日常使いのど真ん中ともいえるCセグメントのハッチバック。質実剛健なクルマ作りが魅力的なインプレッサは新型にモデルチェンジしてどのように進化したのか? そしてマイチェンで2L・NAエンジンを搭載したカローラスポーツの進化は? 水野和敏氏が徹底評価!!
※本稿は2023年8月のものです
文/水野和敏、ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部、撮影/池之平昌信
初出:『ベストカー』2023年9月26日号
新型インプレッサ剛性高っ!! でも水平対向が呪縛に!? カローラスポーツは2Lエンジンが絶品……国産Cセグ辛口比較
■インプレッサとカローラスポーツで対決
今回、水野和敏氏が評価するのは、スバル インプレッサST-H AWD(右)と、トヨタ カローラスポーツ 2.0G “Z”(左)だ
さて、今回はミッドサイズカー、Cセグメントハッチバックの2台です。インプレッサは2023年5月にモデルチェンジしたばかりの新型です。
そしてもう一台、カローラスポーツは2022年10月に大掛かりなマイナーチェンジを実施して、従来の1.2Lガソリンターボエンジンに代えて新たに2L・NAエンジンを搭載しました。
この2Lエンジンは新世代のエンジンで、RAV4やハリアー、ノア&ヴォクシーなどにも搭載されるエンジンです。
従来搭載していた1.2Lターボは、レギュラーガソリン仕様だったために、ノッキング防止を狙ったエンジン制御で、濃い空燃比と、遅い点火時期となっていました。その結果、高温下での出力低下や応答性遅れ、燃費の伸び悩みなどがありました。
新たに搭載されたM20A型2Lエンジンは合理的に造られていて「直噴と、ポート噴射」の両方を備え、運転状況に応じて上手く使いこなしています。実際このエンジンは最大トルクも20.6kgmを出しています。2L・NAのレギュラーガソリン仕様のエンジンとしては大きな出力です。
私は以前から、ガソリンは無駄なく使えるが空気とガソリンの混合時間が不足する直噴方式と、ガソリンの供給には少し無駄が生じるものの、空気とガソリンの混合が上手くできる従来からのポート噴射方式の両方を、クルマの運転状況に応じて上手く使い分ける制御システムが最も合理的と言ってきました。このエンジンはまさにそれ。
寒冷時の始動や、負荷が少ない中低速の走行で、シリンダー内の気流の混合効率がよい状態(タンブル特性)では燃焼室にガソリンを直接噴射する「直噴方式」をメインに使って、少ないガソリンで効率よい燃焼をさせます。
一方、高い負荷をかけたり、加減速の厳しい走行によりシリンダー内部で空気とガソリンの混合時間が短く、さらにタンブル特性も低下している状況では、筒内直接噴射は減らし、かわりにインテーク経路に燃料を噴射させて、空気とガソリンの混合効率を高める、「ポート噴射」を使って、燃費と出力トルクを両立させた性能向上を図っているのです。
そしてこの方式は、この先、規制が厳しくなるガソリンと空気の混合不足により発生する、PM1.5(粒状物質)の削減にも効果があります。
■スバルならではの水平対向エンジン
両車とも、しっかりとした剛性の高いシャシーと車体で安定感の高い操縦性を実現している。ともに操舵に対するフロントの反応はシャープで、気持ちよく山道を走ることができる。インプレッサは硬めのバネに減衰力を緩めたショックアブを組み合わせているのが特徴的だ
一方のインプレッサは、スバルならではの水平対向4気筒エンジンです。同じ2L・NAですが最高出力は145ps、最大トルクは19.2kgmでトヨタの2L・NAには及びません。
水平対向エンジンはスバルのアイデンティティで、低い位置に縦置きにして重量配置を適正化するというプラットフォームコンセプトなので、簡単に変更できない、という事情は理解します。
しかし……この水平対向エンジンが、今では少し呪縛となっていることもまた事実です。
縦置き水平対向エンジンはシリンダーが車幅方向に伸びていることで、どうしてもストロークが制限されます。インプレッサに搭載されるFB20型のストロークは90.0mm。トヨタの97.6mmと比べると圧倒的にショートストロークです。相対的にボアは84.0mmで、トヨタの80.5mmに対しビッグボアです。
現代の中低速領域での実用効率を重視したエンジン設計ではビッグボア/ショートストロークはデメリットになります。燃焼室の直径が大きいと、着火→膨張過程での火炎伝搬のコントロールが難しいし、ストロークの時間が短いと、吸気時~圧縮時のタンブル制御の開発も難しくなります。
同じ2L・NAながら最大出力とトルクは、トヨタの170ps、20.6kgmに対して、スバルは145ps、19.2kgmです。そしてWLTC燃費も、最良18.3km/Lと、16.6km/L(FF)となっています。
また排ガス対策でも水平対向は排気管が左右に分かれるため、排気浄化用の触媒は小型2個となります。
しかも排気ポートがエンジン下側にあり、走行風で冷やされるので、冷間時の始動では触媒が働くために必要な排気ガスの温度確保(保温)が難しく、燃費や排気ガス対応では不利になります。またドライバビリティの面でも不利です。
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