至高の頂きに君臨する3台のポルシェを振り返る
池沢早人師の名前を聞いて「知らない」と答えるスーパーカーファンは存在しない。1970年代には『サーキットの狼』、80年代には『サーキットの狼II モデナの剣』を描いた漫画家であり、日本におけるスーパーカーブームの生みの親ともいえる人物で、現在まで80台に迫るクルマを乗り継いできたカーフリークでもある。
池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第24回:稀代のポルシェたち】
自他ともに認めるスーパーカーの第一人者である池沢先生は、所有したクルマ以外にも各メディアで数え切れないほど取材・試乗を繰り返してきた。今回は過去の試乗を通して印象に残った3台のポルシェをピックアップして頂き、当時試乗したときに感じた印象をお訊きした。
Porsche 959
フェラーリ F40のライバルとして双璧をなした「959」
1986年に登場したポルシェ 959は、フェラーリ F40のライバルとして世界中から注目を集めていた一台だね。当時はバブル景気で世界中が浮かれていたこともあり、200台の限定生産(編注:バックオーダーが嵩み最終的には292台を生産)にもかかわらず数台のポルシェ 959が日本へと輸入され、その希少性を誇るように自動車雑誌の表紙を飾っていたことを今でも鮮明に覚えている。
959は当時のポルシェが持つ技術力を集結した実験室みたいなイメージがあって、スタイリングやデザイン、スペックというよりも“テクノロジー”で勝負しているような印象が強いクルマだった。もちろん、スタイル的にはポルシェ 911に似たキャビン形状や楕円形のヘッドライトに加え、NACAダクトやリヤフェンダーと一体型のスポイラーなどが与えられ、デザインは頑張っていたけど個人的には両生類とか爬虫類をイメージさせるノッペリとしたデザインが好きになれず、ポルシェ好きなボクでもあまり心に刺さらなかった。
高い完成度ゆえにスーパーカーらしさは希薄に感じた
当時、新車価格で3600万円もしたスーパーカーなのに車内のイメージは911と大きく変わることが無く、唯一の違いは5連メーターの速度計が350km/hまで刻まれていたこと。この色気の無さというか無駄を排除した合理主義がポルシェらしいけどね(笑)。
1970年代から開発していたというフルタイム4WDシステムや、グループCで活躍していた962C用の水冷式シリンダーヘッドをベースにしたフラット6をツインターボで武装し、メカニズムは当時の最先端技術のデパートみたいだったけど、その完成度の高さが逆に優等生すぎて面白くなかった。あまりにパーフェクトで何かが足りないって感じ。
スーパーカーはその名の通り普通車ではないから“ワガママ”な部分がある方が魅力に感じてしまう。この959はフェラーリ F40のライバルと謳われながらもしっかり4シーターの実用性を持っているのが面白みに欠ける部分なのかなぁ。良妻賢母というのは普通車だから納得する話で、華麗で贅沢なスーパーカーはもっと華があるべきだと思うんだ。
当時の先進テクノロジーが現代の911に繋がっている
「綺麗なバラには棘がある」のことわざはクルマの世界でも言えること。同じ時代にフェラーリ F40というスーパースターが存在し、その華やかな影に隠れてしまったこともポルシェ 959にとって悲運だったと思う。華やかなライバルと比較されなければもっと高い人気を得たかもしれないからね。ゴルフの世界で例えるなら、タイガー・ウッズが全盛期のとき「タイガー・ウッズとそれ以外のゴルファー」と言われたように、ポルシェ 959もフェラーリ F40と同時期にリリースされたその他大勢のスーパーカーになってしまったのかもしれない。
実際に乗ってみるとポルシェ959はよくできたクルマで、可変トルクスプリット式の4WDが自動的に前後の駆動力を調整してくれ、ドライバーは操るというよりも乗せてもらっているような感じが強かった。最高速度300km/hを誇るだけのことはあって確かに速いし安定感抜群でコーナリングも気持ち良いほどに曲がってくれるんだけど、そこにはワクワク感とかドキドキ感が無かった気がする。
当時はまだまだ荒削りで乱暴なスーパーカーが多かった時代だから、完成された・・・というかドライバーに依存しない性能に体が慣れていなかったのも大きな理由かな。今思えば近代ポルシェの原型として数十年後のポルシェをイメージして最新技術を詰め込んでいたんだろうね。当時は真面目で安定しすぎのクルマと思っていたけど、959が実験場になったからこそ今のポルシェ 911シリーズが存在しているのかもしれない。
959のイメージは「箱入り娘のお嬢様」
959を試乗したのは『GENROQ』の取材だった。その中で漫画を連載していて、毎月一台のスーパーカーにフォーカスして描いていたんだけど、ポルシェ 959を題材にした時は959を「箱入り娘のお嬢様」的な表現をした。ストーリーの中で路肩に故障して止まっているイタリア車の横を959が走り抜けるという場面を描いたけど、そこには完成されすぎたポルシェ 959へのアンチテーゼというか皮肉を込めていたんだ。
ドイツの自動車哲学に基づいてキッチリと精密に技術の粋を結集して作り上げたスーパーカーではあるけれど、何故か好きになれなかった究極のポルシェ、959。でも、その性能は当時のフェラーリやランボルギーニよりも格段に上であり、信頼性と先進性を持っていたことは間違いない。959は良くも悪くも色々な意味で記憶に残るスーパーカーの一台だった。
Porsche 962C/962CR
グループCの王者「962C」で筑波サーキットを走る!
1980年代に盛り上がったグループCというレースはボクを虜にし、熱狂させたカテゴリーだ。市販車ベースのグループAとは違い世界中の自動車メーカーが技術力を注ぎ込んだプロトタイプレーシングカーがグループCで、そのレースに参加するクルマは「Cカー」と呼ばれていた。フォーミュラカーにカウリングを被せたスタイルが独特で、自動車メーカーたちはレギュレーションのなかで空力特性を追求し合い、独特なスタイルを作り上げていった。
中でも圧倒的な強さを誇ったクルマが「ポルシェ 962C」で、WSPC(スポーツカー世界選手権)やル・マン24時間レース、IMSA、日本ではJSPCへと参戦し圧倒的な強さを誇っていた。当時のグループCにはポルシェ、ジャガーの他にもニッサン、トヨタ、マツダなどの日本勢もワークスとして参加し、特にル・マン24時間レースは地上波でも放映されるほど当時から人気の高いレースだったね。
1990年代の半ば、レース好きのボクに訪れた幸運は、世界の頂点を何度も極めたポルシェ 962Cに試乗しませんか? と以前よりの知り合いからお誘いを受けたことだ。OK!と即答し、試乗のために筑波サーキットへと向かった。ピットに用意されたポルシェ 962Cはスポンサーカラーを纏わず、真っ白なボディを輝かせてボクを待ち構えていた。跳ね上げ式のドアを開けて狭いコクピットに体を滑り込ませると、そこは必要最小限の装備しか持たない純粋なレーシングカーの空間が広がっていた。
962Cにとって筑波サーキットは狭すぎた・・・
エンジンを始動させてクラッチを繋ぐと、ヘッド部分を水冷化した水平対向6気筒のツインターボエンジンは想像以上に扱い易く爆発的な加速を披露するも、狭い筑波サーキットでは物足りなさを感じた。ドライブしながら「何で筑波サーキット? ポルシェ 962Cなら富士スピードウェイでしょ!」と思いながら周回を重ね、筑波サーキットのコーナーがあっという間に迫ってきたことを今でも鮮明に記憶している。
ステアリングはシャープかつクイックで、サスペンションはハードではあるもののしなやかにボディを受け止めてくれた。ただし、唯一の難点は驚くほどブレーキに踏力が必要なこと。キックボクサーのような大腿筋が無ければ、このクルマで耐久レースを戦うことは難しいかもしれない。試乗を終えた感想は「本物のレーシングカーは半端じゃない・・・」というもので、既にその当時で40代半ばだったボクには体力的にこのマシンで耐久レースを戦うのは絶対にムリだと思った。ポルシェ 962Cは全ての動きに無駄が無く、サーキットで凌ぎを削るべく生まれた、狼ならぬ猛獣であることが理解できた。
バーン・シュパンが手掛けた公道仕様の「962CR」
その後、ポルシェのワークスドライバーを務めたバーン・シュパンによって公道仕様に変更された962Cのロードゴーイングカー「シュパン 962CR」を試乗する機会にも恵まれた。公道仕様にディチューンされているとはいえ、その強烈な加速感やコーナリング性能の高さはCカーそのもので、レスポンスは切れ味鋭いフェラーリ F40を遥かに超えた別次元の乗り物としてボクを驚かせてくれた。レーシングカーの962Cでは驚くほどブレーキング時に踏力が必要だったけど、962CRは公道仕様だけにしっかり手が加えられ市販車的な軽いタッチになっていたのは有り難かった。
このクルマは日本のアートスポーツがプロジェクトを手掛け、スタイルはCカーそのままではなく、カウリングを変更して流れるようなフォルムを持つポルシェ 959的なデザインにモディファイされている。コクピットは重心を中央に近付けるため極端にセンター寄りへと設計され、太いサイドシルを乗り越えてアプローチする動作がレーシングカー的でアドレナリンを放出させてくれた。
走行中にはウエイストゲートが開く音も感動的で乗っていて楽しいクルマだけど、難点と言えば後方が全く見えないこと。バックカメラが付いているもののサポートしてくれる人がいないと不安になることは間違いない。今まで色々なスーパーカーに乗ってきたけど世界に6台しか存在しない希少なシュパン 962CRは“後ろが見えないクルマナンバー1”。カウンタックの後方視界が良く見えると思ってしまうほどだった(笑)。
Porsche Carrera GT
気難しいクラッチ以外はパーフェクトな「カレラGT」
2003年に登場したコードネーム980こと「ポルシェ カレラGT」は、ボクにとって衝撃的すぎるクルマだった。その出会いは友人の関根さん(編注:『サーキットの狼』作中に登場する“潮来のオックス”のモデル)がポルシェ カレラGTを手に入れ、試乗を兼ねたドライブへと誘われたことから始まる。目の前に現れたポルシェのスペシャルロードカーは当時のボクスターを思わせるフロントデザインと、ボディの両サイドに大きく口を開けたエアダクトが強烈なインパクトを放っていた。
また、ポルシェとしては異例のV型10気筒エンジンを採用し、そのエンジンをミッドシップするためキャビンを前方へと押しやり、伸びやかなリヤセクションはグループCカーを思わせるエキサイティングなデザインになっていた。このスタイルは好き嫌いが大きく分かれそうだが、ボク的には悪くないと思う。
噂では当時のポルシェが次世代のプロトタイプカーとしてレースへの出場を考えていたモデルを公道仕様にしてリリースしたと言われ、その過激な内容はボクたちがスーパーカーと呼んでいるクルマとは別物の設計が導入されている。フルカーボン製の外装の下には同じくカーボン製のバスタブを用い、エンジンやサスペンションを取り付けるサブフレームが使われている。
魅惑のエキゾーストノートに一発で虜になった
それだけでもこのクルマがレースを強く意識していることが理解できるが、注目すべきはその心臓部。ポルシェは水平対向と呼ばれるフラット6をメインストリームに歴史を刻んできたにも関わらず、このカレラGTには5733ccの排気量を持つV型10気筒DOHC40バルブという異色のエンジンを搭載している。最高出力が610ps、最大トルクが590Nmとされ、圧倒的なパワーはまさにモンスターマシンと呼ぶに相応しいものだ。
タイトなコクピットに滑り込み、サイドサポートが効いたドライバーズシートに身を置くと、まず目につくのは6速MTのシフトノブ。通常の位置とは異なって斜め前方に突き出たシフトノブに違和感を覚えたものの、走りだしてしまえば胸の横に位置するシフトノブはベストポジションであり、快適なシフトワークを提供してくれる。ポルシェらしく内装デザインに派手さは無いものの、このシフトノブのおかげでドライバーの気持ちは高揚する。
そして、エンジンをスタートさせた瞬間・・・カレラGTの魅力は爆発する。F1のピットにいるような錯覚さえ感じさせる高音質のエキゾーストノートは「これで公道を走って大丈夫なの?」と思わせるほど刺激的。これまでの歴史では、フェラーリのエキゾーストノートに対してポルシェエキゾーストノートが勝ることは無かったけど、カレラGTは別格だった。レクサスの最高峰として知られるLFAもカレラ GTのエキゾーストノートを参考に仕上げられたと言われるほど抜群のサウンドに、ボクは一発で虜になってしまったほど。
繊細なクラッチワークを必要とする、真の“スーパーカー”
ところが、クラッチを踏みこみクルマを発進させようとすると、これがチョー難しい。カーボンセラミック素材を使った「PCCC(ポルシェ・セラミック・カーボン・コンポジット・クラッチ)」はとても繊細で、エンストせずにスタートさせるのは神業と思えるほどナーバス。この繊細なクラッチで渋滞のストップ&ゴーはまず無理だと思う。もしそんな状況に遭遇したら、クラッチの寿命よりもドライバーの精神が崩壊しちゃう。なのでカレラGTの所有者の走行距離は絶対的に伸びていないと想像できるね。
ただし一度走り出してしまうとカレラGTは本領を発揮してくれる。試乗した箱根や伊豆のワインディングロードでは水を得た魚のようにコーナーを駆け抜け、走り慣れた峠で「直線部分がこんなに短かったかな・・・」と思わせるほど立ち上がり加速の鋭さを見せつけてくれた。前の項では「完璧過ぎるポルシェ 959は楽しくないと書いたけど、このカレラGTは完成されながらもリスキーなパワフルさが大きな魅力になっている。危ういくらいのソリッドな感覚はまさに公道を走れるレーシングカーそのものだ。ボクのハートを鷲掴みにしたマシンである。
小耳に挟んだところでは、日本の某レジェンドドライバーがカレラGTを購入してすぐに手放したとか。プロドライバーも危険と感じるソリッドなクルマであることは間違いない。映画『ワイルドスピード』で主役を務めた名優も、このカレラGTで命を失った。それだけに乗り手とドライブする場所を大きく選ぶ危うさを持った名車は、希少な存在としてこれからも伝説として語り継がれていくことだろう。
ボクにとってポルシェは人生の相棒であり恋人でもある
70歳を迎えあらためて人生を振り返ってみると、数多くのスーパーカーたちと過ごしてきたことに驚かされる。フェラーリ、ランボルギーニ、ロータス、マセラティ・・・。その中でも、常に相棒としてボクを支えてくれたのがポルシェ 911であり、その存在があったからこそ「池沢さとし/池沢早人師」として自動車の世界と関われてきたと言っても過言ではない。
妖艶なイタリアンスーパーカーも大好きだけど、ドイツ生まれの鉄人はとても魅力的だ。今回はポルシェを愛するボクにとって記憶に残る稀代の名車3モデルを紹介したが、ポルシェというメーカーはこれからも素晴らしいクルマを作り上げていくに違いない。新たな時代を迎え、大きな岐路に差し掛かった自動車産業だが、ポルシェがどんなクルマでボクたちを楽しませてくれるのか? そう考えるとワクワクとドキドキが止まらない。
TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)
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