もくじ
どんなクルマ?
ー アバルト・ブランドの誕生70周年を記念
ー 1.4ℓ4気筒ターボから180psを発生
どんな感じ?
ー プラットフォームは誕生から16年が経過
ー コンパクトカーの真骨頂と呼べるコーナリング
ー 2000rpmから本領を発揮するエンジンとマフラー
「買い」か?
ー アバタもエクボと思える個性派
スペック
ー アバルト595エッセエッセのスペック
アルピーヌA110/アバルト124GT/フォーカスRS WRC第11戦を巡る 前編
どんなクルマ?
アバルト・ブランドの誕生70周年を記念
アバルトというブランドの誕生70周年を祝う一環として追加された595エッセエッセは、基本的には既存の595コンペティツィオーネに若干手を加えたモデル。エッセエッセは、イタリアのアバルトが最もホットなモデルに与えていた名前だった。数年前にアバルトがフィアット500をチューニングした際に、エッセエッセという名前も復活している。
今回の新しいポイントは、エッセエッセのロゴが入った17インチのマルチスポークホイールを履いているところ。バンパーは、最近アップデートされた標準のアバルト595と同様のデザインのものをまとう。
車内で目を引くのが、特別仕様のサベルト製の彫りの深いバケットシート。カーボンファイバー製のシェルを持ち、70周年のロゴと赤いステッチがあしらわれている。また、ダッシュボードの化粧パネルやペダルカバーにもカーボンファイバーが用いられている。
1.4ℓ4気筒ターボから180psを発生
カーボンとは対象的に、目を凝らすと安っぽいプラスティック製の部品も目に入るものの、それ以外は不満を感じないレベルの品質にまとまっている。インスツルメントパネルにはTFT液晶モニターが収まり、ステアリングコラムの左側には大きなブースト計が追加されている。好みは分かれそうだが、595エッセエッセのホットな楽しい走りを表現するという意味では、うまくコーディネートされているといえる。
ずんぐりとした短いボンネットの中には、いつもの180psを発生させる1.4ℓ4気筒ターボエンジンが収まる。エアフィルターはBMC社製のハイフロータイプを通して勢いよく息を吸い、アクラポビッチ製のマフラーから元気よく排気される。左右2本のマフラーフィニッシャーもカーボンファイバー製だ。
エンジンのパワー自体は595コンペティツィオーネと変わりはない。しかしエッセエッセはブレンボ製のキャリパーに、フロント側には305mmという大径ディスクを装備。リミテッドスリップデフも装備されている。サスペンションも基本的には同一で、ダンパーはコニ製の無段階調整式。
すべて間違いない装備だといって良いだろう。早速フィアットのお膝元、トリノの街へと繰り出そう。
どんな感じ?
プラットフォームは誕生から16年が経過
アバルト595エッセエッセ、基本的にいいクルマだが、良くないポイントもいくつかある。そもそも基本的に誕生から16年が経過する、先代フィアット・パンダと同じプラットフォームで成り立っているのだ。せっかくの手厚いモディファイを受けているのにも関わらず、その事実が究極のホットハッチ、という称号の妨げになっている。
パフォーマンスやドライバーとの関わりの濾さで比較すれば、フォードフィエスタSTに先行されている。さらにずっと安くて遅い、フォルクスワーゲンUp! GTIと比較しても、595エッセエッセのパフォーマンスが優れているとはいえないレベルにある。だとしても、595エッセエッセの濃厚な個性と特徴には、引き込まれずにはいられない。
スポーツモードを選択すると、アクラポビッチ製のエグソースとに内蔵されたバルブが開き、スロットルのマッピングもシャープに変化。1.4ℓエンジンは、アイドリング状態からエネルギー溢れるサウンドを奏でる。
スロットルを踏み込むと大排気量エンジンのようなエグゾーストノートに、ターボの高周波が重なり、アバルト124スパイダーのような音響を生み出す。ドライビングポジションは古いイタリア車のように、腕を伸ばす位置にシートをセットしても、やや右側にオフセットしたペダルは手前側に感じられるものだが、その不自然さを吹き飛ばしてくれるサウンドだ。サベルト製のバケットシートのホールド性は適度で、座り心地も良い。肉厚なステアリングホイールも、とても手によく馴染む。
コンパクトカーの真骨頂と呼べるコーナリング
走り始めて一番最初に感じるのは、その硬さ。より性格に表現するなら、かなりの硬さだ。今回の試乗コースはイタリア・トリノ近辺のあばたの多い道だったが、595の車内へは、その路面の荒れ状態が極めて正確に伝わってくる。まるでハイビジョン画像のように、細かい部分までわかってしまう。路面が剥がれ、大きく穴の空いた部分を通過すると、ストロークの短いサスペンションではカバーしきれず、ドライバーはシートからお尻が浮き上がってしまうほど。
ただし、かなり締め上げられたコニ製のダンパーは、角のある衝撃自体は丸めてくれている。収まらない振動に悩まされるとはいえ、吐き気をもよおす程の鋭い突き上げまでは生じないからご安心を。
スピードを上げていくと、サスペンションの質感はぐっと向上する。ダンパーは、極めて大きなバンプなど以外は、すべての強い入力をいなすようになる。コーナーへ飛び込んでも、複数のライン取りが選べる懐の深さもあり、カーブの連続する道を縫うように走る姿は、コンパクトカーの真骨頂といえるだろう。
グリップ力も充分に高く、最終的には流れてしまうが、それまでは果敢に路面へ食らいつく。ただし、このグリップの抜けはステアリングフィールとしてではなく、シートに収まる腰や視線から感じ取れるもの。動きも直線的でゆっくりしたものだが、操作系へ伝わる感覚には乏しい。
ちなみにドライブモードが標準の場合、電動パワーステアリングのアシストは強く、ステアリングは指先で回せるほどだが、スポーツモードを選べば重さも増す。操舵感の粘りも強く感じられるようにはなる。
2000rpmから本領を発揮するエンジンとマフラー
機械式のリミテッド・スリップデフも装備されているが、トルクの効きは弱い模様。コーナーの中程からスロットルを踏み込んでいっても、内側のラインへ巻き込んでいくような感覚は、期待するほどではない。直線での加速時には効いており、フロントタイヤが路面を蹴り上げると同時にステアリングが重くなる感覚が伝わってくる。
だが、595は間違いなく速い。ターボ過給される1.4ℓエンジンは2000rpmを超えた辺りから本領を発揮してくる。595コンペティツィオーネ・モンツアのように、アクセルオフでのやや幼い破裂音は聞こえてこないものの、アクラポビッチ製のマフラーからは社会的に憚れるような轟音が響く。
ブレンボ製のブレーキも良い。ストッピングパワーは力強く、効きの加減も漸進的だ。ブレーキペダルがオフセットしているから、ヒール&トウ時のアクセルペダルとのコンビネーションもパーフェクトと呼べる。一方で5速マニュアルには少しがっかりした。シフトノブは操作しやすい高い位置にあるが、操作感がルーズでクラッチを踏んだ感覚も剛性感が薄いものだった。
それ以外の部分ではフィアット500そのもの。乗員の空間も荷室も広いわけではないし、インフォテインメント・システムも、使いやすさやグラフィックスではひと世代前の内容。インテリアはしっかり作り込まれているとはいえ、安っぽい素材感は価格が半分のオリジナルの500と基本的に変わらない。特にダッシュボードの上面と、ドアパネルの下などは、あまり見ないほうが良いだろう。
「買い」か?
アバタもエクボと思える個性派
客観的に見ると、思いつく多くのライバルの方が、アバルト595エッセエッセより秀でている。通常のルーフで2万5295ポンド(344万円)、カンバストップなら2万7295ポンド(371万円)という価格を知ってしまうと、さらに推奨するのは難しいのが本音。しかも、基本的にはメカニカル部分で共通のコンペティツィオーネの方が、3500ポンド(47万円)も安い。
だとしても、595エッセエッセには他にはない誘惑する力がある。何よりもまずアピアランスが良い。白いホイールにアバルトのロゴが、程よいアグレッシブさを与えている。そして実際にワインディングに踏み入れば、鋭いパンチ力と花火のような威勢のいいエグゾーストノートに、魅了される。溢れんばかりのエネルギーの塊なのだ。
より安価なフォード・フィエスタSTなどのライバルも存在するが、価格は度返しに、強く欲しいと思わせてやまない。均質化と没個性化が進む現代のクルマにおいて、アバタもエクボと思えるような個性あふれるアバルト595エッセエッセが存在することが、嬉しくてたまらない。
アバルト595エッセエッセのスペック
■価格 2万5295ポンド(344万円)
■全長×全幅×全高 3660✕1625✕1505mm
■最高速度 225km/h
0-100km/h加速 6.7秒
■燃費 13.8km/ℓ
■CO2排出量 155g/km
■乾燥重量 1070kg
■パワートレイン 直列4気筒1368ccターボ
■使用燃料 ガソリン
■最高出力 180ps/5500rpm
■最大トルク 25.4kg-m/3000rpm
■ギアボックス 5速マニュアル
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