前回はマツダの生産技術見学会から見えたマツダのモノづくりへのこだわりと考え方をお伝えし、MBD(モデルベース開発)を駆使することで精度の高いものの量産に成功しているとお伝えした。世界で見ればスモールプレイヤーだというマツダがこの自動車産業変革期の中で、生き残っていくためには、何を作らなければいけないのかが大きな課題になった。そこでマツダらしさを生み出すために、さまざまな分野への改革を行ない、現在はスカイアクティブのGen2(ジェンレーション)までたどり着いたわけだ。
今回はより具体的なマツダのこだわりを掘り下げてお伝えしよう。
※関連記事:自動車開発のMBD=モデルベース開発って何?
魂動デザイン再現への取り組み
前回の記事で魂動デザインの再現に「魂動削り」「魂動磨き」「魂動砥石」などを開発したと説明したが、そこには、御神体「チーターオブジェ」の存在があり、金型成型技術へのこだわりをお伝えした。ここでは、魂動デザインを再現するために要求された板金金型プレスについてお伝えしよう。
この技術は最新のマツダ3、CX-30はもちろん、ロードスターを始めとするマツダの製品群すべてに投入されている技術だ。
魂動デザインは、ボンネットを下げ、Aピラーを後退させるデザインで、ロングノーズに見えるスタイリッシュなデザインとなっているが、Aピラーの存在により視界を犠牲にしてはならない要件がある。そこでフロントピラーの幅を-20mm細くすることに挑戦している。
技術課題としてプレス成型において横から曲げる工程を行ない、強度、剛性をこれまで以上に定量的な(数値的な)判断基準が必要だとした。つまり、感覚ではなく、数値化で視界の確保をする取り組みだ。
ピラーの細化において、金型成型時の金型の挙動を計測する計測技術を開発している。その結果、金型の挙動を机上で再現する高精度なCAE解析が実現したという。さらに、モデルベース開発(MBD)で、稼働させる部品の稼働方向を変える、つまり、断面幅の寸法を突き詰めることで新世代となるAピラーの量産に成功したという。
車体構成
魂動デザインの美しさの再現として、寸法精度を従来の3倍レベルの高精度で実現させる必要があったという。鋼板パネルどうしの隙間を計測して維持管理していく必要があるが、さらに面の連続性の表現が要求され、どのような因子によって美しく見えるのか、また崩れるのかといったことを検証したという。
その結果が従来の3倍の寸法制度が必要だということがわかったという。マツダはCX-30の加工領域をシミュレーション領域で再現し、車体寸法を決めた。その結果「世界一美しいクロスオーバー」になったと発言しているわけだ。
この先の課題としては、この寸法精度を海外で展開する生産拠点でも同等の精度で作れるように等価品質を高めていく必要がある。そのためには、MBDを使ったシミュレーション技術を高めていくことが大切だとしている。
車両部品の取り組み
もうひとつ、樹脂部品において部品間の継ぎ目を感じさせないような作り込みを実現させる取り組みがあり、クルマの塊感を出そうという狙いをもって取り組んでいる。
映り込みは光の反射そのものなので、それをつくる放線ベクトルに着目したという。異なる部品間でつながる放線ベクトルが、ある基準内で滑らかにつながることを突き止めたというのだ。それを実現するために、柔らかく変形する樹脂部品を狙いの形状とするために、ある取り組みをしたという。
それは、樹脂の射出成形で、高温で溶かした樹脂を金型に流し込む工法において、成型時の樹脂変形に対する取り組みを行なったことだ。そこでは、金型内で樹脂の挙動を正確にシミュレーションできるソフトを開発したというのだ。どんな形状なら変形しにくいか、どんな流し方にしたら変形を抑えられるか、といったことを数値化し、その中で抑えられない変形が存在することもわかり、変形を盛り込み済みとした金型を作るというインバース技術で達成できたという。それが、CX-30のフロントバンパーだ。
形状凍結技術
一方、1310MPaの超高張力鋼板を使った技術では、材料強度は従来の約5倍、コストは1.2倍という優れた鋼材なので、大幅に採用し、軽量化で17%向上している。この超高張力鋼板の加工技術は冷間プレスでは、世界初の量産化に成功した技術ということだ。
採用部分はCX-30のルーフの端からバルクヘッド端の部位のキャビン部に採用している。つまりキャビンを守る役目のある部位に、この超高張力鋼板が使われている。
課題になったことは、スプリングバックがあることだ。変形させても元に戻ろうとする力が強く、成型しにく性質を持っている。材料強度に応じて線形にスプリングバックが増えるというのが鋼板の特徴であり、スプリングバックしないように形状凍結技術を開発している。
そのスプリングバックは材料固有の物性値である弾性係数に依るところが大きく,材料側の対策には限りがある。スプリングバックの対策として一般的に用いられている手法は、金型の変形見込みだが、どの程度スプリングバックを見込む必要があるかは、熟練者でも設計が難しいといわれているのだ。したがって実物トライアル中心の試行錯誤による調整が行われているというのが現状だ。
そこでマツダはMBDを基軸にCAE解析し、机上で開発。鉄鋼メーカー、開発部門、生産部門の三位一体で研究し、稜線形状に曲げた時に座面形状をつけることでキャンバーバック、スプリングバックを大きく抑制することができたという。
その結果CX-30、マツダ3ではAピラーを細くでき、視界を妨げない形状のキャビンにできたということだ。
接着剤の採用
減衰接着剤という新たなボディ構造用接着剤を開発している。これはマツダ3、CX-30に投入している技術で、タイヤやボディを介して感じるゴツゴツやザラツキといった音や振動をリニアで穏やかに変化させてやることでもう一段階上の乗り心地を狙って開発した技術だ。
マツダが開発したこの減衰接着剤は、世界初の開発だそうで、鉄板はエネルギーは伝達するものの、減衰はほとんどしない特性。そこで減衰節という構造を用いて減衰するボディへと進化させている。
縦軸は剛性(変形のしにくさ)、横軸に減衰性(振動の収束を示す)グラフを作り、一般的にはトレードオフの関係にある性質を減衰接着剤に複数の樹脂を使うことで、この背反性能を両立させている。
減衰節とは、その構造体の中に竹の節のような構造を入れたもので、3面をスポット溶接して剛性を高め、残り1面に減衰接着剤を塗布している。そうすることで、ねじりなどの力が入った時に優先的に接着剤にエネルギーを貯めることができる構造にしている。
その結果、減衰ボディへと進化することができ、乗り心地性能としては1.3倍の向上につながったとしている。また、接着剤は車体工程で塗布され、そのまま塗装工程に入り、乾燥工程で硬化し、品質が確定するという。
塗布技術のポイントとしては、減衰を出すために厚みが必要になるため、点状の塗布をするのがキー技術で、滑らかな乗り心地を提供することとのポイントになっているものだ。
スカイアクティブXエンジンの量産技術・機能評価技術
スカイアクティブXエンジンの提供価値はガソリンが持つ伸び感のあるエンジン、ディーゼルが持つトルク、そして省燃費を両立させたマツダ独自のエンジンだ。各媒体に試乗レポートが掲載されているが、その価値はなかなか伝わりにくいようでもある。
さて、生産技術において、熱効率の向上を目指すために圧縮比と比熱比に注目したのがスカイアクティブXだが、圧縮比では16.3(欧州仕様。日本仕様は15.0)を実現させるために、加工精度に磨きかげ、高圧縮比と高比熱比化による圧縮着火という技術によって誕生している。
高圧縮比化に対しては、動的にピストンの高さを計測できる技術を開発している。ガソリンに対してピストンのトッピング高さを24%の精度向上させている。トッピング高さとはピストンが上昇した時の最も高い位置とシリンダーブロックのトップ面からの距離のことで、トッピングを構成するブロック、クランク、コンロッド、ピストンの加工精度を徹底的に業界トップレベルで磨き上げているという。
これらを全部組み合わせて定量的に計測し、そのレベルは、1.5mmの誤差で管理しているという。その結果、すべての部品の製品公差を100とした時、その半分以下での管理だという。
計測方法としては、ピストンの頭に測定紙を当て、ピストンを回転させながら計測。従来はダイヤルゲージで計測していたが、ピストンはブロックの中で首振りがあり、斜めになる時がある。そのため、ピストンの頭にセンサーを2個設置し首振りによる誤差を補正した。
こうして狙い通りの高圧縮比化したシリンダーを100%量産化できるのだという。製造工程における精度が高くなければ実現しないスカイアクティブXだが、生産技術による課題解決をここでも行なっているわけだ。
そしてもう一つの課題、高比熱比化への取り組みでは、空気をたくさん入れる部品を開発し、それが高応答エアサプライで、エンジンの回転にベルトを介して回転させるスーパーチェージャーだ。そこで送り込まれる空気を定量的に計測している。そうすることでラムダ2という空燃比になり、高比熱比を実現していくのだ。
そして、その機能を評価しなければならないが、機能保証の考え方は、社内外の部品と組立工程で初めて発揮するエンジン機能を定量的にデータで計測し、100%保証することになる。エンジン機能をどのように計測するのか?なんの機能をどうやって計測するのかを具体化する必要があり、組立工程では、5工程において機能保証をしている。
その5工程とは燃料系、回転系、動弁系、吸排気、電装系をすべて組み付けた状態のユニットとして最終的に機能評価し、シリンダーブロックの製品保証をしている。
ヘッドの高精度加工技術
一方、スカイアクティブXに使われるシリンダーヘッドだが、燃費、環境性能の向上を狙っている。ばらつきを抑制し、ヘッドでは57%の精度向上、そのほかでも公差半減できているという。
例えば、ヘッド燃焼室容積精度では57%、シリンダーブロック高さ精度は20%、コンロッド長は半減、クランク半径でも半減とトップレベルの精度を誇っている。そした進化のポイントとなるのが加工中の変化に対するセンシングを行なって対応していくことだ。
高精度加工では、従来はマシニングセンタという加工機の中に、タッチセンサーを用いて、中の治具に直接タッチしていく方法だった。タッチした時の気温変化やモーター発熱による温度の変異量を計測し、その結果を加工動作条件に反映していた。が、さらにセンサーを追加して加工中の変化もフィードバックできるようになり、加工精度が飛躍的に向上したという。
こうしてつくられたシリンダーヘッドだが、その品質保証について、従来はヘッドの燃焼室容積の測定をするときに、無作為の抜き取りによる検査で精度を保証していたが、今回は光コム式レーザー計測機を用い、直接容積を測定することを行なっているので全数保証となっている。
こうして量産エンジンとしての機能保証をし、スカイアクティブXの量産化が成功したということだ。
フレキシブル生産
ホワイトボディをつくる生産ラインもマツダは改良している。多様化するニーズ、そうした商品変化に即応可能な車体フレキシブルラインを実現するモジュール構想で対応している。CX-30はこの新ラインで生産され、狙いは、多品種少数生産だ。需要にフレキシブルに対応し、短期間でラインを変更できるところに狙いがある。
魂動デザイン実現のための高精度なボディと人馬一体のために軽量高剛性化されたボディの実現、そしてマツダ独自の価値を提供する取り組みでもある。
そこでラインの汎用性を高めた要素として、
1:治具モジュール構想・・・部品形状の影響を受け品質を決めるキーとなる設備で、治具を専用として製品の受け皿となるようにすることで変動を吸収する。
2:汎用セルモジュール構想・・・セル工程の数を増やすことで対応。おなじ工程をする設備をモジュール化して、加工量が増えた場合に対応できる汎用性。
3:工程モジュール構想・・・将来、想定できないような工程が来ても、工程をバイパス追加できるように組み込んでいる仮想工程。
この3つのモジュール構想により、商品進化がサポートでき、汎用性の高い生産ラインを実現したとしている。
具体的には、スモールサブライン工程から車体サブライン(アンダーボディ工程とサイドフレーム工程)、そして車体メインラインの3ラインが生産ラインを構成しているが、その中で固定しなければならない部分を減らし、変化する部分を変動部分に集約する取り組みを行なっているのだ。
こうしたフレキシブル性は、ラインに流れてくる車種が異なっていても対応できるメリットがあり、受注状況に素早く対応できることになる。もっとも、こうした取り組みは各自動車メーカーも取り組んでおり、言い換えれば、混流生産方式が現在の主流でもある。
考え方として生産ラインはすべて汎用ラインであり、固定であることを前提とし、つまり、常に同じ作業をする部分であり、変化する作業、変動部分では治具の設置を容易にし、対応できるようにすることだ。例えばCX30の次にCX9が流れてきても、ドアパネル装着ではロボットが選ぶパネルを変えるだけで工程は同じでできるようにするという方法だ。
こうした各部位でのフレキシブル性を上げることで生産ライン全体のフレキシブル性もあがり、汎用性の高い、需要の変化に素早く対応できるラインが完成したということになる。
マツダブランド向上への挑戦
生産技術工程において、価値の定義は、スポット溶接と部品組み付けに集約され、全てのロボットが無駄のないように稼働させることでもある。こうしたことの積み重ねで計画順序生産の効果は2000年と2015年比で53%無駄を省き、エンジン工場内での在庫は50%減、計画順序遵守率は65ポイントアップの98.5%で2019年は99.2%まで計画順序が守られているという。
このように生産過程での高効率化が進められており、こうしたクルマづくりはマツダブランド向上への挑戦でもあるのだ。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
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