F1撤退、NSX、オデッセイ、レジェンド廃止……、そして、ホンダといえば=CVCCやVTECを生んだガソリンエンジン。そのエンジン屋であるホンダが2040年までに、世界の新車販売のすべてをEV、FCVにいち早く転換すると発表したのだから驚いた人が多かったに違いない。
電動化の流れは止めることができないとはいえ、ここまで来るとさすがにホンダとはなにか? らしさ、本質は何処へ? と考え込んでしまう。EVに関しても3つのEVコンセプトを発表した日産や、スポーツカーを含めたEV16車種を発表したトヨタと比べると、後れをとっているようにみえる。
脱炭素社会への避けられぬ道……最後の純内燃機関搭載車世代を予測する!!
ホンダeを発売し、2024年に軽EV、2022年からEV専用の新ブランドe:Nを中国で展開、北米ではGMとEVの共同開発を進め2024年にGMのプラットホームと電池を用いたEVを2車種発売することを発表しているが、至宝のスポーツカー、スペシャルティカーを生み出してきたホンダが作るべきEVはこれでいいのか?
そこで、F1が有終の美を飾った今、ホンダは今後何処へいってしまうのか? 三部敏宏社長に、国際自動車ジャーナリストの清水和夫氏がもの申す!
文/清水和夫
写真/ホンダ、ベストカー編集部
[gallink]
■ホンダの電動化戦略は不動
2021年7月にホンダの三部敏宏新社長が放った電動化戦略についてベストカーwebでレポートしたが、それから約半年だった今、ホンダの戦略は変わっていないのか。あるいはトヨタのカーボンニュートラル作戦の影響を受けて、戦略の見直しがあったのか気になるところだ。
三部社長は4月の社長就任会見で、四輪車電動化の取り組みについて「先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%」、そして「2040年には、グローバルで100%」を目指すと語っている
ホンダF1撤退! 2040年全車EV&FCV化!! クルマ好きを見捨てるのか?
ホンダ関係者の話しから推測すると、三部社長の考えは1ミリもずれていないのではないだろうか。ということで、ここではホンダが自動車メーカーとしてどんな未来像を考えているのかいくつかのファクトから分析してみたい。
2021年7月に公開したベストカーwebの記事を振り返ると、ホンダは2040年にはBEV(バッテリーEV)やFCEV(水素燃料電池車)にシフトするという内容だった。これは欧州メーカーの戦略と同じで、気候変動が逼迫していることを意味している。
しかし、重要な視点は今から次の10年のシナリオではないだろうか。温暖化の上昇を最小限に抑えるなら、直近の対策が重要である。
■ホンダは常識的な自動車メーカーではない
ホンダという企業を理解するには、その歴史を振り返ることが必要だ。常に革新的な技術を実現することに、どのメーカーよりも熱心に取り組んできた。
7月のレポートで書いたポルシェ博士の孫にあたる元VW・CEOのフェルディナンド・ピエヒ氏は自伝の中で「生まれ変わったらホンダで働きたい」と記している。
そのくらい当時からホンダはベンチャー企業だった。4輪の世界では1960年代のF1デビューは世界をあっと言わせた出来事だった。このF1への挑戦は、ホンダの生き様そのものだったと思う。
ホンダ第一期F1マシン1965年仕様のRA272。1964年にデビューしたホンダF1マシンは1965年第10戦メキシコGPで1位と5位のダブル入賞を果たし、わずか1年で優勝を実現した
量産技術においてエポックメイキングな出来事は1972年のシビックの誕生だった。その時に開発されたCVCCエンジンは、その後の自動車エンジンの常識を塗り替えたのだ。
1973年に発売された4ドアのシビックCVCC DX(写真)。1975年から米国に輸出されたシビックはマスキー法環境試験に合格、さらに1978年モデルまでの4年連続で米国の燃費1位を獲得した
ホンダシビックCVCCエンジンのシステム図。排気中の有害物質を減らすため副燃焼室を設け、希薄燃焼による燃料の完全燃焼を目指して開発された。その副産物として低燃費を実現している
当時、アメリカのカリフォルニア州では急激に増えた自動車が原因で、排気ガスによる大気汚染の問題が深刻化していた。そこでマスキー上院議員が中心となって、厳しい排気ガス規制法が施行された。世にいうマスキー法だ。
この規制を前にして、世界中のメーカーは達成が困難だと苦悩するが、当時自動車では無名だったホンダはCVCCエンジンを開発し、世界初の排ガス規制をクリアしたのである。当時のトヨタもホンダのCVCCの技術を買って、米国に輸出するという事態となっていた。
そして2022年はそのホンダを一躍世界的に企業に押し上げたシビックの50周年にあたるのだ。
ホンダの創業者である本田宗一郎氏がなし得た環境対応エンジンの普及を考えると、三部社長は今度は自分の手で電動化を推し進め、ゼロエミッションに挑戦することを決意したのではないだろうか。
三部社長は元々がエンジン屋さんなので、ゼロエミッションへのこだわりは強いはずだ。社長に就任する前に本田技術研究所の社長として自動車技術会のイベントで対談したことがあるが、当時から内燃エンジンの効率をこれ以上高めるには大きなコストが不可欠となるし、これから施行されるカリフォルニア州のZEV法(ゼロエミッション)のを考えると、ホンダとしてはBEVやFCVに利があると考えていると思う。
ホンダはトヨタと違って日米中が重要であり、ASEANやインドも2輪から4輪へのシフトも期待できる需要マーケットだ。トヨタと違って商業車を持たないホンダは先進国中心のビジネスなので電動化は重要なのかもしれない。
■ホンダは世界最大のエンジンメーカーだった
新型GCVエンジンを搭載した歩行型芝刈機「HRX537」。ホンダは芝刈り機のほかにも船外機や作業機械メーカー向け汎用エンジンなど生産しており、今年9月でパワープロダクツの生産累計が1億5000万台に達した(電動化製品含む)
ホンダは2輪と4輪以外にも芝刈り機などの汎用機も生産している。その多くがエンジンを使っているわけだが、近年では年間3千万台、2016年の累計では2&4輪車と汎用機を含めると、5億6000万台のエンジンを生産・販売してきた。
このファクトを言い換えると、石油由来のガソリンが安価に提供されてきたから、可能だった事業なのである。温暖化による気候変動という環境問題なら、HEV(ハイブリット)はBEVよりも有利なことはホンダも承知しているが、もっと厄介なことは石油の安定供給が持続可能なのかどうか。もし、石油が高騰し、供給量が減少すると(すでに減少しているというデータがある)、エンジンを主体とするホンダの事業は成り立たなくなる。
石油の需要ピークが先か、あるいは供給ピークが先なのか、様々な意見があるものの、今後も石油採掘は深い地層を掘るために、そのコストは上昇している。安定供給は期待できそうもない。
一次エネルギーの主役だった石油が、代替エネルギーにとって代わるなら、その準備は必要だろう。代替エネルギーとしては、原子力や自然エネルギーが有力だが、各主権国家のエネルギー事情によって選択肢は色々とありそうだ。
いずれにしても、二次エネルギーの電気や水素を利活用できるパワージェネレーターは最重要課題だろう。
だからといって、すぐに電動化することは容易ではない。エンジンと同じコストと重量で、電動化することは現状では不可能なので、いくつかの発明が必要かもしれない。
この不可能と思われる課題に挑戦することは、ホンダの技術屋の琴線にふれることだ。現実路線は事業継続に必要だが、同時に大きな課題へのチャレンジも、ホンダの生き方なのである。
■神が降りてきたF1最終戦
2021年でF1を撤退するホンダは、レッドブルと宿敵メルセデスは、ドライバーズポイントが並んで最終戦に持ち込まれた。これだけでも、神のイタズラかと思わったが、決勝レースの行方は、F1史に残る結末となった。
2021年12月12日の朝、F1最終戦に臨むホンダが掲載した広告。F1撤退と感謝を表したこの広告は世界中のSNSで大反響を呼び、ファンからの「ありがとう」と撤退を惜しむ声があとを絶たなかった
レースの終盤、誰もがメルセデスが優勝すると思っていたが、突如神様のイタズラが始まったのだ。数ラップを残して他チームがクラッシュし、セイフティカーが出動。2位を走っていたレッドブルは迷わずPITインしてタイヤを交換。リスタートしたときの猛ダッシュにかけたのだ。
神が下した結果は最終ラップでメルセデスを抜いたレッドブルが優勝し、若きホープのマックス・フェルスタッペンが年間チャンピオンとなり、同時にホンダは30年ぶりの栄冠を得た(コンストラクターズ1位はメルセデス、2位レッドブル・ホンダ)。
2021年12月12日、F1第22戦アブダビグランプリで優勝しドライバーズチャンピオンを獲得した表彰台でのフェルスタッペン選手。2021年度のF1世界選手権はいろんな意味で歴史に残るであろう
こんな劇的なレースがホンダF1の最後のステージになるとは、誰も予想できなかった。
ホンダは2輪事業から始まったが、1964年にはF1参戦と同じタイミングで初の4輪車を開発。正確に書くなら軽トラックとスポーツカーを同時に発売していた。
ということで、ホンダにとってはF1とスポーツは4本のタイヤがある表裏一体のクルマなのであった。そして2021年、F1が終了し、最新のNSXもTypeSという最終モデルを限定販売して、幕を閉じる。
次の時代に生まれ変わるF1とスポーツカーを見る日はくるのだろうか。
いままでのホンダを見ていると、F1とスポーツカーを止め続けることができないのも、ホンダなのだ。きっと、その勇姿を表す日は来るだろう。
おっと、その前に2023年のレースが面白そうだ。というのはル・マンシリーズのLMDhクラスに(ダラーラ、オレカ、リジェ、マルチマチックの中から1社を選ぶ)、アキュラチームとして参戦する予定とのこと。Hマークではないが、ホンダの技術がポルシェやBMWと戦う勇姿を見ることができそうだ。
■空へ、宇宙へと羽ばたくホンダ
株式会社ZOZOのファウンダーである前澤さんが民間人として宇宙ステーションを楽しんことが話題となっているが、時代の空気は空から宇宙へシフトしている。
ホンダは自社開発のプライベートジェットをすでに200機も販売し、次のターゲットを明らかにしている。そのひとつがハイブリッド式の電動垂直離着陸機 eVTOL である。
ホンダのコア技術を活かしたHonda eVTOL。電動化技術を生かしたガスタービンとのハイブリッドのほかにも、燃焼や空力、制御技術といった、これまでHondaがさまざまな領域で培った技術が生かされている
「Honda Jet」で培ったガスタービンで発電し、電気モーターで飛ぶ仕組みだ。このハイブリッド方式により、航続距離は約400km、最高速度は270km/h以上を目指している。ホンダの電動化は空にも羽ばたくことになる。
もう一つの話題はホンダとJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)との共同研究が始まったことだ。このプロジェクトは月などの宇宙で活動するために不可欠なエネルギーを循環型再生システムを構築する共同研究である。
月面での循環型再生エネルギーシステムの活用イメージ図。ホンダはJAXAと2020年度から2022年度の3年間「循環型再生エネルギーシステム」の共同研究協定を締結し、燃料電池システムを活かした酸素、水素、電気などのリサイクルについて研究している
ホンダが従来から取り組んできたeMaaS(エネルギーを主体としたMaaS)の経験を活かす。すでにトヨタも月面探索機のルナクルーザーを開発し、予定では2029年に月に打ち上げらる。
本田宗一郎さんが夢みた空飛ぶ自動車はすでに実現可能な段階となったが、次の夢は宇宙なのかもしれない。
最後に自動運転の話しをするが、せっかく日本政府が道交法と保安基準を改正し、ホンダのレジェンドの世界初のレベル3を型式認定を与えたものの、レジェンドは限定100台の法人リースで終了し、しかも工場の操業も終わってしまった。
ドイツではメルセデス・ベンツSクラスが2021年12月にドイツ国内法で型式認定を受け、2022年は中頃からBEVのEQSと同時にレベル3を市販する。ホンダの取り組みは中途半端に思えるが、それだけコスト的も技術的にも大変な開発だったのかもしれない。
だが、ホンダはライダーセンサーの代わりに5つのミリ波レーダーを駆使する「HONDA SENSING 360」を2022年発表のCR-Vから市販する。この技術はライダーセンサーほどの高性能ではないが、高度なレベル2を実現するには十分な性能を誇っている。
※編集部註:ライダーセンサーはクルマやバイクなどの金属物と、それ以外の非金属物の検知・測距に優れるレーザー光を活用する。一方、金属物の検知と測距に優れるミリ波電波を活用するのがミリ波レーダー。単眼およびステレオカメラは歩行者や車線・標識などの形状認識に優れる。そのほか近距離の障害物の検知に優れる超音波を活用するソナーセンサーがある。これらによって自車周辺の状況を高い精度で把握する。
全方位安全運転支援システムHonda SENSING 360(ホンダ センシング サンロクマル)のシステム構成図。ホンダSENSING 360の適用を2022年に中国で発売する四輪車から開始し、2030年までに先進国で発売する全モデルへ展開することを目指している
ホンダは2050年にはホンダが絡む2輪4輪の死亡事故をゼロにするシナリオを公開している。ホンダの環境と安全への取り組みは、決して中途半端ではなかったことがわかった。
三部新社長の頭の中には、どんな未来を描いているのだろうか。私の分析とそう大きく変わらないのではないだろうか。最後にお願いしたいのは、200万円台で若い人が買えるスポーツモデル(FFのホットハッチがホンダらしい)を是非、市販してほしい。
ベストカーが製作したホンダe タイプRの予想CGイラスト。バッテリーの性能が向上し安価になればお手ごろなBEVスポーツカーが開発可能になるかも!? 期待してますホンダさん!!
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みんなのコメント
近年のホンダ車を見ても全然ワクワクしない。
一昔前まで革新的車メーカーは東がホンダ、西がマツダと言われたものだが、まだマツダの方がずっと面白い、頑張ってるね。