最近、新車の試乗記のなかに、新しいプラットフォームを採用したことによって、ボディ剛性が高くなったとか、軽量化してよくなった、などとよく書かれるようになった。
そもそもボディ剛性とは何なのか? 最近、スバルのSGP、トヨタのTNGA、ダイハツのDNGA、日産のCMF、スズキのハーテクトといった、各社新型のプラットフォームをニューモデルに投入してきているが、そうしたプラットフォームと関係があるのか?
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そこで改めて、ボディ剛性が高いと、どのような恩恵が得られるのか? 逆にネガな部分はないのか?
またプラットフォームが新しくなったことによってクルマはどう変わるのか、自動車テクノロジーライター・高根英幸氏が、なるべくわかりやすくかみ砕いて解説する。
文/高根英幸
写真/ベストカー編集部 ベストカーWEB編集部
【画像ギャラリー】各社の新しいプラットフォーム詳細写真
ボディ剛性が高いクルマと低いクルマの違い
新型プラットフォーム、SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)を採用してボディ剛性が高くなり、走りが大幅に進化したと評判の高いインプレッサ
スバル・グローバル・プラットフォームを採用するインプレッサ発表時(2016年)の資料。フロント車体横曲げ剛性では現行車比+90%、フロントサスペンション剛性では現行車比+70%、車体ねじり剛性では現行車比+70%、リアサブフレーム剛性は現行車比+100%。各部の剛性が70~100%向上したということになると、先代モデルはどうなのかと驚いたのを覚えている
プラットフォームのフレームは前後端まで、フロントサイドフレーム→フロアサイドフレーム→リアサイドフレームが連続した1本構造とし、しかもフロアパンとの結合はスポット溶接と構造用接着剤を併用。骨格部ではAピラー下端とサイドシル、フロントストラットタワーが一体の補強パネルで結合され、フロントバルクヘッド周囲の剛性が大幅に高められている
クルマの走りや乗り心地には、すべてボディの剛性が大きく関わっている。剛性とは変形のしにくさを示す強さで、剛性が高いほど力を受けても変形しにくいことになる。
走行中、クルマは路面からの衝撃を受け止め続ける。タイヤやサスペンションが吸収し切れない振動はボディに伝えられるが、この時にボディ剛性が低いとボディはブルブル、ワナワナと震え乗員に不快な印象を与えてしまう。
ボディ剛性が高いと車内に振動は伝わりにくく、衝撃を受け止めて外へと逃がす。ボディ剛性が高い方が、同じ固さのサスペンションでも足は良く動き、結果として乗り心地は向上する。
我々、モータージャーナリストが試乗記で「ボディ剛性が低い」と表現するのは、大抵は路面からの入力がどれだけボディを揺すっているのか体感して評価しているもので、ボディ剛性が高いことが良いクルマの基本となっている。
ドアの開閉でボディ剛性を感じる、という記述も見かけるが、これはドアの密閉性やドア自体の剛性も影響するので、実はそれほどアテにならない。人間は、相対評価は得意でも、絶対評価は苦手だからだ。
コーナリングでボディ剛性を感じる領域となると走行性能の限界付近の領域になるから、サーキットでの試乗でもしない限りは現実には不可能。
ただし、コーナリング中にギャップがあったりすれば、ブッシュのチューニングの確かさなどと同時にボディ剛性の高さを感じ取れるかもしれない。
しかし、それ以前に前述のようにサスペンションの動き始めからボディ剛性は影響を与えているのだ。
サスペンションの動きに影響を与えるとなれば、クルマの動きにはそれ以上に影響を与える。
試乗記でも「ハンドリングが……」などと言われるが、曲がる性能にもボディ剛性は大きく影響している。
最終的にはホイールアライメントとタイヤの空気圧で調整されるハンドリングだが、やはりボディ剛性の影響は大きいのだ。
ダンパーやスプリング、ブッシュやスタビライザーといった足回りの特性を構成する部品の内容も大事だが、それを活かすも殺すも、その部品の支持剛性やボディ全体の剛性次第。
サスペンションがしっかり踏ん張っても、ボディがねじれたり、足回りの位置関係を歪ませてしまっては意味がないからだ。
プラットフォームがシャーシの基本性能を底上げ
2020年2月に発売予定のヤリスは新しいコンパクトカー向けTNGAのGA-Bプラットフォームでどのくらい変わっているのか楽しみだ
ヤリスに採用されたGA-Bプラットフォームは主要な骨格を連結させることで、クラストップレベルの剛性を実現
以前はニューモデルが登場すると、先代モデルに比べてねじり剛性が1.5倍、2倍向上した、といったようにボディ剛性の向上を謳う自動車メーカーも多かった。
しかし最近は、そうした傾向は減っている。もはや十分にボディ剛性自体は高くなっており、先代モデルと比べてさらに高める必要性は少なくなってきていることが大きい。
最近の傾向として単に高いボディ剛性を実現するだけでなく、燃費や居住性などといった従来から要求されてきた性能に加えて、足回りの性能や衝突安全性の確保など、様々な規制や性能をクリアさせる必要がある。それはプラットフォームの共用化によって達成されているのだ。
最初にプラットフォームという概念を打ち出してきたのは日産だった。2002年に登場したK12マーチからルノーとのプラットフォームの共用を謳って、シャーシを作り込んだ。
その後、2代目キューブやノートといったコンパクトカーのラインナップを充実させてきたが、この時にはまだ先のモデルまで見据えた開発をしたわけではなかったらしい。
そしてマツダのコモンアーキテクチャ、VWのMQBなどといった海外メーカーもプラットフォームの構築に力を入れ始め、明確にプラットフォームにブランドや呼称を与えないメーカーも、プラットフォームを作り込み、質の高いバリエーションモデルを開発するのが基本になってきた。
今ではトヨタのTNGA、ダイハツDNGA、スバルのSGP、日産CMF、スズキはハーテクトといったように、プラットフォームのブランド名を打ち出して自社の品質をアピールするようになった。
それぞれの特徴を端的に紹介すると、まずマツダは第2世代に入って、スカイアクティブビークルアーキテクチャーという名称になり(マツダ3から)、より各部の剛性を高めあう構造へと進化して、ボディに伝わる振動を減衰して吸収させる能力も備えている。
カローラスポーツ、セダン&ツーリングはTNGAプラットフォーム、GA-Cを採用する。カローラセダン&ツーリングを含め、これまでのカローラとは一線を画す、ボディ剛性の高さを持つ。ハンドリング、乗り心地はかつてのカローラとは別モノだ
2012年にその構想が明らかにされたトヨタの新しいクルマ作り、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)。“もっといいクルマづくり”を標榜し、基本性能を突き詰めたプラットフォームをベースに複数車種で共用することによって、高いシャーシ性能(操安、衝突安全、居住性) を上げながら、サイズや駆動方式ごとに「一括企画」する戦略だ。品質の向上とともに、開発コストの低減も狙っている。
TNGAは、2015年に発売された4代目プリウス(GA-C)を皮切りに、C-HRやカローラスポーツ(GA-C)、カムリ(GA-K)やRAV4(GA-K)、クラウン(GA-L)、カローラセダン&ツーリング(GA-C)が続々と登場し、最新モデルは2020年2月にデビュー予定のヤリス(GA-B)だ。
FFベースが3種類(GA-B、GA-C、GA-K)、FRベースが1種類(GA-L)、合計4種類のTNGAが出揃ったことになる。
また、量産EV用プラットフォームは、ミッドからラージクラス用をスバルと、スモールクラス用をダイハツと共同開発している。内燃機関搭載車用が4種類、量産EV用が2種類、これが向こう10年のトヨタのラインナップのベースとなる。
4代目プリウスから採用されたTNGAプラットフォーム。 骨格の見直しや高張力鋼板の使用拡大など、TNGAプラットフォームは劇的進化が著しい。モデルによってはLSW(レーザースクリューウェルディング)や構造用接着剤使用拡大などの新技術も積極採用され、力の流れや連続性にもこだわった設計となっている
ダイハツのDNGAはトヨタのTNGAに近いもので、軽自動車からコンパクトカーまでの共用部分をしっかりと作り込むことにより、軽自動車の品質を高め、コンパクトカーは軽量化にも貢献できるプラットフォームとなっている。
車重を980kgという軽量&高剛性ボディのダイハツロッキー&トヨタライズ。DNGAプラットフォームを採用したことにより、高剛性かつ軽量、サスペンションがよく動く走りの気持ちいいクルマに仕上がっている。DNGA第一弾はタント、第二弾がこのロッキー&ライズ
タントから始まったダイハツのDNGAプラットフォーム。考え方や作り方を工夫することでコストを抑えつつ、この先10年は使えるという高性能さと、軽自動車から小型車まで使える懐の広さを持つものとなっている。 骨格を前から後ろまで繋げることで操安性を向上させている。また、適所を薄板化することで軽量化も実現している
高強度材料を使う特に部位を増やしている
スバルのSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)もTNGAに近い思想だが、車格やパワーユニットの種類が絞り込まれるぶん、より基本骨格としてのプラットフォームの影響力が大きくなっている。
日産のCMF(コモン・モジュール・ファミリー)は、プラットフォームをエンジンコンパートメント(エンジンルーム)、フロントアンダーボディ、コックピット、セントラル&リアアンダーボディ(後席及び荷室)のブロックに分けたモジュール構造として、その組み合せを変えたりセントラル&リアアンダーボディの長さを変化させることでさまざまな車種を作り出すことを可能にした、非常にスケーラブルなプラットフォームといえる。
こちらはセグメントを超えた組み合せも行なうことにより、さらに幅広い展開を可能にしている点が特徴的だ。
スズキのハーテクトは、とにかく軽量化に力を入れている。アルトは140kg減、スイフトは120kg減と前のモデルは何をしていたんだと思うほどの軽量化である。高張力鋼板鋼板の採用だけでなく、形状的に無駄があった部分を徹底して削ぎ落とした。
軽量化は燃費や制動力性能に貢献するばかりか、衝突安全性にも影響する。衝突安全性を高めるには、衝突時の運動エネルギーを低減するための軽量化も大事なのだ。
軽量高剛性な新プラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」の採用したスイフトスポーツは旧モデル比で70kgもの軽量化を果たした
スズキの次世代プラットフォーム、ハーテクトは屈曲した骨格を最短距離で滑らかにつなぐことで、合理的かつシンプルな形状としている。またサスペンション部品も骨格の一部として利用。さらに骨格同士が結合する強い部分を部品の固定に利用することで補強部品を削減。これらにより、ボディ剛性を向上させながら軽量化を実現
このようにそれぞれに特色はあるものの、総じて社内のラインナップに複数導入することにより、開発や生産のコストを抑えながら、優れたクルマを実現しやすい基盤技術になっている。
早い話、ハンドリングが良くて乗り心地も快適、さらには衝突安全性も高い、というユーザーの要望に応えるためには基本骨格であるボディの作り込みが重要で、それを車種ごとに無計画に開発していたものを、先々まで考えて基本のシャーシをしっかり作り込んでいるのが、プラットフォームなのだ。
ガチガチに固めてやればいい、というものではない。それでは車重が増加して重くなってしまうので、燃費も悪くなるし、衝突安全性も低下する。
それに車種によってはある程度ボディのしなりも必要で、それがしなやかな走りを生んで、乗り心地やハンドリング性能にいい影響を与えることもある。
ボディに求められるいくつもの要素をすべて高い次元で実現する、効率の良い方法がプラットフォームなのである。
軽量化のための素材や加工法、生産方法の開発など日々進化している
マツダ3から次世代車両構造技術スカイアクティブ・ヴィークル・アーキテクチャを採用
マツダ3の1310MPa級高張力鋼板採用部品
さらに効率を高めるには素材も重要だ。設計による最適化だけでは軽量化にも限界があるし、コスト削減も難しい。
高張力鋼板は、その名の通り引っ張り強度に優れた合金鋼の鉄板で、通常の鋼板から置き換えることで薄肉化できるため、軽量化が達成できる。Bピラーやスカットルなど強度が必要な部分には特に硬いスーパーハイテン(超高張力鋼)を使うことで、剛性を高めながら重量増を抑えている車種が増えてきた。
しかし、このスーパーハイテンの採用はいいことばかりではなくて、普通の鋼板より価格が高いのはもちろん、「変形しにくい」ということはボディパネルへの加工性も低下する。
そのため高級車ではホットスタンプという温間でプレス成形してそのまま冷却する方法が使われる割合が増えているし、スーパーハイテンを冷間のままプレス成形できる技術の開発も進んでいる。
マツダは、新日鐵住金、JFEスチールの両社と、それぞれ共同で1310MPa級高張力鋼板を用いた車体構造用冷間プレス部品の開発に世界で初めて成功した。マツダでは、この1310MPa級高張力鋼板を取り入れた新世代車両構造技術「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE(スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャー)」をマツダ3から順次、採用していくという。
高張力鋼板を自動車の部材に用いると必要な耐力をより薄肉で確保できるため、車体を軽量化でき、操縦安定性能の向上や燃費性能の改善に貢献できる。また、衝突安全性能を確保するために高い強度も求められており、より高強度な鋼板の適用が期待される。
これまで冷間プレスで成形した部品を車体構造に採用する場合、成形性や加工後の寸法精度の確保の難しさから、高張力鋼板の強度は1180MPa級の採用に留まっていたが、それぞれ共同で技術開発に取り組み、適正な製造条件を定めることで、1310MPa級高張力鋼板の採用を可能にした。
従来の1310~1470MPa級高張力鋼板は、バンパー部品などに適用されていたが、ロール成形など加工方法が限定されていた。今回の1310MPaは、冷間プレス成形による車体骨格部品の強度としては世界最高レベルである。
マツダ3に1310MPa級高張力鋼板を採用した部品は、フロントピラーインナー、ルーフレールインナー、ヒンジピラーレインフォース、ルーフレールレインフォース、No.2クロスメンバー、サイドシルインナーレインフォースで、従来車の同部品と比べると合計で約3kgの軽量化を達成しているという。
またボディの樹脂化が進められているのも特徴で、エンジンルームは今やプラスチック製の部品ばかりが並んでいるが、ボディを構成する部品にも樹脂製品が増えてきた。
アウターパネルは構造材ではないから、フロントフェンダーやドアパネル、リアゲートなどを樹脂化するのはボディ剛性には影響はなく、軽量化や衝突安全性への貢献もある。
コペンはドア以外の外板はすべて樹脂製で、フレームにボルト付けされているので、外板の着せ替えが可能。そのほかのダイハツ車にもフロントフェンダーパネルやバックドアパネルなどに樹脂製パネルが採用されている
以前はボディ剛性を重視してしっかりと鋼板で作って溶接されていたラジエターコアサポート(フロントグリルの奥、ラジエターの前にある、ボディ前端上部の構造材では最前端部材)は、今やボルト止めの樹脂製が当たり前だ。
設計技術の進化により、その他の部分でボディ剛性を確保して、ボディ前端は衝突安全性や軽量化を重視した作りになっているからだ。
今後は熱可塑性のCFRTP( 軽量・高強度の炭素繊維強化プラスチック)など炭素繊維を練り込んだ樹脂を使うことにより、さらに強く軽い樹脂部品がボディの構造材にも採用されていくと予想されている。
このところ乗用車は電動化など燃費への追求が注目される傾向にあるが、クルマはやはり基本となるシャーシが作り込まれていることが大事。
自動車メーカー、部品メーカー、素材メーカーの研究開発は、いいクルマ作りのためにも日夜進められているのだ。
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みんなのコメント
狭い日本で舗装路も増えて
だいたい長く乗れば剛性落ちるでしょ?
ただの値上げの材料にメーカーがしてるのでは
日本車にほとんどない1000万クラスの高級車は仕方ないとしても大衆クラスの剛性感は差がなくなってきてる。