運営元:外車王SOKEN
著者 :守屋 健
ベーシックカーの魅力の再認識した、フォルクスワーゲンゴルフII
ドイツの現代における国民車といえば、フォルクスワーゲン・ゴルフをおいてほかにありません。第二次世界大戦後のドイツのモータリゼーションを一手に担った偉大な「ケーファー」(フォルクスワーゲン・タイプ1。ケーファーはドイツ語で甲虫の意)の後を引き継ぎ、現在までに3,500万台以上を生産するベストセラーとなっています。この生産台数は、トヨタ・カローラ、フォード・Fシリーズに次ぐ世界第3位です。
近年では乗用車全般のベンチマークとして、各社の乗り心地や操縦性の評価基準としても用いられることも多いゴルフ。
現地ドイツではゴルフが「まもなく生産終了となる」という話題で大きく揺れています。
現在8代目モデルの販売が好調なゴルフですが、なぜこのタイミングで生産終了の話が出てくるのでしょうか。ドイツ現地からレポートします。
■ドイツで盤石の人気を誇る「国民車」ゴルフ
フォルクスワーゲン・ゴルフは1974年にデビュー。3ドア・5ドアのハッチバックスタイルで(ワゴンモデルもあり)、フロントに横置きの水冷エンジンを置いた前輪駆動(4輪駆動モデルもあり)という基本レイアウトを現在まで踏襲しています。セダンに比べればコンパクトですが、大人4人が乗車してなおかつ荷物も十分に載せられるスペースが確保され、以降の小型車の設計に大きな影響を与えました。ドイツでは「アウトバーンを快適に走行できる最小のクルマ」と称されることもあります。
ドイツにおけるゴルフの人気は圧倒的で、生産開始以降ほぼ一貫して新車登録台数がもっとも多い車種であり、時には年間40万台を超える年もありました。近年は毎月約2万台前後をコンスタントに売り上げています。しかし2020年以降は、コロナのパンデミックの影響による生産数の停滞により、ルノー・クリオの後塵を拝する月も見受けられるようになってきました。
ルノー・クリオに追い抜かれた、というのはもちろん直接の原因ではないでしょうが、ゴルフの生産終了という話が出てきた背景には、フォルクスワーゲンの今後の方針が関係しています。
■EVへの転換を急速に進めるフォルクスワーゲン
フォルクスワーゲンは2030年までに、約70の新しいEVを発表する計画を立てています。2025年には年間100万台以上のEVの販売を目標としていて、2020年にはID.2、 ID.3、 ID.4、 ID.5、 ID.6、 ID.7、そして ID.BuzzのフルEVファミリーを発表。2022年7月に新たに就任したCEO、トーマス・シェーファーによれば「未来の方向性はエレクトロモビリティにあり、需要も急速に増加している」としています。
8代目ゴルフは近々アップグレード、つまりマイナーチェンジが行われる予定です。
しかし、こうした会社の方針を受けて、ゴルフの9代目モデルが登場するかどうかは「不透明な状況」だと言われています。
ADAC(ドイツ自動車連盟)がフォルクスワーゲンの報道担当者に確認したところ「(9代目モデルが市場に出ないという話は)憶測にすぎない」との回答を得たようで、ADACの専門家は「9代目モデルは発売されるだろうが、それが最後のゴルフになるはずだ」と分析しています。
■新型ゴルフの開発にどれほどの価値があるのか?
ゴルフについてたびたび話題になるのが、モデルサイクルの短縮化です。初代モデルと2代目モデルのモデルサイクルはそれぞれ9年でしたが、3代目・4代目モデルでは6年に短縮され、6代目モデルではわずか4年に過ぎませんでした。7代目モデルでは8年と再び伸びましたが、2019年発売の現行8代目モデルがいつまで生産されるのかはわかっていません。
およそ7年から8年くらいでモデルサイクルが終了してしまうゴルフに、これから先新しいモデルを開発する価値があるかどうかを、フォルクスワーゲン自身が見極める必要が出てきているのです。
■文字通り「庶民の足」として浸透しているゴルフの存在意義
純粋にドイツのユーザーの立場から考えれば、ゴルフほど安心して乗れるクルマはありません。新車はもちろんのこと、中古車を購入する場合でも個体数が多いため安価で手に入りますし、かなりの距離を走行した後に売却しても、値が付かないということはありません。数十万キロ走りこんだ、日本では過走行車とされてしまうような個体でも、欲しがる人がいるからです。
正規ディーラーでなくても、修理できる工場はそこら中にありますし、交換部品も大量に出回っています。ドイツ国内の移動や旅行での不安要素はほとんどないといってよいでしょう。自家用車という枠を超えて、もはや「インフラ」とでも呼べるような存在となっているのです。
先日「メルセデス・ベンツ Eクラスのタクシー仕様車が今後用意されないということに、タクシー業界が大反発」というニュースをお伝えしましたが、ゴルフが生産終了となった場合も、一般ユーザーから同様の反発が出るかもしれません。
個人的にも思い出深い車種であるゴルフ。ブランドイメージや車種ラインナップの整理という会社の方針も理解できますが、単に内燃機関を電気モーターに置き換えて存続する道は残されていないのでしょうか。ゴルフの動向については、今後も注視していく必要がありそうです。
[ライター/守屋健]
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