300万円以下で、気軽に購入できるコンパクトな輸入車は実は多い。しかも単なる廉価モデルではなく、独自の魅力と個性を備えている2台を紹介しよう。(Motor Magazine2021年5月号より)
魅力的なプライスでも楽しい輸入車はあるのだ
新車で輸入車を購入するにあたっては、最低でも500万円程度の予算は不可欠・・・そんなイメージを抱く人は、今でも少なくないだろう。実際1000万円超、あるいは2000万円超のモデルも珍しくないのが輸入車の世界。500万円で選べるモデルとなると、ある程度種類が限定されるのも事実だ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
だからと言って、「輸入車なんか自分には関係ない」とばかり諦めの境地に至ってしまうのは早計というもの。何となれば、「よりどりみどり」とまではいかなくても、そうした低予算でのクルマ選びの道が閉ざされているわけでは決してないからだ。実際、ここで紹介する2台は車両本体価格が181万円と300万円と輸入車ながら魅力的なプライスなのだ。
衝撃の200万円切りで用意されたのは、多くのランニングコンポーネンツを「スマート」と共有することで、歴代モデル初のRRレイアウトを採用した3代目トゥインゴの中で、日本仕様唯一となる自然吸気エンジンを搭載した「S」。さらに日本仕様の中では唯一のMTモデルであることも特徴だ。
欧州コンパクトカーは、構造が簡単であるゆえに低価格なMT仕様車に根強い人気がある。今回取材したトゥインゴSも、まさにそうした事情を見据えて用意されたと目されるグレードだ。そこには、決して多くの販売は見込めないながらも日本導入を決定した、インポーターの英断があることももちろん見逃せない。
一方、トランスミッション以外は同仕様ながら、3ペダル式MTの採用で2ペダル式モデルより26万円も安い「バーゲン価格」を実現させたのが、キュートなルックスで人気のフィアット500のスポーツバージョンであるアバルト595だ。
トゥインゴSと比較すると100万円以上も高価ではあるものの、一見すると「実際の価格以上に高そうに見える」のは、こちらならではの武器。大開口が目を引くフロントバンパーや本格的なディフューザーを備えるリアバンパー、偏平タイヤの採用などに加え、インテリアでもスポーツシートやブーストメーター、スポーツペダルなどの採用で、ベースのフィアット500とは一線を画すスポーツマインドに満ちたプレミアム感の演出に成功している。
気になる部分も特有の個性として許せてしまう
実際、いざ試乗をスタートするとそんな見た目を裏切らない活発な走りを披露してくれるのがアバルト595でもある。1.4Lターボエンジンが発する動力性能は、昨今流行の「大排気量のエンジンが生み出すようなフィーリング」が売り物のユニットとは異なって、メリハリの効いたフィーリングが特徴。端的に言ってしまえば、それは最近トンと影を潜めた「ドッカンターボ」と表現してもいい印象で、シフト操作をさぼって威勢のいいゾーンを外すと、「トルク感がスカスカ」になってしまったりもする。
もっとも、2ペダルモデルも用意される中で、あえてMT仕様を選択するユーザーにとって、そんなエンジンのキャラクターはおそらく「ドライビングの甲斐のあるスポーティで好ましいもの」と好意的に受け取られるはずだ。スポーツモードを選択した際には、派手なブーストメーター指針の動きも嬉しく思えるに違いない。
一方、良路では意外なまでのスムーズさを演じつつも、路面が荒れると馬脚を現すかのようにチョッピーで落ち着かない乗り味には、さすがにそろそろ古さが感じられることも事実。フル加速シーンでは明確なトルクステアを示すあたりも同様ながら、そんな現象を「あばたもエクボ」と感じさせてしまうのが、このモデルならではの役得でもありそうだ。
珍しいRRレイアウトと5速MTが織りなす走り
そんなおてんば娘のアバルト595と比べると、走りはグンと大人しいのがトゥインゴSだ。大人しいと言えば聞こえはいいが、率直に言えば時に物足りなくも思える動力性能なのだ。950kgと車両重量は何とか1トンを下回るものの、前述のように日本仕様車で唯一の自然吸気エンジンは73psを発するに過ぎない。95Nmという最大トルクもターボ付きの軽自動車に見劣りする水準だから、いかにMT操作を駆使しようとも、率直に言ってスポーティな加速感などは味わいようがないのである。
加えて、そんな動力性能の「今ひとつ感」を加速させてしまっているのが、ある回転数を下回るとキャビン内に大きく響き渡るこもり音。タコメーターが備わらないゆえ、回転数はお伝えをできないが、そのポイントをスピードに換算すると3速ギアで45km/h、4速ギアで60/h、5速ギアでは70km/hくらいがボーダーライン。3気筒エンジンゆえ実際の低回転トルクはそれなりにあるのだが、この大きなこもり音が感覚的に低回転域を使いづらいものとしていたことは間違いない。
こうしてみると、走りに関してはいいところがないのように受け取られるかもしれないが、このモデルの場合、それらすべてに目をつぶっても余りあると思えたのが、圧倒的なストローク感を演じ、ピッチモーションも完璧なまでに封じ込まれたそのフットワークのテイストなのだ。
思わず「ちょっと乗ってみたいな」と感じさせるような入念なデザインと、コンパクトカーとして望外なフットワークのテイストこそが、サイズと価格を超越したこのモデルならではの財産だと、きっと多くの人が納得するだろう。
ただし、それでもやはりトゥインゴを不特定多数の人に推奨しようと思うまでに至らないのは、4ドアボディでありながらも、そのパッケージングがあくまでも2+2という前席優先の考え方に支配をされているからでもある。
稀有なRRレイアウトの採用は、駆動力の伝達から解放された前輪に大きな切れ角を許し、圧倒的な小回り性能を実現させた一方で、後席の居住空間には無視のできない負の影響を与える結果になっているのは事実。リアドアのウインドウが前ヒンジ方式でわずかに開くのみであったり、狭いトーボードに3つのペダルを並べたゆえに、クラッチ操作後の左足はペダル下に置く以外にないといった、逃せない細かな留意ポイントも存在する。
輸入車とは思えない低価格を実現させたトゥインゴSは、実はアバルト595以上にユーザーを選ぶクルマなのである。それを納得の上で付き合うのであれば、こちらも輸入車ならではの個性と独創性を満喫させてくれる相棒となってくれること請け合いだ。
300万円以下でも意外に選択肢が多いBセグメント輸入車
「300万円程度までのコンパクト輸入車」という条件でクルマを探してみると、実は今回取り上げたモデル以外にも、多くのモデルが浮かび上がる。
たとえば、フォルクスワーゲンでは、ゴルフ直系の弟分と言えるポロの1Lターボ搭載グレードが楽に300万円で手に入る。新型にモデルチェンジをし、以前よりもグンと存在感を増したプジョー208やシトロエンC3も、やはりベースグレードの価格は300万円を大きく下まわる設定だ。
一方、デビューから時間が経つものの、デザインや乗り味で輸入車ならではの個性に満ちあふれるフィアット500や、MINIのベーシックグレードも、立派な選択肢として名を連ねている。
せっかく乗るなら「味わい深いモデルを」となると、やはり俄然注目度を増すのが輸入車たち。そして、実はそんなクルマ選びに際しては、価格の高低など関係ないということを、図らずも今回の2モデルが証明してくれる形となったようでもある。(文:河村康彦/写真:村西一海)
アバルト595主要諸元
●全長×全幅×全高:3660×1625×1505mm
●ホイールベース:2300mm
●車両重量:1110kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1368cc
●最高出力:107kW(145ps)/5500rpm
●最大トルク:180Nm/2000rpm*
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・35L
●JC08モード燃費:13.0km/L
●タイヤサイズ:195/45R16
●車両価格(税込):300万円
*SPORTスイッチ使用時は210Nm(21.4kgm)/3000rpm
ルノー トゥインゴ S主要諸元
●全長×全幅×全高:3645×1650×1545mm
●ホイールベース:2490mm
●車両重量:950kg
●エンジン:直3DOHC
●総排気量:997cc
●最高出力:54kW(73ps)/6250rpm
●最大トルク:95Nm/4000rpm
●トランスミッション:5速MT
●駆動方式:RR
●燃料・タンク容量:プレミアム・35L
●WLTCモード燃費:19.3km/L
●タイヤサイズ:前165/65R15、後185/60R15
●車両価格(税込):181万5000円
200~300万円台で選べる欧州コンパクト(1)
快適性が増したアウディの最小モデル
アウディA1スポーツバック25TFSI:294万円
アウディ A1 スポーツバックの場合、唯一「25 TFSI」が300万円以内に収まる。ヘッドライトをはじめとした装備の仕様がほかのグレードと異なるが、安全運転支援システムのアウディプレセンスフロントは標準装備されるなど、必要なアイテムが揃っている。
200~300万円台で選べる欧州コンパクト(2)
小さくても質実剛健な走りと作りは健在
フォルクスワーゲン ポロ(1Lターボ車):229万9000円~284万9000円
1Lターボ車が車両本体価格300万円以内。ベースグレードのTSIコンフォートラインでもインフォテイメントシステム「 Ready 2 Discover」やLEDヘッドライト、プリクラッシュブレーキシステムを標準装備する。さらにオプションのセーフティパッケージとDiscover Mediaパッケージを選べば、より安全装備が充実する。
200~300万円台で選べる欧州コンパクト(3)
ピュアなMINIを楽しみたい人へ
MINI ONE(3ドア):267万円
3ドアのMINIのベーシックグレード「ONE」の車両本体価格は300万円以内。さらに2021年3月時点ではMINI ONEベースでアルミホイールやLEDヘッドライトなどを標準装備した特別仕様車「VICTORIA」が299万円で販売中だ。これら以外のグレードは300万円以上となる。
200~300万円台で選べる欧州コンパクト(4)
カブリオレも選択できる稀有な存在
フィアット500/500C:200万円~295万円
フィアット500/500Cは、全グレードの車両本体価格が300万円以内だ。また、オープントップも選択できる。全長はわずか3570mmとコンパクトながら、リアシートを備え、4名が乗車可能だ。最小回転半径は4.7mと小回り性能が高く、日本の道路事情にもマッチする。
200~300万円台で選べる欧州コンパクト(5)
新プラットフォーム「CMP」採用で走りも進化
プジョー 208:249万9000円~299万円
新プラットフォーム「CMP」を採用し、日本仕様には1.2L直3ターボエンジンが搭載される。メーターパネルを小径ハンドルよりも高く配置した3D iコクピットや、爪あとをイメージした発光パターンのライト類など最新のプジョー車のアイコン的なアイテムも多数採用している。
[ アルバム : ルノー トゥインゴ S× アバルト595 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
フィアット500かVWのUPとかですよね。
何故アバルトが?
格もパワーも違い過ぎる。
強いて比較するならミニでしょう。
トゥインゴもUPもポロも
GTモデルが無くなり寂しい限りです。
MTで楽しい車が希少になりつつあります。
明らかに刺激の強いのはアバルトのほうでしょ。