BMWの新型SUV「X6」に今尾直樹が試乗した。ベースになる「X5」との違いなどを交えレポートする。
確立されたSUVクーペ
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2019年12月23日に国内発売となったBMWのミド・サイズSUVクーペ、新型X6 の直列6気筒ディーゼルターボ搭載モデルは、いまにも噛みつきそうな風貌が与える印象とは違って、紳士的なクルマだった。初代以来、11年の歳月と2度のモデルチェンジを、洗練と成熟に費やしてきている。そう考えると、それも至極当然だ。である、としても。
2008年の初代X6の登場時、少なくとも筆者は小山のようなファストバックのSUVを見て、こんな常識外れの非合理的なモノが必要なのか、といぶかったものだった。X5という機能的なSUVがあるのに、わざわざそれをスタイリング優先で仕立て直して、使い勝手を悪くしているのだから。
結局のところ、筆者は常識にとらわれていた。市場はこのクルマを歓迎し、その後、他社からも同様のモデルが次々と発表されて、いまやSUVクーペというジャンルが確立している。
そういうなかで、BMWはX6のコンセプトを変えることなく、改良を積み上げてきた。それが3代目ということになる。
売り家と唐様で書く三代目
という川柳では、3代目は初代が苦労して築いた財産を放蕩のあげくつかい果たしてしまい、家を売るハメに陥るのだけれど、売り家と書いた札の字は唐様で、商いはダメでも文化的な教養を身につけている、とうたう。結局のところは3代目を褒めているのだと私は思うのですけれど、3代目といってもいろいろで、X6のほうは蕩尽しちゃうどころか、初代から引き継いだものを成熟させている。世の中にはリッパな3代目もいらっしゃるのでした。
スタイリングが実用性を損なってはいない
X6の3代目の話である。ボディ・サイズは少々大きくなった2代目よりもさらに大きくなって、全長4945×全幅2005×全高1695mmに成長している。ホイールベースは、基本のプラットフォームを共有する5シリーズやX5とおなじく、3mまであともうちょっと、という2975mmにまで延びており、つまり新型X6が大きくなったのはベースの5やX5が大きくなったからなのだ。
にもかかわらず、存外コンパクトに感じるのは、ボディのふくらみをあまり感じさせないようなデザインだから、だろう。X5よりも全高が75mm低くて、ライトやグリルが水平方向を強調している。ウェスト・ラインから上だけを見れば、最近のBMWのクーペの文法がそのまま使われていることがわかる。
ヘッドライトはX5と共通だけれど、キドニー・グリルは両端がトンガっていて横方向に広がっている。これも、最近のバイエルンのクーペ系に共通する意匠である。
新しい試みとして、このグリル、光ファイバー技術によってライト・アップされる。「BMWキドニー・グリル アイコニック・グロー」と命名されたこれは、新型X6の標準装備で、たぶん、夜、後ろからやってきたら、すぐに道を譲りたくなるにちがいない。おそらくこれ、ほかのモデルにも採用されるのではあるまいか。
巧みなのは、初代からしてそうだったけれど、スタイリングが実用性を決定的に損なってはいないことだ。
たとえば、リアの居住空間は、X5より全高が低いことに加えて、試乗車は「スカイ・ラウンジ・パノラマ・ガラス・サンルーフ」という37万7000円のオプションを装備しており、天井がさらに低くなっていた。でも、あなたを後ろに乗せて、東京から大阪までいきますよ。ということになれば、筆者は、ちょっと狭いね、というような文句をたまに言うかもしれないけれど、喜んで乗っていく。それぐらいの空間が確保されている。
荷室もまた、ファストバック・スタイルの分、天地方向が浅くなっていて、カタログの荷室容量でいうと、X5の650リッターに対して、X6は580リッターと70リッター少ない。とはいえ、これは比較の問題で、5シリーズ・ツーリングの570リッターよりも広い。気の持ち用、程度の違いしかない。と言い換えることもできる。
エグゼクティヴ・セダンっぽい内装
後席に乗ってから運転席に乗り込むと、それだけで息が切れている自分に気づいた。さすが、BMWいうところのスポーツ・アクティヴィティ・クーペである。健康でなければ乗る資格がない。
運転席は着座位置が高くて、見晴らしがいい。Aピラーがちょっと迫っているのは、フロント・スクリーンが傾斜したクーペだから致し方ない。高さを別にすれば、クーペらしい眺めである。リア・ヴュー・ミラーの視界が上下に狭いのはリア・ガラスが寝ているからで、クーペというのはそういうものなのだ。
だからといって視界が悪くて運転しにくいかというと、そんなことはない。駐車時には上から見た画像が映し出されたりもするシステムが付いている。
ちなみに最低地上高はX5と同じく215mmもある。ジープ・ラングラーの200mmよりも高いのである。もちろん最低地上高だけでオフ・ロード性能は判断できないけれど、本格4×4仕立てにしようというつくり手の意図がうかがえる。
一方、内装はエグゼクティヴ・セダンっぽい。大きな液晶画面が鎮座している運転席の風景はX5とはもちろん、5シリーズとも共通で、試乗車は「クラフテッド・クリスタル・フィニッシュ」という8万9000円のオプションによってシフト・レバーがガラスになってラグジュアリーにキラめき、「カーボン・ファイバー・インテリア・トリム」、16万4000円のオプションによって、グッとスポーティな雰囲気を漂わせている。
新型X6の日本仕様には、試乗した3.0リッター直列6気筒のディーゼルターボのほかに4.4リッターV型8気筒ターボのガソリンもある。V8は、最高出力530ps、最大トルク750Nmを発揮する。このV8を積むM50iはBMW最強のMの文字を持つ高性能モデルで、いわばX6の別人格である。
ディーゼルのxDrive 35dは、国内市場におけるX6のスタンダードという位置付けで、スタンダードという名前のベーシック・モデルと、前後と両サイドに空力パーツを装着するなどによって、スポーティな内外装を施したMスポーツの2種類がある。
価格はスタンダードが990万円、Mスポーツが1074万円。M50iは1402万円と、スーパーSUVにふさわしい正札をつけている。
ソフト志向の乗り心地
以下、試乗したX6 35d Mスポーツに話を絞って進めると、テスト車は17万1000円のオプションの22インチのホイール&タイヤを装着していて、外観の迫力たるや、530psのM50iも同然だった。
タイヤ・サイズは、前275/35、後315/30という薄さで、銘柄はピレリPゼロである。22インチのタイヤがランフラットではないのは、乗り心地をおもんぱかっての選択だろう。
スターター・ボタンを押して3.0リッター直6を目覚めさせる。ぶるんと控えめにボディを震わせると、シートベルトがいったん、キューっと締まってから、ややゆるまって、適正な位置で止まる。キューっと締まったときに、これからコンクリート・ジャングルに飛び出す、という緊張感をもたらす。
2015年に登場したアルミニウム製のディーゼル・エンジンは、もちろんターボチャージャーを備えていて、最高出力265psを4000rpmで、最大トルク620Nmを2000~2500rpmで生み出す。
走り出しは軽やかで、2180kgという重さを感じさせない。低速から大トルクを生み出すディーゼルならではである。
xDriveは状況に応じて瞬時に前後トルク配分を変える4WDだから、ドライ路面で直進している限り、後輪駆動で走っているはずだ。ZFの8速ATは変速がたいへんスムーズで、存在がほとんど気にならない。
Mスポーツの場合、可変ダンピングのアダプティブMサスペンションが標準になる。エアサスも4WSも設定自体がなく、オプションでも選択肢にない。Mスポーツというと乗り心地が硬い。しかも22インチ。と、構えていると、意外やソフト志向で、平滑な路面であれば、ゆったりしていて洗練されている。路面が荒れていると、それなりに揺れるけれど、22インチが暴れるようなことはまったくない。よく調教されている。
渋谷から首都高に上がって、池尻あたりの渋滞で、「高速道路渋滞時ハンズ・オフ・アシスト」を使ってみる。ストップ&ゴーがたいへんスムーズでほれぼれする。BMWは現時点でこの分野のトップ・ランナーのひとりであると筆者は思う。
首都高速の目地段差をタンタンと上手にこなしたのも印象的だった。ランフラット・タイヤだったらどうだったのか、ちょっと知りたいところだ。
高速道路の100km/h巡航は、8速トップで1300rpm程度ということもあって、たいへん静かである。東名高速の下り、横浜町田あたりの路面はけっこう波をうっていて、乗員は若干揺すられる。
中華料理のチャーハンになったみたいだな。チャーハンはいいすぎか。オムレツを仕上げるときに、シェフがフライパンの柄をトントンと叩く。そのときのオムレツの感じか……。
踊るオムレツだと思うと、私はにわかに楽しい気分になった。オムレツはやさしく丁寧に扱われている。X6はハードでタフ、そしてワイルドなタイプではなくて、そういう乗り心地なのだ。
X5より50万円ほど高いのは意外と安い?
ETCのゲートを通過後、全開を試みる。じつに滑らかにまわる。さすが直列6気筒である。ディーゼルなので、シルキー・スムーズというよりは洗いざらしのデニムっぽい、ということはある。清潔感があって、豆腐にたとえると、ガソリン直6が絹ごしなら、そのディーゼルは木綿だ。と、書いて気づいた。比喩を英語から日本語にしただけだった……。
あいにく山道はガスっていたけれど、トルクが620Nmもあるから、登り坂をものともせず、重量級ボディが、羽があるかのように軽やかに加速していく、ということはわかった。
ドライビング・パフォーマンス・コントロールを、コンフォートからスポーツに切り替えると、ギアが下がって、3000ぐらいからエグゾースト・ノートの音量がグッと増す。Mスポーツに標準装備のMスポーツ・エキゾースト・システムが、ちょっと荒々しい、野太く乾いたサウンドをつくり出している。ダンピングがちょっと締まる。でも、跳ねるようなことはない。
ステアリングに対するボディの反応がごく自然で好ましい。筆者の記憶では、先代のX6はもっとクイックで、いささか人工的な味付けだった。それが新型X6ではナチュラルになっている。けっして緩慢なわけではない。
山道ではボディが大きすぎて持て余すかと思ったら、そうでもなかった。巨体がスイスイのぼって、スイスイ曲がる。低速トルクが豊かなので、フラットな路面では、さほどエンジンをまわす必要がない。室内で聞こえるのはステアリングホイールを操作するドライバー=筆者の手が革巻きのグリップを滑るときのシューッシューッという音だけだ。可変ダンピングがロールをナチュラルにおさえてもいる。
車検証に見る前後重量配分は、フロントが1070kg、リアが1110kgで、BMWが理想であると主張する50:50を成立させている。X5で高性能SUVの扉を開いたBMWは、電子制御に頼らない、基本のプラットフォームを磨いてきたということだろうと筆者は思う。
X5よりX6のほうが実用上、もし優れる点があるとすれば、燃費かもしれない。同じ35dスタンダード同士の比較だと、車重がX6のほうが20kg軽い。しかもフロント・スクリーンが若干寝ていて全高が低い。カタログのJ08モードだとX6が14.9km/リッター、X5は14.4km/リッターとなっている。
価格は、X5のxDrive 35dのスタンダードが938万円なのに対して、X6は990万円と、52万円という小さくはない差がある。合理的に考えれば、50万円も余分に出して、後席も荷室も狭いほうを選ぶのは愚である。
いや、X6はボディの外板がX5と全部違うのに50万円高いだけだから、むしろ安いのである。ポルシェの「カイエン・クーペ」は、フロントのAピラーの付け根から前とフロントのドアはカイエンと共通なのに100万円も高いのだから。
というようなことをゴチャゴチャ書いているのも詮ない。ひとは合理的な理由だけでクルマを選んでいるわけではない。間違いだらけのクルマ選びをしている。BMWはそのことをよ~く知っており、不要不急の、他人とはちょっと違う、カッコイイもの、いわばムダなものをマジメにつくっていて、西洋人はそれを文化と呼ぶのである。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
このだっさいメーターも全車種共通になるんだな
残念ポイント多すぎ
車種増えても結局は共有部分が残念だとなぁ