前回、運転中のクルマがインターネットに接続することがドライビングをいかに便利で役立つものにするかを、718ボクスターでの使用例を挙げて説明した。
しかし、ポルシェといえども全能ではなく、うまく運ばないことも見付かった。それは、ポルシェのインターネットソフトウェアである「PCM Connect」を用いてナビゲーションの目的地設定を行おうとする時のことだ。
PCM Connectを使うとクルマに乗る前にクルマから離れたところからスマートフォンのアプリから目的地を設定することができる。これがとても便利で、僕などは翌日に未知の場所に出掛ける時にアプリから目的地を検索し、そこをタッチして設定している。その情報はスマートフォンからインターネットを経由して、PCM Connectのクラウドに上げられる。
翌日、718ボクスターに乗ってナビ画面のタッチパネルを開けると、昨晩、クラウドに上げておいた目的地がそのままナビゲーションに降りてきているから、それをタッチして設定すれば良いだけだ。メモした紙やスマートフォンを見て、いちいち一文字ずつ入力し直す手間が省けて、とても便利なのだ。
しかし、困ったことに718ボクスターを停めているガレージから大通りに出ても、まだPCM Connectがアクティベイトされないのだ。それに1分、場合によっては2分の時間が掛かるのである。
「1、2分なんて待てばいいじゃないか!?」
そう戒められるかもしれないが、僕にとってはその1、2分が重要なのである。
なぜならば、その大通りを右に出れば西へ、左に出れば東に進む。西方向の目的地は単純に西に出ればいいわけではなく、いったん東に出てから次の曲がり角で西に向かった方がベストルートだったりする。同じことは東方向でも起こる。つまり、大通りに出る前に正しいルートを把握しておく必要があるのだ。
他にも、PCM Connectアプリの「カレンダー」の使い方がわからなかったりしたこともあって、購入したポルシェ・センターに問い合わせた。ポルシェ・センターはデモカーで作動を確認してくれたところ、結果は同じだった。
クラウドに収まっている目的地のデータがクルマに降りてくるのには、やはり1、2分を要してしまうということだった。718ボクスターのメインスイッチがONになり、そこからPCM Connectアプリが立ち上がり、インターネットに接続し、アップしてある目的地をリストにしてモニター画面に提示するのには、どうしてもそれくらいの時間は掛かってしまうらしい。こうして文字に書き起こすだけでもそれなりの時間を要するのだから、いくらデジタルとはいっても1、2分は仕方がないのだろう。
「最近のポルシェは、マイナーチェンジやモデルチェンジを経なくても、ほぼ毎年、ナビゲーションやPCMなどのデジタル関連は進化していっています。きっと、その1、2分はすぐに短縮されるのではないでしょうか。カネコさんの718ボクスターでも進化版にアップデイトもできるかもしれません」
担当セールス氏は、いつものような丁寧さで説明してくれた。今後の進化に期待したい。
彼の言うことはもっともだと思った。おそらく、数年後にはポルシェに限らず自動車のコネクティビティはさらに進化を遂げ、ますます便利なものになっていくのだろう。
それがどんなものなのか、ポルシェ・ジャパンに取材に赴いた。応対してくれたのは、ポルシェ・コネクトを担当するアフターセールス部長の石岡理保さん。
まず初めに、PCM Connectがアクティベイトするのに1、2分掛かる問題について訊ねた。
「多少時間が掛かってしまうことはご容赦下さい。今後、ソフトウェアのアップデイトなどで早めることに努めていきます」
なるほど、やはりそうだったのか。
「PCM Connectの目的は、“クルマに乗る間の時間を有効に使う”というものです。ナビゲーションでの目的地の設定を事前に車外からクラウドを使って行ったり、停止中や渋滞中などではニュースを読んだり、クラウドで同期しているグーグルカレンダーを読むこともできます。これらは、今後、さらに増やしていくことになります」
クルマがインターネットに接続することのメリットは時間を有効に使うことだという石岡さんの説明に強く同感した。前回でも触れた通り、運転中のインターネット使用はとても便利なものだからだ。時間を有効に使うことになるし、それは安全運転にも必ず貢献する。
石岡さんはポルシェが考えている“時間を有効に使う”例をほかにも挙げてくれた。
「いくつかありますが、たとえば、コンシェルジュサービスです。お探しの場所やイベントなどをオペレーターが調べて、運転中のポルシェのナビゲーションに位置情報を送り、目的地として設定することまで行います」
他の輸入車やレクサスやホンダなどでも同様のサービスは行われている。24時間、365日、人間のオペレーターが電話で応対して調べてくれ、そこまでのルートもナビゲーションにセットしてくれるというものだ。
“この辺りで、美味しいイタリアンレストランを教えてくれないかな?”
“少々お待ち下さい。素敵なお店が見付かりました!”
そんなやり取りをする日本車メーカーのテレビCMを見たことがある。たしかに便利そうだが、僕だったら自分で調べるので今のところは必要ないかな。利用代金は年間4万3900円(税込。3カ月の無料期間を含む)。
「ヒューマンタッチをお望みの方にご利用いただいています。ブレイクダウンコールというのも、Porsche Connectを経由して事故の際の通知がポルシェセンターに即時に送られます」
こちらは製造から10年間無料で利用できる。
「ほかにも、パナメーラやカイエンなどのプラグインハイブリッドの充電状況やセキュリティの確認などもPorsche Connect経由でアプリを用いて行えます」
それらはポルシェ独自の機能やソフトウェアというものではないが、スポーツカーだからといってコネクティビティに消極的ではない。総合的な自動車メーカーであるのにもかかわらず消極的なところも少なくないのだ。ポルシェは、むしろインターネットの活用に積極的だと言えるだろう。
「ポルシェを運転するということは、日常をいっとき忘れ、車内で過ごす時間を特別なものにすることです。そのために時間を有効に使っていただきたいのです」
つまり、純粋なドライビングではない、運転にまつわる煩わしいこと、に割かなければならない時間と手間をインターネットに代行させようということだ。また、渋滞や長時間運転によるドライバーの疲労や事故の可能性を軽減することもできる。
残念なことに、現代はスポーツカーに乗りさえすればいつでも心躍るドライビングが無条件で楽しめるほど牧歌的な時代ではなくなってしまった。混んだ街中や高速道路をほかのクルマなどと調和しながら走った挙句でないと、ワインディングロードやサーキットには辿り着かないのである。
スポーツカーをスポーツカーらしく走らせて楽しむことができるのは、退屈な単純移動の先のことなのだ。だから、そんなところで貴重な時間と労力を浪費しないためには、インターネットという便利なものを有効に活用するべきなのである。ポルシェがコネクティビティの拡大に積極的な理由を聞いて大いに納得した。クルマ知能化時代のスポーツカーライフはインターネットなしには考えられない。
金子浩久 モータリングライター
1961年、東京生まれ。大学卒業後、出版社で書籍と雑誌の編集者を3年半務め、独立。20~30代には、F1記者として世界を駆け巡る。主な著書に、『ユーラシア大陸1万5000キロ 練馬ナンバーで目指した西の果て』『10年10万キロストーリー』 (1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。
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