■世界第2位の販売台数を誇る宏光 MINIEVってどんなクルマ?
2020年8月に中国で発売された「宏光 MINIEV」は、日本円にして約45万円(当時)という激安EVということもあり、爆発的なヒットとなりました。
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日本の経済メディアや自動車メディアでもたびたび「45万円EV」として取り上げられ、また、多くの人に知られていくようになります。
現在は販売価格の値上げ、そして円安の影響で日本円に換算すると約70万円前後になりますが、それでも依然として中国での販売は好調です。
初めて年間を通して販売された2021年では世界全体の販売台数でテスラ「モデル3」(50万713台)に続く第2位(42万4138台)に位置。第3位はテスラ「モデルY」で41万517台です。
テスラの2車種がアメリカや中国など全世界で販売されているのに対して、宏光 MINIEVはほぼ中国だけの販売です。
それでいて世界2位というのは、この販売台数がいかにすごいものかが分かると思います。
2021年7月には公道は走れないものの宏光 MINIEVが研究目的で輸入され、一般社団法人 日本能率協会が開催した「TECHNO-FRONTIER 2021」に出展されています。
その後、名古屋大学の山本真義教授率いるパワーエレクトロニクス研究室にて数か月間展示され、実際に宏光 MINIEVを分解し検証をおこなう分解大会も開催されました。
日本でも何かと話題に事欠かない宏光MINI EVですが、2022年10月25日には経済新聞に衝撃のニュースが掲載されました。
「上汽通用五菱 宏光 MINIEVが正規輸入され、2023年春には日本の公道を走り始める…」という驚きの内容です。
わずか半年程度でそんなことが可能なのでしょうか。ただ輸入するだけではありません。
日本の保安基準に適合させて、ナンバープレートを取得することは宏光MINI EVのメーカーである上汽通用五菱が関わっていたとしても、かなりハードルが高いプロセスが予想されます。
「58協定」(国連の車両等の相互承認協定)の締約国ではない中国で販売されるクルマを公道で走らせる(=日本の保安基準に適合)には大変な作業が必要になります。
「EVなら排出ガステストがいらないから楽なのでは?」と思われるかもしれませんが、実は排出ガステストよりも大変といわれているのが電池の認証(国連協定規則UN/ECE R100-02)です。
並行輸入のEV、ハイブリッド車であればまず、不可能もしくは数千万円単位の莫大な費用が掛かります。
なお、宏光MINI EVは欧州でも販売されているのでその国が58協定締約国であり、その国から輸入する形にすれば困難はだいぶ緩和されるかもしれません。
報道が本当なのかを確かめるべく、記事で言及されたアパテックモーターズ会社に話を聞きました。
アパテックモーターズは2022年5月に設立された会社で、事業内容は「EV車の企画、デザイン、開発、製造、販売に関する事業」、「EV車のリースに関する事業」、「EV車のための充電ステーションの整備事業」としています。
佐川急便も導入する軽EVを手掛ける日本のEVベンチャー「ASF株式会社」と似たような事業形態になりますが、こちらはリース事業やインフラ整備面で差別化を図っている印象です。
最初に今回の報道に関する経緯から伺いました。対応いただいたのは同社代表取締役の孫峰氏です。
「物流会社の関連団体が開催した研修会にて私が講演した内容をもとに記事は書かれたのでしょう。
ですが、現時点で上汽通用五菱の宏光 MINIEVを日本に正規輸入すると決まったわけではありません。
あくまでも上汽通用五菱からの依頼を受けて市場調査をおこなっている段階です。また、そのほかの中国メーカーとも進めています。
宏光 MINIEVがいきなり正規輸入されて早ければ2023年春から日本の公道を走り始める…という内容は事実ではなく、現時点では販売時期と価格は未定です」
当然、どのような順でナンバープレートを取得するのかといった段階にも至っていないとのことでした。
■近い将来、中国の自動車メーカーが日本で生産を始める日が来るかも?
同社が描いているビジョンについて伺いました。
「宏光MINI EVに限らず、まずは手の届きやすい価格帯のEVを日本に導入し販売していきたいと考えています。
さまざまな業界とのコラボレーションも事業展開の根幹の部分になりますね。
現時点では50社ほどの会社に話を持ちかけ、それぞれの会社が求める低価格EVを提供していく計画です。
単に電気自動車を輸入して安価で販売すれば良いわけではありません。
そこで重要になってくるのがインフラ整備やアフターサポートです。
アパテックモーターズは地方でのEV利用を促進したいと考えており、そのためには充電ステーションの整備も必須です」
そのために同社はEVシフトによってますます仕事が減ると予想される石油元売会社(ガソリンスタンド)との協業をすでに進めているとのこと。
EVカーシェア用の貸し出し拠点や、購入後のサービス拠点としてガソリンスタンドを活用することを検討しています。
また孫社長が描く「もっと先のこと」に関するビジョンも伺いました。「ゆくゆくは輸入だけでなく、中国メーカーを日本へ誘致、日本国内で自動車を製造させたい」との考えを明らかにするに続けて次のように語っています。
「円安はまだこれからも続くと思われます。
これを商機と捉え、日本で生産した中国製EVを各国へ輸出するレベルまで持っていきたいですね。
具体的な生産台数は年間10万から15万台を想定し、拠点は福島に設けることを考えており、福島の復興に繋げたい思いもあります」
※ ※ ※
かつて「世界の工場」といわれていた中国は10年前に比べて人件費がおよそ10倍以上となり「中国で生産→日本に輸出」していた製造業の世界では日本に生産拠点を移す動きが見え始めています。
安い人件費はもちろん「日本製」という絶大な信頼とブランド力を獲得できるため自動車の世界でも近い将来、中国メーカーが日本で生産する時代が来る可能性もゼロではないと考えられます。
アパテックモーターズのような明確なビジョンを持つEVベンチャーが増えることは、既存の自動車企業にも強くて良い刺激になると思います。
お互いが高めあうことができれば、より良いEV開発のための環境づくりが実現されていくことでしょう。
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