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日本車なのに日本語の車名なぜ少ない? 英名カタカナ表記のネーミングの理由とは?

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日本車なのに日本語の車名なぜ少ない? 英名カタカナ表記のネーミングの理由とは?

 日産&三菱の協業によって生まれる軽EVに「さくら」の車名が付けられるらしい。そこでふと、日本語(和名)の車名が付いている車種を思い浮かべて見ると、トヨタミライ(未来)、トヨタカムリ(冠)、スズキキザシ(兆し)、いすゞアスカ(飛鳥)……と極端に少ない。日本の自動車メーカーは8つもあるというのに、なぜこんなに少ないのか? 

 そこで、今回は日本車なのに和名の車名がなぜ少ないのか? 何か理由があるのか、モータージャーナリストの岩尾信哉氏が考察する。

日本車なのに日本語の車名なぜ少ない? 英名カタカナ表記のネーミングの理由とは?

文/岩尾信哉
写真/トヨタ、日産、三菱、スズキ、いすゞ、ベストカーweb編集部

■日本車なんだから和名の車名がもっと増えるべき?

最新の軽EVは「サクラ」というネーミングになるといわれているが、S110型シルビアのメキシコ車名にも桜(サクラ)という車名が付けられていた

 日本車の車名に日本語由来の言葉、「和名」のネーミングが与えられた例はさほど多くはなく、数は圧倒的に限られてきた。過去に日本語のネーミングがほとんどない理由を考えて見よう。

 第二次大戦後に日本の自動車メーカーが発展を望み、国内市場はもとより世界市場に打って出るにあたって、欧州的な数字の羅列ではなく、マーケットでのわかりやすさを重視して、米国的なキャラクターをイメージしやすい名前を与えたいといった、日本メーカーの思惑が働いたのではないか。

 商品としての国産自動車が日本の伝統文化に根付いたものではなく、西洋文化を導入した製品であることを踏まえ、商品としては英名(と欧州各国の言語)のカタカナ表記が大衆に認められやすく、海外モデルへの憧れとわかりやすさを重視した英名がほとんどになってしまった。

 いっぽうで最近では、光岡自動車(以下、ミツオカ)が車名に日本語由来の漢字表記を用いて独自性を主張して、少数派ながらも注目を浴びてきたことを忘れてはいけないだろう。

 というわけで、この項では日本語由来の名を持つ日本車を取り上げてみることにしたい。日本語の意味合いを含む「造語」を用いた車名については、数が余りにも膨大になってしまうので、今回取り上げることは見送らせていただく。

■トヨタの日本語由来の様々な命名

 まずはトヨタからチェックしていこう。現行車ではカムリ(冠)、ミライ(未来)といったモデルが思い浮かぶ。少し発想を広げると、GRハチロクもいうまでもなくAE86(カローラレビン、スプリンタートレノ)由来の愛称からとった、日本語由来の車名といえるだろう。

 過去に遡れば、1994年発売(1999年販売終了)の2ドアクーペ(セリカのノッチバック版)のカレンは、てっきり日本語の「可憐」と思いきや、トヨタによれば、英語の「Current」(時勢の、流行の、の意)とのことになる。最近では2009年発売(2017年販売終了)のSAIは「才」と「彩」の両義を合わせた高級感を狙ったネーミングが施されていた。

 次にトヨタ車のなかでグレード名などに日本語由来の名が付けられている例を挙げてみよう。タクシー専用車であるジャパンタクシーにはふたつのグレードに和名が設定されている。アルミホイールやメッキ加飾などの装備が加えられた上級仕様の「匠」と標準仕様の「和」(標準グレード)が用意されている。

ジャパンタクシーには上級グレードの「匠」と標準グレードの「和」が用意される。内装色はそれぞれ「黒琥珀」と「琥珀」と呼ばれる。ボディカラーには日本語名の濃い藍色の「深藍」が用意されている

 トヨタの特別仕様車のネーミングで馴染みがあるのは、ミニバンのヴォクシーに設定されてきた「煌」(きらめき)だろう。ヴォクシーは2001年11月にノアとともに発表され、2002年7月にヴォクシーに特別仕様車「煌」が設定された。

 「煌」には各世代にII、III、Zなどとバージョンを追加設定して、歴代ヴォクシーに設定されてきた。ブラックのボディカラーをイメージの中心として、めっきの加飾をグリル周りなどに与えて硬派な雰囲気を与えている。

2001年登場の初代ヴォクシーに設定された特別仕様車「煌」。2007年6月の2代目でも、同年7月には煌バージョンが更新されている。ベースとなるグレードの変化により、煌には、II、Z、IIIを用意。めっき加飾などが特徴として。2014年1月に3代目でも設定された。写真の3代目末期の2020年10月には、最終盤といえるZS煌IIIを発売。フード周囲のモールやセンタークラスターパネルなど、内外装の随所にシルバーを配して「煌き」を演出している

センチュリーのボディカラーには神威(かむい)、摩周、飛鳥、精華という和名が付けられている

 かなり特別な日本語表記の使用例と言えるのが、トヨタがセンチュリーのボディカラーに日本名を採用していることだ。ショーファードリブンの公用車やVIP仕様車として使用されるセンチュリーだけあって、特注の多層仕上げの塗装が施されている。

 センチュリー専用色となるエターナルブラック「神威(かむい)」は、漆黒感を高める黒染料入りのカラークリアなど7層もの塗装に、研ぎと磨きを加えて奥深い艶と輝きを追求。「日本の伝統工芸の漆塗りを参考に、流水の中で微細な凹凸を修正する「水研ぎ」を3回実施し、さらにその後、一点のくもりも残さないよう「鏡面仕上げ」を施しています」とある。

 その他、の外装色は摩周(シリーンブルーマイカ)、飛鳥(ブラッキッシュレッドマイカ)、精華(レイディエントシルバーメタリック)が用意されている。加えておくと、内装設定にもウールファブリック仕様は「瑞響」、本革仕様は「極美革」を設定している。

■日産のセンス溢れるネーミング

 日産の日本語由来の車名は、数は少ないながらも、印象的な日本語をイメージさせるネーミングが施された例がある。現役世代としては残念ながら生産中止が予定される「フーガ」(風雅)がある。

 2004年10月にそれまでのセドリック&グロリアを受け継ぐ形で誕生した「フーガ」(FUGAの表記はイタリア語)は音楽用語で、J.S.(ヨハン・セバスチャン)・バッハによって確立された音楽形式の名称。日本語の上品で優美さを意味している「風雅」の意味合いとともに、このモデルの持つ「優雅さとダイナミックさの調和」が「(音楽の)フーガ」の持つ「調和」と通じるところにちなんだとされている。

フーガはクラシック音楽の形式と日本語の「風雅」の意を併せ持つ造語に近いネーミングは、シーマなどとともにかつての日産には見られた、最後の洒落たネーミングだったかもしれない。残念ながら日産の上級セダンの歴史(インフィニティでは残るのだろうが)は途切れてしまうことが決定した

 過去にはミニバンのプレサージュの上級の兄弟車である「バサラ」(婆娑羅、サンスクリット語起源)があった。「人々の形式や常識から逸脱して奔放で人目を引く振る舞いや、派手な姿格好で身分の上下に遠慮せず好き勝手に振舞う者たち」を意味する。バサラは1999~2003年にラインナップされていたが、日産の販売店再編により、兄弟車といえるプレサージュ(1998~2009)よりも先にラインナップから外された。

 その他には、コンパクトカーのティーダも日本語由来といえ、沖縄の琉球語の太陽を意味する「てぃだ」に由来していた。2008~2012年に販売され、ノートにコンパクトカーの役割が引き継がれた。

「バサラ」という車名の由来は、ダイヤモンドを意味するサンスクリット語の「ヴァジャラ」が伝わって生まれた日本語「婆娑羅」で、ダイナミックで輝くような存在感を表現したとされている

■オーテックの特別仕様車「キタキツネ」

 いっぽう、特別仕様車ではRV全盛時代に、オーテックジャパン(当時、後のオーテックはブランド化された)が生みだしたのが特別仕様車の「キタキツネ」だ。

 1994年にセレナに設定された特別仕様車である初代「キタキツネ」は、専用のグリルガードやルーフスポイラーを与えられたグリーンとグレーの2トーンカラーがカジュアルな雰囲気を漂わせていた。

 2002年9月には2代目セレナにも「キタキツネ」が登場した。その後はバネットの「ウミボウズ」やラルゴの「ヤマアラシ」などRVの特別仕様車を生み出すきっかけとなった。

2代目セレナのキタキツネ。基本的に特装車両車を手がけていたオーテックジャパン(後にオーテック・ブランドとしてモデルラインナップに組み込まれた)が仕上げた特別仕様車が「キタキツネ」。いかにもRVらしさに溢れたキャラクター作りが印象的だった

■海外市場向けの日本語ネーミング

1972札幌冬季オリンピックでサッポロの名が世界的に知られたことから三菱はギャランラムダの欧州、南米向けにはサッポロという車名が付けられた

 その他の日本メーカーでは、地味ながらも日本語由来の車名がわずかながらも見られる。

 三菱の現行車種では軽自動車のeKワゴン(eKクロス)は、「いい軽」とダジャレレベルながらギリギリの線だろう。海外では三菱は、1976年に発売された三菱ギャランラムダの欧州名および南米名は三菱サッポロ、英国では三菱コルトサッポロを名乗った。ショーグンの車名で知られえいるパジェロは英国でショーグン・スポーツの名が生き残っている。

 ダイハツのきわどいプチ日本語ネーミングを挙げれば、「タント」がその例といえる。「たんと」(数量が多い、豊富、いっぱいの意)からの由来はイメージできるが、実はほぼ同義のイタリア語とされていても、充分「日本語的」といえる。

 スズキでは1998~2009年に「Kei」という軽自動車モデルが登場した。「軽」そのままのネーミングには発表当時は驚かされたものだが、コンセプトは今風にいえばクロスオーバーSUVかもしれない。スズキの本気を感じさせたのが「キザシ」(兆)だ。2009年に発売された北米市場を意識したミドルクラス・セダンは、「世界の市場に向け、新しいクルマ作りに挑戦する」という挑戦的なコンセプトが掲げられていた。

日本市場では分が悪いとはいえ、生真面目な4ドアセダンとして登場した「キザシ」(兆)は、北米市場での販売も見据えて開発されたスズキのフラッグシップモデルだった。日本市場では2015年まで販売された

 海外仕様としては、スズキが日本名としては北米仕様のジムニーに「サムライ」の名を与えているのは、ジムニーファンにはよく知られていることだ。

 なお、スズキは二輪メーカーとして、「隼」(ハヤブサ)や「刀」(カタナ)のモーターサイクルがあるが、ジムニーには他にもインドネシア仕様のジムニーにカタナと呼ぶ例もあって、海外市場向けに配慮したネーミングといえる。

 最後に日本メーカーの過去の日本語車名として触れておきたいのは、2002年に乗用車の販売から撤退したいすゞのアスカ(飛鳥、発表当時はフローリアンアスカ)だ。自社製といえる初代(1983~1990)は、当時傘下にあった米ゼネラルモーターズの「J-Car」のいすゞ版の真っ当なセダンだった。2L直列4気筒エンジンに5MT、3速ATに加え、いすゞ独自の電子制御5段オートマチックトランスミッション「NAVI-5」を搭載していた。

 いすゞのHPから「車名の由来」を抜粋すると、「日本文化が初めて花開いたのは、飛鳥時代であるが、これは外国から伝来した文化をもとに、日本人の情感とたくみさを加えて完成したものである。これからますます国際化する車のありかたを考え、この車にふさわしい名前として選定した」とあって、当時の作り手としての気概が伝わってくる。

悲運といってよいいすゞの4ドアセダン「アスカ」(飛鳥)。かつて「ビッグスリー」と呼ばれた米国メーカーであるゼネラルモーターズのワールドカー戦略の一端を担った

■光岡自動車の和名路線の変遷

 さて、日本語由来のネーミングを広めた日本メーカーといえば、いろいろな意味で衝撃的だった光岡自動車(以下、ミツオカ)に違いない。既存の日本メーカーの手法である英語を基本とした命名方法を逆手にとって、ネーミングに日本語由来のオリジナルなイメージを作り出すことで、既存のメーカー製品との差別化を図った。これにより和名のモデルといえばミツオカの一連のモデルが思い浮かばせることに成功したといえる。

 ミツオカは過去にはカスタムカーや輸入車販売の「BUBU」ブランドを展開。「10番目の自動車メーカー」として、1996(平成8)年当時はスーパーセブン風の「ゼロワン」で国土交通省の型式認証を受けた車両を販売するに至った。

 最近ではトヨタRAV4ベースの「バディ」やマツダロードスターベースの「ロックスター」といったアメリカ車のデザインを思わせるモデルが好評だが、現在ではモデルのキャラクターごとに対応して、和名にこだわることはなくなっているようだ。ここからは、ミツオカの日本語由来の名を与えられたモデルを独断ながらピックアップしてみたい。


●ビュート/「美」「遊」「人」

 ミツオカの日本語由来の名で登場した、一躍ミツオカの名を一気に世間に知らしめたヒット作が「ビュート」だ。2代目の日産マーチをベース車両として生まれたのが1993年。車名は美しく遊ぶ人という「美」「遊」「人」と「view」(風景)が由来の造語だが、製作面でメーカーと協力して生み出されたコンプリートカーとして広く世間に知られるようになったビュートを、一連のミツオカ製品の和風ネーミングの流れを生みだしたモデルとして外すわけにはいかない。

 5ドアボディを基本としてFRPボディパネルを前後に与えてセダンスタイルに変え、グリルと丸目2灯を組み合わせてジャガーMk2風のマスクを仕立て、革シートなどを装備してレトロな雰囲気のキャラクターは現在も変わらない。

常に日産マーチをベースとして仕立てられてきたミツオカビュート。現在の3代目となるビュートもタイ生産の4代目マーチを基本とする(写真)。なでしこはリア部分をセダン風に変えることなく、ハッチバックスタイルのままとされている


●オロチ/「大蛇」

 ミツオカの最も注目を浴びたモデルと言えるのが「オロチ」(大蛇)だろう。2006年に登場、日本の神話に登場する怪物である八岐大蛇(ヤマタノオロチ)から得た大蛇のネーミングとともに、賛否両論あったスタイリングなども含め、強烈な個性を備えた「オロチ」は、スーパーカーと呼んで差し支えないと思う。

「オロチ」は、2001年の第35回東京モーターショーに初出展した際のコンセプトカーとして誕生した。「あまりにも大きな反響をいただき、市販化を決定。国産車にこだわり、設計開発に費やした時間は実に5年と、安全性、環境対策などの厳しい法基準の中での自動車開発は小さな乗用車メーカーにとって究極の試練でした。乗用車では1996年のミツオカ・Zero1以来の型式認定車となった「オロチ」は、2006年10月に市販モデルを発表し、2007年4月より発売を開始いたしました。」(光岡自動車HPより抜粋)

オリジナルのデザインとともに強烈な個性で注目を浴びた「オロチ」(大蛇)。なによりこのモデルを実現したミツオカの勇気ある決断を評価すべきだろう


●ガリュー/「我流」

 日産からベース車両の供給を受けたセダンであるガリュー(我流)は、ロールスロイス風のグリルには世間に批判されようが、インパクトがあったことは確かだ。

 1996年に登場した初代はタクシー用途を基本としたクルー、2代目がY31型セドリック&グロリア、3代目はフーガ、4~5代目はティアナをベースとして、2020年まで販売された。

ガリュー(我流)は日産のセダンをベースとしたモデル。初代のベースはクルーだった

先代となる4代目からはティアナをベースとして、5代目も生産終了した3代目ティアナを基本とした。ロールス・ロイス風のフロントデザインは、先代のトヨタカローラセダン、フィールダーをベースとする「リューギ」(流儀)に受け継がれた。写真はガリュー(5代目)

●リョーガ/「凌駕」

B15型サニーをベースとした2代目凌駕

 1999年に発売された初代は、2代目(P11型)プリメーラ&プリメーラワゴンがベース。グリルを除けば、手を加えられた範囲は少なく、ミドルクラスへの販路拡大を狙ったモデルといえた。

 2代目(写真)はベース車両をB15型サニーとして、前後ボディパネルをクラシカルなデザインに変更。価格も先代よりも抑えていた。

●ヒミコ/「卑弥呼」

邪馬台国の女王とされる人物に由来するネーミング。マツダロードスターをモーガン風に仕立てるために大幅に手を加えられた。2008年発表の初代卑弥呼はNC型、写真の2代目卑弥呼(同2018年)はND型をベースとする

●レイ/「麗」

ミラジーノをベースとした3代目麗

 初代レイ(麗)はフロントにヴァンデンプラ・ブリンセスなどで知られる、英国BMCのADO16風のグリルが特徴。初代(1996~)、2代目(1999~)のベース車両はマツダキャロル、3代目(2002~2004)はダイハツミラジーノ(初代)をベースとした。

 初代と3代目は内装に木目調パネルを与えられていた。ミツオカが仕立てた軽自動車ベースのモデルは意外と少ないこともあって、希少性も備えている。

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