マツダのまじめなクルマ作り、そして近年のSKYACTIV技術の躍進は多くの消費者に響くところがあるはずだ。
ディーラーも黒を基調としたデザインに統一されてなんだか近寄りがたいほどの高級感を醸し出している。
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さらに現状は値引きが渋いと言われるマツダディーラーだが、かつてのような値引き販売による中古車価格下落が起こったあの「マツダ地獄」の再来はないのか?
マツダのクルマはたしかにいいかもしれないが、販売台数などを考えても絶好調という状況でもないのも事実。
かつての5チャンネル展開のような寂しい結末になりはしないだろうか? 高級化一直線のマツダがなぜこのような状況になっているのか迫ります。
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
■クルマ作りは真面目だが今ひとつ伸びが少ない販売実績
クルマ好きの間で話題になることの多い自動車メーカーとして、今はマツダが挙げられる。
2012年に先代CX-5を発売して以来、魂動デザインのカッコ良さと、スカイアクティブ技術による優れた走行性能を主軸に商品開発を進めてきた。
内装の造りから乗り心地まで、今のマツダ車は上質感を大幅に高めている。その一方で、今の商品開発が裏目に出ている面も散見される。
ファミリア、アクセラからマツダ3へと進化を遂げたマツダ3。後部座席の居住性などは決して広くはないが、マツダはそこで勝負をしていない。大手メーカーとは異なるアプローチが支持を強める
外観を魂動デザインで統一したことにより、マツダ車の個性は明確に表現されているが、逆にいえばどれも同じように見えてしまう。
前輪駆動ながらボンネットを長く見せ、ボディの後部を短く抑えて躍動感を演出する手法が全車共通になるからだ。
売れ行きは、国内と海外で大きく異なる。海外を含めた世界生産台数は、2010年(暦年)が131万台、2018年は160万台だから堅調に推移してきた。
8年間で20%以上の上乗せになり、2012年の先代CX-5からラインナップを整えた新世代商品群は、成功したといえるだろう。
ところが日本国内の販売台数は、2010年が22万3861台、2018年は22万734台だ。今では新世代商品群が新しい段階に入ったのに、売れ行きはそれ以前の実績に届いていない。
背景にはミニバンのプレマシーやビアンテを廃止したこともあるが、今のマツダのクルマ造りが日本のユーザーに浸透していない影響も考えられる。
セダンも用意するマツダ3。コンパクトモデルとして世界的にヒットを狙う
そのひとつが実用性だ。今のマツダ車は全般的に後席と荷室が狭い。ミドルサイズのマツダ3でも、大人4名で乗車すると少し窮屈に感じる。日本の場合、軽自動車やコンパクトカーにも相応に広い室内が求められる。
平均乗車人数が2名を下まわるから、後席は狭くても構わないといった話も聞かれるが、そういうことではない。後席が狭いと前席まで窮屈に感じられ、狭い分だけ損をしたような気分にもなるからだ。
逆にボディが小さいのに車内はミドルサイズ並みに広いと、運転がしやすくて居住性や積載性も優れ、いかにも工夫されたクレバーな印象を受ける。小さなボディに高機能という、最先端のスマートフォンやパソコンに通じる密度感も魅力だ。
■大手メーカーとは違うクルマ作りは評価できるが問題は高級路線
今の国内販売では、ホンダN-BOXが圧倒的な1位だが、すべてのユーザーがあの広い室内を求めるわけではない。小さなボディと広さの組み合わせが魅力だ。
小型/普通車も同様で、国内販売の上位に位置するノート、フィット、シエンタなどは、いずれもボディがコンパクトで車内は広い。
プリウスやアクアの車内はあまり広くないが、燃費性能が優秀だ。ノートe-POWERは、広さと低燃費を併せ持つことで人気を高めた。この市場動向を考えると、今のマツダ車の特徴は、日本との相性が良くない。
次期モデルはFRの直6エンジンを搭載するといわれているアテンザ。FFサルーンとして醸成してきた歴史を覆すことになるが……
その代わり今のマツダ車は、前席の優先順位を圧倒的に高めた。コンパクトカーのデミオでも、ステアリングホイールやペダル配置が最適化され、ドライバーが適正な運転姿勢を得られる。
エンジン、ステアリング、サスペンションは、小さな操作量から正確に反応するため、ドライバーが車両との一体感を得やすく安全な操作も行える。
さらにいえば、正確に反応すると運転の上手と下手を自覚しやすいから、運転技量の上達にも役立つ。
この考え方を具体化したのが、マツダ車のインテリジェントドライブマスターだ。運転操作の仕方がスコアで示され、上達の度合いが分かる。
一般的にこの種の機能は燃料消費量を抑えるエコドライブのために使われるが、マツダでは考え方が異なる。安全性、運転の楽しさ、同乗者の快適性、燃費までをバランス良く高める「しなやかな運転」をめざす。
ここまでトヨタや日産とは違うクルマ造りを突き詰めているなら、後席や荷室が狭くなったり、売れ行きが伸びなくても構わないだろう。
今のマツダの問題点は、先に述べたドライバー本位の真面目なクルマ造りをする一方で、妙な高級路線に走ったりすることだ。
例えば販売店の外観はレクサスのようにブラックで、一時は店内も非常に暗かった。黒っぽい店内は、ソウルレッドのボディカラーは映えるが、マシングレーは思い切り沈む。
しかも展示車の車内は店内よりも暗いから、せっかく上質に仕上げた内装が見にくい。商談は日曜日に家族連れで行うことも多いため、店内が暗いと、子供が何をしているか分かりにくい。
たしかにオシャレで高級感も漂うのだが、ディーラーの店舗によっては暗すぎるという声も多い 。特にソウルレッドを売りにするマツダなのに暗い店内で赤の色味はわかりにくいはず
安全な店内は明るく、暗ければ逆のことがいえる。全国統一で開始した黒っぽい店舗には不都合も多く、最近は店内の色調を少し明るくした店舗も出来始めた。
販売店で尋ねると「当初の店舗は暗すぎるので、壁の色彩などを調節している」という。ディーラーの店内は、明るいことが大切だ。
ボディカラーを問わず外観が美しくリアルに見えて、内装の造りや質感も分かりやすい。また外側から店内が良く見えると、ユーザーは店舗を見つけやすく、クルマの宣伝にもなるだろう。
■相次ぐ車名の「数字化」に未来はあるのだろうか?
アクセラをマツダ3に、アテンザをマツダ6に、車名を変えたことにも疑問がある。日本国内の車名を海外と統一する発想だが、アクセラやアテンザに親しんだ歴代モデルのユーザーは、寂しい思いをするだろう。
今後はデミオもマツダ2に変わるが、ロードスターは海外のMX-5に統一せず、車名を変えないらしい。理由はロードスターの歴代モデルには、それぞれファンが多く、車名が一種の財産になっているからだという。
この説明は、アクセラやアテンザのファンに対して失礼だ。メーカーにとっては車名の変更に過ぎなくても、ユーザーの受け止め方は違う。
ロードスターについては車名の数字化はされないこととなる。ロードスターへ愛着があるオーナーが多いというのは事実だが、アクセラなどには愛着があるオーナーが少ないのだろうか
アクセラという車種を廃止して、マツダ3を新たに投入したことを意味する。この点についてマツダ3の開発者はこう語る。
「今回のフルモデルチェンジでは、マツダ3のプラットフォームや魂動デザインを大幅に進化させた。新しいスカイアクティブXも加えたので、車名の変更に相応しいフルモデルチェンジとなった」。
確かにマツダ3は納得できるが、アテンザからマツダ6への変更は小規模改良に過ぎない。2.5Lターボは新搭載したが、すでにCX-5やCX-8に採用されていたエンジンだ。
このほかマツダ3については、新しいスカイアクティブXの価格が2Lエンジンに比べて67万円高く、なおかつ発売から2か月近くを経過した2019年7月中旬時点でも、動力性能や燃費数値が明らかにされていない。
67万円の上乗せをする価値が分からなければ、グレード選びもできないだろう。それでも販売現場では、無理のある商談が行われている。
ほかのメーカーとは違うマツダのクルマ造りを確立させることは、クルマ好きのユーザーにとってメリットをもたらす。
2019年7月4日にはアテンザをマツダ6へと変更し予約を開始した。7年目のモデルライフであり、改名はフルモデルチェンジのタイミングでもよかったのではないかと思うのだが……
しかし売り方については、ユーザーに不親切な面も多い。せっかく優れたクルマを造っているのだから、それをストレートに表現すれば良い。妙に格好を付けたり、早々に受注を開始して台数を上乗せすることは避けたい。
マツダの昔からの良さは、商品開発に対して愚直に、正直に取り組む姿勢だ。ちょっと不器用なところも魅力に感じた。クルマがカッコ良くなっても、マツダの本質は変わっていない。
だからこそスカイアクティブ技術を達成できた。余計なことは考えない方がいい。今も昔も変わらない、マツダの良さを素直に表現して欲しい。
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