夏の日本とはまったく季節が逆となり、スキーシーズンに入ったばかりだったニュージーランドのクイーンズタウン。そこにあるSHPGというテストコースでBMWニュージーランドが開催したスノードライブエクスペリエンスに参加した。(写真:BMWジャパン)
ツインドリフトとMサウンドで出迎えてくれた
今年(2018年)の夏は本当に暑かったという印象ばかりが残っているが、そんな最中に数日、酷暑の日本を抜け出して避暑地、いや寒冷地に向かった。雪と氷の上でBMW車を操る技術をマスターする機会を得たためである。
今回取材に参加したのは、BMWニュージーランドが主催している「BMW ALPINE xDRIVE」というスノードライビングエクスペリエンスイベントで、これはどうやら2014年あたりから開催されているようである。
場所はニュージーランド、つまり南半球なので日本とは季節が真逆、現地は冬だった。到着したクイーンズタウンは、首都オークランドよりもさらに南。道路にこそそれほどまだ積雪は見られなかったが山の上はしっかりと雪が積もっているようで、スキーシーズンが始まったばかりという時期である。
そこは連日最高気温が35度を超える猛暑の日本からは考えられないほど、日中はとても快適で涼しいのだが、夜はちょっと寒いぐらいだったので持ってきたダウンジャケットも大活躍してくれた。
ところでもともとBMWは、こうしたイベンントの開催には積極的だ。ドイツをはじめ冬にはスウェーデンなどでスノードライビングエクスペリエンスが開催されている。そしてそれはBMW M社の重要な役割のひとつでもあるのだ。
「BMW ALPINE xDRIVE」が行われた場所は、クイーンズタウン空港からクルマで約1時間ほどの山中にあるSHPG(Southern Hemisphere Proving Ground)という施設である。そこは6月から9月までの期間、ヨーロッパやアメリカ、日本などの自動車メーカーやタイヤメーカーが雪上&氷上テストを行う場所としても使われている。北半球のメーカーは、積雪のない夏の間はここで性能を磨きクルマやタイヤを開発するのである。実際にSHPGに到着してぐるりと走ったが、なにやらテスト中のクルマやテスト施設などをちらりと見ることもできた。
ヘリコプターで一気に山頂へ。朝からエキサイティングだ
BMWニュージーランドのウェブサイトによれば、このイベントの参加費用は、2850ドル(約32万4000円)だが、それには、クイーンズタウン空港からの送迎、5つ星高級ヴィラスイートであるミルブルックリゾートに2泊(朝食を含む)、到着した晩のウエルカムディナー、クラブハウスでのディナー、 ロゴ入りオリジナルジャケット、SHPGへのヘリコプターでの移動、そしてBMW M車やxDriveモデルを使ったスノードライビング体験などが含まれている。
参加当日は最高の天候で、気持がいい快晴であった。雪質もとてもよくこんな日にスキーをしたら最高だろうな、と思うほど。寒さよりも日焼けを心配しなければならないほどの陽気であった。
まずヘリコプターでSHPGに向かう。実は、人生初のヘリコプター体験である。数カ月前にヘリコプターに乗るチャンスがあったが、悪天候のため直前でフライトがキャンセル。今回はそのリベンジを果たしたことになる。「酔うよ」とか「揺れるよ」とかいろいろと言われていたけれど、そんな心配をよそに、とても快適なひとときだった。風もなく快晴。ヘルコプターの中から見る山の景色はとても美しいものだった。
そして現地に到着した我々を迎えてくれたのはMサウンドであり、BMWのフラッグのまわりをドリフトして回り続けているM2とM4であった。完璧にコントロールされ、まるでダンスのようにツインドリフトする2台のMモデルを見ていると次第に気持ちが盛り上がってくる。後で自分もそんなことができるようになるとも知らずに、ド派手な演出だなぁとその時は思っていたのである。
いよいよイベント開始だ。いや正確にはヘリコプターに乗ったときからイベントは始まっていたのだが、どれもが普段は経験できないようなエキサイティングなメニューとなっていた。
最初にイベントセンターでプレゼンテーションが開かれたが、その会場前には日本では発売されたばかりのX2が展示されていた。もしかしたら今日、乗れるかも……とちょっと期待していたけど、さすがにそれは無理だった。
ドライブトレーニングに用意されていたBMWモデルは、X3やX5、X4といったXモデルのほかに、3シリーズツーリングのxDrive搭載車、そしてM2、M4、M5といったMモデルたちなどである。とくにM5は日本では導入されたばかりだったので私は、ファーストドライブだった。
アクセルペダルのオンオフでドリフトをコントロールする
チームは2人1組。私の相棒は雪が降らないシンガポールから参加していた。そんな彼にとってこうした経験はとても貴重なのだという。さらにスノードライブの経験もほとんどないのだと言っていたが、その言葉どおり、最初は雪上でクルマを運転することにも苦戦していたのだが、イベントの終盤では見事に操っていた姿が印象的だった。もちろん私は、スノードライブは初めてではなかったが、それでもM5でのテストドライブをとても心待ちにしていた。
最初にインストラクターから簡単なレクチャーを受けてさっそくスタートだ。まずは先導車に付いていきながらSHPG周辺を走った。それほど速度も速くない。まずは運転に慣れろ、ということなのか。運転を交代しながらほぼ1周して次にメニューに移った。
次のドライビングモジュールはパイロンに沿って8の字にドリフトしながら回り続けるというもの。アクセルペダルとハンドル操作でクルマをコントロールするのである。運転したのはM2とM5だ。
ここでいよいよM5のハンドルを握ったのだが、その印象は豪快に雪を蹴散らしながら走るというものだ。M5のハイパワーを雪上で解放すればどうなるのか、とても興味深かったのだが、果たしてM5は雪上でも最高のパフォーマンスを見せてくれたのだった。とても扱いやすく運転しやすい。さすがxDriveを採用しているだけのことはある。上手くドリフトさせながらコントロールできたときは興奮を覚えた。最高の気分だ!
シンガポールの彼に「M5を運転するのは初めてなんだ」と言ったら「本当に初めて?」と驚かれたほどだ。それで私はちょっと気をよくしてしまったのだがよく考えてみれば、彼は雪上で運転するのが初めてなのだから、私の運転でも上手いと思ってしまったのかもしれない。そんな彼も、インストラクターの指示どおり経験を重ねると、雪上でクルマを操ることがどんどん上手くなっているのが隣に座っていて手に取るようによくわかったのだ。
充実した一日だったのはみんなの笑顔が物語っている
1日中、BMWを雪上でどうやって運転し、操るのか。それだけに集中していたら自分の運転スキルがどんどん上がってくることがわかる。クルマが滑り出すのを感じた時にどう対処したらいいのか、またどうやればドリフトさせることができるのか、その姿勢を維持するにはどうしたらいいのか、そして思いどおりにクルマを曲げ、止めるにはどうしたらいいのかがわかるのである。
ハイパワーマシンを動かすことさえ困難な雪道でそれを完璧にコントロールする。絶対速度はそれほど高くないし雪上ということもあって滑り出しても比較的穏やかなのでそこから修正舵を入れてもクルマが立ち直る。ただそれがオーバーすぎたり、少なすぎたりすると前に進まなくなるが、ちょうどいいパワーを引き出すことができてさらにハンドル操作で行きたい方向にクルマが向けられ、そこに進んでいくというのはとても気持ちいいものだということが改めてよくわかった。
Mモデルを雪上でスムーズに運転できたときの喜びは、自然と頬が緩んでしまうほどなのだが、こうした状況では、クルマの安定性や完璧な制御がとてもよくわかるのも発見だ。通常はわからないように介入している制御が、雪上の氷上のようなミューの低い状態ではとてもわかりやすく、そしてその効果が体感できるのである。
さてお昼ごろには、プロドライバーの運転するM3による同乗走行というメニューも用意されていた。最高出力400psを軽々と超えるハイパワーFRマシンを雪道でどう操っているのかとても興味深いところだったが、それは今まで自分が雪上で走らせていたクルマとはまるで別モノの動きを見せた。コーナーによっては横向きのまま侵入するが、それもドライバーの技量によって完璧にコントロールされているのである。普段はできない、これはとてもエキサイティングな体験である。
ちなみに装着していたのは、スパイクタイヤである。さすがにこうした状況ではスタッドレスタイヤでクルマを思うとおりにコントロールするのは難しい。とくにMモデルならなおさらである。
ドライビングイベントメニューの最後に残されていたのはX3を使った雪上のジムカーナである。特設コースをどれだけスムーズにそして速く走らせることができるのかタイムを競うのだが、それは一日かけて学んだことが発揮できるコース設定となっていた。
そしてすべてのドライビングモジュールが終了するとイベントセンターに戻り、その日の総評とともにそれぞれに参加賞としてオリジナルの認定証が手渡される。その時の参加者全員の笑顔がどんなに充実した一日だったかを物語っていた。それと同時に、こんなに楽しい経験をいろいろな人にしてほしい、こんなイベントが日本でもたくさんできたらいいのに、とも思っていた。
「BMW ALPINE xDRIVE」は、ドライビングエクスペリエンスのなかでもかなり魅力的である。これまでさまざまなイベントに参加してきたが、ここまで楽しいと感じたことはあまりなかった。参加から数カ月経った今も、その時の楽しさを思い出しつつ笑顔になれる印象的なイベントだった。
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