販売のトヨタが、その武器である販売のテコ入れに着手。トヨタは2020年5月から全国のトヨタで、全車種全店扱いとすることを発表しているが、それに先駆けて2019年4月に東京地区の販社を統合してトヨタモビリティ東京が発足。
現在もハイブリッドカーなど、全系列扱いの車種はあるが、これにより、欲しいと思っているトヨタ車を見に行ったものの、「ウチでは扱っていません」、と断られることもなくなる。
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トヨタモビリティ東京が立ち上げられて半年以上が経過して判明したメリット、デメリットについてクルマ販売関連のスペシャリストの遠藤徹氏が考察する。
文:遠藤徹/写真:TOYOTA、平野学、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】販社統合の本当の狙いは車種整理!? 消滅が噂されるトヨタ車
各販売店とも扱うモデルが倍増
2019年4月、東京地区のトヨタ4系列店のメーカー資本店が統合して「トヨタモビリティ東京」が発足した。
これまでトヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店の4販社があり、扱い車を専売、併売に分けて別々に販売していた。
トヨタ店の専売車種のクラウンも東京地区では2019年4月以降はどこの販売チャンネルでも購入できるようになった
これを統合したことで東京地区は全トヨタ車扱いになった。各販売店にとっては扱うモデルが倍増し、トヨタ系列店同士の競合がなくなったので「商売はし易くなった」と表面上は喜んでいる。これはトヨタ販売店にとってはメリットといえる。
ただデメリットもある。
「扱い車が一度に2倍以上も増え、各モデルの商品内容を覚えるのが大変。同じ車種を扱っている店舗が近くに沢山できたので売れ行きのよくない拠点は他店舗に吸収され消滅してしまう可能性がある」、ということが挙げられる。
2019年12月16日から販売を開始するブランニュー高級ミニバンのグランエースは、全車種全店扱いを半年後に控えていることもありすでに全店扱い
ユーザーへの影響は?
どの販売チャンネルでもトヨタの全車種が商談できる、というのはユーザーにとってわかりやすいというメリットがあるが、ユーザーにとってもデメリットがある。
これまで他系列店は別会社だったので、専売車以外は他系列店間で同じ車種同士を競合させて大幅値引きで買えることができたが、それが同じ会社になったのでできなくなった。
複数販社で競合させて値引き額の上乗せを獲得するのはクルマ購入の常套手段。特に不人気者の場合大幅値引きもあるが、東京地区ではそれはできなくなった
つまり、現在の東京地区では、同一車種ならどの店に行っても値引き額は決まっていて同じなのだ。
その値引き額は抑えられているため、ユーザーは店側の提示する割高なトヨタ車購入をせざるを得なくなっているのである。
ひとつの店舗で購入交渉をして、それを他の店舗に持ち込みさらなる値引きの上乗せを要求しても、コンピュータのオンラインで情報が一元化しているので、他店と商談中であることがわかってしまう。
原則として最初に交渉を開始した店舗にユーザーとの交渉優先権があり、他店舗は商談ができない仕組みになっているのである。
人気車と不人気車の格差が拡大
好調カローラシリーズは元々カローラ店の専売車種だったが、東京地区で全店扱いとなったことは販売を大きく後押ししている可能性は高い
販売店にとってのメリットがどのように具現化しているのかを見ると主要車種は明らかに販売が上向いていることで証明できる。
東京地区は全国の約10%の新車販売構成比だが、高額所得層が多いので高級車ほど高いパーセンテージになっている。
2019年1~10月の登録累計の主な車種はカローラシリーズ、シエンタ、ルーミー、プリウス、タンク、アルファード、ヴォクシー、エスクワイア、ランドクルーザーの9車種が前年同期を上回っている。
カローラを除けば現行モデルは発売後2年以上経過した古いモデルなのにプラスとなっているのは、シエンタ、ルーミー、プリウス、タンク、アルファード、ヴォクシー、エスクワイア、ランドクルーザーの8車種もある。
ただシエンタ、プリウスは従来から4系列店の併売であったので、プラスとなっているのは2018年9~12月のマイナーチェンジによる商品ラインアップの強化によるものといえる。
シエンタは2019年8月、9月の2カ月で登録車の販売ナンバーワンに輝いた。シエンタは元々全店扱いだったので、2列シートの追加の効果が大きかったと予想できる
興味深いのはアルファード/ヴェルファイア、ヴォクシー/ノア/エスクワイアの姉妹車の推移である。
アルファードはプラスで好調な販売を維持しているがヴェルファイアはマイナス、ヴォクシー、エスクワイアはプラスだがノアはマイナスと明暗を分けている。
ボディパネル、エンジンなど基本コンポーネント、価格帯はほぼ同じだが、内外装のデザインで分けている。
これらの姉妹車モデルはいずれひとつのモデルに1本化される方向にあるが、現時点で最も売れ行きのいい車種に統合されるのが有力になっている。
先代モデルはヴェルファイアの人気が高かったが、現行モデルになってアルファードが圧倒。2019年4月以降の販売も明暗クッキリ。将来的にはアルファードに一本化される可能性が高まっている
扱い車が多くなると、営業マンは売りやすい車種を率先して売るようになるから、人気、不人気モデルの格差が生じやすい状況になっている。
最近売れ行き不振に拍車がかかっているのはプレミオ、アリオン、ポルテ、スペイドなどである。プレミオ、アリオンは新型カローラの登場でますます影が薄くなっている。
プレミオ/アリオンは販売面で苦戦しているが、カローラが新型に切り替わってから拍車をかけて存在感が薄くなっているという
販社の淘汰が加速する可能性大
営業マンが主張する意見は、「扱い車が増えたのは販売台数が増やせるチャンスであり、実際成果は上がっている。ただ旧トヨタ店、トヨペット店は店構えが大きく、収益の上がる商売ができるようになっているが、旧カローラ店やネッツ店は小規模店が多いので、統廃合の対象になり易く、戦々恐々状態となっている」と明かす。
ユーザーにとっては東京地区でのトヨタ車同士の競合がしにくくなったが、方法がまったくないわけではない。
トヨタブランドの最高峰に君臨するセンチュリーはトヨタ店の専売車種。どこでも買えることはどこでも整備を受け付けることにもなるが、本当に全店で受け入れ可能なのか疑問は残る。ユーザーの満足度の高いアフターサービスの面に傷がつかないとも限らない
都内では地場資本のトヨタ東都、西東京カローラなど地場資本の販社が残っているし、神奈川、千葉、埼玉など周辺地区では自由に購入できるので、これを活用すれば引き続きトヨタ車同士の競合は可能となっている。
地方は統合後も競合が可能!?
2020年5月からは全国規模でのチャンネル統合が行われる。こうした状況だとメリット、デメリットは東京地区と同様と思われるが実際にはかなり異なる。
東京地区以外だとメーカー資本販社は殆どなく地場資本である。2~3の有力資本が存在し、これらが4系列店を設置し、お互いが激しいシェア争いを演じ「トヨタの敵はトヨタ」状態になっている。
したがって4系列店が「トヨタモビリティ○○」に統合し、全トヨタ車を扱うようになっても、販社の経営基盤は別会社として継続するので、従来どおりトヨタ車同士で競合が可能となる。
これはユーザーにとってはメリットであり、デメリットはあまりないといえる。
販社にとっては扱いモデルが倍増するので、この面では商売がしやすくなるが、別資本会社間の競争は一段と激しくなるので、この点はデメリットになるかもしれない。
スープラ(写真)、86のスポーツカーはデビュー時から全店扱い。もともと販売台数が多いクルマではないので、全店扱いの全国展開後もメリットはないだろう
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