日産が誇るスポーツカー「GT-R」に設定された特別限定モデル「プレミアム・エディション・Tスペック」に今尾直樹が試乗した。生産終了間近とも噂されているGT-Rの魅力とは?
Tスペックの“T”とは?
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2007年に登場したR35型日産GT-Rがついに最期を迎えようとしている。2022年は終わろうとしているのに、2023年型の日本仕様の発表はされていないのだから(北米市場向けはされた)、すでに生産を終了しているかもしれない。理由は、2022年秋から始まった騒音規制に対応できないからだ。あとは日産の公式アナウンスを待つばかり。
そういうなか、『GQ JAPAN』編集部のイナガキくんが日産広報からGT-Rプレミアム・エディション・Tスペックを借り出してきた。15年におよぶR35GT-Rの最終進化形態のひとつである。
2022年モデルとして、2021年9月に発表された、限定100台の特別仕様車がTスペックである。あまりの人気に結局120台程度がつくられ、購入者は抽選で決められた。倍率は40倍だったといわれている。当たったひとは宝くじが当たったような気分だったろう。ネットにはいま、その中古車が、シェーっと4000万円ほどで売りに出ている。
Tスペックの“T”は、公式には「トレンド・メイカー」と「トラクション・マスター」の意だとされている。ベース・モデルとTスペックの違いは? というと、次のようになる。
まずもって、Tスペックには2種類ある。GT-Rのカタログ・モデルの、グランツーリスモ志向のプレミアム・エディションと、走行性能志向のトラック・エディション・エンジニアド・バイ・ニスモをベースに、それぞれにTスペックがつくられたからだ。
ふたつのTスペックに共通しているのは、専用カーボン・セラミック・ブレーキと、カーボン製のリア・スポイラー、ゴールドに塗られたエンジン・カバーと、もうひとつ、“T-spec”と書かれたバッヂである。
で、プレミアム・エディション・Tスペックには、専用の内装コーディネーションと、ブロンズ色のレイズ製アルミ鍛造ホイール、それに専用のサスペンション・セッティングが施されている。
ブロンズ色のアルミ鍛造ホイールは、色は違うが、トラック・エディション・エンジニアド・バイ・ニスモ・Tスペック用とおなじもので、カーボン・セラミック・ブレーキとカーボンのリア・スポイラーの採用もあって、車重は1760kgと、ベース・モデル比10kgダイエットしている。
GT-Rのカタログ・モデルのフロント・ホイールのリム幅は、同じ20インチでもニスモとトラック・エディションは10.0J、それ以外は9.5Jになる。つまり、プレミアム・エディション・Tスペックは、本来ならフロント・ホイールのリム幅は9.5Jのところを10.0Jに広げている。これにより、タイヤの剛性があがり、軽快でスムーズなハンドリングを実現している、とされる。
トラック・エディション・エンジニアド・バイ・ニスモはもともとGT-Rニスモの足まわりを移植した硬派のGT-Rである。それゆえ、というべきか、そのTスペックでも足まわりについては言及がなく、代わりにカーボン製のルーフとトランクリッドを採用している。これにより、車重は1740kgと、ベースモデルより20kg軽く仕上がっている。
ご参考までに、GT-Rプレミアム・エディション・Tスペックの価格は1590万4900円。ベースのプレミアムエディションは1232万9900円だから、357万5000円高くなっていることになる。
一方のトラック・エディション・エンジニアド・バイ・ニスモ・Tスペックは1788万1600円で、ベースモデルとの価格差は324万5000円。それでルーフとリアのスポイラーがカーボンになり、カーボンセラミックブレーキも装着される。ということは、トラック・エディション・Tスペックのほうがお値打ちかも……と、筆者は思うのですけれど、どちらのTスペックも抽選に当たらなければ買えないわけだし、抽選の申し込みは2021年9月15日~9月29日で、とっくに終わっているのだから、ま、あくまで筆者はこのように思ったというだけの話でした。
ニッポンの自動車界の伝説ここからが本題である。試乗したプレミアム・エディション・Tスペックは、最後のR35GT-Rにふさわしかった。わずかな台数しかつくらないというのに専用のボディ色が2色も用意されており、試乗車は「ミレニアム・ジェイド」というグリーンがかかったシルバー・メタリックが選ばれていた。
プレミアム・エディション・Tスペック専用ホイールのブロンズ色は、光の加減によってはゴールドのようにも見え、妖艶なムードを醸し出している。ゴールドというのは人間の欲望を刺激する。ホイールの内側の半分を閉めようとかという巨大な黄色のブレーキ・キャリパーもステキだ。
ボデイ色に合わせて、内装もグリーンが用いられている。コクピットのデザインはいささか武骨で古めかしい。でも、それがGT-Rなんだよなぁ。と思っちゃう。これもまたデザインの力というべきだろう。
スターターボタンを押すと、フロントの3.8リッターV6ツイン・ターボがひと声吠えて目を覚ます。V6ユニットの鼓動は、ポルシェ「911」の996型GT3を思い出させる。特にエンジンが冷えていると、ゴーゴーという不穏なサウンドを発する。スッゲ~。と筆者は思わずひとりごちた。
6速のGR6型デュアル・クラッチ・トランスミッションのシフトレバーをDレインジに入れる。ガチャンコ、というメカっぽい手応えもまたGT-Rっぽい。
タイヤは前255/40、後285/35という極太超扁平の20インチで、しかもランフラットだというのに、乗り心地はものすごく洗練されている。鋼鉄の鎧を着たおサムライさんがガチャンコガチャンコ、音をたてているのに、動きはめちゃんこスムーズなのだ。
アクセルを踏み込めば、その加速はもう、コマ落としの世界。イッツ・ゴジィーラ! GT-RのGは、ゴジラのGである。ホントはGTのGだから違うわけですけれど、そう叫びたくなる。
R35GT-Rは自動車のカタチをしたニッポンの怪獣王、キング・オブ・モンスターズなのだ。2007年に出現したときは、ゴジラというよりメカゴジラっぽくて、がちゃんごちゃんこ、ギアボックスからなのか、不思議な音がしていた。
それが15年の歳月を経て、最終進化形態の特別仕様車プレミアム・エディションTスペックではキング・オブ・モンスターズ・アンド・ジェントルメンへと成長していた。
アクセルを踏み込んだときの、野太いグオオオオン、グオオオオンッ! という咆哮はGT-Rの大きな魅力のひとつである。3000rpm以上まわすと、そこにキィイイイインッ! というジェット機みたいなサウンドもくわわる。
♪タカタッタッタッタカタッタ~という伊福部昭の『怪獣大戦争マーチ』が聴こえている。
湾岸線を突っ走っていると、まるで世のなかが自分の思い通りに動いている。そんな気分になったりもする。自分をスーパーヒーローにしてくれる。痛快な、マンガみたいな感動を与えてくれるクルマなのだ。
それにしても、この素晴らしいエグゾーストサウンドが生産終了の要因になるなんて……。とは思うものの、物事にはいつか終わりが来ることもまた事実である。
GT-Rはニッポンの自動車界の伝説である。だから、いつかまたよみがえるだろう。と筆者は思う。それまで、しばしのあいだ、さようなら、GT-R。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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