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アメリカ陸軍「やっぱりいらない」に海兵隊反発 共同開発した「新・軍用車」突然の調達停止なぜ?

掲載 更新 30
アメリカ陸軍「やっぱりいらない」に海兵隊反発 共同開発した「新・軍用車」突然の調達停止なぜ?

陸軍の突然の決定に海兵隊困惑

「落胆した」――アメリカの国防予算に関与する下院歳出小委員会の筆頭理事であるベティ・マカラム下院議員(民主党、ミネソタ州選出)が漏らしました。アメリカ陸軍が「M10ブッカー」戦闘車の調達計画を事実上キャンセルし、関係者に衝撃を与えるなか、もう一つ波紋を広げているのが、ハンヴィー(HMMWV)の後継として導入が始まっていたJLTV(統合軽戦術車両)の調達停止です。

【比較】ハンヴィーより少しゴツいJLTVを見る(写真)

 マカラム下院議員は「非常に残念です。JLTVのJはジョイント(Joint)の頭文字で『統合』『連携』を意味します。変更が必要な場合、関係者には情報を共有して行われるべきです」と声明しています。

 JLTVの調達停止は2025年5月1日、ダン・ドリスコル陸軍長官とランディ・A・ジョージ陸軍参謀総長が発表した「部隊への書簡:陸軍改革イニシアチブ」で明らかになりました。この決定はJLTVを陸軍と共同で運用してきた海兵隊に何の事前説明もなく伝えられたため、軍内部での摩擦も引き起こしています。

 JLTVはもともと、陸軍と海兵隊が共同で進めてきた装備開発でした。

 2015年8月、陸軍はオシュコシュ・ディフェンス社と、陸軍と海兵隊向けに1万6901台を調達する67億ドルの低率初期生産(LRIP)契約を締結しました。2022会計年度第4四半期に、AMゼネラル社とフルレート生産(FRP)契約を締結する予定で、報道によれば最大2万682台のJLTVと、最大9883台のトレーラーを生産する約80億ドル相当の契約になるはずでした。

 陸軍による突然の決定は、「統合」の理念に水を差すものであり、海兵隊にとっては文字通り寝耳に水の事態でした。海兵隊側はこの決定に強い不満を表明しており、今後の運用や調達体制に不安が広がっています。

陸軍は要らなくても海兵隊は困るんだよ!のワケ

 陸軍がJLTV調達に消極的になった背景には、いくつかの要因があります。

 まず、予算配分における優先順位が低下していること。さらに、既存のハンヴィーを改修することで当面の運用は可能と判断されたこと。そして何より、今後求められるのは電動化された静音性能の高いプラットフォームや、AIによる自律走行を前提とした無人化といった次世代技術であり、従来型のJLTVでは将来のニーズに応えられず、すでに時代遅れという見方が広がっているのです。

 現時点で陸軍は必要数のJLTVをある程度確保しており、追加調達を見送る方向に傾いたと考えられます。

 一方、海兵隊にとってJLTVは依然として極めて重要な装備です。海兵隊は現在、「フォースデザイン」と呼ばれる再編計画を進めており、分散・高速・軽量・無人・ミサイルといったキーワードに基づく新たな作戦構想を展開しています。その中核をなす装備の一つが、JLTVベースの無人車両に地対艦ミサイルを搭載した「NMESIS(海軍海兵隊遠征対艦阻止システム)」です。海兵隊にとってJLTVは、単なる戦術車両ではなく、新しい戦い方を支える“足回り”そのものなのです。

 現時点では、海兵隊が必要とするJLTVの大半はすでに契約済みであり、短期的な運用には大きな支障はありません。しかし中期的には、陸軍との共同調達が途絶えることでスケールメリットが失われ、運用コストの上昇が懸念されます。さらに長期的には、JLTVの生産ライン自体が縮小または終了する可能性があり、NMESISのプラットフォームとして別の車両を探す必要に迫られるかもしれません。

「同じ装備で互いに安く」の理想と現実

 兵器開発や装備の調達が政権や予算の影響を受けやすいのは、アメリカに限らずどこの国でも見られる現象です。また、複数の軍種が同一装備を運用する「統合」も、コスト削減や整備の効率化といった観点から頻繁に試みられてきました。

 しかし実際には、軍種ごとの任務や運用環境に応じて必要な機能や性能が異なるため、最終的には「ニーズの乖離」による“空中分解”になるケースも少なくありません。

 JLTVは汎用性が高く、ヘリコプターによる空輸も可能という軽戦術車としてよくできた車両です。しかし戦車や装甲車に比べるとJLTVは地味で、M10ブッカーの調達停止よりもニュースになっていないようです。

 ただ、小型汎用車は重要です。第2次大戦で大量に使われたジープは、アメリカ軍のみならず連合軍に大きく貢献した象徴的なクルマで、6月15日のアメリカ陸軍創設250周年パレードにも登場しました。JLTVもジープと同じく、アメリカ軍全体の「モビリティ(機動性)」を支える、無くてはならないクルマです。

 ドリスコル陸軍長官は下院歳出小委員会の公聴会で海兵隊に反対されることを避けるためあえて事前相談せず、政権とペンタゴン上層部にしか報告しなかったことを認めました。

 JLTVやM10ブッカーをめぐる今回の動きは、トランプ政権の軍へのコスト見直し、合理化、効率化要求の一環で陸軍も海兵隊もその波に翻弄されているようにも見えます。(月刊PANZER編集部)

文:乗りものニュース 月刊PANZER編集部
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みんなのコメント

30件
  • hf_********
    元々ハンヴィー乗員の生存性を高めるという方向性自体に矛盾がありますからね。それだったら格上の装甲車を使うべきなんであって、装甲車ならすでにストライカーというコスパ優秀な車両を持っている。ハンヴィーは生存性よりも調達数を重視した装備で、用途は主に偵察や軽輸送に限られます。「モガディシュの戦い」ではこの原則を無視して強襲に使われたから(厳密には任務の途中から結果的に強襲になってしまった)損失が出たんであって、これに過剰反応した結果の産物と言わざるを得ない。

    でも海兵隊は欲しいでしょうね。海兵隊は空挺部隊と同じで装備は持ち込んだものしか選択肢にないから、少々のコスパの悪さを押してでもできるだけ強化したいはず。難しい調整ですよ。
  • joe********
    大体共同開発ってコケるよね。陸軍と海兵隊は元々仲悪いし
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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