マツダは、2019年5月9日の決算報告会見の場で、今後の商品開発の展開として、直6エンジン、FRプラットフォームを正式に発表した。このなかで「Largeアーキテクチャー=Dセグメントを想定したラージプラットフォーム」は縦置きエンジン後輪駆動(FR)で開発することを示唆している。
エンジンは、SPCCI(火花点火制御圧縮着火)を採用した新開発の直6スカイアクティブXを搭載。さらに48V電装システムを使ったマイルドハイブリッドを用意し、プラグインハイブリッドへの展開も視野に入れている。
令和の時代に新型FR&直6エンジン開発!!! マツダの新車戦略を占う カギは「根気」??
そして2020年11月9日に発表された「マツダの中期経営計画見直し」のなかで、初めて縦置き直6エンジン/縦置き直4エンジンとプラグインハイブリッド、マルチ電動化技術の写真を公表した。
そこで、マツダの直6エンジンはどのようなものになるのか? その直6が搭載されるFRのラージクラスセダン、次期マツダ6、さらにマツダ6と同じラージプラットフォームを採用する次期CX-5について、今わかっている情報をすべてお伝えしよう。
また、トヨタにOEM供給し、次期クラウンとプラットフォームを共用する可能性についても合わせて報告していこう。
文/鈴木直也
写真/ベストカー編集部 マツダ
CGイラスト/ベストカー編集部
【画像ギャラリー】これが直6+FRの次期マツダ6、次期CX-5、次期クラウン! 発売は最速で2022年3月か
2020年11月9日に発表されたマツダの中期経営計画見直し
初公開された新型縦置き直6エンジン、縦置き直4エンジンとプラグインハイブリッド
2020年11月9日に発表された中期経営計画の見直し方針(出典:マツダ)
現行モデルのマツダ6。2019年8月、アテンザ(2012年発売)のマイナーチェンジとともに、日本国内向けの車名をアテンザから国外向けと同じマツダ6に変更した
スカイアクティブ構想の初期から、マツダは「ビルディングブロック」という戦略に基づいた技術開発プログラムを推進してきた。
まずは、内燃機関の徹底的な効率向上を優先し、それを補完する技術として電動化を並行して推進する。もちろん、長期的には電気で走るクルマが主流になることは必然だが、そのためには長い移行期間が必要になるという認識だ。
これは間違いなく「正論」ではあるのだが、ここ最近の社会情勢は悠長な移行期間を許さないほど電動化に急傾斜しつつある。
最初は2017~2018年頃だったが、英国を皮切りに欧州先進国が「2035年前後に内燃機関の新車を販売禁止にする」という政策方針をぶち上げたのが異変のはじまりだった。
その時点では具体策や詳細な検討をすっ飛ばした政策アピールに過ぎないと見られていた内燃機関禁止ブームだが、カリフォルニア州や日本政府までがその方針を掲げるにいたっては、もはや抗し難い流れになったといわざるを得ない。
禁止する「内燃機関の新車」にハイブリッドやマイルドハイブリッドなどを含むのか、確実に値上がりするクルマの価格をユーザーは容認するのか、そもそもそれで本当にCO2排出量は減るのか……。
積み残している課題は山のようにあるにせよ、いったん世論がこういう風に傾いてしまうと、いくところまでいっちゃうのが世の常。しかも、同時に世界は未曾有のコロナ禍に見舞われて混乱が続いている。
こういう嵐のような社会情勢の変化に直面すると、一企業の経営計画など荒波に翻弄される小舟。マツダも戦略の修正は避けられなくなったといえる。
それをまとめたのが、2020年11月9日に発表されたマツダの中期経営計画見直しだ。
注目されるのは、約180万台という世界販売台数の達成時期が1年ずれ込んで2026年3月期になること。この世界販売台数目標は、すでに昨年下方修正したものだが、達成時期についても先送りが明らかにされた。
ここで大きく影響を受けるのが、マツダが鋭意開発中だったいわゆる「ラージプラットフォーム」だ。
新たに開発される直列6気筒エンジン搭載のFRプラットフォームは、マツダが念願のプレミアムカー市場に打って出る意欲的なチャレンジ。マツダファンのみならず、クルマ好きをワクワクさせる期待を背負っていた。
そんな注目のニューモデルなのだが、投入計画のスローダウンは避けられなくなった模様だ。
丸本社長や藤原副社長のコメントを総合すると、2022年3月にも予定されているFR第1弾のデビュー時期は厳守するが、それ以降の追加車種は投入が先送りされる可能性が高い。
2019年5月9日に開催されたマツダの2019年3月期決算説明会の資料。中期経営計画のなかで今後の商品計画として直6エンジン、FRプラットフォームの開発を明言していた
実は、このFRプラットフォーム投入は2019年の段階ですでに1年延期されていて、その理由としてPHVモデルの強化が挙げられていた。
これは欧州市場のCO2排出量規制でPHVが優遇されていることへの対応とされていたが、その後1年でPHVどころかEVが必須という情勢の激変ぶり。環境対策の優先順位がこれほど急激に高まるとは、マツダならずとも想定外だったと言わざるを得ないだろう。
結果、この中期経営計画見直しでは環境対策やCASE対応でトヨタグループとの連携強化がクローズアップされることとなった。
その内容は、欧州市場でトヨタからヤリスハイブリッドをOEM供給、建設中のアラバマ工場で造る新型SUVにもトヨタのハイブリッド(THS)を搭載し、中国でもTHS搭載のニューモデルを投入というもの。環境対策におけるトヨタ(THS)の依存度が一気に高まる。
マツダが発表した行程計画表(出典:マツダ)
直6+FRプラットフォーム、次期マツダ6の発売は2022年3月!
CX-5より先に、2022年3月にもデビューが計画される新型マツダ6は、プラットフォームを共用して開発される兄弟車。直6搭載のFRサルーンだ(CGイラストはベストカーが製作したもの)
全長は4900mmにも迫る大型サルーンで、プラットフォームを共用するとはいえ、ホイールベースはこちらが150mm程度長い。ガソリンエンジンのほか第2世代クリーンディーゼルも加わる(CGイラストはベストカーが製作したもの)
FRプラットフォームと並行してこの開発作業を行うのは、マツダ技術陣としても容易なことではないが、環境対策優先という流れのなかではFRプラットフォーム計画のスローダウンはやむを得ない。
開発から製品化まで4~6年を要するのがクルマという商品の難しいところだが、社会情勢の変化にこれほど自動車業界が翻弄されたのは歴史上、石油危機以来のことではないかと思う。
しかし、FRラージプラットフォーム計画が依然としてマツダ飛躍の切り札であることを忘れてもらいたくない。中期経営計画見直しのプレスリリースの中には、さりげなくそんなメッセージが掲載されていることにも注目すべきだろう。
初めて直6エンジンの写真が公開された(出典:マツダ)
ブランド価値への投資(技術/商品):足場固め(この先2年)と題されたページではじめて公開されたのは、開発中の縦置きFR用エンジンの写真。その隣には、ロータリーレンジエクステンダーのパワーユニットの写真(こちらはFFスモールプラットフォーム用)もある。
FR用エンジンの写真は、中央に直4、PHV用のパワートレーン、その左右にディーゼルとガソリンの直6を配置するという構図。ご丁寧なことに直6はそれぞれのシリンダーヘッド(燃焼室側)まで公開している。
この写真からわかることは、直6ディーゼルは当然として、直6ガソリンもターボ過給なこと。つまり、ガソリンは今のスカイアクティブXとは異なる燃焼アーキテクチャーで、このほかにスカイアクティブX仕様があるのかないのか、大いに興味をそそられる。
また、直6はオイルパンに前輪ドライブシャフトのアウトプットのある4WD仕様。FRベースで高性能化してゆくと、どうしても4WD化が必須となる。直6はディーゼルもガソリンもかなりハイパワーであることが想像に難くない。
マルチ電動化技術はトヨタとは異なるユニット!
マルチ電動化技術として発表された写真。これはロータリーエンジンを用いたシリーズハイブリッド(もしくはレンジエクステンダーEV)とみられる
もうひとつのFR用直4、PHVは今回はじめてその存在が明らかになったものだが、高電圧ケーブルがフライホイール付近にコネクトされているところや、トランスミッションケースの形状から想像するに、メルセデスの直6(M256型48Vマイルドハイブリッド)か、あるいは日産のV6ハイブリッドと似た1モーターレイアウトのように見える。
ということは、トヨタ方式(THS)とは異なるハイブリッドシステムということ。前述のとおりマツダはTHS採用モデルを増やすことを明らかにしているが、あるいはスモールはTHS、ラージはそれとは異なるシステム、そんな棲み分けを考えているのかもしれない。
このFRプラットフォーム第一弾が次期マツダ6になるのか、あるいは次期CX-5になるのか不明ながら、市場性を考えると現在人気のSUV、つまり次期CX-5のほうが先にデビューする可能性もある。
直6エンジン搭載を前提とした縦置きプラットフォームにより、フロントアクスルからバルクヘッドの距離が長くなり、新型CX-5のプロポーションは伸びやかでスタイリッシュに(CGイラストはベストカーが製作したもの)
全長は4600mm程度になり、現在のCX-5と比べてひとクラス上のサイズ感になる。BMW X5やベンツGLCと直接対峙できるクォリティを目指す(CGイラストはベストカーが製作したもの)
直6といえばメルセデスとBMWが強力なライバル。後発となるだけに当然それらをベンチマークとして開発されているはずで、次期CX-5やマツダ6があんな感じで走ってこんな感じで曲がるのかと想像すると、いやがうえにも期待が高まるのを禁じ得ない。
次期クラウンはマツダからのOEM供給車?
また、ベストカーが伝えている話として、マツダのこの直6エンジンをトヨタに供給するという説がある。
その構想を初めて聞いたとき、ぼくは「まさか。あり得ない」と思ったのだが、最近流れてきた「4ドアセダンのクラウンは現行が最終モデルとなり、次期型はSUVになる」という噂。
そして、トヨタ世界大会(4年に1度、世界中の販売関係者に感謝と今後の方向性を示すイベント。今回は2020年11月23日にオンラインで開催された)における豊田章男社長の「今やどこにも聖域などないからです。私は新型クラウンを、これまでの概念にとらわれず新しい視点で考えるようにお願いしました」という発言などを聞くにつれ、「ひょっとしたらアリかも」という認識に変わりつつある。
4年に一度開催される「トヨタ世界大会」の映像はこちら。豊田章男社長によるクラウンのコメントは11分15秒過ぎから
トヨタタイムズ「豊田章男が語ったトヨタの未来とは 極秘映像を香川編集長が見た!」のサイトはこちら!
FRプラットフォーム、直6エンジンともにマツダ単独での展開は厳しいため、トヨタとの協業で開発し、次期クラウンはマツダ6の兄弟車としてデビューするという情報がある(CGイラストはベストカーが製作したもの)。ひょっとしたらCX-5の兄弟車としてクラウンSUVという線もなきにしもあらず
つまり、一気に電動化にシフトするトヨタは手薄になる内燃機関開発でマツダとの協業を強化するというシナリオ。
前述のとおり、中期経営計画見直しではマツダへのTHS大量導入が発表されているが、これとセットで「行って来い」を考えると、マツダからトヨタへの直6供給というのはあながちあり得ない話ではないと思えてきたわけだ。
もしそれが事実なら、次期マツダ6はクラウンやレクサスISなどとコンポーネンツを共用するFRプレミアムセダンということになる。
現行クラウンは2018年6月のデビューだし、レクサスISは予想に反してビッグマイナーによる延命を選択した。これらのフルモデルチェンジ時期を考えると、タイミング的にもそこにマツダの直6が絡んでくるとピッタリはまる。
マツダ単独のプロジェクトと見ると厳しい現実に直面している直6+FR計画も、それがトヨタと協業におけるひとつのコマだとすると話はまったく変わってくる。
2022年3月に約束されている最初の市販モデルは今のところ、次期マツダ6になりそうだが、その登場まで、マツダの直6+FRネタは、当分クルマ好きを楽しませてくれそうだ。
【NEW マツダ6予想スペック】
●ボディサイズ:全長4900×全幅1880×全高1420mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:1550kg
●エンジン:直6、3L、SKYACTIV-X(300ps/35.0kgm以上)
●予想価格:400万~450万円(SKYACTIV-X)
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