2月8日に日本再上陸を大々的に発表したヒョンデの主力となるEVがアイオニック5だが、それに対して国産勢はトヨタがスバルとの共同開発により、満を持して2022年央に送り込むEVがbZ4Xだ。
BEVとしての完成度は果たしてどちらが実力は上なのか? すでに公道でアイオニック5を試乗した自動車評論家の国沢光宏氏が今回、袖ケ浦フォレストレースウェイでbZ4Xプロトタイプのステアリングを握った。そこで出た評価をレポートしてもらう。
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文/国沢光宏、写真/奥隅圭之
■bZ4Xとアイオニック5、戦いの幕が切って落とされる!
トヨタが市場に送り出す本格的な量産型BEVとなるbZ4X。2022年央発売予定とトヨタではアナウンスしている
bZ4Xはトヨタがホンキで大量販売を目的に開発した電気自動車である。試乗してみたらトヨタ自ら「尖った性能を追求せず、誰にでも安心して乗れるクルマにしました」と言うとおり、強い個性を持たず、豊田章男社長になる前のトヨタ車を思い出す実直な仕上がりだった。
2022年の販売目標台数は5000台程度と言われているが、日本市場についちゃそのくらいの台数なら何の問題もないと思う。
一方、世界市場においては2030年に世界で250万台の(レクサスを含めれば350万台)電気自動車を売ろうというトヨタの斬り込み隊長でもある。日本市場の評価より、海外市場での競争力が重要。
折しも韓国のヒョンデは世界市場でbZ4Xとガチの競争相手となるアイオニック5を日本に上市(じょうし)させてきた。すでに試乗し、完成度の高さに驚いている。果たしてbZ4Xは世界で戦えるか?
■両車のスペックと質感はどうか?
bZ4Xのボディサイズは全長4690×全幅1860×全高1600mm、ホイールベースは2850mm。ミドルSUVのRAV4と比べて全長でプラス95mm、全幅でプラス20mm拡大し、全高は20mmダウン。ホイールベースは160mmロングとなっている
まず、スペックから比べてみたい。開幕戦となる欧州市場(次なる戦いは中国。その後アメリカ)の価格を見ると、欧州基準のWLTPモードの航続距離400km+αのAWD車同士を比べたら、ほとんど同じ。バッテリー容量もほとんど同じ。
ボディサイズ、アイオニック5のほうが30mm幅広でホイールベースは150mm長い。車格はホイールベースで決まるため、アイオニック5が少し優位。
動力性能やいかに? 0-100km/h加速を比べると、bZ4Xの7.7秒に対し、5.2秒。最高速もbZ4Xの160km/hに対してアイオニック5は185km/h。充電性能は日本だと急速充電器の性能の関係でどちらも同じながら、欧州の急速充電器だとbZ4Xが150kWでアイオニック5は221kW。日本人からすれば韓国車だというだけで購入の対象から外れるが、欧州の人からすればアイオニック5の勝ちです。
クルマの質感は誰がどう評価したってアイオニック5でしょう! 運転席&助手席に座ると、開放感あって広々としている。写真のとおり大型液晶画面がふたつ並んでいるだけで(bZ4Xはひとつ)ずいぶんイメージが違ってくる。
ヒョンデアイオニック5のインパネ。12.3インチのナビ画面とLCDカラーディスプレイのツインモニター構成となっている
こちらはbZ4Xのインパネ。ナビ画面のメインモニターがひとつ据えられている
また、ガソリン車のプラットフォームをベースにしているbZ4Xと違い、アイオニック5は完全なる電気自動車用。テスラのようにセンターコンソールがなく、すっきりしている。
リアシートはお金のかけ方が違う感じ。これまた写真で比べていただきたい。bZ4Xのリアシートに座ると、500万円という価格を考えたら少しばかり寂しい。
bZ4Xのリアシート。身長180cmを超える国沢氏が座るとこのような感じに。タンデムディスタンス(前後席間距離)は1000mmとRAV4の945mmを凌ぐが……
一方、アイオニック5のリアシートときたら広いし(前後スライド&リクライニングも可能)、上質。間違いなく500万円以上のクルマと勝負できる。リアシートに座る人は、瞬時も迷うことなくアイオニック5を選ぶと思う。
こちらがアイオニック5のリアシート。前後へのスライドやリクライニングも可能で上質で快適な雰囲気だ
■肝心の走りの性能はどう差があるのか?
ここまで読んで「走りはどうよ!」となるでしょう。どちらも試乗してみた。アイオニック5の以前の試乗レポートはこちらのリンクから御覧ください(https://bestcarweb.jp/feature/test-drive/382968)。
アイオニック5は後輪駆動ベースということで気持ちよ~く曲がり、絶対的な加速性能は期待を裏切らない。ステアリングはWピニオン式なのでステアリングフィールがよく、吸音材を使ったミシュランタイヤの静粛性に満足した。これといったマイナス点を付けられず。
bZ4Xに乗って最初に感じるのは「電気自動車の基本的な制御が少し甘いですね」。具体的に書くと、アクセルオフからアクセル全開にした時の滑らかさや(敏感な人だと普通の加速時でも感じます)、コギングなど。コギングとはモーターの軸を手で回すとコキコキする。電気自動車であれば走り出し時の超微細な振動になる。このあたりの制御、日産が上手。アイオニック5も負けてない。
袖ケ浦フォレストレースウェイでbZ4Xプロトタイプの走りを体感。国沢氏によれば、EVの基本制御に若干の甘さが感じられたという
絶対的な性能はbZ4Xで充分だと思う。ただ、「電気自動車ってけっこう速い」と期待している人からすれば、80km/h以上で頭打ちになってしまう。
一方、0~100km/hを5.2秒で走るアイオニック5はGRヤリスと同等。どんな人でも「凄いね!」と感じる華やかさを持っている。ハンドリングだって後輪の駆動配分多いらしく、グイグイ曲がって行くから楽しい。
アイオニック5は全長4635×全幅1890×全高1645mmのミドルSUV。モーターパワーの差もあるが、ヒョンデアイオニック5には走りにGRヤリスなみの華やかさが備わっていると国沢氏は指摘している
■トヨタにはBEVでのチャレンジャー魂が必要だ!!
2030年にレクサスを含めて世界350万台計画を昨年末にアナウンスしたトヨタの豊田章男社長。今、EVでトヨタに必要なのはチャレンジャー魂だと国沢氏は指摘する
ここまで読んで「bZ4Xがアイオニック5に対して優位な点はないのか?」と思うだろう。本来なら耐久性や信頼性を挙げたいのだけれど、おそらく電気自動車は世界規模で「リース」や「サブスク」になるため、毎月の支払い額が基準になってくると思う。
ヒョンデがアイオニック5のリース料金をbZ4Xとガチにしてくれば、ユーザーは性能や魅力度で選ぶ。アイオニック5を選ぶ人、多いと思います。
文頭に書いたとおり、bZ4Xってトヨタブランドだけで2030年に250万台の電気自動車を売るための切り込み隊長だ。最初から頑張って存在感を出すべきだったと思う。それなのに守ろうとした。
おそらく欧米のメディアも「よく出来ているが面白くない」と評価するハズ。ただでさえ欧州市場はトヨタですらヒョンデの販売台数に遠く及ばない。チャレンジャーとしての元気さが必要です!
ここはもうトヨタのマスタードライバーたる豊田章男さんが「これならOK!」と太鼓判を捺すような電気自動車作りをして欲しい。bZ4X、2022年モデルはプロトタイプくらいの位置づけにし、2023年モデルからガツンと個性を出したらいいと、強く強く思う。
bZ4Xの開発者(写真右)と並ぶ国沢氏。今のままだとヒョンデだけでなく、欧州車のライバルを含めてbZ4Xは相手にならないだろうと国沢氏は危惧する
今のままだと欧州のライバルを含め勝負にならないだろう。トヨタ、電気自動車ジャンルはチャレンジャー魂が必要だ!
※最後にこの2台について国沢氏に各項目100点満点で採点してもらった。
bZ4X ●ファントゥドライブ度 70点●パワートレーンの洗練性 60点●内装の質感 70点●乗り心地 80点●操作系のユーザーインターフェイス 80点●ハンドリング 80点
アイオニック5 ●ファントゥドライブ度 85点●パワートレーンの洗練性 80点●内装の質感 90点●乗り心地 80点●操作系のユーザーインターフェイス 80点●ハンドリング 85点
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