かつては必要不可欠
昭和から平成初期、新車を手に入れた人々は誰もが同じ儀式を経験した。納車後約1000kmは低負荷で走れ――そういわれ、アクセルを踏み込む衝動を我慢しながら、慎重にハンドルを握った。あれは機械工学的な要請だった。当時のエンジン部品は今ほど精密ではなく、ピストンとシリンダーの接触面は実際に走らせながら馴染ませるしかなかった。怠れば焼き付きや異常摩耗が待っていた。
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だが「慣らし運転」には、もうひとつの顔があった。購入者が車の性能を体で覚え、メーカーへの信頼を育てていく過程だ。納車直後の丁寧な運転は、企業にとって顧客満足度を左右する重要な接点であり、アフターサービスと結びつけることで製品価値を維持する装置でもあった。つまりあれは技術的な必然であると同時に、品質管理と消費者教育が一体化した巧妙な仕組みだったのだ。
技術が進んだ今、この前提は根底から覆りつつある。だが昭和・平成初期の慣らし運転には、技術と経済、そしてユーザー体験が絡み合った多層的な意味があったことを忘れてはならない。
工場で決まる製品完成度
自動車製造の現場では、加工精度の向上がすべてを変えた。CNC工作機械やロボットの普及で、かつて問題視されたバリや寸法のばらつきは激減した。エンジン部品ではミクロン単位の精度が量産ラインの標準になり、「新車の初期不具合」と呼ばれた領域はほぼ製造工程内で封じ込められるようになった。
摺動部(しゅうどうぶ。自動車や機械の部品同士が滑るように接触して動く部分)の表面処理も劇的に進化した。
・DLC(ダイヤモンドライクカーボン)
・モリブデン系コーティング
の普及によって、初期摩耗を抑える仕組みが工場段階で組み込まれている。走行中に金属面を削り合わせて馴染ませる――あの旧来の発想は、エンジンに関してはほぼ不要になった。製品の完成度は、もはやユーザーの運転ではなく工場内でほぼ決まる。
この生産精度の向上は、不良率を下げるだけでなく、量産規模を保ちながら品質を安定させることにも寄与している。工程管理や自動検査システムの精度向上は、納車後のメンテナンスコスト削減や顧客満足度向上に直結する。結果として、高精度生産はメーカーのブランド力を支え、国内外での競争優位性を確保する武器となった。
もちろん、ブレーキやサスペンションなど、初期の馴染みが走行特性に影響を残す部位は依然としてある。そのため納車直後の穏やかな運転を推奨するメーカーの姿勢には合理性がある。しかしエンジンに関しては、慣らし運転を儀式的に必須とする時代は終わりつつある。技術革新が、新車の価値と扱い方そのものを書き換えているのだ。
高性能車の段階的慣らし
現在、国産メーカーの多くは一般的な乗用車において、特別な慣らし運転は不要と明言している。
「ごく普通の安全運転を心がければいい」
というスタンスだ。現代のエンジンやパワートレイン部品は精密加工が進み、工場出荷時点で部品の馴染みがほぼ完成しているからだ。
ただし一部のメーカーは1000km~1600km程度の慣らし運転を推奨しており、国内では方針にばらつきがある。慣らし不要とされる車でも、急発進や急加速、急ブレーキを控えることは勧められている。これはエンジンや駆動系部品を保護し寿命を延ばすための措置であり、安全運転の延長線上にある。
興味深いのは、高性能車における慣らし運転の位置づけだ。日産GT-Rの場合、500kmまではアクセル半開・回転数3500rpm以下、500~1000kmでは低速ギアでの全開加速を避けるなど、走行距離ごとに細かい指示がある。こうした段階的慣らしは、高性能エンジンやデュアルクラッチトランスミッションの性能を十分に引き出すために組まれている。
輸入車でも同様だ。ポルシェなどでは取扱説明書に3000km単位の慣らし期間が明記されており、車種や用途に応じて明確な慣らし運転が求められる。この背景には技術的理由に加え、オーナーが車両性能を最大限活用し、安全に運転できる体験を提供するという戦略的意図もある。
高性能車の段階的慣らしは操作制限ではなく、メーカーが意図した性能と顧客体験を両立させる手段なのだ。
ドライバー慣熟の重要性
現代ではエンジンの慣らし運転の重要性は相対的に低下した。しかしタイヤやブレーキ、サスペンションなど足回り部品には、依然として初期の慣らし期間が必要だ。
新品タイヤは製造工程の影響で本来のグリップ力をすぐには発揮できない。ブリヂストンなどのメーカーは、夏用タイヤなら80km/h以下で100km以上、冬用タイヤなら60km/h以下で200km以上走行する慣らし走行、いわゆる「皮むき」を推奨している。
ブレーキパッドとディスクローターも同様で、接触面が完全に馴染む「アタリ」が出るまでは、一般道で300~1000km前後を目安に丁寧に当たり付けを行うことが推奨されている。サスペンションについても、初期の摩擦が取れてスムーズに動くよう、メーカーは300~500kmの走行を目安にしている。ショップ単位では1000kmまで様子を見る場合もある。
だが何より重要なのは、ドライバー自身の慣熟だ。新車では視界、ブレーキの効き、アクセルレスポンス、車体感覚――すべてがこれまでの車と異なる。警察庁や内閣府の統計(令和5年版)によれば、車両相互の事故は全交通事故の約8割を占め、その多くは
・安全確認不足
・運転操作の不適切
など人的要因に起因している。つまり事故の大半は車両性能ではなく、ドライバーが車両挙動に慣れていないことに原因がある。
こうした背景から、納車直後の最初の1000kmは、クルマをいたわる期間であると同時に、ドライバーが車両特性を理解し、手足のように扱えるようになるトレーニング期間でもある。メーカーの安全推奨と組み合わせれば、性能を最大限に引き出しながら事故リスクを低減できる。この視点は、製品価値の最大化と顧客体験の向上という産業論的観点からも見逃せない要素だ。
技術が進化しても、人間がそれに追いつくには時間がかかる。慣らし運転の本質は、もはや機械ではなく人間の側にあるのだ。(木村義孝(フリーライター))
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加工精度と慣らしの完了は別問題。