近年、ツーリングシーンで大きな盛り上がりを見せているのがアドベンチャーモデルだ。トップケースやパニアケースを装着したロングツーリング性能の高さ、オンロードだけでなくオフロード走行も想定した走破性の高さが特徴である。現在、1リッターを超える大排気量車から125ccの小排気量車まで、さまざまなモデルが販売されている。
アドベンチャーモデルのなかでもとりわけ有名なモデルがBMW Motorradの「R 1200 GS Adventure」だ。もはや絶対的王者としてアドベンチャーモデル界に君臨するアイコン的存在である。日本メーカーのアドベンチャーモデルが急増している背景には、長年高い人気を誇ってきたR 1200 GSへの対抗といった側面も少なからずある。
“苦手”から“憧れ”に変わる1台──生まれ変わったホンダ ゴールドウイング
しかし、ことホンダのCRF1000L Africa Twinに関して言えば、このトレンドとは異なる。現行車種こそ2015年に登場したが、初代の誕生は1988年にまで遡る。つまり、おなじ1980年代生まれのBMW GSと双璧をなす歴史あるモデルなのだ。
今回試乗した2018年式は、走行性能やユーティリティ性を大きく高めるブラッシュアップが施されている。近年登場したアドベンチャーモデルとは異なり、歴史の重みをますます色濃く感じる1台であった。
2018年モデルのCRF1000L Africa Twinは、大型バイクのなかでは比較的多くのバリエーションから選べる。今回試乗したCRF1000L Africa Twin Adventure Sportsも、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)搭載モデルと6速MTから選べる。
さらにローダウンモデルも設定する。「腰高」で足つき性が決して良いとはいえないアドベンチャーモデルを、身長の低い人にも受け入れられやすくし、ユーザーの裾野を広げる試みだ。また、燃料タンク容量も従来の18リットルから24リットルに拡大したほか、大型ウインドスクリーンなどのロングツーリングを快適にする各種装備が充実したのも特徴だ。
くわえてアクセル開度を電気的に検出し、制御するスロットルバイワイヤのほか、Tour/Urban/Gravel/ユーザー設定といった4種類の走行モードに応じ、パワーやトラクション、エンジンブレーキを調整する「ライディングモード」も装備する。シフト操作を不要とするホンダ独自のDCTも含め、アドベンチャーモデルのなかではもっとも先進的な1台だ。
CRF1000L Africa Twinは、いわゆる“ビッグツイン”といわれる排気量998ccの直列2気筒エンジンを搭載する。ボアの片側だけで500cc近くなる大排気量車は、低速域でエンストしやすかったり、唐突に加速したりと扱いにくい傾向が強い。しかし、試乗したDCT搭載モデルは、驚くほど扱いやすかった。
発進時は静かに、そして滑るように走りはじめる。少しばかりラフにアクセルを開けても“ガツン”とくるような荒々しい挙動は一切あらわれない。それでいて、追い越しや加速では、瞬時にパワーが立ち上がり、身体が置いていかれそうな加速を楽しめる。
エンジンの振動が抑え込まれているのも印象的だ。ビッグツインらしい独特な“鼓動感”は薄いかもしれないが、長距離移動時にはこのうえなく快適だ。
また、DCT搭載モデルはクラッチ操作が不要なため、アクセル調整だけで安定した微速走行が出来る。だから、ビッグボアエンジンにありがちな低速域の扱いにくさはほとんどない。ただし、変速のショックはおなじDCTを搭載する「ゴールドウイング」よりもわずかに目立つ。とはいえそのショックも、スポーティ志向のAfrica Twinであれば問題ないレベルだった。
低速から高速まで変わらない切り返しの軽さは、重心が高いだけでなく、マイナーチェンジによって20mm伸びたフロントサスペンションのストローク量や、ブリヂストンの「BATTLAX ADVENTURE A41」の特性も影響しているようだ。サスストロークが伸びたといっても、加減速時に前後へのピッチングが気になることはなかった。しかも、クッション性が高いうえに接地感もしっかり感じ取れる絶妙なセッティングであった。
今回の試乗はオンロードのみだったが、基本性能がすこぶる高いから、オフロードも大いに期待出来る。扱いやすいエンジンとDCTの組み合わせは、オフロード走行をより楽しくするはずだ。
ちょっとした街乗りから荷物を満載した高速ツーリング、そして未舗装のオフロードを走る林道ツーリング……次々と新たなステージに「冒険」出来てしまうのが、CRF1000L Africa Twinの魅力でもあるのだ。
衣装協力:岡田商事株式会社 Alpinestars http://www.okada-corp.com/
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