959から964型911のターボ化へ軌道修正
今回の930型ポルシェ911 ターボ3.3は、オーナーによって272psから20psほど増強されており、前期の911 ターボ3.0より明確にたくましい。ブレーキペダルはソリッドで、しっかり噛みつき制動力が比例して高まる。
【画像】止まらない「空冷ターボ」の高騰! ポルシェ911 930から993まで 現行の992型も 全118枚
5速MTのシフトレバーは、正確にスロットへ導ける。前期の4速から1段増えたことで、適切なレシオを選びやすく、増えた車重を巧みに補える。
グレートブリテン島南部のビスターヘリテージ・サーキットで、低速コーナーを攻め込む。3.3Lエンジンが30mm後方へ寄ったことによる、バランス変化を感取することは難しいが、アクセルペダルでのリカバリーは容易だ。
反面、コーナリング途中で、ブーストが予想以上に高まる可能性も増している。挙動は従来以上に鋭敏。急激なアクセルオフや必要以上の荷重移動で、コースアウトへ陥るのも難しくないだろう。
1980年代のポルシェを支えた930型の911 ターボだったが、同社の年間生産数は、好調期の約4万台から約1万5000万台へ減少。早期の回復が求められていた。
1986年には、グループBのホモロゲーションを狙った四輪駆動の959をリリースするが、そのカテゴリー自体が消滅。930型の911 ターボを置き換えるモデルとしての計画も、頓挫してしまう。
そこで、過去最大の進化を遂げていた、964型911のターボ化へ軌道修正される。基本的なフォルムは先代と重なるものの、不自然に伸ばされていたバンパーはボディと一体化。サスペンションは、トーションバーからコイルスプリングへ一新されていた。
コイルサスが生むダイレクトで安定した操縦性
時代に合わせ、パワーステアリングを指定可能に。トランスミッションには、ティプトロニックと呼ばれるオートマティックも用意された。ブレーキにはABSが実装され、四輪駆動も選べた。
964型911にターボが登場したのは、1991年。3.3L水平対向6気筒に1基のターボが組まれ、後輪駆動に5速MTというパッケージングでスタートし、1993年に3.6Lへ拡大。最高出力は、320psから360psへ上昇した。
今回の964型は、その後期型。オーストラリアから英国へ持ち込まれた右ハンドル車で、オーナーはレーシングドライバーとしての経験を持つ、アンブロージオ・ペルフェッティ氏だ。
18インチのスピードライン社製アルミホイールと、レッドのブレーキキャリパーが、3.6L仕様の証。車重は930時代から大幅に増えているが、パワーアシストが備わり、ステアリングホイールを握った印象は4台で1番軽い。
それでも、911 ターボ3.6を不安なく扱える。新しいコイルスプリング・サスペンションは、コーナー入り口のブレーキングでも、頂点を過ぎたアクセルオンでも、ダイレクトで安定した操縦性を叶えている。
オリジナルの性能を遥かに越えた、真新しいミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2を履き、安定感は揺るぎない。躍動的だが親しみやすく、テールスライドで遊ぶこともできた。
タイトコーナーで3速から加速。ブーストの昇圧に合わせて、テールが悶える。一般道を迅速に駆け巡ることを目的に、後輪駆動の911 ターボを選ぶなら、筆者はこの964型にするだろう。
空冷最後で四輪駆動になった993型ターボ
964型の911 ターボ3.6は、痛快なパンチを繰り出す。直線だけでなくカーブでもエンターテインメント性は高く、洗練性や扱いやすさも共存している。
オーナーのペルフェッティは、ル・マンへの長距離旅行などに、これを愛用しているとか。近年のハードコアな911と比べて、外界との隔離性は高く、筆者もその考えに賛同できる。
そして空冷最後の911となったのが、993型。熟成度を増し、豪華さを増したポルシェではあるが、ターボは明らかに964型からの進化の延長上にある。スーパーカーの959で培った技術を、巧みに導入していたとしても。
モダンさを増したスタイリングは、特にフロント周りで空力特性を改善。911らしいボディの内側には、四輪駆動システムが潜んでいる。フラット6は2基のターボチャージャーで過給され、全幅は1795mmに。ボディ剛性は20%も向上した。
993型では、ベーシックな911 カレラでも930型のターボ以上の最高出力を発揮。911 ターボでは407psへ上昇し、1996年のターボSでは、450psまで増強された。
今回の993型911 ターボは、ニール・クリフォード氏がオーナー。落ち着いたグリーンのボディだが、リアフェンダーはエアインテークの空いた「S」仕様。オプションだった、430ps仕様のX50エンジンが載っている。
最高出力は964型から大幅に増しているが、ピーキーな印象はまったくない。パワーバンドも高回転側にあるものの、むしろ柔軟で粘り強い。ターボラグはほぼなく、アクセルペダルを傾けた途端に速い。
リアエンジン・レイアウトの限界を拡張
ブースト圧が高まると、景色が早送りで流れ出す。2024年でも、強烈な体験を生み出す。パワーステアリングは964型と同じく、手のひらへ充分な感触を伝える。シフトレバーとクラッチペダルのタッチは、4台のベストだ。
993型の911では、軽量で安定したリアアクスルが、敏捷な操縦性に変革をもたらした。より扱いやすく、ライン調整やリカバリーもしやすい。リアエンジン・レイアウトの限界を広げたといっていい。
四輪駆動のターボは、それをベースに能力を拡張している。増大したパワーをしっかり受け止め、ストレートだけでなく、コーナリング時にも活用できる。
基本的に、リアエンジンらしい物理的な特性は残っている。しかし、四輪駆動化によって体験は違う。プッシング・アンダーステアが僅かに表れたら、右足を少し緩め、軽いフロントノーズの向きを整えればいい。
オーバーステアへ転じたら、アクセルペダルの加減でスライド量を調整できる。カウンターステアを当てつつ、必要な推進力が展開される。むしろ筆者にとっては、後輪駆動の初期の911より扱いやすい。
ツインターボに四輪駆動というパッケージングで、964型までのようなモータースポーツとの結びつきは絶たれたかもしれない。後輪駆動のターボは、レーシングカー直系のGT2のみの設定となった。
それでも、サーキットで強さを証明してきた、空冷の水平対向6気筒は積まれている。993型911 ターボは、旧時代と新時代をつなぐ、架け橋のようなモデルだったのかもしれない。
協力:スポーツパーパス社、ビスターヘリテージ
空冷ターボのポルシェ911 4台のスペック
ポルシェ911 ターボ3.0(930型/1974~1977年/海外仕様)
英国価格:1万4749ポンド(新車時)/37万5000ポンド(約7088万円/現在)以下
生産数:3227台
全長:4290mm
全幅:1775mm
全高:1320mm
最高速度:246km/h
0-97km/h加速:6.1秒
燃費:7.8km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1195kg
パワートレイン:水平対向6気筒2994cc ターボチャージャー SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:263ps/5500rpm
最大トルク:34.9kg-m/4000rpm
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)
ポルシェ911 ターボ3.3(930型/1978~1989年/海外仕様)
英国価格:2万7950ポンド(新車時)/35万ポンド(約6615万円/現在)以下
生産数:1万7425台
全長:4291mm
全幅:1775mm
全高:1310mm
最高速度:260km/h
0-97km/h加速:5.3秒
燃費:6.4km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1300kg
パワートレイン:水平対向6気筒3299cc ターボチャージャー SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:300ps/5500rpm
最大トルク:41.9kg-m/4000rpm
トランスミッション:4速・5速マニュアル(後輪駆動)
ポルシェ911 ターボ3.6(964型/1991~1993年/海外仕様)
英国価格:7万2294ポンド(新車時)/32万5000ポンド(約6142万円/現在)以下
生産数:5097台
全長:4275mm
全幅:1775mm
全高:1308mm
最高速度:280km/h
0-97km/h加速:4.7秒
燃費:7.4km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1470kg
パワートレイン:水平対向6気筒3600cc ターボチャージャー SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:360ps/5500rpm
最大トルク:52.9kg-m/4200rpm
トランスミッション:5速マニュアル(後輪駆動)
ポルシェ911 ターボ(993型/1995~1998年/海外仕様)
英国価格:9万7950ポンド(新車時)/23万5000ポンド(約4442万円/現在)以下
生産数:5978台
全長:4245mm
全幅:1795mm
全高:1285mm
最高速度:289km/h
0-97km/h加速:4.3秒
燃費:6.4km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1500kg
パワートレイン:水平対向6気筒3600cc ツイン・ターボチャージャー SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:407ps/5750rpm
最大トルク:54.9kg-m/4500rpm
トランスミッション:6速マニュアル(後輪駆動)
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