.9kg-m)/1950-5000rpm
■燃料タンク容量=64L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=(前)ストラット/コイル、(後)マルチリンク/コイル
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ(ホイール)=(前)235/40ZR19(8.5J)、(後)295/35ZR20(11.5J)
【Specification】ポルシェ 911 カレラS
■車両本体価格(税込)=17,290,000円
■全長×全幅×全高=4519×1852×1300mm
■ホイールベース=2450mm
■トレッド=(前)1589、(後)1557m
■車両重量=1515kg
■エンジン型式/種類=水平対向6DOHC24V+ツインターボ
■内径×行程=91.0×76.4mm
■総排気量=2981cc
■最高出力=450ps(331kW)/6500rpm
■最大トルク=530Nm(54.0kg-m)/2300-5000rpm
■燃料タンク容量=64L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=(前)ストラット/コイル、(後)マルチリンク/コイル
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ(ホイール)=(前)245/35ZR20(8.5J)、(後)305/30ZR21(11.5J)
【Specification】ポルシェ 911 カレラ4 カブリオレ
■車両本体価格(税込)=17,290,000円
■全長×全幅×全高=4519×1852×1297mm
■ホイールベース=2450mm
■トレッド=(前)1591、(後)1557m
■車両重量=1575kg
■エンジン型式/種類=水平対向6DOHC24V+ツインターボ
■内径×行程=91.0×76.4mm
■総排気量=2981cc
■最高出力=385ps(283kW)/6500rpm
■最大トルク=450Nm(45.9kg-m)/1950-5000rpm
■燃料タンク容量=64L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=(前)ストラット/コイル、(後)マルチリンク/コイル
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ(ホイール)=(前)235/40ZR19(8.5J)、(後)295/35ZR20(11.5J)
【Specification】ポルシェ 911 ターボS カブリオレ
■車両本体価格(税込)=31,800,000円
■全長×全幅×全高=4535×1900×1301mm
■ホイールベース=2450mm
■トレッド=(前)1583、(後)1600m
■車両重量=1710kg
■エンジン型式/種類=水平対向6DOHC24V+ツインターボ
■内径×行程=102.0×76.4mm
■総排気量=3745cc
■最高出力=650ps(478kW)/6750rpm
■最大トルク=800Nm(81.6kg-m)/2500-4000rpm
■燃料タンク容量=67L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=(前)ストラット/コイル、(後)マルチリンク/コイル
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ(ホイール)=(前)255/35ZR20、(後)315/30ZR21
お問い合わせ
ポルシェジャパン 0120-846-911
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みんなのコメント
そりゃ売り上げのびるでしよ。
だけどいつの世代車両も、譲らない拘りを感じ取ることができるこのブランドには敬意。
ターボSとかだったらフェラーリ買うし。
でもまあ私だったらタルガかな。
この間ブルーメタリックのが走っていて、カッコいいなと思ってしまった。