ハイブリッドなのか、BEVなのか
執筆:Hajime Aida(会田肇)
【画像】2019年に披露 トヨタLQ【航続距離300kmのEV】 全31枚
編集:Tetsu Tokunaga(徳永徹)
トヨタ自動車は9月7日、メディアを対象とした「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」を、オンラインにて開催した。
プレゼンテーションを行ったのは、電池開発のキーパーソン前田昌彦CTO。質疑応答も含め、約1時間半にわたって実施された説明会の詳細をレポートする。
EUは2035年以降、バッテリー電気自動車や燃料電池車などゼロエミッション車(ZEV)のみとする規制案を発表した。
ここにはハイブリッド車(HEV)は含まれず、この案が実行されればトヨタなど日本メーカーが得意とするHEVは販売できないことになる。
一方、アメリカではトヨタの電気自動車(BEV)の普及に向けた後ろ向きな活動が批判されるなど、世界が脱炭素へ進んでいる中で疑念の声が上がっていた。
今回の説明会は、そうした状況に対するトヨタとしての1つの回答を世に知らしめる狙いがあったと思われる。
そうした中で、トヨタはすでに2030年にHEVを含めた電動車をグローバルで800万台販売し、このうちBEVと燃料電池車(FCEV)を200万台とする計画を発表済みだ。
この200万台が多いか少ないかという話もあるが、今回の説明会では、あくまでカーボンニュートラルへの貢献度を第一に考え、トヨタがこれまで手掛けてきた“HEVが果たしたCO2削減効果”を含んだ上で、全体を論じるという展開となった。
電池開発 5つのコンセプトとは
今回の説明によれば、1997年のプリウス発売以来、グローバルで販売したHEVの累計台数は約1810万台で、電池の量としてはBEVの26万台分となる。
より少ない電池の量で、BEVに換算すれば約550万台分に匹敵するCO2削減効果を上げているという(図1参照)。
また、前田CTOは、「HEVは比較的安価で提供できるため、再生可能エネルギーがこれから普及する地域ではHEVによる電動化が効果的」と語り、その一方で「再生可能エネルギーが豊富な地域ではBEVやFCEVなどのZEVの普及がより効果的」とした。
さらに「南米エリアではバイオエタノールをCO2削減への対応として実用化されている」とし、HEVやBEVなど電池をフル・ラインナップで対応することで、いかに炭素を排出しないようにできるかを地域ごとに対応していく考えを示した。
こうした中で、前田CTOが繰り返し説明したのが、“安心して使っていただける電池”を供給することだ。
トヨタが掲げる電池の開発コンセプトは大きく「安全」「長寿命」「高品質」「良品廉価」「高性能」の5つの要素がある。
しかし、「安全」と「高性能」には相反する側面があり、それは車両と電池を一体化させて開発することや、何万通りにも及ぶ加速劣化試験を行ったりして耐久性・安全性を確保してきたとする。そして、5つの要素がもっとも高次元でバランシングする電池開発を進めてきたのだ。
前田CTOによれば「この考え方は初代プリウスに電池を搭載した時から変わらず、電動車両すべての電池に共通する」と言い、その甲斐あってこれまで一度もバッテリーに起因する「フェイタル(致命的)な」トラブルは発生していないという。
全固体電池車 すでにナンバーが
期待の全固体電池についての説明もあった。
それによると「2020年6月、全固体電池を搭載した車両を製作し、テストコースで走行試験を実施。車両走行データを取得できる段階に来た。そのデータをもとに改良を重ね、2020年8月、全固体電池を搭載した車両でナンバーを取得し、試験走行を行った」という。
説明会では短い動画が紹介されたが、その車両は東京2020オリパラでも、マラソンコース上によく似たものが登場したと記憶する。
前田CTOによれば、「全固体電池はイオンが電池の中を高速に動くため高出力化に期待できるなどのメリットがある反面、寿命が短いという課題も見つかり、これが実用化へ向けた一歩になった」と話す。
また、質疑応答で2020年代前半に市販車へ導入するスケジュールに変わりはないが、特性上、当初はHEVから採用していく方針を明らかにした。
BEVの普及のためには、電池供給体制の構築も重要だ。
前田CTOは、「電動車両が急拡大する中、グローバルの地域ごとの様々なお客様のニーズに応えながら、必要なタイミングで、必要な量を安定的に供給できるフレキシブルな体制構築を進めていく」とし、トヨタは自社グループ以外にも、協業で提携済みのパナソニックや中国CATL(寧徳時代新能源科技)などと連携して、膨大な電池供給を地域ごとにまかなっていく計画だ。
最後に前田CTOからは、2030年までに掲げるトヨタの電池戦略についても説明があった。
EVのbZシリーズ 22年発売へ
それによると「車両・電池一体開発によって、台当たりコスト50%以下の実現を目指す」とされている。
具体的には材料の開発を進めることで、電池単体で30%以上のコスト低減を目指し、さらに車両側の電費(電気消費量)の30%改善によって、電池容量を30%低減させる。
この合わせ技によって、結果としてコスト半減を目指すというわけだ。
そして、小さな原単位でフレキシブルな供給網・生産体制を構築する中で、電池需要増大へ柔軟な対応を目指す考えも示した。
この結果、これまで30年時点の目標を180GWhとしていた目標を、200GWh以上に高めることとなった。これに伴い、前田CTOは「電池の供給体制の整備と研究開発の投資額は、2030年までに約1.5兆円になると見込んでいる」と語った。
この巨額の投資で、トヨタは電動化へ本腰を入れていることを世界に向けてアピールしたと言えるだろう。
今回の説明会は、カーボンニュートラルへの貢献に対するトヨタの姿勢を明らかにしたものだ。
2022年中頃には新たなEV「bZ4X」が登場することも明らかになった今、トヨタのBEV戦略が本格化しそうな状況にある。
しかし、トヨタは今後もHEVを重視していく考えに変わりがないことも示した。
個人的には航続距離を伸ばすために大量のバッテリーを搭載すれば、エネルギー効率が落ちた状態で移動しなければならないわけで、その現状を踏まえるとHEVを重視する選択は決して間違いではないと思う。
この時期にあえてHEVに白羽の矢を立てるトヨタの戦略を、世界ははたしてどう見るのだろうか。
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みんなのコメント
車として魅力ある性能と価格を有していなければ、
早晩のうちにEU電動自動車連合に瞬く間に飲み込まれてしまうかもしれない。
我々が15年後に目の当たりにするのは、TOYOTAの推奨する世界なのか、TOYOTAの滅ぼされる世界なのか…