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第8世代となるポルシェ911(タイプ992)は2018年11月のロサンゼルス モーターショー2018で初めて披露された。そして2019年初頭から欧州市場で販売が開始され、日本では7月5日から発売が開始された。そのタイプ992からポルシェのスポーツカー造りへのこだわりを覗いてみた。
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伝統の911
ポルシェ911は、1964年に初代が発売されて以来、グローバルで最も広く知られた、しかも世界トップレベルの高いパフォーマンスを持つスポーツカーとして地位を確立している。高いブランド価値を誇り、スポーツカーだけを造り続けるという特異な自動車メーカーであり、911はポルシェ社のフラッグシップでもある。
ポルシェ911は、デビューモデル以来一貫してリヤエンジン搭載/後輪駆動のRR駆動方式を継承している点も大きな特長だ。また、初代モデルに搭載されたエンジンはフェルディナント ピエヒが開発を担当し、スタイリングはフェルディナント アレクサンダー ポルシェが担当するなど、ポルシェ家の人々によって造り上げられ名声を獲得した。空冷式の水平対向型エンジンや2+2のパッケージング、そしてスタイリングの基本フォルムはその後も受け継がれている。ただし、エンジンだけは排気ガス規制に対応するため、1997年に登場したタイプ996からは水冷エンジンになってる。
しかし、変わらないデザイン手法、受け継がれるレイアウトやパッケージは、911のブランドそのものと言えるかもしれない。このように伝統、名声、そして常に世界のスポーツカーの基準とされ、他に比べようもないスポーツカーである911がタイプ992には、どう受け継がれているのだろうか。
モジュラー・プラットフォーム「MMB」
第8世代となるタイプ992は、スポーツカーとしての資質をさらに高めると同時に、より最新の排ガス規制、燃費基準に対応していた。またデザインは911ならではのデザインDNAをより鮮明にしながら、筋肉質でダイナミックさを強調。そして、インテリアでは10.9インチのタッチスクリーンを装備するなど、デジタル時代に合わせて進化する一方で、スタイリングはかつての911を思い起こさせる水平基調のインスツルメントパネルを採用している。
ボディサイズは、全長4519mm、全幅1852mm、全高1300mm、ホイールベース2450mmで、ワイドトレッド、ショートホイールベース、そして低い全高を形成している。ホイールベースはタイプ991と同一だが、リヤのトレッドは40mm、フロントは45mm拡大されている。従来は4WDモデルと2WDモデルでは4WDモデルの方が全幅は広かったが、今回のモデルからは共通化され、さらに21インチサイズのホイールを装着できるようになっている。そして全長は20mm長くなり、全高は5mmだけ高くなっている。
ポルシェ社は、この911シリーズ、718ケイマン/ボクスター シリーズの基本骨格にMMBモジュラー プラットフォームを採用している。MMBとは「モジュラー ミッドエンジン プラットフォーム」を意味している。つまりRR駆動の911とミッドシップの718の主要プラットフォームを共用化し、さらにそれぞれのボディ バリエーションに適合できるように設計されている。具体的には、フロント ボディ、ミドル フロア、リヤ ボディの3要素から成り、718用、911用のフロント、リヤ ボディとミドル フロアを組み合わせてそれぞれのプラットフォームを製造できるようになっている。
911には、クーペ、カブリオ、タルガの3タイプのボディをラインアップし、さらにベースモデル、ターボモデル、GT3など出力、性能の異なる車種を想定して基本設計が行なわれている。また、911ならではのルーフは、標準のアルミ、マグネシウム、スチールパネル サンルーフ、ガラス サンルーフ、CFRPなどのバリエーションが展開できるように最初から設計に織り込まれている。
ボディの70%がアルミ材
また最新世代のMMBは、ボディサイズが拡大しているにもかかわらず軽量化をしている。そのためボディの材料はマルチマテリアル化が進められ、現在では、アルミ鋳造材が13%、アルミ押し出し材が25%、アルミパネル材が32%(アルミ材合計で70%)、熱間成形の超高張力鋼板が17%、冷間成形高張力鋼板が12%、そして重要な骨格結合部には鋳造鋼(1%)が採用されている。したがってボディ全体ではアルミボディ化と熱間成形材の組み合わせとなっている。
これは車両サイズの拡大、装備品の増大による重量増化を抑え、より軽量化を重視した結果だ。実際、ホワイトボディ重量では、1993年のタイプ993が220kg、1997年のタイプ996が255kg、2004年のタイプ997が270kgと増大してきた。こうした重量増大という負のスパイラルから脱却するために、2011年のタイプ991からはボディ構造、材料を大幅に革新して、11%軽量化し今回のタイプ992ではさらに5%(約12kg)軽量化している。そのためホワイトボディ重量は240kgと1993年モデルに近づいているのだ。もちろん軽量化するだけではなく、ダイナミック剛性、スタティック剛性のいずれも従来モデルより向上している。公表値は静的なねじり剛性は3万9000Nm/度、曲げ剛性は2万5000Nm/度となっている。
ただし、こうした最新のボディはアルミ材や超高張力鋼板を多用しているため、組み立て工程では、従来では考えられないほど多様な製造工程が追加されている。スポット溶接、ガスアーク溶接、クリンチ(圧縮)接合、各種のリベット結合、摩擦溶接結合、構造接着剤の採用、そしてローラーヘミング処理などが行なわれるなど、一般的な乗用車の組み立て工程に比べ、数倍の工程が使い分けられており、それだけ工数をかけた高価なボディとなっているのだ。
また、このタイプ992の開発ではフロント ローディング体制を徹底し、試作車ゼロを実現していることも画期的だ。ただし、量産仕様車が完成して以降は世界各地で徹底して現地テスト走行を繰り返し、細部のチューニングを行なっている。
生産に関しては、世界各地の販売店からの発注に応じて生産を開始し、生産工程での品質チェックと品質データの照合を行ないつつラインが進行し、ラインアウトの時点で完璧な仕上がり品質を確保するという、合理的な生産工程を備え、その生産工程管理は高いレベルで行われている。
エンジン
タイプ992に搭載されるエンジンは「EA9A2」型と呼ばれる3.0L 水平対向6気筒直噴ツインターボだ。従来のEA9A2型を大幅に改良したため、EA9A2evoと呼ばれる。ボア・ストロークは91.0mm×76.4mmと近年では珍しくなったオーバースクエア・エンジンで、圧縮比は10.2。
このエンジンは1気筒あたりの排気量は約500ccと適正だが、スポーツカー用エンジンとしてビッグボア、ショートストロークで、吹け上がりのレスポンスの良さ、高回転性能などを重視している。だが、当然ながら現在の排ガス規制やCO2期制を考えると不利な条件とならざるをえない。
そのためポルシェは、高出力を維持しながら燃費、排ガス対策を徹底する必要があり、それゆえに細部にわたって改良を加えている。この新型水平対向6気筒はインテークシステムを新設計し、左右対称に設計された2個のターボチャージャーを装備。エンジンに対して左右対称に配置されているため、左右のターボチャージャーはそれぞれ逆方向に回転する。圧縮された吸気は新たに配置されたインタークーラーを通過してエンジン内部に送られる。また排気マニホールドは従来の板金製から鋳鉄製に変更されている。
タービン翼の直径は従来より3mm拡大され48mmになり、コンプレッサー翼の直径は4mm拡大され55mmとなっている。最大過給圧は約1.2bar(従来は1.10bar)で、電子制御アクチュエーター、ステップモーターによる電子制御ウエストゲートバルブで制御される。
先代モデルではリヤフェンダー内に配置されていたインタークーラーはエンジン真上、つまりエンジンフードの下へとレイアウトが変更され、サイズもアップ。吸気経路が短縮され、同時に冷却効率は大幅に向上している。
この新型エンジンは、高レスポンス、高精度で、しかも高価なピエゾ式直噴インジェクターを初採用し、燃焼室中央に配置している。ピエゾ式インジェクターは俊敏に開閉できるため、1サイクルあたり最大8回、実際に使用するのは低速・高負荷時に5回噴射するというマルチ噴射を行なうことができる。それに加えて噴射孔がより拡散タイプとなり、燃料の霧化性能が向上している。そのため、燃料圧力は200barのままで、より均一な燃焼を実現している。つまり気筒内の壁面などに付着する燃料や、混合気の不均一により発生する煤粒子を低減しているのだ。
可変バルブコントロールを担当するバリオカム・プラスは初めて非対称のインテーク カムプロファイルを採用し、低中速域では片側の吸気バルブリフト量を小さくしている。つまり低中速域では片側のバルブリフトは2.0mm、もう片側は4.5mmとし、吸気流に差をつけることでスワール流(横向きの渦流)を発生させ、噴射された燃料と混合させることで燃焼速度を高めている。また排気バルブも低中速、高速でリフト量を切り替えるシステムになっている。このスワール流を発生させる吸気メカニズムも低中負荷での燃焼を改善による排ガスレベルの改善が狙いで、CO2排出を低減させるためである。
さらに、新たにガソリン粒子フィルター(GPF)を装備することで、最新のユーロ6d-Temp規制をクリアしている。このエンジンの最高出力は450ps/6500rpm、最大トルク530Nm/2300-5000rpm、最高回転数7500rpm。またこのエンジンのシリンダー部は鉄プラズマ溶射によるライナーレス構造とし、そしてもちろんドライサンプ構造を採用している。
トランスミッション
新型911は、トランスミッションも一新された。ZF製8速PDK(DCT)が採用され、この新設計のトランスミッションは最大800Nmのトルク容量を持ち、可変制御LSDのトルク容量は1000Nmとなっている。
また構造的にモジュラー設計となっており、他の7速PDKと多くの部品を共通化しているのも特長だ。この8速PDKは湿式ツイン・クラッチ+4軸構造で、全長は極端に短いレイアウトになっている。さらに前輪駆動用のアウトプットも備え、デファレンシャル部にはトルクベクタリング用クラッチも内蔵している。
8速化により変速ギヤ比幅は8.06とワイド化されている。なお最高速の308km/hは6速ギヤで達成される。したがって7速、8速は巡航用でエンジン回転を抑え燃費を稼ぐ設定になっている。
また、ギヤチェンジはシフトbyワイヤーで、さらにDモードでは最新のドライバー支援システムとともに協調制御される。例えばACCの作動中、前方に遅いクルマに接近した場合はシフトアップを抑制する、登坂路では自動的にシフトダウンし、登坂を終えるとシフトアップ、カーブでは自動シフトダウンするなど、プレビュー制御機能を備えている。
最高速度308km/h、0-100km/h加速3.5秒(クロノパッケージ装着車)の992は、ニュルブルクリンク北コースのラップタイムが7分25秒で、従来モデルの動力性能を上回り、依然としてスポーツカー カテゴリーのリーダーに相応しい性能を備えている。だが、今後を考えると、少なくとも水平対向6気筒エンジンの将来は相当にハードルの高い改良がさらに求められることを予想せざるを得ない。
ポルシェ 911 諸元表
【新型ポルシェ911 ラインナップ・価格】
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