2023年のジャパンモビリティショーで最も話題となったクルマのひとつ、日産「ハイパーフォース」。それは1年半前にスクープしていた次期GT-Rそのものだった!!
※本稿は2023年11月のものです
文、予想CG/ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部、日産
初出:『ベストカー』2023年12月10日号
次期「R36GT-R」になる!? 1360馬力の超ド級スペック!! 日産「ハイパーフォース」市販版は全固体電池搭載BEVで28年登場か!?
■日産ブースで大盛況の「ハイパーフォース」
地面に張り付くようなデザインは、薄い全固体電池だからできる造形だ。可動式のエアロを多用しており、左コーナーでは右側のフロントスポイラーのカナードが展開し、ダウンフォースを発生。フロントフェンダー上のフリップはエアブレーキで、減速時に展開する仕組みだ
「予想よりずっと楽しかった!」という声が多く聞かれたジャパンモビリティショーが盛況のうちに閉幕。
注目すべきクルマが山ほど出展されていたのだが、そのなかの一台が「日産ハイパーフォース」である。
1980年代に人気を博したシルエットフォーミュラを彷彿させる猛烈なデザインのスーパーカー。
基本的な内容はボディサイドのデカールですべて説明されており、1000kW(1360ps)で、ASSB(全固体電池)で、ADVANCED E-4ORCE(先進電動4WDシステム)を搭載するスーパーBEVスポーツということである。
ボディは高強度カーボン製で、NISMOレーシングチームと共同開発した空力ボディ。R(レーシング)モードとGT(グランドツーリング)モードの2種類のドライブモードを設定しており、モードに合わせてインテリアカラーや表示内容が変化する。
インパネのグラフィックは、ゲーム「グランツーリスモ」で有名なポリフォニー・デジタル社との共同開発だ。
写真の赤いライティングはRモードで、GTモードでは青になる。また、Rモードではインパネ全体がドライバーに向かってせり出すようになっている。インパネのグラフィックはポリフォニー・デジタル社との共同開発だ
ステアリングまわりの4つのディスプレイにはタイヤ温度、空気圧、ブレーキローター温度、駆動力配分をリアルタイムで表示。また、サスペンションとスタビライザーは、走行中でも画面上で操作してチューニングできるシステムになっている。
このあたりはコンセプトカーらしいギミックの数々といったところだが、ひとつ興味深い新技術が投入されている。それは「プラズマアクチュエーター」というものだ。
これはリアフェンダーとリアパネルのカドに幅0.1mm程度の細いプラズマ発生器を置き、プラズマの力でリアに発生する空気の渦(抵抗になる)を抑えるもの。
日産はこの技術の特許を出願中で、今後の市販車に生かされるアイテムとなる。また、最先端のLiDAR技術を使った自動運転技術も搭載しているとされる。
そのほか、全固体電池の容量やモーターの搭載位置、数などは明らかにされておらず、まだまだ先のまさにコンセプトカーということだが、ベストカーではジャパンモビリティショーの現場で担当者に直撃取材。その模様を一問一答形式で伝えていこう。
■ハイパーフォースの担当者に直接聞いてみた!!
リアフェンダー下にはクルマの性能を示すデカールが貼られている。R30スカイラインを思い出させる
ベストカー(以下、BC):なぜ、このクルマを作ったのでしょうか?
日産担当者(以下、日産):今年は日産90周年なのです。僕らはスーパーカーと呼んでいるのですが、そういうクルマを出展し、コンセプトを紹介することで90周年を盛り上げたいというのが一番の目的です。
BC:1000kWという出力の駆動配分は?
日産:前後50対50ですね。モーターの数などは非公開なんですけれども、4輪は独立制御しています。
BC:どのような方法で?
日産:すでに実用化しているe-4ORCEは前後2モーターで4輪を独立制御できますからね。モーター数にかかわらず、4輪をきちんと制御する技術は持っていて、モーターの数よりもその技術のほうが価値は高いと思います。
BC:インホイールモーターではないですよね?
日産:その前提ではありません。
BC:御社は2028年度までに全固体電池を実用化すると言っていますが、そうなると実際の登場も?
日産:このクルマがいつ出てくるとか、本当に市販されるのかというのはこれからの検討事項になります。
BC:トランスミッションはどうなんですか?
日産:ポルシェタイカンは2速ミッションが入ってますけど、確かに加速性能、電費性能に効果があります。でも、このクルマには積まないかもしれません。
BC:謎のGT-Rらしきエンブレムが付いていますね。
日産:GT-Rを意識しているのは事実です。でも、これはGT-Rではないです。
■市販版はどうなるのか!?
市販車登場時にはこんなデザインになるのだろうか? ハイパーフォースはフルカーボンボディだが、さすがにそれは無理。しかし、数千万円クラスの高級スポーツになることは間違いなさそうだ(ベストカー編集部作成の予想CG)
日産はこの「ハイパーフォース」を、なぜか頑なに「GT-Rではない」と主張する。
そこまで言うなら編集部としてもその意思を尊重し、「GT-Rのようなスーパーカー」と一歩引いてもいいのだが、そうはできない事情がある。
なぜなら今から1年半前、2022年の春にこの次世代GT-Rの存在をスクープしていたからだ!
この情報を初めて出した2022年5月26日号の内容を要約するとこうなる。
・日産は次期GT-Rを、全固体電池を使ったBEVで開発している。
・最高出力は1000kW級で、前後モーター協調制御のe-4ORCEを搭載。
・競合車としてポルシェタイカンの研究を続けている。
・参戦を続けているフォーミュラEのテクノロジーをフィードバックする。
・目標はニュルブルクリンク最速モデル。
といったところだ。
今年のジャパンモビリティショーにコンセプトモデルが出てくることは予想外だったが、編集部が入手していた情報にあまりにも近くて逆にビックリ。
手前味噌ながら、ベストカースクープの正確さを証明できたと思っているのだ。もうひとつ「開発はアメリカ主導で行われる」という話もあったが、それは不明だ。
これらの入手した情報はすべて「次期GT-R」を指していたものだったから、日産がいくら「これはGT-Rではない」と言っても、我々には「GT-Rにしか見えない」ということになる。
唯一、間違っていた(かもしれない)のは4ドアクーペと予想したこと。
現状での仮想ライバルのポルシェタイカンも4ドア(シューティングブレークもある)だし、デザインの自由度の高いBEVであれば、4ドアでもスペシャルなスポーツカーのデザインはできるはず。
そう読んで、ユーザー層を広げられる4ドアと予想したのだが、今回の「ハイパーフォース」は我々の予想のはるかに上をいく過激なデザインの2ドアクーペだった。
ただし、これも発売に向けて軌道修正される可能性はある。早くて2028年デビューだから5年先。その間の市場や競合車の動向の変化によっては「やっぱり4ドアが望ましい」とならないとも限らないのだ。
■GT-R物語新たな章のスタートだ!
GT-Rの象徴である丸目4灯のテールライトは必須アイテムとなるだろう。リアのカドに配置される新開発の空力デバイス「プラズマアクチュエーター」は市販車にも採用されそうだ
「ハイパーフォース」は自動運転を標榜しているが、それは将来的な目標というものだろう。
また、AR(拡張現実)とVR(仮想現実)を体験できる専用ヘルメットを装着することで、リアルとバーチャルの走りの融合を目指しているともされるが、そのあたりの狙いや内容は正直よくわからない。
しかし、GT-Rが全固体電池を使ったスーパーBEVスポーツに生まれ変わるのは、もはや決定事項と言っていい。今回のジャパンモビリティショーは、日産がその意思表示をする場になったということなのだ。
日産は2028年度までに全固体電池を実用化するとの目標を掲げている。搭載車第一弾にGT-Rを選ぶのは、世界に向けて技術力をアピールするのに最高の戦略と言える。
メインマーケットをどこに想定しているのか、生産工場や生産方式をどうするのかなどは今まさに検討中ということだろう。北米をメインにするならBEV補助金の対象車となるために、北米で生産することも考えられる。
「ハイパーフォース」はインパクト重視の奇をてらったデザインに見えるが、実は強力なダウンフォースと高い冷却性能を確保するために計算し尽くされたデザイン。
とはいえ、さすがにこのままのデザインでの市販化は考えられず、「このテイストで市販車を作るとしたら?」を形にしたのが今回のCGだ。
2028年のラインオフに向けて、日産は次期GT-Rのコンセプトを明確にした。物語はこれから始まる。
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