WTCR世界ツーリングカー・カップを頂点とするTCR規定シリーズにも、より環境に優しい未来に向け機能していることを示すべく、いよいよ電動化の波が襲来。TCRの統括団体であるWSCグループは、既存のモデルに適合可能なハイブリッド技術を2023年シーズンの規則に導入する計画を公式発表し、ハイブリッドTCRを意味する“HTCR”の呼称を採用するプランを明かした。
TCR規定から派生したフル電動ツーリングカー選手権として、2021年に初年度シーズンが開催された『ピュアETCR』の存在があるが、世界的な電動化の潮流に合わせ、同シリーズは2022年より『FIA eTouring Car World Cup(FIA eツーリングカー・ワールドカップ)』へと進化し世界戦へと昇格。2年目のシーズンを迎えることが決まっている。
2021年8勝のヤン・マグヌッセンがLMレーシングと契約更新。クプラの3台体制に拡充/TCRデンマーク
一方、FIAのワールドカップ格式としてWTCC世界ツーリングカー選手権の後継に位置付けられてきたWTCRでは、2021年より15%の再生可能素材を配合した新しい“サスティナブル・フューエル(持続可能燃料)”を導入し、サプライヤーのP1レーシング・フューエルズとともに100%化石を含まないレース用燃料の開発、提供に取り組んで来た。
こうしたバイオ燃料への移行は、WTCRのCO2(二酸化炭素)排出量削減を支援するため支持されてきたが、以前より電動化技術を採用するWEC世界耐久選手権や、2022年より電動化を果たすWRC世界ラリー選手権、そして一足飛びにフルEV化を遂げるWorldRX世界ラリークロス選手権など、他の多くの主要な選手権に続くよう、TCRシリーズの技術規制にもハイブリッド・テクノロジーの要素を導入する必要に迫られた。
2021年までWTCRのマネージングディレクター職を務めたハビエル・ガヴォリは、WSCによる公式アナウンスを前に、フランスのモータースポーツ専門誌『AutoHebdo(オート・エブド)』に対し、シリーズの「変革」に関する作業が進行中であり、ハイブリッドの導入が「2023年になる」ことを明かしていた。
「確かにTCRとしていくつか進行中のプロジェクトがある。そしてそれは近い将来、WTCRの変革を推進する役目を果たすだろう」と語っていたガヴォリ。
「これはETCRのようにすべてを電気で賄うものではないが、電動化への移行を推し進めることになるだろう。WTCRとして昨シーズンからバイオ燃料を使用しているが、それだけでは充分ではない。WTCRは2023年までにハイブリッドに移行する必要があると考えている」
■共通ハイブリッド機構の開発テストは1月末までに完了する予定
その発言どおり、この1月13日付でWSCより発表されたステートメントでは、既存のTCR登録モデルに対しハイブリッドシステムを組み込む方法の研究が、すでに開始されていることが明らかになった。
これらのモデルを生産するマニュファクチャラーやコンストラクター各社と協力し、あらゆるモデルに適合可能なプラグイン・キットの開発と供給に関心が示され、共通システムとして20~30kW(27~41PS)程度の追加パワーブーストが提供される。
この共通ハイブリッド機構は、ブレーキング時の回生を可能にするエネルギー回収システムも備え、TCRの概念をより環境に優しいものにするだけでなく、ハイブリッドシステムをすべてのカスタマーが「手頃な価格」で利用できるよう、システムの開発テストはこの1月末までに完了する予定だという。
この開発テストが期待どおりに完了した場合、2023年には共通システムを搭載した“HTCR”を採用するかどうかの選択が個々のシリーズに与えられ、2022年度にはいくつかのTCRシリーズで実戦テストが実施される可能性もある。
そのWTCRに先行する身近な例として、イギリスではTOCAが主催するBTCCイギリス・ツーリングカー選手権が約18カ月にもわたる入念な開発テストを経て、2022年よりコスワース・エレクトロニクスが供給する共通ハイブリッド機構を組み込んだハイブリッド・ツーリングカー・チャンピオンシップになることが決まっている。
こうしたシリーズの変革を前に、WTCRのプロモーターであるディスカバリースポーツ・イベントは、前出のガヴォリを引き継ぎジャン-バティスト・レイがシリーズディレクターに就任することもアナウンスした。
同じく旧ユーロスポーツ・イベントでERCヨーロッパ・ラリー選手権の主任コーディネーター職を担当していたレイは、ERCがWRCプロモーターの運営に移行したのに併せてガヴォリの後任となり、新生ピュアETCRでのコミットメントとともにその役割を果たしたガヴォリは、そのままFIA eツーリングカー・ワールドカップの新ディレクターに就任する。
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