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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第10回後編】アップグレード投入も、期待通りの効果を得られず。中速での遅さが痛手に

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第10回後編】アップグレード投入も、期待通りの効果を得られず。中速での遅さが痛手に

 2022年シーズンで7年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。シーズン前半戦最後のレースとなったハンガリーGPで、ハースは大きなアップデートを行った。そのアップデートは想定通りに機能したものの、実はそれほど効果を得られなかったと小松エンジニアは明かした。好調だったイギリス/オーストリアの連戦とは反対に厳しいフランス/ハンガリーの連戦でシーズン前半戦を締めくくったが、前半戦を通して多くのレースで入賞争いができる競争力があったことについては、前向きに捉えているという。

 コラム第10回は、前編・後編の2本立てでお届け。後編となる今回は、ハンガリーGPの現場の事情と、2022年シーズン前半戦を小松エンジニアが振り返ります。

F1技術解説:第13戦(2)“ホワイト・フェラーリ”を堂々投入。ハースが今季初のアップグレード

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2022年F1第13戦ハンガリーGP
#47 ミック・シューマッハー 予選15番手/決勝14位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選13番手/決勝16位

 シーズン前半戦の最後のレースとなったハンガリーGPでは、大きなアップデートを行いました。率直にいうと、このアップグレードは想定通りに機能しましたが、ハンガロリンクでそれほど効果が出るものではなかった、というのが実際に走らせてみての感想です。風洞実験を行い、それをもとにラップタイムシミュレーションをすると、ブダペストではコンマ2秒以上速くなるという結果が出たのですが、実際にクルマを走らせてどこで速くなっているのかを調べると、高速コーナーでした。

 ハンガロリンクの高速コーナーはターン4と11で、あとは低・中速コーナーです。実際にターン11では他のチームに負けていなかったので、予想通りのパフォーマンスは出ているのですが、中速のターン5、8、9あたりでは負けていました。今回のアップデートでは主に高速コーナーが改善されているので、どうして他のサーキットと比べてハンガロリンクでよくなるという結果が出たのか、走行結果からはいまいちわからないので見直しているところです。

 予選でもQ2が終わった時点で10番手のバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)と13番手のケビンが0.4秒差でした。ターン1、2や高速コーナーでも負けていなかったのに、ターン6~9で0.35秒、最終コーナーでも0.1秒負けていました。ターン8と9はケビンが突っ込みすぎてアンダーステアになりあまりうまく走れていなかったので、すべてクルマで負けたわけではないですが、それでも中速コーナーで遅いというのは痛手です。

 ただこのアップデートに悪いところはなかったですし、予想通りリヤのダウンフォースは増えていて機能はしているので今後もこのクルマで走る予定です。この先のベルギー、オランダ、鈴鹿、アメリカ、ブラジルなどではもっとアップデートを活かして走ることができそうです。

■オペレーションのミスで、予定外のハードタイヤを履いたケビン。ミックの戦略判断にも影響
 この週末が始まる前からチームに伝えていたことですが、ハンガロリンクでは金曜に路面温度が50度以上まで上がり、日曜には30度くらいまで下がると予想されていました。つまり最も難しいのは、暑い金曜に採ったデータを路面温度が大きく下がる日曜日にどう繋げていくかということです。金曜日に路面温度55度の状況で走ってもハードタイヤは遅かったので、もっと温度が下がると予想される日曜はさらに機能しないはずですし、実際は予想以上に寒くて気温は20度に届かず、路面も20度台だったので、ハードが機能するかというと厳しい状況でした。

 ハードがどれくらい遅いか、デグラデーションはどれくらいなのかで1ストップか2ストップかを決めますが、実際にハードがどうかというのは誰かが走らないとわからないので、ミディアムタイヤでのスタートは躊躇しませんでした。ソフトタイヤでスタートすると、その時点で2ストップにするしかないし、そのチームはみんな事前に2ストップでいくと決めているはず。ウチはそれを決めきれていなかったので、1ストップの可能性も残したかったんです。

 ケビンはスタートで10番手までポジションを上げましたが、ターン1出口でダニエル・リカルド(マクラーレン)と接触し、フロントウイングのエンドプレートにダメージを負いました。これでまたカナダに引き続きオレンジボール旗を出されたのですが、実はイギリスGPで『レースコントロールがオレンジボールを出す前に、チームにコンタクトをとって技術的フィードバックを聞く』という同意がとれていたんです。それにもかかわらずレースコントロールは僕らに何も言わずにオレンジボールを出したので、6周目にはケビンをピットに入れざるを得ませんでした。カナダGPの時と違ってダメージも悪化しておらず、部品が壊れて落ちる可能性も少なかったので危険という認識は我々にはなかったんですけどね。

 レース開始前のベースの戦略は1ストップだったので、ケビンに第2スティントでハードを履かせるつもりでいました。しかし、この時点(6周目)で誰もハードで走っていなかったので、ハードで行くのはかなりのギャンブルになります。ですから、2ストップにはっきりと切り替えて、2セット目のミディアムを履かせようと指示を変えました。これはガレージ内にライトがあって、次に使うタイヤをメカニックに知らせる仕組みになっています。しかし、それが今回はちょっとわかりづらくて、メカニックはライトが違うタイヤに変わったことに気付かずに、ハードを持ってガレージから出て行ってしまいました。これでケビンは第2スティントを予定外のハードで走ることになったのです。

 ハードタイヤは懸念した通り温まりが遅く、4~5周目あたりにやっといいタイムが出るようになりました。しかし、その後ピットアウトしてきた角田裕毅やピエール・ガスリー(ともにアルファタウリ)とやりあってタイムが落ちた後は、タイムが戻ってきませんでした。そこから徐々にハードがダメになり、なんとかミディアムで最後まで走り切れる残り34周のところまで引っ張って再びミディアムに交換しました。

 さらに失敗だったのは、ケビンのハードのタイムを見て、ハードが非常に使いにくいタイヤだとわかったにもかかわらず、ミックに第2スティントでハードを履かせてしまったことです。ハードでなんとかいいタイムで走るためには、フリーエアーで自由にタイヤを使って走れないとダメです。他車とバトルしたり、青旗でタイヤ温度が落ちるとガクッとタイムに影響してきて、そこからまたタイムを戻すのがほぼ不可能でした。ミックには2スティント目をミディアムで30周引っ張って、残り20周をソフトで走るという選択もありました。結果的に、そうした方が確実によかったと思います。ガレージ内のオペレーションのミスでケビンにハードを装着したのがひとつのミスで、そこからの判断を間違えたなというのが反省点です。

 レース中にライバルの無線を聞いていて、アルファロメオが1ストップで走るというのは明らかでした。アルピーヌもそうしていましたし、1ストップで行ける可能性があるという考え方自体は間違っていなかったです。しかしアルファロメオは、周冠宇が途中までうまくいっていたのに青旗などで一気にタイヤがダメになり、ボッタスも同様でした。アルピーヌが走り切ることができたのは、レース中盤に2ストップのアストンマーティンとのバトルはあったものの、それ以外はふたりともレースのほとんどを青旗もなくフリーエアーで走っていたからです。クルマの特性にもよりますが、アルピーヌはタイヤにうまく熱を入れられたのでしょうね。彼らは唯一1ストップ戦略を活かしてダブル入賞を果たしました。

■残り9戦で17ポイント差。後半戦はアルファロメオを逆転し、選手権6位を狙う
 シーズン前半戦を振り返ってみると、13戦を戦って実力でポイントを獲れなかったのはオーストラリアGPと今回のハンガリーGPでした。それ以外のところでは常にポイントを獲れる戦闘力があったので、そのことは前向きに捉えています。

 ただポイントに関していうと、まずは開幕戦でダブル入賞をしているべきでした。その次がマイアミで、もしあそこでミックがポイントを獲れていたら彼も精神的に大きく違っていたと思います。初入賞がイギリスGPまで遅れたというのは、彼のなかでも相当なプレッシャーになっていたはずです。

 クルマの性能を考えたら、今の成績は見合っていないと言わざるを得ません。選手権でもアルファロメオに勝てるとは言わないですが、同じくらいのところにいなければならないと思っているので、実力を出しきれておらず消化不良な感じです。シーズン後半では基本的にはアップデートをしないので、もっと厳しくなるかとは思いますが、第13戦まできてそれほどアップデートをしなくてもこれだけ戦えているので、残りの9戦はそこまで悲観していません。とにかくクルマのポテンシャルを最大限に引き出して結果を出したいです。

 今回のようにケビンがせっかく1周目にいい走りをしてもオレンジボールで台無しとか、つまらないクラッシュやタイヤ選択で台無しとか、もうそういうことも減らしていかなければならないです。モンツァやシンガポール、アブダビなど厳しそうなレースもあるけれど、戦えるレースも十分にあるのでとにかくポイントを獲りたいですね。

 選手権ではやはり6位が目標です。開幕前は選手権8位が最低限、妥当だと考えていましたが、これだけ戦えるクルマがあると、やっぱりそれなりの結果を残さないといけないです。ここまでこれだけポイントを獲り逃してきて7位にいるということは、絶対に7位で満足しちゃダメです。アルファロメオにも浮き沈みがあり、ウチより速いレースも遅いレースもあります。ハンガロリンクではアルファロメオの方が速かったですが、ポイントを獲っていないので差は変わっていません。残り9戦で17ポイントを逆転できないとは思っていないので、後ろから来るものに怯えるのではなく、前を捕まえられるようにアグレシッブにやっていきたいです。

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