運営元:外車王SOKEN
著者 :守屋 健
電気自動車やPHEV車シフトへの布石?2030年までにドイツすべての新車を無排気化か
ドイツでは新型コロナのパンデミック以降、自転車の販売が非常に好調です。パンデミック発生直後、各メーカーの直販サイトでは多くの製品が売り切れ、または品薄状態になるほどの人気ぶりでした。2022年4月現在の状況は少し落ち着いたものの、自転車を通勤で利用したい人や、自転車旅行を楽しみたい人が多くいるため、売上は依然として好調を維持しています。
そんな中、今ドイツで熱い視線を注がれているのが、「S-Pedelec」と呼ばれるタイプの自転車です。S-Pedelecとは「45km/hまで出せる電動アシスト自転車」のことで、ドイツでは都市圏を中心に、バイクやクルマ、公共交通手段にかわる乗り物として注目されています。
強力なアシスト機能によって簡単にスピードが出せる一方、法や道路の整備などがまだ追い付いていない感があるS-Pedelec。今回のドイツ現地レポは、S-Pedelecのドイツにおける扱いやメリット・デメリットなどについて紹介します。
■S-Pedelecとは?
ここで、ドイツにおけるS-Pedelecの定義について、もう少し詳しく説明しましょう。
今までに販売された95%の電動アシスト自転車は「Pedelec」と呼ばれ、速度が25km/hになるとアシスト量はゼロになるのが特徴です。モーターの連続定格出力は250Wまでに制限されています。Pedelecは通常の自転車として扱われ、ヘルメットの着用義務や運転免許証は必要ありません。また、自転車道も通行可能で、電車やバスなどの公共交通機関にも持ち込みが可能です。
一方の「S-Pedelec」は、モーターの連続定格出力が4kW、最大速度は45km/hまでに制限されています。上記のPedelecと比べると格段にパワフルでスピードも出せますが、ドイツでは原動機付自転車の扱いとなり、クラスAMの運転免許証が必要となります。他にも、自賠責保険への加入やヘルメットの着用、ナンバープレートの装着、ライトやバックミラーなど保安部品の装着などが義務付けられます。
走行場所や車両の取り扱いにも注意が必要です。ドイツの現在の法律では、S-Pedelecは「Mofas frei(モペッド通行可)」の標識が付いていない限り自転車道を走行できず、通行は車道のみ許可されています。
またドイツでは、自転車にトレーラーを付けて荷物を運んだり、子どもを乗せたりすることが一般的に行われていますが、S-Pedelecにこうしたトレーラーを装着することはできません。また、電車やバスに持ち込むことも禁止されています。
ドイツで単に「E-Bike」というと、PedelecとS-Pedelec、そしてペダルがなくモーターのみで走行する電気スクーターの3種類が含まれるため、近年は「S-Pedelec」のような呼び方でそれぞれを区別することが増えてきています。
■S-Pedelecを使うメリットとは?
こうして見ると、どちらかというとデメリットの方が多いような「S-Pedelec」ですが、実際に乗ってみるとその魅力に取りつかれてしまう人は少なくないようです。
最大のメリットは、スピードが出せるということ。現在市販されているS-Pedelecは非常にパワフルで、45km/hへの到達は難しくなく、30~35km/h巡行も楽にこなせます。多くのモデルのバッテリー持続距離は50km前後となっていて、ドイツのレビューでは「片道20km前後の通勤を毎朝しているのなら、S-Pedelecに勝る乗り物はない」「S-Pedelecで感じられる爽快感は、他の乗り物ではなかなか得られない」という前向きな意見が見られました。
全国的には渋滞の少ないドイツですが、都市圏の朝の時間帯はやはりクルマが多く、渋滞によって通勤に余計な時間がかかってしまうことは少なくありません。地下鉄やバスの移動がストレスに感じてしまう人にとって、片道20kmの通勤距離を爽快に駆け抜けられるS-Pedelecは、まさに救世主のような存在となっているようです。
■S-Pedelecの普及には早急の法整備が課題
S-Pedelecは、装着されている高い出力のモーターや数々の保安部品、そして強化されたフレームやブレーキなど、ひとつひとつにコストがかかっていることもあって、各ブランドにおける「電動アシスト自転車のフラッグシップモデル」扱いになっていることが多く、販売価格も4,000ユーロ以上(約55万円以上)とかなり高価です。これもデメリットのひとつといえるかもしれません。
注目度は高いものの、現状ではS-Pedelecそのものの売上が好調とはいえず、2020年にドイツで販売された数は約9,800台にとどまりました。一方隣国のスイスでは約25,400台されており、この差は道路交通法の法整備の遅れが原因のひとつと考えられています。ADAC(ドイツ自動車連盟)は「S-Pedelecが走行可能な自転車道が増えれば、ドイツ国内の売上はより増加する」と予測しています。
今回S-Pedelecの記事を執筆していて頭をよぎったのは、かつてヨーロッパで一世を風靡し、現在では見かける機会の少なくなった、ペダル付きの原動機付自転車「モペッド」のことでした。その心臓部をモーターに変え、S-Pedelecが登場した。つまり、S-Pedelecはモペッドの現代版ともいえるでしょう。自動車メーカーの本格参入もうわさされているS-Pedelecですが、果たしてどこまで普及するでしょうか。
[ライター/守屋健]
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みんなのコメント
原チャリと同じ速度域なんだから当然でしょ?