■いま、最先端のバイクファッションを追求したい
「いまRC8(※KTMのスーパースポーツマシン。加藤さんの愛車)が故障して、バイク屋さんに預けているんですよ」
ヘルメットもファッションに? アライ『ラパイドNEO オーバーランド』デザイナー加藤ノブキが描くコンセプトとは
取材当日、待ち合わせ場所の駐輪場で撮影の準備をしていると、目尻を下げて残念そうに言う加藤さん。自身が手掛けたヘルメットとマッチしたバイクで写真に納まることができればよかったのに、という思いがあったようです。顔を合わせて数分、加藤さんのファッションやイメージを追求する思いの強さが顔をのぞかせました。
加藤ノブキさんはこれまで、漫画家、イラストレーター、絵コンテライターなど多方面で活躍してきたクリエイターです。最近では腕時計メーカーのSEIKOの広告イラストデザインや、イタリアの2輪メーカー「FANTIC(ファンティック)」の日本での広告に携わっています。2019年、2020年にはバイクをテーマにしたイラスト展を開催。もちろん自身も相当なバイク好き。16歳からバイクライフを楽しんでいます。2輪ロードレース選手権の最高峰、MotoGP観戦も大好きで、バレンティーノ・ロッシ(Monster Energy Yamaha MotoGP)のファンだそうです。
今回デザインした『ラパイドNEO オーバーランド』は、加藤さんが2019年に行なったグループ展をきっかけに誕生しました。会場に展示した加藤さんデザインの『ラパイドNEO』が、アライヘルメット社内で商品化の話に発展したのです。
元々アライヘルメットのラインアップとして存在していた『ラパイドNEO』に、加藤さんがグラフィックデザインを施した『ラパイドNEO オーバーランド』は、ストリート、ミリタリー、アウトドア、スポーツといった、これまでのバイクファッションと、現在一般的に流行っているファッションの要素を取り入れた、新しいデザインになっています。
そんな加藤さんがバイクファッションについて考えるとき、根底にあるのは「最先端の格好よさ」だと言います。
「現在、一般的なファッションとして受け入れられている革ジャンが登場したのは、1930年代です。まず最初に『Schott(ショット)』が革ジャンを作りました。第一次世界大戦が終わったあと、アメリカの帰還兵がバイクに乗るようになったのが、バイクファッションの先駆け。元々は、飛行機乗りが着るような革のファッションを取り入れたようです。
そこから“ロッカーズ”が出てきて……。当時は、若者の社会への鬱屈のようなものがあった時代だったのではないでしょうか。そういうものが若者の文化になっていった。次第に憧れるものから見た目だけが残り、ファッション文化になったようですね」
若者の羨望を浴びていた当時の最先端ファッション、たとえばライダースジャケットやモッズコートは、いまでは一般的なファッションアイテムとして定着しています。加藤さんがバイクファッションについて考えるポイントは、まさにそこでした。
「2020年代のバイク乗りも、そんな一般の人が真似したくなるようなカッコイイ存在であって欲しいですし、自分もそうありたいと思っています。ひいてはそれが2輪業界の活性化にもつながると思うんです。
僕は伝統的なライダースのスタイルも、正統派なライディングギアのスタイルも好きですが、その上で、これまでにない新しいバイクファッションが登場する必要性も感じています」
加藤さんがバイク乗りのファッションを考えるとき、そこに垣根はありません。様々なスタイルを寛容に受け入れています。
「僕は、どれがダメとは言いたくないんです。みんな、それぞれが認め合って、お互いにリスペクトしていけばいいと思う。可能性を狭めてしまって、得なことはないと思います。
いまはSNSの発達で、いろいろな人が様々なファッションでバイクを楽しんでいるのが見えるようになりました。海外では、クルーザーやスーパースポーツにオフロードヘルメットを合わせて街を走る人もいるんですよ」
好きなMotoGPライダーのレプリカヘルメットや、ブランドで統一した格好でバイクに乗る人もいれば、若い人の中には、カジュアルな格好にレーシングブーツやレーシンググローブを合わせる人もいます。こうした若いバイク乗りの新しい発想は、加藤さんからは出ないものがある、とも言います。
近年ではインナープロテクターも進化しており、プロテクション機能のない服装の上に、または中に着用できるタイプも増えています。そうしたアイテムの活用も、バイクファッションの幅をぐっと広げることにつながるでしょう。
バイク乗りのスタイルが最先端のファッションとして憧れの対象になれば、バイクがひとつの文化として、広がりを見せていくかもしれません。
■モトジャージに感じる可能性
そんな加藤さんが、いまのバイクファッションの中で可能性を感じているのが“モトジャージ”、モトクロスで走るときに着用するライディングウェアです。
「モトジャージはけっこう自由度が高いんです。グラフィックを派手にも渋くもできる。僕が今日着ているのは長袖だけど、メッシュだから夏でも涼しくて使い勝手がいいんです。ストリートっぽいですが、いろいろなファッションに合うと思います」
この日、バイクで取材にやって来た加藤さんが着ていたのは『Deus Ex Machina(デウスエクスマキナ)』のモトジャージです。Deus Ex Machinaはバイクのカスタムショップから始まったオーストラリアのアパレルブランドで、バイク、サーフィンとファッションを融合させたスタイル提案をしており、一般的なアパレルブランドとしても認知されている、と加藤さんは言います。
「モトジャージは、アウトドアブランドの『POLeR(ポーラー)』なども出しています。モトジャージとアウトドアは、同じ土の上で遊ぶというところから、すごく相性が良い。
アウトドアは以前からブームになっていて、アウトドアファッションはすでに市民権を得ています。『THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)』や『Columbia(コロンビア)』などが展開していますよね。同じように、一般的なファッションアイテムとして、モトジャージが成立し始めていると感じました。第2のライダースジャケットになる可能性があるのでは、と」
バイクファッションとしての“いまの格好よさ”を追求する加藤さん。過去やジャンルを超えたリスペクトを持ちつつ、常にあるのは「新しいバイクファッションとは何か」ということ。その可能性は、すべてのバイク乗りにもあるのではないでしょうか。
■加藤ノブキ・プロフィール■1977年広島県出身。バイク歴27年。愛車はKTM「RC8」。間もなくファンティック「キャバレロ・フラットトラック250」が相棒に加わる予定。2002年東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。アーティスト活動とともに、フリーランスとして漫画・イラストレーション・絵コンテなどのクライアントワークを行なう。また、創作漫画集団『mashcomix』のメンバーとしても活動。2019年、2020年には『UNITEDcafe』店内でのバイクをテーマにしたイラスト展『HAVE A BIKE DAY.』を2年連続で開催。2019年は『DEUS EX MACHINA 原宿』で『モトクロニクル2030』も実施。腕時計メーカーSEIKOや、イタリアの2輪メーカー「FANTIC(ファンティック)」の日本での広告イラストデザインなどを請け負う。2020年6月下旬、アライヘルメットよりデザインを手掛けた『ラパイドNEO オーバーランド』がリリースされる。
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