WRC世界ラリー選手権第2戦ラリー・スウェーデンの“ヴィンデルン2”で、とんでもない記録が誕生した。最終日に行なわれたSS18で、ティエリー・ヌービル(ヒュンダイi20 Nラリー1)が平均速度141.08km/hを刻んだのだ。これは、WRCヨーロッパラウンドにおける最速レコード。しかも、路面は氷雪路という信じがたい条件だった。
実は、最速記録はその2本前の同ステージ、SS16“ヴィンデルン1”でカッレ・ロバンペラ(トヨタGRヤリス・ラリー1)によってすでに更新されていた。
ロバンペラの記録は140.73km/hで、2000年にマーカス・グロンホルム(当時プジョー206WRC)がグラベルのラリー・フィンランドで記録、保持していた138.2km/hというレコードを久々に更新。それを、エサペッカ・ラッピ(トヨタGRヤリス・ラリー1)がSS18でブレイクしたが、直後にヌービルが塗り替えた形だ。
【動画】雪道を平均134km/hでぶっ飛ばす! WRC第2戦シェイクダウン・ハイライト
もっとも、ロバンペラは最終日、ハイブリッドシステムが作動せず、エンジンのみで走行していた。つまり最高出力が134馬力程度低かったということで、完調ならばさらに速い記録が刻まれていた可能性もある。ヴィンデルンのステージは、ラリー開始前から今大会最速のステージになるだろうと言われていた。長い直線、または直線に近い高速コーナーが多く、5速全開の最高速域で走り続ける区間が多いからだ。ヌービルのマシンは190km/h以上に達し、ギヤ比の関係で頭打ちになるシーンも見られた。
ラリー・スウェーデンに出場するマシンは、金属のスタッド(鋲)が打ち込まれたスタッドタイヤを装着する。硬く締まった氷雪路面にスタッドが食い込むことで、想像以上に高いグリップを発生するのだが、それでも雪壁と針葉樹に囲まれた林道を平均速度140km/h以上で走るのは異常だ。
「速いとはいっても、直線をフラットアウトで走るのは退屈だよ。やはり、180km/hくらいでドリフトするようなステージのほうが楽しいね」と、ヌービル。
実際、鈴鹿サーキットの130Rのようなコーナー(もちろん雪道)を、5速アクセル全開か、僅かに緩めるくらいで走り抜けるシーンもあった。WRCのステージは通常2回しか走らず、レースとは違い直前に練習走行などないため、未知なるグリップの道にいきなり全開で臨まなければならない。WRCドライバーは、一体どのような精神構造をしているのだろうか?
ところで、今回の新記録について冒頭で「WRCヨーロッパラウンドにおける最速レコード」と書いたのにはわけがある。ヨーロッパ以外のイベントの記録はまだ破られていないからだ。
WRCの最速平均ステージ記録は、なんと189.53km/h! それが刻まれたのは1983年ラリー・アルゼンチンのSS1で、ドライバーはスティグ・ブロンクビスト、マシンはアウディ・クワトロA2だった。そのステージの全長は81.50km。今回のラリー・スウェーデンの2日目の総走行距離に近い距離を、1本のSSで走ってしまったことになる。ちなみに、続くSS2は全長83.74kmで、平均速度184.72km/h。今も昔も、WRCはとんでもない世界なのだ。
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