若者と年長者の世代間の断絶というか、相互理解のできなさ加減は、もはや人類史上避けることができないように思う。クルマの世界でもそのときどきで、世代間の断絶というか、時代が移り変わる狭間ごとのストレスがありそうだ。しかし、それは時間の経過によって少しずつ馴染んでくることもある(はずだ)と思っている。
昭和:マニュアルからオートマ。それ以前はキャブからインジェクション
ガソリン車は新車新規登録から13年、ディーゼル車は11年。重課税問題について考えてみた
昭和の昔、そもそも「オートマ限定免許」なんてものは存在しなかった。運転免許証を持っている人は皆、マニュアル車を運転できる資格を有していた。…と同時に作法があったように思う。
エンジンをかけるときにはギアがニュートラルになっていることを確認するために、シフトレバーをぐにゃぐにゃと左右に動かし、それからクラッチペダルを踏んでからセルを回した。まぁ、シフトレバーの動かしかたやクラッチペダルを踏み込むタイミングは人それぞれだろうから、そのあたりはご容赦願いたい。
ひとまずエンジンがかかったら、再度クラッチを踏み直し、ギアをローにいれ、周囲の安全確認をしてから、サイドブレーキを解除し、アクセルを踏みながらクラッチを少しずつ離して発進をするというのが一連の動作だった。オートマ限定免許ができるずっと前からオートマ車は存在していたが、「クラッチ操作のできない下手くそが乗るクルマ」とか「燃費が悪い」とか「壊れやすい」というような印象が強かったように思う。その結果、運転が特に好きだったり、マニュアル車の運転歴が長い人からは敬遠され、嫌われていた。安全確認と煩雑な運転操作が同時にできないとうまく発進できないので、その両方を円滑にできる人が「運転がうまい」とされていたわけだ。
その背景には、ガソリンの噴霧形式がキャブからインジェクションへ変化したことも影響が大きいと感じている。上記の発進の手順のさらに手前で、エンジン始動時にチョークレバーを引き、アクセルペダルを3回踏み、アクセルをソローっと踏みながらセルを回すなんて儀式(※車種によってさまざま)があった。さらにその前にキャブのジェットの調整も必要だったり…と、調子よく走らせるにはそれなりの技術が必要だった。
しかし、時代の移り変わりとともに「いやいや、キャブのセッティングをしたり、ギアをごりごり動かすなんて面倒なことはクルマにまかせて、安全確認だけしてアクセル踏めば走り出せた方が楽でしょ」という考え方も認知されるようになってきた。
さらには技術の進歩により、変速ショックがなくなったり、燃費がよくなったりと、少しずつオートマが評価されるようになっていった。いつの間にかオートマ限定免許ができたり、新車販売でも標準設定がオートマでマニュアルはオプションというクルマが多くなった頃には、すっかりオートマがデフォルトになっていた。さらに、最近ではトラックやバスにもオートマが増えてきたように思う。「難しいことを自力こなすこと」の価値が失われたと感じる昭和世代も多いはずだ。
平成:ガソリンからハイブリッド・電気自動車へ
プリウスが登場した1990年代後半の頃、よほどエコ意識が高いか、新しいもの好きしか買わなかったように思う。しかし、二代目プリウスが発売されたあたりから、新車購入時に選択肢として違和感なくハイブリッド車が存在感を増してきた。
電気自動車は航続距離の問題がまだ解決したとは言えないが、ハイブリッド車はたいていのガソリンエンジン車よりも航続距離を気にしなくていいし、燃費もいい。さらに、なんと税金も優遇されるとなるとかなりの有力候補となる。バッテリー駆動時は静かだし、なんだか最近はガンダムみたいなエアロパーツをつけたハイブリッド車も見かけるようになってきた。こうなってくると、もはや燃費うんぬんだけでなく、スタイルやディティールに愛情を持って乗られる方も増えたきているに違いない。それゆえ、もしかしたら、ハイブリッドかガソリンか、なんてことがどうでもよくなってきたのかもしれないとすら感じている。
結果として、クルマの大きさに対する認識も劇的に変わったように思う。大きなクルマを上手に運転したり、高級なクルマを所有したりという価値が薄れ、軽くて小さいクルマでも、車内が快適であれば、それでいいという考えかたも浸透してきた。女の子が「デートに乗ってきてほしいクルマ」ランキングは昭和と平成では大きく変わり、小型でかわいいクルマも堂々ランクインしたりするようになった。
ハイブリッド車は基本的にアイドリングストップする(らしく)、最近は都心だけでなく田舎でも、交差点で信号待ちをしているクルマから「エンジン音が聞こえない」ことに違和感を感じる昭和世代も多いはずだ。
令和:所有から共有へ
「隣のクルマが小さく見えます」というCMがあった。隣にもウチにもクルマがあるという状況になりつつある頃のものだろう。その後、バブルの時代には、たくさんの海外製のクルマが輸入され、若者もどんどんクルマを買っていた。そして、平成の時代もその昭和世代は、ガソリンかハイブリッドかはともかく、あたりまえのようにクルマを買い替え続けていた。しかし、平成世代はクルマを買わなくなった。
とはいえ、ドライブ需要はあるし、大きな家具を買ったり、週末の買い出しにはクルマがあった方がやっぱり便利ということもあり、カーシェアリングが登場した。クルマを所有する喜びは車両購入費をはじめ、ガソリン代、メンテナンス代、車検費用、保険、税金など多くのコストの上で成り立っている。
自分だけの愛車を所有することさえ諦めれば、前述のコストのすべてから開放され、1時間あたり1,000円弱の料金を払うだけで用途に合わせたクルマをチョイスして使うことができるとなると、これは検討の遡上に載せないわけにはいかなくなる。副次的な利用方法としては、昼寝につかったり、カラオケの練習に使うなんて人もいるらしい。1時間1,000円弱なら個室としての「クルマ」を使うアイディアも出てくるわけだ。昨今のコロナ渦でお世話になった人もいるだろう。しかし、自分の家のガレージや駐車場にクルマがないことをいまだに容認できない昭和世代も多いはずだ。良くも悪くも「クルマは所有してナンボ」という思考から抜け出せないのかもしれない。
まとめ:果たして、楽ちんであることが最高といえるのか?
「面倒くさいことを排除して、楽な方へ、簡単な方へ」という合理性を認めないわけではない。目的に一直線に向かうなら、そんなこともありかもしれない。さらには、面倒くさい操作をせずにクルマを楽しめるオートマ、どうせ乗るなら低燃費・低コストのハイブリッド、所有による満足さえ諦めれば超低コストでクルマに乗れるカーシェア…と、理屈ではわかっている。
しかしなぜだろう。「それをいっちゃあ、おしめえよぅ」という自分の中の寅さんを抑えられない人がマニュアルのガソリンエンジンのマイカーを楽しんでいるのかもしれない(偏見御免)。ただ、その声が大きいか小さいかの差はあるものの、読者の頭のなかにはきっとフーテンの寅さんがいるのではないか、と期待している。なあ、サクラ。
[ライター・撮影/ryoshr]
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