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GTWCアジア参戦のYogibo Racingが味わった、クラッシュの悪夢からの激動の一夜の裏側

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GTWCアジア参戦のYogibo Racingが味わった、クラッシュの悪夢からの激動の一夜の裏側

 7月16日、三重県の鈴鹿サーキットで開催されたファナテック・GTワールドチャレンジ・アジア・パワード・バイ・AWS第2ラウンドのレース1で、トップを争いながらも接触されクラッシュしたYogibo Racingの27号車フェラーリ488 GT3エボ。ひと晩での“復活”までには、Yogibo Racing 芳賀美里監督の“決断力”があった。

 2022年からGTワールドチャレンジ・アジアに参戦を開始し、日本チームとして唯一フル参戦を果たしているYogibo Racing。第1戦セパンでは横溝直輝がレース1のポールポジションを獲得するなど、速さをみせてきた。今季、迎える第2ラウンドからは『ジャパンカップ』として日本の強豪チームが多数参加しレベルも上がるが、Yogibo Racingも横溝のパートナーとして藤波清斗を起用。またこのラウンドから、Yogiboがシリーズとオフィシャルパートナー契約を締結。日本での開催という事もありゲストも多数訪れていた。

GTWCアジア第3戦大クラッシュのYogibo Racingに“救世主”登場。前澤友作氏がフェラーリ貸し出し

 そんななか迎えた7月16日の予選では、木~金の間に進めたセットアップ改良が功を奏し、横溝が今季2回目となるレース1ポールポジションを獲得。「チーム力の高さを示せた」と横溝も手ごたえを得るポールポジションとなった。

 雨が降った後、ウエットコンディションで迎えた16日13時30分からのレース1。予選を担ったドライバーがスタートドライバーを務めるが、トップで1コーナーに入った横溝の横から、トラクションに優れるカンタディ・クシリ駆るEBMギガ・レーシングの18号車ポルシェ911 GT3 Rが迫る。2コーナーまでに2台はわずかに接触、Yogibo Racingのフェラーリのサイドミラーが飛ぶが、横溝は2コーナー立ち上がりまでインを死守。トップでS字に入っていく姿勢をみせた。

 しかしその瞬間、左リヤをヒットされ、横溝は姿勢を乱してしまった。「何もできなかったです。グリーンに出てしまったら濡れていてよけい加速してしまいましたし、グリーンで舵も効かない状況。ノーコントロールでした」とフェラーリはリヤからタイヤバリアにヒット。全損状態となってしまった。

 翌日には12時20分からレース2が待っている。スーパーGT GT500クラスのような車両であれば、スペアパーツさえあればいかようにも修復は可能だ。しかし、市販車と同じフレームを使っているGT3カーは、フレームにダメージが及ぶとシャシー交換、車両交換しか手段がない。急遽クルマを用意するしか手段がなかった。通常であれば、レースはここであきらめる。しかしここから、Yogibo Racing芳賀美里監督のあきらめない気持ちによる、一日がかりのドラマがスタートした。

■『明日出ることに意義がある』芳賀監督の熱い思い
 車両の目途はひとつあった。ドライバーの横溝がMZ SUPERCAR PROJECTを通じて親しくしている前澤友作氏が所有するフェラーリ488 GT3エボが、まったくの同仕様だった。ただ、この使用にはさまざまな障壁があった。レースを運営するSROモータースポーツ・グループに確認をとると、車両交換にはクラッシュした車両のパーツの使用、またスターティンググリッドのGT3内での最後尾、3分のペナルティストップという重いペナルティが課されることになった。勝負権はほぼなくなる。

 さらに、現代のレーシングカーはほとんどのチームが加入しているのだが、レーシングカー専用の保険がある。クラッシュなどの場合に使えるが、前澤氏所有のフェラーリに保険をかけるには、一日では足りなかった。

 横溝は、このとき海外にいた前澤氏に連絡を入れたが、当初は「急なことなので時間もないし、(7月23~24日の)第3ラウンド富士からなら貸し出してもいい」というものだった。車両レンタルの料金も正式に決まってない状態であったが、チームを率いる芳賀美里監督は、「明日のグリッドに並ぶことに意義があるんです!」と翌日までに間に合わせたいと強く主張した。

「ドライバーの気持ちもありますが、『やれない理由はある?』と聞いたところ、それは『ない』と。またチームも、代わりのクルマがあればやれると。『ならやりましょうよ』」と言いました」と芳賀監督はチームに伝えた。鈴鹿まで応援に来てくれた多くの人々、そしてすべてのレースを戦いきりたいというYogibo社 木村社長、そして期待を繋げられなかった横溝への思いもあった。

「ドライバーとしては、そう言ってくれたのはとても嬉しかったです。気持ちも落ち込んでいましたし、もう一度『まだ戦える』というのは、メンタルの面ですごく助けてもらいました」と横溝は言う。

 芳賀監督と横溝、チームは「そこから、SROのレギュレーションや保険の問題など、さまざまな障壁が立ちはだかりましたが、Yogibo社の木村誠司社長とともに直談判しに行ったんです。どうしてもレースをやりたいと。メカニックやエンジニアも保険なしでは厳しいという話をしていましたが、Yogibo社からは事故があった場合の全額負担を緊急取締役会で決定していただいたので『大丈夫! 明日参戦することに意義があります』と伝えたんです」と決断を前へ、前へと進めていった。

 この芳賀監督の熱い思い、そしてまた事故が発生した場合、保険に加入せず全額を支払う決断をしたYogibo社木村社長、そして緊急であるにも関わらず快く車を貸し出す決断をした前澤氏。

 課題が山積した激動の一夜を越え、全ての問題が解決し、芳賀美里監督から最終ゴーサインが出たのは翌朝の早朝であった。こうしてレース2への奇跡の参戦が実現した。

「私の思いに木村社長、前澤さん、のふたりが侠気で応えてくれました。チームからは参戦できる事を『ウソでしょ?』と言われましたが(笑)」

■苦境を跳ね返しYogibo Racingの底力をみせる
 無保険ともなれば、当然レース2でまたクラッシュを喫した場合には、すべてYogibo側で負担し、所有する前澤氏に、ほぼ1億円近い費用がかかる488 GT3を弁償しなければならない。しかしYogibo社木村社長は「構わない」と監督の思いに応えた。

 そんなチームの頑張りもあり、3時間で用意された『Yogibo』のロゴが貼られたフェラーリ488 GT3エボが7月17日のピットに姿をみせた。グリッドは本来予選2回目で得ていた9番手から、ペナルティにより16番手に降格されていたが、1周目には12番手にポジションアップ。スタートドライバーを務めた藤波も、“無保険”を感じさせないアグレッシブなオーバーテイクをみせてくれた。

 途中、3分間のペナルティストップはあったものの、Yogibo Racingのフェラーリは1ラップダウンの12位でフィニッシュした。もちろん結果は残せなかったが、「ぶっつけ本番でしたが、良い感触もありましたし、富士に向けても繋がるレースになったのではないでしょうか」と芳賀監督は振り返った。

「チーム、ドライバー共に勝てない要素はないですし、まわりもそう見てくれています。今回のようにレースは何があるかは分かりませんが、こういう状況にも打ち勝てるというのを示したかったんです」

「まわりも驚かせたかったですし、今回の危機を乗り越えて、チームの団結も深まりました。7月23~24日の富士も楽しみにして欲しいですし、これからも期待していただければ」

 他のさまざまなスポーツでもそうだが、モータースポーツの舞台でも我々を驚かせてくれるYogibo。今回も、通常ならば“あきらめて終わり”のところを、芳賀美里監督の“絶対にあきらめない”姿勢で話題を呼んだ。現在、カーボンブラックだったフェラーリは、ふたたびYogiboのブランドカラーである鮮やかなブルーに衣替え中だ。第3ラウンドの富士も、さまざまな話題を提供してくれることになりそうだ。

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